60
ヴィルと共にコンフィやターナム、エディの待つ場所へ。
表彰台は男性も当然入場できるのだが、鬼気迫る女性に場所を自然と譲っている。
「おっ、戻ったか二人とも」
「ロッティ、あの剣の奴と知り合いだったのか?」
「二人から花を渡されるなんて、初めて見たよ」
三人も、私がリックに花を貰っていたのを遠くから目撃していた。
「以前、ヴィルと観戦して……そう。ヴィルだよ」
「何がだ?」
「ヴィルがリックの試合を見て、彼が『勝つだろう』って言ったのを伝えたら喜ばれたのが切っ掛けよ。彼の実力を見抜いたのはヴィルだって事を紹介すれば良かったんだわ。もしかしたら、花を受け取ったのは私ではなくヴィルだったかもしれないのに」
リックは自身の実力を認めてくれた事が嬉しくて私に花を贈った。
だけど、本当に見抜いたのはヴィル。
私はヴィルが受け取るべき信頼を奪ってしまった。
「ロッティ……それは……」
「実力は認めても、花は……」
「ロッティって……」
「アイツの実力は認めても、花は断る」
三人は曖昧な言葉を発するも、ヴィルははっきりと拒絶。
「……あっ」
花を貰うのはリックの実力を見抜いた人へと思ったのだが、花はパーティーのパートナーのお誘いでもあったのを思い出す。
男性が男性を誘う事が周囲にどのように思われるのか、教会で教えを受けていた私なのに……考えが及ばず。
四人が困惑するのも当然だと気付く。
私が二人から『勝利の女神』に選ばれた事実を忘れかけていた頃。
表彰式の一連を目撃した人達によって、今年の『勝利の女神』は各種目から花を貰った『女神』がいるらしいと、大袈裟な噂が拡散されていた。
私は……
「なぁんだ。私以外にも沢山花を貰った人いたんだ。良かった」
安心していた。
後夜祭。
今回もヴィルが準備した服で参加。
その際、表彰式で渡された花を髪飾りで使用。
「綺麗だな」
「あ……ありがとうございます」
ヴィルは自然に相手の目を見て褒める。
お世辞だと分かりながらも恥ずかしい。
リックも実力も認められ、こんな気分だったのかもしれない。
「行ってきます」
三人に告げる。
「俺達も今日は奴らと飲み比べする予定だから遅くなる」
「二人も楽しんで」
「ゆっくりねえ」
知らなかったが三人はヴィルが勝利する事に賭けていて、かなり儲けたらしい。
私もヴィルが負けるとは思っていなかったが……
教会での教えに染まりすぎていたので、賭け事には抵抗がある。
賭け事は良くない事と無条件に思い込んでいたが、彼等三人は賭け事に溺れることなく日々の鬱憤を晴らす一つとして捉えているように見える。
私は今まで、教会の教え、親からの期待、聖女の姉として相応しいように、など雁字搦めだったのかもしれない。
ヴィルといると……
ヴィル達といると、知らない世界を体験していることに気付く。
後夜祭
到着すると、多くの者が参加している。
「ねぇヴィル。パートナー……私で良かった?」
あの女性の方が良かったのではないかと不安になる。
「ロッティに頼めて良かったと思っているよ。どうした?」
ヴィルはそう言ってくれるけど……
「……いえ」
あの女性について聞けないまま会場へ。
会場の至る所で似たような会話を耳にする。
「あれだけの事がありながら彼が無事なのは、彼の『勝利の女神』である私のおかげだわ」
試合中、大怪我を負ってもいいような試合を行った選手は多数いた。
だが今回の試合、多少の怪我をする者はいたが後遺症が残るような怪我や死亡者はいなかった。
こんな事は珍しい。
その為、今回『勝利の女神』に選ばれた女性達は、優勝者が無事なのは私が『勝利の女神』だからだと語る。
「君は弓の大会の優勝者か?」
パーティーに出席しているのは大会出場者と優勝者のパートナー、そして大会の支援者である貴族。
貴族は有能な騎士を自身の手駒にと勧誘、勝者は今より好条件を提示する貴族との繋がり、勝利の女神の女性は貴族と関係を持てないかと様々な思惑でパーティーに参加している。
「ヴィルヘルム」
ヴィルの正式名が呼ばれ、振り返ると見たこともない男性がいた。
彼の存在は周囲から注目されている。
有名な方なのかもしれない。
パーティーに参加しているという事なので、彼は出場者ではなく支援者の方なのだろう。
「おぉ、アダルベルト」
「こちらはヴィルヘルムを勝利に導いた『勝利の女神』か。初めましてアダルベルトだ」
「初めまして、ロッティです」
手を差し出されたので手の甲への挨拶を受ける。
アダルベルトは緊張しているのか、震えていた。
「ヴィルヘルムが『勝利の女神』をエスコートするなんて今回が初めてだな。二人はどういう関係だ?」
「どういう……関係……」
ヴィルとの関係は……
「婚約者か?」
「えっ? ち、違います」
「違うのか? てっきり婚約者かと思った」
ニヤニヤしながら、アダルベルトはヴィルに視線を向ける。
「あんまりロッティを揶揄うな」
「揶揄ってないさ。俺は二人の関係を詳しく知りたいだけだ」
「ロッティに今回、協力してもらっただけだ」
「そうなのか? なら、俺が彼女をダンスに誘っても文句はないよな?」
「パーティーに慣れていないから断る」
「なんでヴィルヘルムが断るんだよ。ロッティ、俺とダンスしないか?」
「ロッティを気安く誘うな」
私が応えるより先にヴィルが応える。
「良いじゃないか? 誘うくらい。いいよな?」
「あっはい? いえっ私はヴィルのパートナーです」
二人のテンポのいい会話について行けず、よくわからないまま了承してしまい慌てて断る。
「残念だ」
「ったく。アダルベルトも一人の『勝利の女神』を指名すればいいだろう?」
「俺が一人に絞ったら泣く令嬢が後を絶たないだろう」
彼の言葉は冗談なのか本気なのか分からない。
視線を向けるとウィンクで返される。
慣れたその仕草からしてアダルベルトは女性との距離感を詰めるのが上手なよう。
馬上槍試合も強く、私みたいな人間を自然と会話に巻き込んでくれる優しさ。
そして本人の見た目に気さくさ。
彼と少し会話しただけで惹かれてしまう女性は多くいるだろう。
私も彼に対して好意とまではいかないが、好印象を持ったのは確かだ。
「それより腕、大丈夫なのか?」
「……気付いていたのか?」
「当たり前だろう。試合中にやったのか?」
「……不覚にな」
「なら、本番は次だな。早く治せよ」
「……あぁ」
ん?
アダルベルトは大会に出場していたの?
だけど、彼の顔を見たことは無い。
対戦していない相手なのかな?
二人の会話が進む中、アダルベルトとヴィルが対戦したらしいのだがいつの事を言っているのか私には思い出せないでいる。
ヴィルが試合している時、私も一緒にいたので対戦相手は全員把握しているつもり。
なのに、彼の事は思い出せない。
「ロッティ、どうした?」
いつまでもアダルベルトの事を思い出せず、思い出す事に集中し二人の会話が終わっていた事に気付かなかった。
「あっ、あの彼と……いつ」
戦いましたか?
そう聞こうとしたが、それ以上聞けなかった。
万が一一回戦だったら、相手に失礼になる。
言葉の続きが思い浮かばない。
「アダルベルト? あぁ、そうか。こいつは最後に戦った訛りの騎士だ」
「……訛りの……騎士? 訛りの……騎士……訛りの騎士? あなたが?」
そうだ。
訛りの騎士は一度も顔を見せていない。
決勝を終えても兜を脱ぐことなく顔を見せないでいた。
訛りの騎士と言われているが、彼の言葉に訛りを感じない。
それなのに、訛りの騎士?
「そう。俺は、決勝戦で負けた『訛りの騎士』だ」
負けた事を笑顔で告げる訛りの騎士。
「そう……だったんですね。気づくことが出来ませんでした」
「それより『訛りの騎士』って、なんだ?」
「あぁ。『勝利の女神』にしてくれないかって何度も声を掛けられ面倒だったので、他国の言葉で返したら女性達に『訛りが酷すぎて聞き取れない』という噂が広まった」
「それで訛りの騎士か」
女性の誘いは有り難くも、試合中は大会に集中したいらしい。
ヴィルもそのために私に依頼した。
断らなければいけないと思うと『訛りが酷い』で女性が遠ざかるなら、それでいい様子。
「お話し中、申し訳ございません。こちらをよろしいですか?」
司会者が表を見せると、アダルベルトは指で示す。
終えて視線が合うと微笑まれる。
それが何を意味しているのか、この時の私にはまったく分からなかった。
その後、司会者はヴィルの元へ向かい同じことを。
「それじゃ、俺はそろそろ」
「あぁ」
訛りの騎士のアダルベルトが歩き出すと、周囲にいた騎士達が彼に声を掛ける。
出場者同士知り合いなのだろう。
「ロッティ。気付いていないだろうが、あいつはこの国の王子だからな」
「……王子っ?」
「あぁ」
王子……
アダルベルトは訛りの騎士で、王子?
王子……
ヴィルはそんな相手に勝って良かったの?
真剣勝負に身分は関係ないというが……
王子に勝利して本当に良かったの?
「ヴィル……王子に勝って良かったの?」
「問題ない。身分を隠して出場していたんだ、負けるのも承知だろう。優遇されたかったら顔を見せて本名を名乗っているさ。何が『アンラベート』だ」
確かに試合中、訛りの騎士はアンラベート卿と呼ばれていた。
身分を隠しているとはいえ、王子に怪我を負わせたとなれば……
「ヴィル? 本当に……」
大丈夫だったの?
王子だと知った上で、槍を打つなんて……
小心者の私には、ヴィルの行動が信じられないでいる。
「心配する事は無い。アイツはそんな事、気にしない。それよりアイツ、腕を痛めていたのが気になる」
「そうだったの?」
腕を痛めているのに試合に出場するなんて……
そういえば、挨拶をした時も手を隠すようにしていた。
「俺との約束を守る為に無理したかもしれない……」
アダルベルトの事を本気で心配するヴィル。
「ヴィルは王子と仲がいいの?」
「昔からの知り合いだ。年齢も近く、俺にとっては馬上槍試合の好敵手だ」
「そうなんだ……心配だね」
「あぁ……」
昔からの知り合いだからこそ、相手が怪我を負っていても本気で戦ったヴィル。
アダルベルトもヴィルとの約束を守る為に万全ではない状態にも拘らず出場した。
男同士の約束なのかもしれないが、一時の勝負より体を大事にしてほしいと思ってしまう。
何も出来ない私だけど、願ってしまう。
二度と聖女は致しませんが、TOブックスさんより書籍化致します。
小説家になろうさんでは、初期設定のまま公開しております。
両方見ていただければと思います。
今後も、よろしくお願いいたします。




