王の領域2〈ゲームのストーリーテラー〉
読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字、多くてすみません。。。多少は放置です。
すみません。
黒騎士の剣は初手から、容赦がなかった。
心を整える間もなく始まった真剣勝負、重い一撃で沈まなかったのは、辺境で成長した成果だ。僕の剣と黒騎士の剣との剣戟音が踊る。
でも、このまま戦いに没入する喜びを抑えつつ、僕は慌てて叫んだ。
「待った!条件確認させてっ!」
「条件?」
「そう!僕がひと太刀でも入れることができたら、エルバーラのネックレスを外してくれるってヤツ」
黒騎士の足がようやく止まる。主へ視線を向けるのに合わせて、僕も玉座を見上げた。
と、長い階段が赤い絨毯ごと消え、白い空間にぽつんと玉座だけが現れる。観覧席のような位置に、心理的な距離も縮まった気がする。
「良かろう、その場合は契約を破棄しよう。じゃが良いのかえ?この契約は、あの娘が命をかけて願ったものじゃ。契約の成約ゆえに、手に入れる結果がある。その結果をそなたは独断で無しにしようとしておるのじゃぞ。さぞ、恨まれるであろうの」
「僕がエルバーラに恨まれるの?命を失う危険を遠ざけるのに?」
「ふふふ、ほんにそなたは、どんなに姿を変えても本質を変えきらぬの」
にんまりと笑われて、僕は愛剣を納めた。
「聞き捨てにできないんですけど。姿を変えてってーーそれって、〈生まれ変わっても〉同じことしてるって意味であってますか?」
すぐに想起したのは、2番目の僕に押し付けられた〈幸せの住処の記憶〉と、今の僕の根幹をなす〈前世の人格〉についてだ。
「そのとおりじゃ。そのくらいは察するかえ?前の前の前のそなたは気持ちいいくらいの独断と偏見に溺れて、同じように愛する者に嫌われておったーー」
「ストッーープ!そこマジで重要情報じゃん」
僕は心臓がドクドクと激しく打つ。なんだか貧血を起こしそうだ。
「・・・嫌われていた、の?〈妖精王〉が、だよね?」
「ソレもそなたじゃ。『生まれ変わっても会いたくない』と言われたと、自分で言っておったではないか」
僕にとって強烈な一刺しだった。致命傷だ。瀕死だ。客観的に言われたシンプルな言葉だからこそ、素直にぶっ刺さる。
ーーエルバーラに嫌われる!?
「ぜ、前世・・・前の話だしーー」
「関係アルアル。今ト前ト、因縁つながるのサ」
妖精の女性に否定され、僕は面白いくらい足の力が抜けて、へろへろと地面に蹲った。
「おいっ」
黒騎士が誘うように剣を軽く振って声をかけてくるが、剣の対決なんか、もう僕にはどうでもいい。
「僕、エルバーラが欲しいーー」
「言霊かの?」
「だって好きなんだ!エルバーラのことを考えると、胸がぎゅうって苦しくなるし、触れたいし、ずっと触りたいし、抱きしめて、舐めちゃいたいし、食べちゃいたいし。でも笑顔でいてほしいし死んじゃうのなんか許せないし他人のネックレスなんかつけさせたくないし髪飾りも服も手袋も全部僕が選んで、僕が身につけさせたいしそれで笑顔になって笑いかけてくれたら僕は嬉しくて嬉しくて幸福でどうにかなりそうなんだっ!」
「・・・おい」
黒騎士の眉間のシワなんかどうでもいい。
「それなのに僕が恨まれるの?嫌われるの?えっ、なにそれっ、そんなの許せるわけないよねっ!だってエルバーラは僕のものだし僕のものにするし!それなのに3番目の僕も4番目の僕も5番目の僕も嫌われてたかもしれなくって『生まれ変わっても会いたくない』って言われたとか聞くだけでもうっ泣けるというか笑えるんだけどっ!でもそんなこと言われたってなかった事にできないしやっぱりどう考えたって僕はエルバーラが欲しいし欲しい!僕、どうしたらいいのっ!!!」
わぁーっと想いの丈を話しまくると、僕の目線の先の床に、トゲトゲの黒蜥蜴が黒いつぶらな眼で、じっと僕を見上げていた。
訓練のたまものなのかブラックを見ると魔力制御する癖ができていて、僕は少し冷静になる。
「なるほどのうーーレコードを引き継がぬはずじゃて。隙間がない」
ため息まじりの静かな声が、つるりと耳に届く。
「レコード・・・はぁ・・・そうだった。〈虚無王〉ーー〈7番目の王〉についても・・・教えて欲しかったんだ」
「7番目?そなたアレにその状態で会ったのかえ?」
白髪の女性の声に笑いが交じる。
「うん。遭遇したら、僕の侍従見習いと騎士10人の意識が戻らなくなったんです。どうすればいい?」
白髪の女性をすがるように見上げれば、側にいた妖精が甲高い笑い声を立てた。びっくり。
「〈妖精王〉サマは、ずっとワガママで愚直で純粋ナノさ」
「ほんにそなたは〈神〉に愛されるの」
呆れたように言われるが、そこにマイナスの感情は感じられない。むしろーー。
「・・・僕、カミサマに愛されているの?」
「それ以外の何がある?普段は〈王〉から逃げ回る7番目に偶然でもそうそう会わぬ。しかも出会って被害がないーーふむ。それで〈人王〉の鎖が切れておるのか」
「ほらぁ、被害あるんですけど」
「些細じゃ。そなた本体に影響はなかろうて」
「そんなことないですっ。僕みんなを元に戻したい」
「自分でなんとかできるであろう?」
「できないから、相談しに来たんです!」
「相談?妾に?この〈白の王〉に、〈妖精王〉ーーの雛みたいな、人間のそなたが?」
びっくり顔が貴重だ。僕は苛々しながら繰り返す。
「もう何度目っ!・・・僕〈妖精王〉じゃないですから。人間ですからっ。使える魔法だってモーグ一族の知恵と妄執の結晶であるモーグチート魔法の一部だけ!ここに来るのも魔導具使って一か八かで大変だったんですっ。転移は猫がせいぜいで距離があるとできないし、隠蔽だって長時間持たないし、攻撃魔法だってそこの黒騎士にぶった斬られて、すぅっごく悔しいんだ」
「ーー悔しいのか?」
黒騎士が剣を鞘に戻して、不可解そうに言う。
「悔しいよっ!僕は元々白魔法がデフォなのに、頑張って3年かかって攻撃魔法と剣技を磨いてきたんだから、後で戦ってよね。ボコボコにする予定だから」
壮大な予定を黒騎士に向けて宣言する。内心はびくびくだが、言ったもん勝ちだ。
「なんとまぁ、そなたは随分と幼くなったものじゃ」
「馬鹿にしてます?」
「いや、やり直しておるのであろうーーさてさて、妾はどうすべきかのう・・・こうなると〈神の遊戯〉の意味が違ってくる」
「〈神の遊戯〉?7番目の王も言っていたんだ、『〈神の遊戯〉が終われば、全て元に戻す』って。〈神の遊戯〉とはなんですか?」
ようやく僕は本来の目的を思い出して、丁寧に尋ねてみる。
途端に、また妖精の女性が爆笑するーーなんで?
「そなた自身も〈神の遊戯〉の参加者じゃーーじゃが、おそらく、お主は〈物語の語り手〉を望まれているのであろう」
「ストーリーテラーってなんです?物語の改編?」
「できぬ。〈神の遊戯〉は世界を調律し、あらゆるモノに影響を与える。むしろ整え欠損部分に新たな話を差し挟むことを望まれたのであろうーー〈妖精王〉不在の為にの」
「?」
本気で意味が分からず僕は首を傾げる。
「〈神の遊戯〉は今から3年後から7年後に起こる、人間族の物語ぞ」
ーー物語?これから起こる?
「前回は魔王を倒す獣人族の〈勇者〉の物語であったかのう、郎君」
ーー勇者!?
「くだらない茶番でございました、〈我が君〉」
黒騎士が苦々しく吐き捨てる。
「ソノ前ハ、異世界カラ来た存在が、亜種族にトリツイテ、魔導具を改良シタカラ、戦がハジマッタ」
ーー異世界から来た存在がエルフにとり憑く!?
「・・・なんだか前世のゲームで聞いたことあるシステム」
〈キャラクター乗っ取りシステム〉だ。プレイヤーが他人の育成したキャラクターを、一定条件下で乗っ取り獲得できるっていう、異世界対戦ゲームだったはず。
「勇者が魔王を倒すのはRPGの定番だし。
〈神の遊戯〉って、いつもゲームのテンプレなの?もしかして神様は日本のゲーム好き?いや、ちょっと待って。ーー確かに僕って〈前世もち〉だし、チートだし、盛すぎ設定だなって常々思ってたよ。自分でも引くくらいエルバーラが好きすぎで・・・って〈番〉設定!?もしかして『番物語』!?溺愛すると攻撃力と防御力が最大値になるっていう・・・えっ、溺愛するの?ほんとに?この現実で?・・・『嫌われ過去からの逆転溺愛』!?えっ、大歓迎なんだけど。その上、ストーリーテラーって、好き勝手できるって事でしょ?うそ、まじで嬉しい?いや、でも、背徳感が大き過ぎてーーいやいやご褒美!?いやっでもなぁ〜」
ぶつぶつ妄想が止まらなくなる僕。顔が赤くなって脈拍が走って止まらない。
だがそこに、冷水を浴びさせる妖精の笑い声が響く。
「キャハハ、妄想コワ〜妄言コワっ!君ハ、やっぱり残念王、サ〜」
「え」
「主人公はベツ。君より契約ノ娘ノホウが、重要な脇役ナノサ〜」
「・・・『番物語』とかでないの!?しかもエルバーラが脇役!?」
残念さが全身にあふれる。だってどうしたって期待するだろ?
「仕方ないのぉ。サシュ、全て話してやりゃ」
白髪の女性ーー〈白の王〉が玉座で片肘を付いて足を組む。
なんだか投げやりだ。
一方、指名された妖精の女性は虹色の羽をバタバタさせてやる気十分だ。
「はーい。えーと、では、ソモソモがーー」
そうして僕は、エルバーラと〈白の王〉との命をかけた契約のいきさつを聞かされる。
そして、いつか見たエルバーラの吹き出し、『乙女ゲーム』と『悪役令嬢』という役割の意味も。
また〈神の遊戯〉が遮られた場合の影響の大きさをとくとくと説明されーー最後に〈妖精王〉と夫婦になった〈人間の娘〉がどうなったのか、どうして〈妖精王〉が樹海とトータス山脈を創ったのか、人間の王国がそれをどう利用したのか、ざっくり聞くうちに、目眩がしてくる。
「〈妖精王〉サイテーだ。サイアク・・・僕、エルバーラに嫌われるしかないんだ。〈遊戯〉なのに全然楽しくない・・・っ」
涙が出そうで出ない状態は、きっと聞いた話の理解と感情の受け入れのタイミングが合わないからだ。
気持ちがちぐはぐで、整理ができなかった。
「・・・僕、帰ります」
一人になりたかった。一人になってじっくり考えたかった。
気がつけば、モーグの秘密の部屋の、〈遠見〉の魔導具の側で、僕はぼんやりと立ち尽くしていた。
ギッシュや騎士たちの解決策を聞き忘れたと思い出したのは、ずっと後になってからだった。
ストーリーテラーの意味は「物語り」ですが、
作中は「新しい話を差し挟む人」とか、story author、novelistに近い意味で使ってます。




