10の長さを知る少女達
少し短めのラブコメ書きたいな〜ってことで、メインとは別でちょくちょく投稿する予定です。
春の事だった。
まだどこか肌寒い風が吹く4月の下旬、来客を知らせるチャイムに誘われ扉を開けば。
「こ、こんにちは。お久しぶりです、大和さん」
「・・・こんちは」
ガチガチに固まっている白色の髪を持つ少女と、無愛想にしながらも挨拶を返す金色の髪を持つ少女が、そこにはいた。
俺は、少しだけ目を奪われていた。
「わぁ〜、広いね」
「ん」
リビングではしゃぐ長い白髪の少女はキョロキョロと部屋を見回している。
それに対して、ショートヘアーの金髪少女はどこか落ち着いていて、スマホなんかを弄ってる。
「えっと・・・ごめん。2人は、その」
家にあげたはいいが、どこかぎこちない俺を察して、白色の子が困り顔になってしまった。
「連絡の方はいってませんか?」
「連絡?」
「はい、大和さんの家でお世話になる・・・と」
その一言に固まってしまう。
お世話、という単語を何度も自分の頭の中で反芻させる。
自分の都合の良い風になんとか噛み砕こうとするも出来ない。
「待ってほしい、連絡なんて一切来てないし、そもそも知らない子の責任を持つなんて可笑しいんじゃ・・・」
俺のこの言葉で、辺りの空気が重くなるのを感じる。
片方は悲痛、片方は軽蔑。
そんな両者の眼差しから察するに、俺とこの2人は初対面ではないらしい。
「お、覚えてませんか?」
「ほらね。覚えてるわけないって言ったじゃん、姫名は夢見すぎなんだよ」
「凪ちゃんだって、覚えてたらいいねって言ったじゃん!」
2人の名前を聞いて、なんとか俺の中で記憶を辿ってみる。
姫名と凪、白髪の子が姫名で、金髪の子が凪。
河野大和今年で24歳は、その長くもなくて短くもない人生を振り返る。
「あ、もしかして」
ピンと来た。
あれは確か、自分が中学3年生の頃だった、少しの間だけど、時たま面倒を見ていた幼い白と金が頭をよぎった。
「白金・・・?」
思わず呟けば、姫名と呼ばれていた少女の瞳が輝いた。
「思い出してくれました!?わ、私!!白金姫名って言うんです!!」
やや興奮気味に身を乗り出して、己の存在を明確にさせようとしている。
「こっちは白金凪!凪ちゃんです、覚えてませんか?」
「いいって・・・。もう」
「あぁ、ああ!!思い出した!!」
完全に思い出した。
「名前を聞いて思い出したよ。2人ともでかくなったね!?」
曖昧な記憶を掘り返せば、そこにあったのは自分の足元ぐらいしかない2人の存在だった。
約10年ぶりに会った2人は、立派に成長していた。
「ほら!覚えてるって言ったじゃん、凪ちゃん!」
「はいはい、でも忘れてたじゃん」
「うぐ・・・ほんとごめん」
謝っても、凪の方は許してくれないらしい。
「あ、えっと・・・凪は、スケートまだやってるの?」
「やってる」
どこか棘のある言葉を吐いて、凪は面倒くさそうに立ち上がった。
「凪ちゃん・・・」
「ここら辺、よく知らないから。適当にぶらついてくる」
猫の様な習性でも兼ね備えているのか、凪は早足気味に玄関へと向かってしまう。
「あと、大和さん」
「え?」
「あたしの名前、気安く呼ばないで」
バタンと閉じられた扉からは、追ってくるなという意思表示をヒシヒシと感じさせた。
「・・・」
「あ、あはは」
完全に気まずい空気を作ってしまった。
姫名に関しては必死にこの空気をどうにかしようと頭の中で色々と考えているのだろう。
「え、っと、あ、うーん。その、あ!あと、えと」
テンパっている。
記憶の中の姫名は、どうやら変わりないらしい。
「はは、姫名はあまり変わってないね。色々と考えちゃう所」
「え!?そ、そうですかね・・・」
どこか嬉しそうにしながら、前髪をいじる姫名は本当にあの頃と変わっていなかった。
背こそ伸びたけど、幼い顔立ちはあの時のまま・・・。
「姫名は?姫名はバイオリンやってたよね」
「はいっ、今も続けてますよ」
子供の頃、俺に演奏を聞かせてくれたのを思い出す。
「懐かしいな〜、姫名よく聞かせてくれたよね」
「えへへ・・・」
聞かせてくれる度に、感動したのを思い出す。
自分よりも小さい少女が器用にバイオリンを鳴らす姿は、中学生の頃の自分はよく感動したものだ。
「あれから10年ぐらい経ったのか。時が経つのは早い・・・。じゃなくて」
危ない危ない、全くもって本筋を聞いていない事を思い出す。
「それで、お世話って・・・?」
「あ、その、どこから話せばいいか、えっと」
まずいテンパっている。
指を組んだり解いたり、髪をいじったりし始めるのは姫名の癖だった。
自分の中で纏まらない言葉を必死に纏めようとすると、こうやって所作に出始める。
「落ち着いて、そうだ。プリン食べる?」
「え?い、いいんですか!?」
「もちろん、少し待ってて」
気持ちを紛らわせるために、自分用に買っていたプリンを持っていこうと立ち上がれば、姫名も一緒に立ち上がった。
「姫名は座っててもいいよ?」
「いえ!これからお世話になるので、冷蔵庫の位置はちゃんと把握しないと!」
「・・・あはは」
どうやら、ここに棲む事は確定事項らしい。
俺の家は中々に広い。
マンションの一室を借りて生活している、キョロキョロと視線を動かしている姫名は凪と似ていてどこか猫っぽい。
「あの、大和さん」
「ん?」
「・・・ほ、他に誰かと同棲とかしてるんですか?」
冷蔵庫を漁っている俺に姫名はそう問いかけた。
同棲、誰かと住まう場所を同じにするその行為を疑うのも無理はない、確かに1人で暮らすには些か広い。
「暮らしてないよ。俺ひとり」
「そ、そうなんですね」
「家が広いとテンション上がるんだよね。まぁ、あまり物は置いてないけど」
完全に手に余っている、カッコつけてマンションを借りたはいいけど、使いこなしてはいない。
「へ、へぇ・・・。ほ、本当に誰とも?」
「うん」
「昔に誰かと住んでたとか」
「ないない、仕事に手いっぱいだし、そういうのはあんまりかな」
プリンを取り出して、小さいお皿に乗せる。
少しでも見栄えを良くしようという配慮だった、スーパーで買ったプリンでも、皿に乗ればどこか良いところの品物に見える。
「どうぞ、スプーンはそこの引き出しね」
「わぁい!ありがとうございます!」
嬉しそうにお皿を持って、先程座っていたテーブルへと向かっていく姫名の後ろ姿を見守る。
「さて」
俺は携帯を持って、自分の連絡帳を開く、宛先は当然父親。
先程、姫名が言っていた連絡はいってないか?の答え合わせを行うためだ。
リビングではなく、廊下へと向かう。
父親に電話をかければワンコールで出てくれた。
「もしもし、親父?」
「どうした」
「あのさ、今、白金さん家の娘さん2人が来てるんだけど・・・。てか、覚えてる?姫名と凪」
「ああ」
なんて事なさそうにそう言う親父に若干キレそうになるけど、抑える。
「俺の所でお世話になるって言ってるんだけど」
「ああ」
「いや、ああ。じゃなくて、これ親父はなんか知ってる?白金さんと仲良かったよね」
「知ってるも何も、お前が言ったんだぞ?」
その言葉に俺は慄いた、事実の捏造をまさか親にされるなんて思ってもみなかった。
「言ってないだろ!?」
「言った、先週の金曜日にお前帰ってきたろ?」
「ああ」
「その時話したろ?白金さんが困ってるって」
「白金さんとこの姫名ちゃんと凪ちゃん、お前覚えてる?」
「んー」
「実は、預かってほしいって言われてさ。お前のとこで」
「んー」
「いい?」
「んー」
「よし、それでこそ俺の息子だ」
「ちょっとあなた?大和、飲み潰れてるのになんの約束取りつけてるのよ」
「男の約束だ」
「何言ってんのよ・・・」
「いや俺、潰れてんじゃん!!」
「流石は俺の息子だ」
「不当だって!!!これが許されていいのか!!」
酔い潰れた俺になんて約束をさせてんだよ、全くもってこんなの無効だろ。
「お前の家だったら色々楽なんだよ、2人の習い事の場所も学校も近いし」
「でもさぁ〜!!」
「お前は嫌なのか?」
親父のその一言で止まってしまう、それはだってそうだろう。
「嫌とかそういうのじゃなくて・・・。2人の気持ちを考えるべきだよ、親父も、白金さんも」
「気持ち、ね」
「仲良かったって言っても、10年も前の話だよ?そんなほとんど他人の男の家なんて、あの2人が嫌でしょ」
携帯越しの親父の声が一瞬だけ聞こえなくなる。
「もちろん2人の意見は聞いたらしい、お前のとこで世話になんのも嫌ではないって」
「けど──」
「なんだよ。お前まさか、歳下相手にドギマギしてんの?」
「あのさ、俺、高校教員だよ。そんなことあったらおしまいなんだ」
豪快に笑われる、直接携帯を耳に当てていた分、ダイレクトに届いて耳が痛い。
「ならいいだろ。生活費は俺の方から送ってやるから、お前は2人に寝床を渡せばいい」
「簡単に言うなって!」
「なんでだ、お前、無駄に広いマンション借りてんだろ?部屋余らせてんだろ」
「そうだけど!」
「大和さん?」
大声で喋りすぎたのか、姫名が顔を覗かせる。
「あ、ごめん。うるさかった?」
「・・・いえ」
「じゃ、そういう事だから」
プツンと切れた通話、俺の抵抗は3分も持たなかったらしい。
「親父め・・・」
「大和さん、ごめんなさい」
「え」
急に呼ばれたかと思ったら、謝罪の言葉と共に頭を下げられた。
「ちょ、顔あげて。姫名が謝る事じゃないよ」
「いえ、その・・・私の方から、大和さんの家でお世話になりたいと言ったんです」
「え?」
プリンはもう食べ終えたのか、姫名はスプーンを持っていた。
いや、シンクに置いて・・・。なんで持ってるの?
「お父さんから、言われたんです。大和さんの所でお世話にならないかって」
「・・・」
「ここら辺は、私のレッスン教室も、凪ちゃんのスケートクラブも近いから便利だと思ったんです」
「それだけの理由で、他人の家に棲むっていうのは俺はよくない事だと思うよ」
携帯をポケットにしまって、俺は姫名に向き直る。
俯いたままの姫名は、あの頃と何も変わっていない。
「俺は大人で、君達は子供。俺は男で、君達は女の子。あまりにも不健全だし、姫名と凪にとって、危ない環境でしかない」
そう言葉にすれば、姫名の頬が染まる。
良くない事でも考えてしまったのだろう、けれどそれが答えだと思った。
「そういう反応をするって事は、姫名自身も俺に対してそういう危機感があるんだよね?」
「・・・っ」
「利便性ばっか見ちゃダメだよ。俺達はもうあの時と同じ様な気軽な関係じゃないからね」
「・・・うっ、ひっく」
俺の言葉がトドメになったのか、姫名は泣き出してしまった。
自分のやりたい事を否定されるのは辛いと思う、けれどそれは仕方がない事。
「姫名達の、バイオリンに対する思いとかスケートへの思いとかを否定したい訳じゃない、こんな決断が出来るぐらい大切なのは、ちゃんと伝わってる」
「違うもん!!」
「え?」
大和くんのバカ!!
一瞬、あの頃と重なった。
普段は大人しくて、考えが纏まらないとおどおどしちゃう子だった、本心を隠せるほど器用な子でもなかった。
「わ、私、急に大和くん達が居なくなって、寂しかった・・・」
親父の都合で決まった引越し、俺達と白金家が離れた原因。
「いつ、いつも、私の、バイオリンを聞いてくれた大和くんがいなくなって、いつも褒めてくれた、大和くんがいなくなって・・・」
白金家は、はっきり言ってどこか子供に淡白だったと思う、家に行けば決まって白金家の両親は不在だった。
そういえば、広い家に憧れたのは、白金家の影響だったかな。
「な、凪ちゃんは、クラブがあるから夜までいなくて、あれからずっと・・・1人だったの」
凪はいつも学校が終わればクラブの人が送り迎えをしていた、そして、帰ってくるのはいつも日が無くなる時間帯の事。
「大和くんがいなくなって、また、ひとりになって、いつも怖くて、寂しくて・・・」
こぼれ落ちていた涙はおさまって、うわずっていた声も大人しくなっていく。
「その時に、思い出すのは、いつも・・・大和くんだったの」
誤字脱字等ありましたら、教えてもらえると幸いです。ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ•̫͡•ʕ•̫͡•ʔ•̫͡•ʔ




