帰還2〈アルール〉
読んでいただきありがとうございます。
女性に対する偏向思考の記述がありますが、
あくまでキャラの思考になります。
合わない方はそっと画面を閉じてくださいますようお願いします。
「お久しぶり、かしら?家出少年のギーヴィスト様?」
しんみりした気分で馬車に入った僕は、そこに座る見知らぬ?年上のお嬢さんに、目をパチパチする。
「ほえ〜誰っすか?」
ギッシュが警戒心なく尋ねる。
「君が侍従見習いで、そちらが護衛騎士ね。執事見習いのアルール=フィン=モーグよ」
「えっ」
一番最初に反応したのはチャンクスだった。
「初めてお目にかかります、姫様。ギーヴィスト様の筆頭魔法騎士チャンクス=ラシュットでございます」
「ぎ、ギッシュ=ブルガンっす」
名乗りを上げる二人のおかげで、僕は深呼吸する時間をもらえた。
アルール=フィン=モーグ。1度だけ顔を合わせた、テドさんの亡兄の遺児だ。お祖母様が僕の婚約者にしようとゴリ押ししていた人物である。
あの時とは雰囲気も見た目も変わって、随分大人っぽくなっている。
「執務見習いって、どういうことでしょうか?」
自然と僕の眉間に皺が入る。警戒心マシマシだ。
対するアルールさんも、初手から臨戦態勢である。
「そのままよ。誰かさんが私との婚約は嫌だって家出するから、宙ぶらりんのまま、執務の補佐をさせられてたの」
「それはそれは大変ご迷惑をおかけしました。当時の僕は婚約者がいたはずなんですがね?二人も婚約者を持てなんていう、お祖母様や君の無茶苦茶具合に、僕の繊細な心がついていけなかったんです」
「あら、今も婚約者がいるわよ?私ではない婚約者」
「?でもお祖父様は白紙ってーー」
受け取った手紙にはそう書かれていたはずで。
「王女様、病弱な王子様でも初恋なんですって。直接会うまでは婚約を白紙撤回しないって、まだ頑張ってるわ」
うわっ〜面倒くさい状況になってる、と頭を抱えたくなる僕。
「ちなみに、お祖母様は諦めてないわよ?私が第二夫人ですって。ーーフザケてるわっ」
「ふざけてる?ーーじゃあ君も不本意なの?」
初めて紹介された3年前は、ほとんど口を開かなかった年上の少女が、今は不機嫌全開で怒っている。
とてもお芝居や偽りには見えなかった。
ーー僕と利害一致?あとで3妖精に本心かどうか探ってもらおう。
「とりあえず、座って、いとこ殿」
「あ、うん」
僕は素直にアルールさんの対面の座席に座る。
僕の横にギッシュが座り、チャンクスは参謀長と打ち合わせしてきます、と外に逃げた?
「えっと、まずはーーお迎えありがとう?」
「違うわ。家出の口実にしてごめんなさい、よっ」
「あ、はい。ごめんなさい」
若干、疑問形になりつつ言葉を反復すると、アルールさんは大きく息をついた。
「安心して。お祖父様との話はついているわ。あなたが表も裏もモーグの当主に立てば、私は分家の伯爵家に嫁ぐわ」
「ほんと!?」
「そこで喜ばれると、なんだか悲しいより腹が立つんですけど」
「だって僕、心に決めた子がいるし、アルールさんとは性格的に合わない気がするんだもん。アルールさんもそう思うでしょ?」
「簡単に同意したくない」
「なんで?」
「あなたが家出しくさってくれたおかげで、私の立場が決まらずに、執務を手伝わされたり、花嫁修業させられたり、方針がころころ変わって苦労させられたの」
どうしてくれるの、と言わんばかりの眼力に、僕は苦笑する。
「そこはきっとお祖母様とお祖父様の方針違いの余波だよ。僕も被害者だし」
「ひとりだけ逃げた人間が何いってんの?辺境でのびのび満喫してる間に、私は不本意な第二夫人扱いだったんですけど」
「それは怒る、よね。あははは」
僕が笑っても、アルールさんは、ちっとも鎮静化されてはくれない。むしろ。
ーーやばっ!女性の怒りは流してはいけない、受け止めろって前世の先輩が言っていた気がする。
が、この場合すでに時遅し、燃料投下した!?
「その笑いが逃げてるみたいでイヤ。人生の逃げグセがついて良いと思ってるの?あなたモーグの当主なのよ分かってる?当主の責任って重いのよ、色んな人に迷惑かけるのよっ。今回その最たる例が私なのっ!お祖父様を動かして執務見習いに落ち着くまでどんだけ大変だったか、そのお気楽ノーミソで考えてみて」
ネチネチ続くお怒りを、ただひたすら受け止める。
女性が怒っている時、言い返してはいけない、不用意に別の話をしてはいけない、簡単にあやまり倒してもいけない。寄り添え!寄り添えなければ、寄り添うフリをするのだ!ーーと・・・あぁ、なんだか声まで蘇る、前世の先輩マニュアル『女性の扱い方①』だ。
あの先輩どこの誰だっけ?思い出せないのに、ありがたい言葉だけが心に染みる。
そんなアホな事を考えながら耐え忍んでいたせいなのか、突然〈律〉が発動する。
言葉を切るアルールさんと息を詰めるギッシュ。
ギッシュからもアルールさんからも、魔力の赤い鎖が可視化されて伸び、僕に集約される。
すぐに馬車の扉が叩かれた。
「ギーヴィスト様」
参謀長が外から声を掛けてきた。もちろん参謀長の胸からも魔力の赤い鎖が僕へとつながる。
「ごめんね。〈律〉の取り締まりみたい」
アルールさんにそう告げて、僕は愛剣を手にラッキーとばかりに馬車を飛び降りた。




