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新たな思いⅤ

 アンジェラ様は筒抜けになった私の気持ちをどんな風に受け止められたのでしょう?

 確かめようにも怖くてまともに顔を見ることが出来なくて。


「フローラちゃん。ごめんなさいね。リチャードが余計なことを言ってしまって」


「いえ……ここだけの話にして下されば」


「もちろんよ。緘口令も敷いておくから大丈夫よ」

 

よかった。外部に漏れたら大変なことになるかもしれないもの。レイ様のご迷惑なることは避けなければいけないわ。胸を撫で下ろしてホッとした私は、またアイスティーを一口飲みました。

 

「二人はすでに両思いだったのね」


 ぶふうっとアイスティーのストローから盛大に泡が立ちました。二口目はまだ飲んでいなくてよかったわ。いえ、いえ、そうではなくて。


「あ、あの」


 あわあわと狼狽える私。


「あら、違ったの? リチャードの話だと気持ちを確かめ合ったのでしょう?」


 小首を傾げるアンジェラ様の表情はリッキー様にそっくりでした。


「えっと……あれは、言わされたというか、なんというか……」


 リッキー様の誘導尋問に引っかかったようなものなのだけれど、気持ちは本当の事だし、どう説明すればいいのかしら。ブランコではしゃぎながら遊んでいるリッキー様が恨めしく思えてきました。

 彼の爆弾発言がなければ……


「ふふ、照れなくてもいいのよ。それよりも、早く二人の吉報を聞きたいわ」


「……」


 グイグイとくるアンジェラ様に治まった熱がまたぶり返してきました。

 先日、ディアナに話したばかり。吉報と言われて意味が分からないほど鈍くはないと思うのですが、今は何とも言えません。

 まだ、待っていてくださっているのか確かめる術はなくて、不透明なままです。気持ちがなくなったと言われたらと思うと怖くて、何もできないままなのです。


「アンジェラ様は、どう思っていらっしゃるのですか?」


「どう思うって? 今か今かと吉報を待っているところよ」


「私でよいのですか?」


 あっけらかんと言われて弾くように顔を上げると思わず聞いてしまいました。



「ええ。フローラちゃん、あなたがいいわ。でも、それを決めるのはレイニーよね。彼があなたを選んだのでしょう? わたくしは賛成よ」


 にこやかに微笑むアンジェラ様の言葉は有難かったのですが、不安な思いは拭えずに自分の気持ちを吐露しました。 


「フローラちゃんはいろいろ不安で迷っているのね」


 話し終えたあと、考え込むようにつぶやいたアンジェラ様にこくりと頷きました。


「わたくしもね、色々と悩んだ時期があったのよ。学生の頃だけれども。殿下とわたくしは同級生で、王太子殿下が在学するとあって、学園全体が浮足立っていたみたいでね」


 そういってその頃の話を語って下さいました。


「令嬢達の自分アピールがすごかったのよ。わたくしは入学した当初は王太子妃候補の立場。数か月後には婚約発表が予定されていたけれど、まだ公表ができない時期だったの。そこをつけこまれてしまったのね。令嬢達のアプローチのすごいこと。容姿を武器に迫る令嬢やお菓子やお弁当など胃袋に訴える令嬢もいれば、あたしがヒロインなのよ。あたしが未来の王太子妃よ。なんて声高に宣言する令嬢もいて、混乱を極めたの」


 その時を思い出していらっしゃるのか、遠い目をしているアンジェラ様。


「あの、大丈夫だったのですか?」


「そうね。一時期は悩んで、王太子妃はわたくしでなくてもいいのではとか逃げ出したいって思っていたわ。王太子妃に一番近いところにいたのはわたくしだったから、いやがらせもあったし、学園では気の休まることがなかったのよ」


 想像を絶する修羅場だったのかもしれません。目の色を変えて王太子殿下に迫ったりアンジェラ様にいやがらせなんて想像もしたくないわ。


「そんな状況だったから、婚約発表の時期を繰り上げたり、学園でもなるべくわたくしのそばについてくれたりとできる限りのことを殿下はしてくれたの。令嬢の誘いもすべて断っていたわ」


 カランと音を立ててアイスティーの氷が溶けて中に沈んでいき、雫がコップを伝って流れていきました。

 

「婚約を発表してからは、随分と静かになったけれど。あの頃は何だったのかしらね。何かに操られてでもいたのか、陰謀論まで出るくらい異常だったのよ。でもね、その中でも変わらずに殿下はわたくしを愛してくださっていたし、わたくしも殿下への愛があるから乗り越えられたのだと思うわ」


 にこりと笑ったアンジェラ様の瞳には揺るぎない信念が宿っているように見えました。


「フローラちゃん、泣かせるつもりはなかったのよ」


 知らずに頬を伝っていた涙。

 アンジェラ様が慌ててハンカチを当ててくださいました。


「申し訳ありません」


 ハンカチを手に取ると目元の涙を拭いて気持ちを落ち着けました。

 アンジェラ様が経験した事に比べれば、私の問題などちっぽけな事。取るに足らないもの。


「もうすでに過去の事よ。わたくしは王太子妃になり世継ぎたる男子も生んでいる。役目も果たしているわ。あんなことを話すつもりはなかったのだけれども」


 アンジェラ様の声が途切れたタイミングで、透明のカップに注がれたのは色鮮やかなルビーレッドの飲み物。ローズヒップティーでしょうか。


 庭園に目をやれば、リッキー様が元気に遊んでいます。その様子を慈愛の眼差しで見守るアンジェラ様。

 平和で和やかな母子の姿。

 この光景のためにどれだけの忍耐と努力と愛の絆があったのでしょう。

 

「二人の気持ちが大事よってわたくしは言いたかったの。お互いが想い合っていることが何よりも大事だと思うわ。フローラちゃん、自分の気持ちを大事にしてね。後悔しないように、ね」


 止まった涙がまた溢れてきました。

 再び慌てたアンジェラ様が二枚目のハンカチを手渡してくださいました。


 


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