16.異世界の人間
魔王サイド
「ええ、そうですか。やはり」
回収係りであるレドワールは通話を着ると、ニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
今回戦わせに出陣させた魔物は、魔王サイドの中でも最弱といわれるゴブリンだ。どうしてそんな弱い連中をわざわざ敵と対峙させたのかというと、確かめたいことがあったからだ。
「やはり、相手は私達の魔力流れを読み取り、無効化しているようだわ」
脳内から出る魔力に、それを溜めるタンク。この二つを知り、対処法も知っているみたいだった。やはりあの【酔拳少女萌もえもえちゅん】というふざけた娯楽であいりw多情報なのだろう。
「それと、大きな情報がもう一つ」
勝利を収めて仲良くハイタッチしている五人の少年と少女の写真を見つめる。
むさい男二人と可愛らしい少女が二人。この四人はなんども見かけたことがある。しかし、この中に知らない男が一人いる。
そして、その知らない男は、つい最近魔王の傘下のアジトを殲滅させたというとんでもない男と同一人物であることがわかった。
「彼は。どこからきたの?」
笑顔で手を重ねる少年をじっくりと眺める。
彼はあの超人的な力を、どこで手に入れたのだろうか。
「彼のデータを何か持ってきて頂戴。指紋でも、体毛でも血液でも何でもいい。この世界のすべての住民がわかる特定魔法で彼のことを調べるわ」
受話器を再び耳にかざし、今度は【調査班】に連絡を取る。あの身のこなしは、国の平和を言い訳に怠けていたデアルーン王国の人間とは思えなかった。
彼と共闘していたアイルンという少女も、生まれはこの世界で一番戦闘という分野に特化しているディスペア国だ。あの黒い髪が何よりの証拠だろう。
彼も髪の色は黒に近かった、あの子もアイルンと同じディスペア国の人間なのだろうか。
それだとしたら、大分脅威だ。
あの国の人間は、身体能力だけなら中級魔族に匹敵する。
私が焦燥に駆られていると、【調査班】から連絡がきた。
「はい、彼の身元はわかったかしら?」
返ってきた言葉は、耳を疑うようなものだった。
「彼のデータはどこにもありません。あり得ない話ですがこの世界の人間ではないのかもしれません……」
「え!?」
声が震えているのがわかった。いいや、声だけでなく受話器を持っている手も小刻みに揺れている。
特定魔法の魔法は絶対だ。この世界に生まれた瞬間に、生誕した国に自動的に戸籍が刻まれる。それは誰にもねつ造することはできなく、例えそれが勇者や魔王様でも戸籍を隠ぺいすることはできないのだ。
となると、答えは一つしかない。
「あの子は……この世界の人間ではない?」
ありえない話だが、それ以外の答えが見つからない。
しかし、いったいなんのためにわざわざ彼はこの世界に来たのだろうか。
「まさか……我らと勇者の陰謀を知って……」
そう考えたところで、思考が停止する。
外部の人間があの計画の全貌を知ったところで、害はないはずだ。身内の星でつぶし合っていろとしか思わないだろう。
それでもなお救おうとする人間だとしたら、彼はとんでもない良い人か、自信過剰な愚か者である。
「取りあえず、彼に気付かれないよう監視しましょう。素性を特定次第、交渉にかかるわ」
他の世界からはるばる来る理由が善意という極めて薄い感情なはずがない。
きっと平民達に脅されているのか、自分の世界では手に入れられないようなものがこの世界にあって探しに来ているのだろう。
魔法の陰に隠れているが、この世界は他の星と比べると非常に科学文明が発達している。
「彼を監視している間に、彼の目的と欲しているものを探してきなさい。これは最上級の命令です」
【調査員】に命令し、受話器をおく。
魔王サイドと勇者サイドの野望を成就させるためには、彼の存在を消さねばならない。




