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面倒事はいつでもやって来る   作者: TO~KU
第二章 召喚した国―――リオン国―――
17/26

番外編 side ????(榊)   05


「はあ~~~~~~~」

「……お疲れさん……」

「ホント疲れたわ。今すぐにでも城を出たいわ」

「……」

「だから嫌だったのよ。話すの」

「……あいつ等大丈夫か?」

「……さあね? 一応フォローもするけど、聴く耳を持ってるかな?」

「……さあな……」


三人組は絶望に飲まれて潰れるかもしれない。

それはコイツ等の勝手だ。

……そこに罪悪感が無いかと言われれば、……多少はある。


この人はどう思っているのか気になって尋ねてみれば、フォローする気ではいるらしい。

相変わらず、優しさはあるんだな。

だが、コイツ等はそれが分からないんだろうな。


この人を見てみると、難しい顔をしてさじで遊んでいた。

懐の深さ、度胸の良さ、何よりも面倒見の良さを持っているこの人と、一緒に旅をすれば俺も異世界生活への不安が薄れるかもしれねぇな。

だから、ダメ元で訊いてみた。


「ここを出たら一緒に行動しないか?」


キョトンとした後に、ギュッと眉を寄せて考え込むこの人。

良い返事が貰えそうにない様子に、内心がっかりしていたが、


「この国を出て初めてのダンジョンを踏破するまでならいいよ」


と、許可が出た。

ついでにこの人のステータスを探ってみた。


「……それでもいい。この世界の事とかあんたのスキルとか教えて貰いたいしな」

「知識とかはいいけど、持ってるスキルは教えないわよ」

「……ケチ臭いな。どうせ鑑定スキルとか持ってんだろう? 俺のステータスとか知ってんじゃないか?」

「……なんで?」

「食事の時に警戒してたからな。それに、あんたの事だから神様からたんまり報酬ブン獲ってそうだしな」


視線を向けると、ついっと視線を外された。

……案外解りやすいな。


「くくく。まあ、無理にとは言わねぇよ。代わりに何か要求されたらかなわねぇし」

「……勝手に視たから、お詫びに……全部は無理だけどある程度ならいいよ」


そう言って、幾つかのスキルを教えてくれた。

【短剣術】【格闘術】【ツボ術】【召喚術】【結界魔法】【回復魔法】【火魔法】【風魔法】【水魔法】【土魔法】【調薬】【調理】【裁縫】【革工】【気配感知】【魔力感知】【マップ】【解析】【解体】【言語理解】【アイテムボックス】

って! 多いだろう!! これで全部じゃないんだろう?!


【ツボ術】って何だ? 足つぼの免許を持ってる?

【召喚術】って俺等がされた? 違う? 魔物を従えて契約したら異空間から出し入れ出来る?

【革工】って? ああ革加工できる技術か。

【マップ】ってあれか? マッピングしてくれるやつか?

【解体】は頭の中に解体方法が浮かぶのか? え? 詠唱したら勝手に解体される?

なんだよ! 便利そうなスキルが結構あるじゃねえか!

しかも、【ツボ術】【召喚術】【マップ】【解体】は【固有スキル】?

あんたどんだけスキル持ってんだ?!


この人のスキルの数に唖然としながら、気になる事は訊いて情報収集を楽しんだ。

俺が持っていないスキルが沢山あり、今後取得したいスキルの参考になった。

修行すれば取得できるかもしれないからな。


【解体】はぜひ取得したい! ……出来るか分かんねぇが……。

魔法もまだ色々と属性がありそうだし、旅をしながら身に付くものもあるだろうから楽しみだ。

スキルは教えて貰ったが、身体能力はどうなのかと尋ねると、


「ふふふふふ。ご想像にお任せします」


と煙に巻かれた。

こりゃあ、いくら訊いても答えてくれねぇと踏んで、三人組のステータスやスキルを訊いてみた。


「う~ん。個人情報だからね……。黙っとく。……ただ、ステータスは榊君の方がいいかもね」


おお! 流石本来の召喚されし子!

高校生に負けるなんざ、ちょっとムカつくからな。

安心した。

……だが、【勇者】よりも優秀ってバレたら……囲われる可能性大じゃねぇか?!

……マジィ。隠してぇ。知られたくねぇ。

苦虫を噛み潰したような顔をしていると、この人が同じように渋い顔をして、


「うーん……。気付いたよね? 私達のステータス見られたら、勇者より高い能力持ってるから即刻監禁されるんじゃないかと思うんだよね。……だから……ホントは教えたくなかったんだけど……【隠蔽】スキル持ってて、スキルとか隠せるんだよね。……榊君のもしとこうか?」

「っ?! マジか?! ……お願いします」


この人は、何やら空中で手をフラフラと動かし、「……あの子達より少し低いくらいにしたよ」と言って、俺のステータスを偽装してくれた。


**********


【名前】 河本賢哉

【年齢】 25  【性別】 男

【種族】 純人


【Lv】  1

【HP】  450(600)/450(600)

【MP】  200(300)/200(300)

【筋力】  150(200)

【防御力】 150(300)

【精神力】 100(200)

【敏捷力】 150(300)


【スキル】

(剣術Lv1) 格闘術Lv1 

(火魔法Lv1) 

木工Lv1 (石工Lv1) 調理Lv1 

(気配感知Lv1) (HP上昇Lv1) (筋力上昇Lv1)

言語理解Lv1 アイテムボックスLv1 


【固有スキル】

(滅消回帰魔法)

(身体頑丈)


【称号】

巻き込まれた異世界人 

ネウリピュアの守護


**********


本当のステータスは()で囲われ、偽装部分が表示された。

マジで出来るんだな。すげぇよ。

この人、【解析】持ってっから人のステータス見放題で、周囲の人間に埋没するようなステータスに偽装出来るんだよな。


ってか、かなりのスキル貰ったから、面倒に巻き込まれないように、隠すために【隠蔽】持ってんのか?

はあ……この人、どこまで考えて神から報酬ブン獲ったんだ?

それに、この国に召喚されてから今まで、この人は常に先を見据えて行動してるからな。

この後三人組がどういう行動に出るかとか、この国の対応とか、色々推測・予想してそうなんだよな。


「あんた、どこまで先を見越して、どんな画策してんだ? 味方としちゃあ心強いが騙されそうで怖ぇ」

「……榊君、結構失礼だよね。騙して私に何の徳があるの? するだけ無駄な労力じゃない? 私はね、ギブ&テイク、持ちつ持たれつが成立してるなら、真摯で誠実な態度を取るわ。だって、お互いの利害が一致しているでしょ? こっちがきっちりと契約というか約束守れば、相手も守らざるを得ないもの。交渉中や実行中に相手の本性も知れるから、私の処世術の一つよ。だから、ただ縋ってくるだけ助けてもらうだけで、迷惑とか面倒だけを押し付けてくる輩が嫌なだけよ」


ああ、この人は俺よりも社会に揉まれてんだなと思った。

そういえば親に、『大人』ってどういう人のことを言うか分かるかって訊かれたことがあったな。

確か親は、『主観的、客観的に物事を捉えられて、相手の立場に立った思考・言動が出来、かつ、筋の通った信念を持っている人』だと言ってたっけな……。


この人は、ギブ&テイクが信念なんだろう。

やっぱスゲェな、この人。

感心していると、この人の目線が個室の方へ向く。


すると、風呂に入った三人組が個室から出てきた。

……連れションならぬ、連れ風呂か?

まあいい。さっきよりも三人組の顔色も良くなってるし、この人が風呂に行くって言うから俺も別の個室で風呂に入った。


さっぱりして個室から出ると、丁度鐘が鳴った。

そのまま昼食を取ったテーブルに歩いて行き、昼食と同じ席順で座る。

三人組がチラチラと視線を向けるが、この人は放置。

……この人、実は結構怒ってんのか?

……それとも面倒くせぇのか?

イマイチこの人の性格が掴めない。


すぐにメイドがやって来て、夕食のセッティングと灯りの説明、就寝の挨拶をして部屋を出て行く。

その間、会話はなく気まずい雰囲気が漂っていた。

誰も喋らないが、俺は別に気まずくも何ともないので、目の前の美味そうな食事に集中する。

昼食もそうだが、夕食も見た事があるような料理。

見た目が少し異様な色だが、味は美味い。

夕食のメインはムニエルだったが、これも絶品だった。

……これもSランクの魔物なのか?


満足して席を立つとこの人から「さっさと寝よう」と話しかけられ、どこの個室を使うか喋りながら奥のリビングへ歩いて行く。

すると、切羽詰まった顔をした高橋が森本と徳田を連れてこの人に声をかけた。


「すみません。話を聴いてもらえませんか?」


一瞬にしてギュッと眉間にしわが寄り、嫌そうな顔になるこの人。

この人は一度目を瞑ると、さっきまで使っていたソファーに渋々座った。

三人組とこの人のやり取りを見るために、俺も向かいのソファーに座る。


三人組はこの人の少し離れた左隣に立ち並び、頭を下げた。


「「「すいませんでした」」」

「交渉とかアドバイスとか色々して貰ったのに、文句言って申し訳ありませんでした。俺達が知らない情報を教えてくれて、ありがとうございます。でも俺達の力じゃ、どうしても城から出られそうにないので、どうか一緒に連れ出してもらえませんか?」


高橋が代表して言うが、森本と徳田の顔は不満がある感じだ。

……コイツ等、マジで人に頼る事しか出来ないんだな。

しかも、頼る顔じゃねぇ奴もいるしな。

これ、アウトだろう?


確かに自分達で考えたんだろうが、行動の主体がコイツ等じゃなくて、俺等になってる。

俺等に守って貰ってここから出たいって言ってるように聞こえるんだが……。

呆れていると、凍えそうな冷たい目をして超低音でこの人が言った。


「……ねえ、それって私に犯罪者になれって言ってるって理解してる?」


侮蔑を隠しもせず不愉快極まりない感情が伝わってくる。

背筋がゾッとした。

言われた三人組は、衝撃で唖然としてこの人を見つめる。

感情が抜け落ち声の抑揚も無く淡々とこの人は続けた。


「そもそも、この国は勇者が欲しくて召喚をしたでしょ? 勇者を手放すはずがないじゃない。そんなこの国が固執している勇者を連れ去ったら、私達はこの国の人達から悪者や無法者扱いされる。そこに私達の感情や事情は加味されない。この国の勝手な事情だろうがこの世界の勝手な事情だろうが、勇者を……しかも『最後の勇者』を連れ去った事実だけが残るの。それを他国に話を広められ指名手配なんかされたら、日本に帰れない私達は一生顔を晒して歩けなくなるの。だから、城を出るなら自力でして」


……そうだな。コイツ等を連れ去ったら、神罰の件もあるから確実に人族の国全てから追われるだろう。

それだけの危険を冒す程、コイツ等と親しくも無けりゃ関係もねぇ。

俺等にはコイツ等を連れて逃げるだけの利益が無い。

むしろ足手まといだろう。


それが分かったのか、高橋は諦めの表情になった。

しかし、森本と徳田が食い下がる。


「未成年が助けてくれって言ってるんだから、大人は助けるのが当たり前じゃないの?!」

「大人なのに僕等を見捨てるんですか?!」

「知らない小学生に美術館に展示されてる国宝を盗んできてって言われて、森本さん盗むの? 徳田君、見捨てるなら情報あげたりアドバイスしたりなんてしないわよ、普通。だって、言わなければいいんだもの」

「……っ。榊さんは! 助けてくれますよね?!」

「だったら! 僕等も連れて行ってくれてもいいじゃないですか?!」


駄々をこねる子供だな。

森本は言葉に詰まってんだから無理を言ってるって分かっちゃいるんだろう。

なのに何故俺に言ってくるんだ? バカじゃねぇのか?

徳田……いや森本も、助けて貰えるのを当たり前に思っている事が良く分かった。


だが、俺にお前等を助ける義理は一つも無い。

文句だけは達者で、実働は人任せ。

コイツ等、マジでうぜぇ。

ああ、この人が不愉快になる気持ちがよく分かる。


好戦的な森本を不機嫌な顔で睨み返し、触ったらこっちが凍結しそうなこの人を一度チラ見してから、口を開く。


「……俺に犯罪者になれって言うのか?」


俺からも冷気が吹き荒れているだろう。

俺だって、テメェ等のために犯罪者になんか成りたくもねぇ。

俺の言葉に……いや俺の不機嫌な態度に三人組はピキリと固まる。

いや、俺よりこの人の方が、怒ったらきっと怖ぇぞ。


そんな中でいち早く我に返った高橋は、森本と徳田を後ろに引っ張り、嫌がる二人の頭を押さえて頭を下げた。


「すいません! 自分達で何とかしてみます! ただ、これだけ教えてください! 小畠さんが俺達の立場だったら、どうされますか?」


高橋は自分達が俺等に何を求めたのか理解したのだろう。

なのにまだアドバイスを求めるとはな……。

コイツ等ホント都合のイイ奴らだな……。

高橋へのアドバイスを跳ね退けるかと思ったが、この人は渋々口を開いた。


「……参考にするのは構わないけど、上手くいく保証なんてないし、私のせいにしないでよ」

「もちろんです!」

「……はぁ。護衛とか監視が緩い今すぐに城を出るか、明日の交渉でこの国の態度を見て決める」

「……この国の態度を見て決める……って?」

「城を出てもいいって言われたら儲けもの。引き止められたら神託が下りる二日後に混乱に乗じて城を出る」

「……そうですか……ありがとうございました」


頭を下げると、高橋は個室に森本と徳田を引き連れて入っていった。

教えなくてもいいのに教えたこの人行動に、裏があるのかと勘ぐるが、どう考えてもコイツ等のためでしかない。

……冷たい態度を取ってはいるが、一応コイツ等の事を心配しているんだろう。

ホント、分かりにくい優しさだな。


そう考えながら、不機嫌そうなオーラが霧散したこの人を見ていると、目が合った。

この時お互いの瞳に浮かんだのは、「コイツ等うぜぇ」「やっぱりこうなったか」という呆れの感情。

そして、お互い同じタイミングで深いため息が出た。


「……ギブ&テイクって大事だな。あいつ等面倒くせぇ……」

「……誰しも自分の身が可愛いのは当然よ。そもそも人ってお互いに利がないと協力なんてしないと思う。だから、私はその辺の釣り合いを大事にしてる」

「……あんたが厳しいけど優しい性格で良かった。……だけど、あいつ等……」

「……うん。あの子達たぶんやらかすと思う……」

「……だよな? はあ……」


あれだけ盾突いた森本と徳田は、俺等に攻撃してくる、もしくは邪魔をしてくる可能性が出てきた。

この人もそう思っているなら、用心に越したことはないだろう。


「……なあ、どうする。アイツ等がどうするかで俺等も臨機応変に動かなきゃなんねぇだろう。対策立てねぇか?」

「そうだね……あの子達の行動予想をして、その一つ一つに対策を立てるしかないかも……」

「分かった。俺が予想するのは、この国の奴らに神罰をぶちまける、今すぐに逃げる、もしくは明日か明後日に逃げる、勇者をするだな」

「……神罰を暴露すれば自分達も監禁まっしぐらなんだから、ばらすなら逃げた後だと思う。で、さっき高橋君に言ったアドバイスは、日にちは違うけど逃げる一択なの。だから、今からか、明日か明後日に逃げると思う。だけど、あの子達が交渉出来ると思わないから、今からが有力だと思う。ただ、嫌がらせで勇者になったり、明日交渉中に神罰を暴露して私達もろとも監禁させたりする可能性もあるかも」

「……あんた、人を傷つけるのを厭わないか?」

「状況による。自分からしようとは思わないけど、監禁しようとしたり殺しに来たりする輩には、手心を加える気は無い」

「なら、――――――――――」


思い付く限りの予想と意見を言い合って、武力行使ありの、

・今から明日の交渉前の間に逃げられたら、気付いた時点で俺等も別で逃げる

・神託やら神罰をバラされたら、その時点で即刻逃げる

・俺等の滞在が伸びたら、二日後の神託受諾時の混乱に紛れて逃げる

という対策になった。


逃げ方は【マップ】と【結界魔法】を持っているこの人に任せる。

乱闘になればもちろん俺も参加するが、逃げ道のナビゲートをこの人がしてくれるらしい。

そして、今日は横にある二人掛けソファーで就寝して、【気配感知】を駆使して、交代でアイツ等の行動を見張る事にした。

いつ行動を起こされても対応できるように、着替えもしておく事になった。


うんざりした様子で個室に足を運ぶこの人。

俺も違う個室で防具を着けて、枕や毛布を拝借する。

同じように枕と毛布を手にしてソファーへ戻って来たこの人は、見た目にはあまり変わった感じがしないが、この人曰く防具を着けているらしい。

……どれが防具なんだ?

不思議に思いながらも、この人の事だから突拍子のない防具とか着けてるんだろう。

まあいい。とにかく寝るか。


この人が、夜中に起きるのは無理だと言ったので、俺が後に見張り番をする。

一日や二日の徹夜くらい平気だが、乱闘になるかもしれないなら体力を温存しておくべきだろう。

俺の身長じゃ足が出ちまうソファーだが仕方がない。

毛布をかぶって横になると、個室の扉が開く音が聞こえた。


「……ここで寝られるんですか?」


毛布から覗くと、高橋だった。

少し憔悴した顔をしていたが、目には光があった。

話しかけられたこの人は、さっきとは打って変わって普通に対応した。


「……うん。一人で寝てて襲撃されても嫌だから」

「……そう……ですか……。……さっきは、本当にすいませんでした。徳田と森本はちょっと混乱してて……」

「別に気にしてないよ」


表情を変えずサラッと言葉を返すこの人に、申し訳なさそうに会話する高橋。


「……それに、アドバイス有難うございました。俺達、今日中に城を出ます。大人と対等に交渉できるとは思えませんし、明日以降は見張りとか監視がキツクなりそうなので……」

「……そう。一応聞くけど、ここに居れば飢える事はないし勇者としてチヤホヤしてもらえるのに、帰れるかどうかもわからなくて命の危険と隣り合わせの中で汗水流して働かなきゃ食べていけない環境を選ぶのね?」


じっと高橋を見つめて真意を探るこの人。

高橋は目に決意を乗せて返事をする。


「……はい」

「……そう。なら、教えてくれた代わりに選別をあげるわ」


そう言ってこの人は、情報の対価として【防御インナーセット】×三と、金貨十枚×三を差し出した。


「この【防御インナーセット】はね、タンクトップ・レギンス・靴下・首巻・キャップのセットで、それぞれ【防御力 20】【通気性】【保温性】が付与されてるの。全部装備の下に着れば防御力が100も上がる素敵な代物(しろもの)よ。この上にちゃんと防具を身に付ければ、この国の騎士の攻撃は防げると思う。お金はいくらあっても困らないからね。じゃあ、これあげるわ。頑張ってね」


高橋は目を見開いた後、何度も何度も謝罪と感謝を涙声で言いながら物を受け取った。

……キャップってダサくないか?

まあ、防御力を考えたらそうも言ってられないが、兜とか被らずにキャップだけは、さすがに恥ずかしいぞ?

っつうか、そんなモン俺の防具にはなかったぞ?

【防御力 20】【通気性】【保温性】の付与までされてるって、結構良い物なんじぇねぇか?

アレか? 神からブン獲った報酬の一部か?

毛布の中からじっと見ていると、


「……あ、不公平だから榊君にもあげるわ」


この人は、俺にも【防御インナーセット】と金貨十枚を渡してきた。

いいのか? まあ、くれるって言うなら貰う。

金貨はアイテムボックスにすぐにしまい、【防御インナーセット】を手に取って見ていると、この人から声がかかる。


「榊君、それあげるから今すぐ城から出ようか。高橋君、最後に忠告しとくわね。日本は安全で親切な所だったけど、この世界は命が常に脅かされてる所なの。だから、疑いなさい。誰に利があるのか。相手の立場や第三者目線でも考えて、色んな角度から予測して行動する事をお勧めするわ。じゃあ、私達は出るから」


だろうな。タダじゃくれねぇよな。

コートを羽織りながら喋るこの人を横目に、防具を一旦外してキャップ以外の【防御インナーセット】を着こんでその上にまた防具を着ける。

この人が今すぐって言うからには、今すぐこれからマジで出て行くんだろう。

なら、これから戦闘になるかもしれないと、気合を入れながら準備をする。


目の前でいきなり出発準備を始めた俺等に唖然とする高橋。

ビックリして、この人の優しさに気付いてないだろう。

俺等が出れば、騒動が起こる。

騒動が起これば、騎士達が集まるのは騒動の中心。

そう、俺等だ。その間コイツ等の監視は緩まる。

まあ、元々俺等は俺等で逃げるつもりだったから、コイツ等の手助けをする訳じゃない。結果的にコイツ等にとって助けになるだけだ。

……ただ、騒動の中心になる選択をこの人がしただけ。


任せると言ったから決定に逆らう気は無いが、分かりにくいがこれまで沢山コイツ等の助けになる事をしているこの人の優しさに少し感動する。

……少しでもそれを理解すれば、コイツ等も上手く生活していけるかもな……。



「……俺等が先に出れば、お前等逃げやすくなるな。……良かったな。この人が優しい人で……」


準備が終わるとスタスタと扉へ歩いて行くこの人を追って、高橋の横を通り過ぎる時、耳元でポツリと呟いた。


顔を晒さないように言われてコートを目深にかぶると、手前のリビングのドア、廊下に出られるドアの前で一旦立ち止まり、準備はいいかと目で合図される。


お互い片方の扉を握り、頷き合って部屋から飛び出す。


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