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「彼の腕が後遺症などなく完治しますように……」
心配事が消えないまま、後夜祭は続く。
前夜祭の時とは違い、食べ物もあまり喉を通らない。
「ダンスでもして体を動かすか?」
食事が進まない私を気遣うヴィル。
後夜祭は勝者であるヴィルが主役で、私はオマケなのに。
差し出された手を取り、ダンスホールへ向かう。
「あの……私、ダンスが分かりません」
この国の伝統なダンスなのか、皆が同じダンスをしている。
「大丈夫、俺が教える。まずは……」
ヴィルに教わりながらダンスに挑む。
分からないながらにするダンス。
誰も私など気にせず、背景に溶け込んでいる。
余計な考えが吹き飛ぶ。
楽しくて時間を忘れる。
ヴィルは人を楽しませるのが上手で、彼の隣は居心地がいい。
「何か飲むか?」
貴族では考えられないが、本日の後夜祭は貴族の開催する正式なパーティーではないので同じ人と何曲も踊っても許される。
私がダンスを覚えるまでヴィルは付き合ってくれた。
ヴィルに言われるまで喉が乾いていた事に気が付かなかった。
「はい」
ダンスホールを離れる。
「俺が飲み物取りに行ってくるから、待ってな」
私も一緒にと思ったが、ヴィルが行ってしまい一人に。
「ロッティ」
私を知っている人は限られている。
誰だが振り向く前に予想が付いた。
「……リック」
「俺の花も身に着けてくれたんだな」
「……はい」
身に着けるべきか正直悩んだ。
「ありがとう」
花を頂いたのは私なのに、リックがお礼を。
ヴィルはパートナーを連れていない。
本当に私は花を貰って良かったのだろうか……
「本当はダンスに誘いたかったんだが、今は休んだ方が良さそうだな」
彼は私がずっとヴィルとダンスをしていたのを見ていたらしい。
「次は、俺だけの『勝利の女神』になってくれよ」
「あのっ私、今回は偶然大会を知り見学しただけで次回は……」
「なら、次どこかで会ったら運命だな」
「運……命?」
「そっ、その時が楽しみだな。それに、あんたの恩人ともいつか戦ってみたいものだな。じゃぁな」
ヴィルと戦いたい、そう言ってリックは去って行く。
「……アイツ、なんて?」
入れ替わりにヴィルが戻って来た。
「ヴィルと戦ってみたいって……」
「ふぅん、それは楽しみだな」
二人は私を切っ掛けに戦いだけなように思える。
それは男の子だから?
勝負に釘を刺すようなことはしないが、怪我だけはしないで欲しい。
「……飲み物、ありがとうございます」
飲み物を受け取り火照った体に染み渡る。
「では、今大会の優勝者達の紹介です」
司会者が優勝者を壇上に呼び一人一人紹介する。
ヴィルも壇上に向かうので、私は優勝者全員に拍手を送る。
ヴィルの隣にはリックの姿もある。
二人が会話している。
私に読唇術のような能力はないので、二人が何を話しているか分からなかった。
そして司会者が優勝者一人一人に挨拶を求める。
弓の選手はたった今勝敗がついたかのように興奮した様子で熱く試合を語る。
彼の語りはあまりに上手で一気に引き込まれ、試合を観戦していない私なのにまるで決勝戦を目撃したような感覚に陥る。
引き込まれてしまったがあまりに長く語るもので、司会者が止めに入る。
そして、ヴィルとリックの番。
「勝負は時の運。最後は『勝利の女神』の後押しがあったからだと思います」
「俺も。『勝利の女神』が心強い存在でした」
二人は淡々と答える。
実力だというのに、謙虚すぎる。
「そして今大会の『勝利の女神』の発表です」
勝利の女神の発表?
そんな事があるなんて聞いていない。
もしかして、『勝利の女神』も一言挨拶しなければいけないの?
人前は苦手なのに。
何故か司会者が壇上を降り、女性の前を歩いて行く。
「何をしているの?」
戻って来たヴィルに尋ねる。
「あれは今大会のたった一人の『勝利の女神』を指名するんだ」
「たった一人の『勝利の女神』ですか?」
「圧倒的な勝利を治めた者、劇的な優勝をした者、感動するような試合をした者など印象的な試合をした彼等の『勝利の女神』が今大会の『勝利の女神』になる」
それは優勝者が称えられることで『勝利の女神』が表彰されることではないような気がすると思ってしまう。
だけど、『勝利の女神』の女性達は、勝利の女神の中の勝利の女神になりたい様子。
「そうなんですね」




