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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
16章

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ツユクサとムラサキツユクサは違う花

「待ち」の間にも色々ある。

 「入院する時に必要な物は?」と聞かれたら、なんと答えるでしょうか。


 保険証あらため今ではマイナ保険証は、普段から持ち歩いている人も多いはずなので、「忘れる」という事はないはずです。衣類や歯ブラシといった物も用意する必要はありません。今どき少しくらい大きな病院の売店とはコンビニで、なんなら24時間営業しておりますし、大概の日用品は売っており医者に怒られるような食べ物も買えます。「さすが」と思いましたが、酒は売っていませんでした。代わりに院内シューズや医療帽子、女性用のカツラなんかが売られていたりします。もちろん、靴下や下着も売っています。さらに、患者衣とか入院着というそうですが、入院中の衣類は全てレンタルでまかなえます。私の時は、タオルや歯ブラシ歯磨き粉にティッシュまで、このレンタルで支給される物品の中に含まれていました。こういう諸々には全てお金が必要ですが、今どき現金で支払う必要のある物はありませんで、全てカードか後払い(あとばらい)です。コンビニならスマホの端末で支払いを済ます事も出来るみたいですが、病院の支払いなんかにも使えますから、必要なのはクレジットカードでしょう。つまり、今どきの病人は身一つでカード入れに諸々入れてフラリと出向けば、そのまま入院が出来ます。昔みたいに、大層な大荷物(おおにもつ)を持って鼠の引っ越しみたいな事をする必要はありません。退院する時も、前日に諸々袋にでも詰め込んで、コンビニから自宅に宅配便で発送する事が出来ます。もちろん、病院によります。

 ただし、致命的な落とし穴がひとつあります。「娯楽がない」のです。事実上、刑務所も同然です。話し相手もいませんし、面会は制限されています。いいえ、男性女性を問わず看護師の方を捕まえて話相手に成ってもらっても、相手に悪いというものです。そういう事も考慮の範囲だったのか、私が入院した時には、学生が「実習」として私の話し相手をしていました。本当に、そういうカリキュラムがあって、たまたま、その時季に私は入院していたのです。

 とはいえ、1日の大半、検査や診察がなかったらやる事がありません。当時は、部屋の空きがなくて個室で、薬の関係で夜に成っても一睡も出来なかったり、なんなら、知的障害のある方だと思うのですが、同じくらいの時間に成ると絶叫している余所の病室の患者の声が院内をこだまして目が覚めたりしました。夜中、羊の数(スリープ)を数えたって眠れません。いちおう病室にテレビがあったのですが、視聴しなくなって気が付けば二十数年、1回だけ、購入したカードが()きるまで何となく流してそのまま、入院中に再び視聴する事はありませんでした。コンビニに行けばマンガ雑誌ならありましたが、今どき読んだ事のあるマンガの方が少ないのです。

 ここまで書いたら分かると思いますが、娯楽とはスマホかタブレット端末、ノートPCの事なのです。スマホの充電器はコンビニで売っておりましたが、ノートPCならコンセントに接続するACアダプターなんかも忘れたら駄目です。現代の病院には、ネット環境が用意されているのです。絶対にどちらか、もしかしたら両方を用意する必要があります。長期入院には、なくてはならないアイテムです。

 ありがちな話ですが、「スマホなんか触るのも嫌」と私は言っておりました。モバイルなんて洒落(しゃれ)た名前になる前の()()()()の世代で、なんとなく、その機械がいつの間にか小型のPCみたいな物に変わってしまい、「使いにくい」という理由から操作を覚えなかったし、使わないでやってまいりました。老眼が始まったのも、余計にあの小さな画面を敬遠した理由に成ったと思います。代わりと言っては何ですが、デスクトップPCなんかは普通に使えます。大きなモニターが実に素晴らしい、目の負担を軽減してくれます。今の若い人たちは、逆にそっちこそ駄目だったりするんですか?OSからして違う機械ですから、「どちらもコンピューターなんです」と言われると、ものすごい違和感を覚えたりします。いいえ、入院中、緊急連絡用くらいに持って行ったスマホでしたが、操作にも習熟し、随分と助けられる事になりました。この時の入院が無かったら、私は一生スマホの使い方を知らないまま死んだと思います。


 不本意ながら、病気に関連して私はPC関連でイベントを幾つか経験しました。なんと、退院後3ヵ月を経過したある日、仕事で使っていたデスクトップPCが突然落ちて再起動する様に成りました。故障です。心当たりは2つ程ありました。「何故そうしたか」、その理由は当日の私だけが知っている――――――(のち)に血ガス61%だと判明した日の朝、大学病院入院の日、私はPCの電源を切らないで出かけました。そして、その後に私が戻ってくるまでの26日間、このPCは寒い院内に放置されたままでした。本来ならば、その空間には人間が起居(ききょ)しておりますから、機械を保管する事が許容されない寒さの中に放置される事態は避けられたのでしょうし、電源を落として機械を休ませる事も出来たでしょうが、そうしないでいたら、()()()その機械は正常に動かなくなったのです。3年使っておりませんでした。しばらく様子を見ていたのですが、最後はあきらめて廃棄しました。

 元々、パソコンとは突然壊れる物だったので、予備のPCがありました。だから仕事に影響が出たりはしなかったのですが、やはり、常に予備を用意しておく必要があります。私は、この後すぐにデスクトップPC を1台購入しました。今から考えると、私はこの時ノートPCを買うべきでした。この頃は、まだ退院してから日が浅く、中毒量の高用量ステロイドが使用されていた頃で、容態的にはそれ程厳しい状態にありませんでした。まさか、自分がその後1年以内に2度も医師から入院を勧められるなんて考えていなかったのです。「この先どういう事があるか」、知っていたら絶対にそうしたと思います。

 結論を先に述べてしまうのであれば、この時購入したデスクトップPCは「ハズレPC」でした。何故か購入直後から、マウスやキーボードの操作を受け付けなくなる事が度々(たびたび)あり、電源ボタンの長押しによる強制終了でしか対応出来ない事が頻繁(ひんぱん)にありました。修理の為に工場に送っても、「そのような異常が確認出来ない」と言われて送り返されてくる次第で、故障ではないらしい事が分かりました。原因自体は分からなかったのですが、この現象は私が退()()()()使う様になったベッドの周囲にこのPCがあると頻繁に再現される事が分かり、おそらくは「ユーザー個人の使用環境に依存する特有な現象」だろうという結論に向かいました。最終的に、購入後9ヶ月使用した頃に廃棄しようとしたのですが、他のPCやスマホからのリモート操作を受け付ける事が直前に判明し、データを安全に保存しながら再起動が出来るようになりまして、このPCの風前の灯火だった命は首の皮一枚でつながる事になりました。どのみち仕事には使いませんが、捨てるのはさすがに勿体なかったのです。

 この時のどさくさで、もう1台購入したのが、ノートPCでした。本当は、デスクトップPCの代わりに使うつもりだったのです。このノートPC、意外なくらいの有用性を示してくれました。デスクトップPCに比べたらモニターが小さいのは仕方がないのですが、その辺に置いて使えるのです。問題のデスクトップPCの近くに置いてリモート操作を試すのに使ってみたり、寒い日の夜にガスストーブの近くに場所を移して使ってみたり、デスクトップPCが修理に行っている間使われていたのもこのノートPCでした。もちろん、動作不良なんかありません。そして()()。今の私の筋力でも、持ち運びは(もと)より、廃棄に至る作業が簡単に出来そうなのです。私は、私が入院する可能性のある病院で、もしも入院という事態に成った際にノートPCの持ち込みが出来るかどうか、調べてみました。問題無い事が分かりました。Wi-Fiが利用出来るというのです。入院中にスマホは役に立ちましたが、私の場合、IDやパスワードの管理に始まって、入力がキーボードでない機械というのは、色々と使い難い事も分かりました。「だいたい生活の全て」が機械の中に詰まっているので、引っ張り出して来れない情報というか資料というかマンガというか小説というか、そういう物があると困ったのです。買い物や送金、通帳の管理なんかもやっております。つまり、ノートPCとは、タブレット端末を通り越したスマホの上位互換です。老眼の関係から、ある頃から使わなくなっていた機械でしたが、私が入院を意識した生活を意識する様に成り、再び日の目を見る事になったのです。人生の禍福と吉凶は分からぬものです。

――――――鷹が買えちまう金額をポンポン投げるように使ったのが、とても悔しい。


 ようやく始まった飛梟(とび)の換羽を尻目に、私は何台もあるパソコンと戦っておりました。

挿絵(By みてみん)

世の中には、よっぽど()()()な金の使い方がると思いませんか?こいつら2羽分は使っちまった!

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