エルバーラの奮闘3〈モーグ侯爵家の無効魔法〉
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「苦しいところはございませんか?」
「はいっ。大丈夫です・・・」
8人もの侍女とメイドに囲まれ、どうしてこうなった、と戸惑う私に、ギーヴの侍女さんがテキパキと指示していく。
今はまだパーティの最中だ。
それなのに、髪形を整えると連れてこられた客間で、髪形のセットだけでなく、ドレスのアレンジまで受けていた。
ドレスを脱ぐことを断ったら、マネキンよろしく立ったまま、針を持つ侍女とメイドに囲まれた。問答無用だ。抵抗する隙がない内に、始まってしまった。
「胸元の白いレースは模様が大ぶりの方がいいわね。隠し模様で肩まで伸ばしましょう」
「裾は緑を活かしましょう。長さがあるので内側でドレープを増やして、縁取が揺れるぐらいに」
「腰に巻くリボンは細い方が品がいいわね。右側で少し垂らして後ろで結んで。三重でずらすように留めて。重ねは濃淡を見せて」
暗い緑1色のキャンパスが、様々な白いレースで縁取られ、重ねられて上質な絵画に生まれ変わる。
絶妙に重ねられる白のレース模様が肩や腕、腰や裾に沿って縫い付けられ、私の身体を華奢に浮かび上がらせる。
しかも白いリボンと共に編み込みでまとめた髪は、首筋をすっきり見せ、ますますたおやかで上品な雰囲気に仕上げられていく。
ーーモーグ侯爵家の侍女やメイドの技術がすごすぎる。
「綺麗・・・もう別物のドレスみたい」
「気になるところはございますでしょうか?」
「いいえ。むしろこんなに上品にアレンジしていただいて、良かったのかしら」
お義母さまには嫌味を言われそうなぐらい。
「もちろんです、お嬢様。当家の坊っちゃまがお嬢様の髪飾りを壊すところだったのですから」
「でも壊れてないわ」
「いいえ。これでは足りないぐらいでございます。お色も白しかご準備ができなかったので、アレンジとしてはとても控えめな部類でございます。ご心配なさいませんよう」
そう言われれば、確かにそうだ。
パーティ会場はテラスだ。陽の光の下では、白は目立たない地味色になる。まして色とりどりのドレスに身を包むご婦人方の中では、白と緑は、テラスや庭園と同じ背景色だ。
それでも暗く野暮ったいドレスが、目立たない標準装備へと、ほんのわずかでもランクアップした感じだ。
それは、私には嬉しいドレスアップだった。
『主の独占欲』
「え?」
いつもの声とは違うささやき声が耳を通り過ぎる。
意味を受け取りそこねて再度耳をすますが、もうなにも聞こえなかった。
大きな鏡に映ったドレス姿は緑と白でまとめられ、重い黒紫色の髪も悪目立ちしない。むしろ編み込んだ白レースが暗い紫の色を活かしている。
「森の女神みたいですわ」
「白が映えてお美しい」
口々に褒められて、おべっかだと分かっていても、気分があがる。
「綺麗にしてもらったわ。ありがとう」
「とんでもございません」
退出する侍女やメイドを鏡越しに何度も労い、ギーヴの侍女さんにパーティ会場にそろそろ戻る、と向き直る。
「かしこまりました」
先導して歩くギーヴの侍女さんに従って部屋を出ようとした時だった。別の出入り口からやってきたメイドが、侍女さんに何事かを囁いた。
ーー何かあったの?
その疑問に答えたのは、今日は控えめなチクリ屋たちだ。
『エルバーラ、王子様』
『王子様がいるよ』
『すぐ近くに、エルバーラの王子様いる』
ーー私のって違うけど、王子様って、シャルモン殿下のことよね?王家が特定の家臣の祝に出向いて、大丈夫なのかしら?
「先導はいいわ」
「お嬢様、お待ちを」
侍女さんの静止を気にせず、護衛に扉を開けさせる。
廊下に出てエントランスへ向かえば、顔なじみの護衛に囲まれた第二王子のシャルモン殿下が、ゆっくりと階段を降りてきたところだった。
その後ろにモーグ侯爵やモーグ公爵夫人が続いている。
「エルバーラ嬢」
「殿下」
カテーシーをして迎えると、シャルモン殿下が明るく笑みを見せる。
「君に会いたいと思っていた」
シャルモン殿下にしては、驚くほど率直な言葉だった。
周囲の軍団を置いて、早足でひとり近づいてくると、私の両手を握る。とても珍しい行動だった。
「殿下?」
訝しげに顔をあげた途端、早口の囁きが聞こえる。
『君の魔法を込めて欲しい』
手の裏に握らされた丸い石の感触。
ーー宝石だろうか?
石ごと手を握られ、そっと手袋越しの口づけを受けた。
ーー私の魔法。光の?
階段を降りて足早にこちらへ近づいてくる侍従のガルーダを横目に、殿下の目が強く促す。
私は殿下の変化がよく分からないまま、手の平の石に光魔法を込めた。
ーーうそ・・・魔法が起動しない?
モーグ家の魔法は王宮やフランチャスカ侯爵家のような、1度は起動した魔法を、消していく魔法ではない。起動自体を完全無効にする魔法だった。完全に無効にするには膨大な魔力がいる。
その膨大な魔力が、今、モーグ家では消費されているのだ。
起動したという手応えさえ感じられない私の光魔法。
だが強く注ぎ込むイメージで石の中で直接起動する状態を思い浮かべると、刹那だけ光魔法が石の中で成功した。注入できた分量は、ほんの僅かな残滓というべき量だけだが、それでも石の中に残っていた。
成功したとは言えない魔法の術式だが、だからこそ誰にもーー侍従のガルーダにも、気づかれなかったはずだ。
それが分かったのだろう。シャルモン殿下の目元がやわらぐ。
「会えて良かった、婚約者殿。その髪飾りは今日の装いにとても似合っている。真珠の髪飾りは私の贈ったものだろう。こうして使ってもらえると嬉しいものだ」
「はい、頂いたものです。見ていただけて良かった」
そう言ってシャルモン殿下の手に手を重ねて石を返した。
「また婚約式までに、何か贈ろう」
「ありがとうございます」
「楽しみにしていてくれーーではまた王宮で」
「はい、王宮で」
右手の手袋越しに、再度シャルモン殿下の熱を感じながら挨拶を交わした。
その時、ギーヴがシャルモン殿下を見送りに遅れて現れた。
ーー主役なのにパーティ会場にいなくていいのかしら?
そんな事を思いつつ、私はギーヴと並んでシャルモン殿下を見送った。
ーー今日の殿下はなぜかいつもの殿下とは違ったわ。
ーーそれにあの石に込めた私の光魔法。
少しずつ何かが変化している予感に、その時の私の心は弾んでいた。
エルバーラの話はギーヴくんの裏話になるので、ちょいちょい修正してます。多くてすみません。
もう数話エルバーラの話続きます。
話は出来てるのに、文章が出てこない。
毎日更新してる方は、どうされてるんでしょう?
ヒケツがしりたい。。。




