無題 おそらくはただの改名
鷹の雑学。
なんと驚くなかれ、オオタカの学名が変わっていた。実害のある話ではないけれど、さすがに気付いても良かった話で、何故全く気が付かなかったのだろうと思って調べたら、ちょうど私が入院する頃にかけてあった変更でした。
一般常識で「IOC」と言えばオリンピックの事だと思うかもしれませんが、国際鳥類学者連合という集まりがありまして、こちらもIOCと言います。IOCは、「IOC World Bird List」という最新の知見に基づく鳥類の分類を、なんと毎年更新しながらなおかつ無償で公開しております。もちろん、5年くらい経過しても何も変わっていない事もありますが、私が最後に確認した最新の分類は2021年頃のもので、気が付くと鷹関係の鳥たちの諸々が様変わりしていたのです。
「猛禽類」というのは集合名で、「肉を食べる鳥たち」をひとくくりにした名前です。大きく分けると、タカ、ハヤブサ、フクロウという事になりますが、これらは親戚筋に当たる様な鳥たちではありません。これと似た様なまとめ方が行われていたのが「タカ科」という傘の下にいた鳥たちで、やはり、「形が似ている」といった理由から鳥たちをひとまとめにして取り扱ってきました。近頃では、DNAを用いた分子系統学的研究の成果などが分類に反映される様になり、こうした鳥たちの言わば血縁関係が分かる様になりまして、遠縁であるとか近縁であるとか、以前よりも鳥たちを正しい位置に並べ直す事が出来る様になりました。
もちろん、私たちは学者ではないので、こういう事を全て知っている必要は無いのですが、どうせ影響は出てまいります。知っていて損はありません。今回の変更で、鷹狩に関連する鳥種が含まれていた旧ハイタカ属(Accipiter属)の整理が進み、属の異なる鳥たちとして扱われる様に成った鳥種があり、亜種が別種に成った鳥種がありで、学名や英名が変わった鳥種が現れました。もしかしたら、将来和名が変わる鳥すら現れるかもしれません。
今回改名のあった鳥たちを、和名、英名、学名(本来なら学名は斜字体で記載するのだが、表示する機能が無いので、そのままの記載になる)の順に記載すると、次の様になります。
ハイタカ Eurasian Sparrowhawk Accipiter nisus
「Accipiter属」の鳥たち。日本の「ハイタカ」は亜種A. n. nisosimilis。大陸で見かける基亜種はA. n. nisus。英名は同じ。この鳥種群については、従来のまま。一般名の「Sparrowhawk」を、「スズメタカ」と、その昔くそ真面目に訳した訳者がいて失笑したことのある鳥。
ツミ Japanese Sparrowhawk Tachyspiza gularis
「小さなハイタカ」くらいの覚え方をしている人も多いかもしれない。日本で見かけるツミが基亜種になっており、T. g. gularis。つまり、ハイタカとは属の異なる別種になりました。アカハラダカ(Chinese Sparrowhawk Tachyspiza soloensis)は、同じグループに属する別種です。気にしないというか、気付かない外国人ならば、この鳥種も一般名である「Sparrowhawk」と呼ぶと思います。
オオタカ Eurasian Goshawk Astur gentilis
「ユーラシア大陸の鷹」というグループです。私の場合、「鷹」というのは断りが無かったらオオタカの事です。以前の「北半球の鷹」という意味の「Northern Goshawk」という枠が無くなりました。旧Accipiter属に含まれていた、鷹狩りに用いられる事のある鳥たちは、今回の変更で設けられた「Astur 属」にかなりが移動しました。まだ和名が無いらしいのですが、「Astur」は「タカ」という意味なので、「タカ属」という理解で問題無いと思います。私たちが、和名で覚えているオオタカ類の亜種の学名変更は、次の様になります。
ヨーロッパオオタカ Astur gentilis gentilis(A. g. gentilis)
シベリアオオタカ A. g. buteoides
シロオオタカ A. g. albidus
チョウセンオオタカ A. g. schvedowi
亜種オオタカ(日本在来種のこと) A. g. fujiyamae
おわかりでしょうか?実は「Astur」に変わっていても、略記してしまえば以前と表記は変わりません。よく出来た名称変更だと思いました。
アメリカオオタカ American Goshawk Astur atricapillus
つまり「アメリカの鷹」です。実際は北米の鷹ですね。以前は、Northern Goshawkの一員として「亜種アメリカオオタカ」と記述しておりましたが、遺伝的に隔たりのある鳥種群として同じAstur 属の中にあっても別種として扱われる事になりました。この関係で学名も変わりまして、以前だと亜種アメリカオオタカは「Accipiter gentilis atricapillus(A. g. atricapillus)」と記載されておりましたが、現在の表記だと「Astur atricapillus atricapillus(A. a. atricapillus)」と記載されます。繰り返しますが、もう亜種ではありません。
飛梟は、アメリカオオタカと通称で「フィニッシュ(フィンランド産のオオタカ。大きい)」と呼ばれるヨーロッパオオタカとの交雑個体です。以前は「亜種間雑種」と呼んでおりましたが、今回の分類変更で「異種間雑種」になりました。このアメリカオオタカの「別種では?」という話は何十年も前からありまして、成鳥の羽毛の感じが違いますし、換羽の時期が違う、飛ばしてみれば飛び方が違う、調教してみれば行動が違うと、相違点のたくさんある鷹だったのです。今回ようやく学問の世界でも決着が付いて、別種として扱われる事になりました。
クーパーハイタカ Cooper's Hawk Astur cooperii
以前のAccipiter cooperii。名前ばかりが有名で、私は実物を見たことがありません。北米産のハイタカで、「ハイタカ」という名称ではあるのですが、今回の分類変更でめでたく「タカ」の一員になりました。私は文献からこの鳥種を知っているだけなのですが、どの辺りがハイタカなのか分からない調教や使役の記述ばかりでしたから、「タカ」ならば「さもありなん」と思った次第です。
その内に安定すると思いますが、「Astur属」を何と読めばいいのか、分かりません。昔の小説を読むと、「メール」が「メイル」と書かれていたりします。英語というか外国語というのは万事そんな感じで、『ガンダム』のタイトルにあった「オルフェン」は、しばらく前なら「オーフェン」とか「オーファン」と書いていました。覚えているでしょうか?「Astur」を片仮名で書き直した時に、何という読みが定着するのか、分からないでおります。いちおうラテン語なのでローマ字読みを基本とするはずですが、私が調べた範囲では、「アストゥール」と「アストゥル」が混在しておりました。今どきの表記の話であれば、その内に「アスツール」や「アスツル」と書くことになるかもしれません。いいえ、ネットで確認出来た実際の発音の様子だと、私には「アスタァ」とか「アストール」、あるいは巻き舌気味に「アストォル」と聞こえました。正直よく分かりません。
とりあえず、属名の和名については、今ある『日本鳥類目録改訂第8版』の次の9版が出る頃には、決まっているものと考えております。タカ属とかオオタカ属とか、もしかしたらトビ属とか、そんな名前に落ち付くのではないかと思っております。こちらは、すぐに決着すると思いますが、読みの方はちょっと分かりません。10年くらいあれば、いずれかが定着するんでしょうね。
考えてもみたら当たり前の話ですが、日本は島国で、そこに棲息する生物は大陸に似た様な生き物はいても独立した種であると、近頃では遺伝子的に証明される時代になりました。例えば、「馬糞鷹」とまで呼ばれる、ありふれた、冬に成ればその辺に居るノスリは、以前の英名はCommon Buzzardといって、大陸で見かけるヨーロッパノスリの亜種として扱われておりましたが、現在では別種として異なる学名が与えられる時代になり、Eastern Buzzardと呼ばれております。アオバズクなんかもそうですし、実はタヌキなんかもそうです。「世界中探しても日本とその周囲くらいにしか居ない」生物は、実はたくさんいたのです。
私の記憶にあるのは、学生の頃で、20世紀が終わる頃の事です。こういう遺伝子などを調べる手法が世に知られる様になり、やれ遺伝子系統解析だ分子系統学的研究だと、名前こそ違え、調べられる様になりました。「よくもまあ飽きもしないで」と思っていたのも本当ですが、こういう研究を営々と何十年と続けてきた研究者の方たちの仕事が、とうとう私の足元にまで近付いてきたのを知る様になりました。なにしろ、自分が本当に死ぬ間際になって、こんな変更があった訳ですし?時間というのは、経つものなんですね。
それにしても、パラダイムシフトとまでは申しませんが、オオタカの英名学名全部変わるとは。驚天動地くらいの衝撃がありました。「が~ん!」というやつですな。
実は菜の花ではないそうのですが、分かりますか?
参考文献
IOC World Bird List (v 15.1), 2025, Doi 10.14344/IOC.ML.15.1. http://www.worldbirdnames.org/
←リンク先に行くと,過去のバージョンも閲覧出来るので,名称変更の変遷が確認出来ます.実際にタカ類の変更があったのは,2024年のv14.2の時です.
次回投稿予定日は、2026年05月01日 17時50分です。




