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捜鷹記  作者: 檻の熊さん
16章

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木瓜

 梅でもなければ桜でもない、だからボケと言うんだと昔覚えましたが、何かのコントのネタだったらしい。いずれにせよ、すごい昔にそう言っていた事があったよという話ですね。


 単純に遠距離の通院に()を上げたというのもありますが、私は、色々あって利用する病院を近くに変えました。その過程で、医師が何人も変わりまして、「人によって言うことが違う」という問題に直面します。私の嫌ったカンファレンス診療はこの誤差を修正しますが、患者には個々の事情というものがあり、「いい感じ」にニーズを満たしてくれないという問題がありました。私の縦隔(じゅうかく)にある腫瘍は、諸事情により診断が見送られておりましたので、これも通う病院で名称が変わるのですが、なんぼ血液腫瘍内科に通っても腫瘍の活動状況の監視をするだけでやる事がありません。「○○という腫瘍」という特定が出来ないと、治療の内容が決められないからです。

 私の経験した診療は、入院した先が大学附属病院という事もあり、治療の()()()をゴリ押ししてくるという印象を強く受けました。この(あた)りは全くブレることが無かったのですが、「3週間程度の入院を予定している」と説明を受けたその内容は、全摘(ぜんてき)を前提としたもので手術の難易度が高いのです。有り体に言えば、縦隔の腫瘍、それもリンパ系の腫瘍は「いじる物ではない」というのが私の常識でしたが、「やる」という事を言われていたのです。ところが、転院先では、こちらは同じ系列下の病院になるそうですが、あちこちの診療科の医師たちが異なる仕事を提示してきます。そちらの方が、患者の身体的負担が小さいのです。たしかに何度も病院に出向いて検査を受けたりという事はありましたが、その日の午前中に開放される仕事の繰り返しであれば、()()()生活に影響は出ません。

 全摘(ぜんてき)かそれに近い仕事をするのであれば、冗談でなく、私は鷹と水盃(みずさかずき)を交わして家を出てくるのか、誰かに予め(あらかじめ)もらってもらうのか、さもなければ安楽死をするべきなのか、そういう事を悩みながら()(けっ)して「やってください」と言わなければならなかったのです。紹介状をもらって同じ系列下の病院にかかったという経緯がありましたから、基本的に提供される医療は大同小異に成るつもりでいたのです。私の方としても、現状の免疫抑制を主とした治療に行き詰まり感が表れるまで、ギリギリまで待ってから、担当医にそういう話をしました。

――――――まるで違う顛末(てんまつ)に成りました。


 提供される医療に違いがあったとして、一概(いちがい)に、どちらが(すぐ)れているとは言えません。そして、具体的な内容は分からずとも、病院の標榜(ひょうぼう)する看板には「こういう医療を提供している」という事が書かれております。同じく腹を満たすのが目的であっても、ラーメンで済ます事もフランス料理を食べに行く事も出来ます。つまり、知らずにその店に入ったのは自己責任です。

 しかしながら、相当の覚悟を持って(のぞ)まなければ、その(あた)りが判明しなかったのです。私の場合、もしかしたら私が死んでしまう原因に成ったとしても、現状ある生活を維持出来る選択肢の方が、適した医療だったのです。似たような言葉で、無駄死に(むだじに)犬死に(いぬじに)は違うそうですが、私は真砂(まさご)犬死に(いぬじに)させてしまったのだと改めて思いました。

 私の縦隔(じゅうかく)にあった腫瘍ですが、胸部CT像で確認したところ、1年に(およ)ぶ高用量ステロイドの使用により縮小が進んでおり、消えて無くなった訳ではないのですが、「現時点で、生検も抗がん剤治療も実施する理由が見当たらない」と担当医に言われました。何年か先には、本当にいじらねばならない日が来るとして、それはかなり先の話になりました。私の読んだ資料だと推奨度は「1」、「強く推奨する」だったんですがね?

挿絵(By みてみん)

「やじろべえ」。雌のオオタカです。背後に映っているのはブロッコリーだと思うのですが、こうなると、元は何の植物だったのかよく分かりません。


参考文献

厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業 自己免疫疾患に関する調査研究班編, 多発性筋炎・皮膚筋炎診療ガイドライン(2020 年暫定版), 2020

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