新たな思いⅡ
「なるほど。そういうことなのね」
私からの事の次第を聞いたディアナは何度か頷きました。
分かってくれたかしらと彼女の顔を窺えばフッと口角が上がって微笑んだディアナ。
「それにしても、王子からの求婚を即座に断るなんて、フローラも度胸があるわね。普通は断るより即了承する場面よ」
度胸? 了承? えっ?
私、とんでもない間違いをしたのかしら?
とんでもない粗相をやらかしてしまったのかとサーと血の気が引いていきます。軽くパニックに陥っているとククッと忍び笑いを漏らすディアナ。
「そういう時は、一人で決断するわけには参りませんので両親に相談してみます、とかでもよかったのではない?」
「あ!」
確かにそうだわ。何も私一人で答えを出すこともなかったのかもしれないわ。結婚って個人の問題ではないですものね。ましてや、レイ様は王族。そんなに容易に決められるわけでもないですものね。
自分の事だけしか考えられなくていっぱいいっぱいだったから、そこまで思いが至らなかったわ。
冷静に判断すればもっと建設的に事が進められたのにと悔いが残ります。そうすれば冷たく言葉を投げつけることも逃げ去ることもしなくてよかったのにと、レイ様に申し訳ないことをしたわ。
「それにしても、断られた時のレイニーの顔を見てみたかったわ。さぞや、傷心して落ち込んだんじゃないかしら」
「ごめんなさい」
「別に責めてなんかいないわよ。ちょっと想像しただけよ」
そういいながら、笑いをこらえているように見えるわ。もしかして、面白がっているのかしら?
「傷心中のレイニーを慰めに行ってあげようかしら」
「えっ……」
「何、どうしたの?」
「いえ、なんでもないわ」
うん。何でもないわ。レイ様とディアナは普段から仲がよさそうだもの。会いに行くことくらい何でもないことなのよ。うん、そうよ。
探るようにジーと私の瞳を見つめたディアナは
「今、わたしにやきもちを焼いたでしょう?」
とんでもないことを口にしました。
「いえ、それはないわ。ディアナの勘違いよ」
慌てて首を横に振って否定しました。それでも、ジーと見つめてくるディアナに身の置き所がなくなって目を逸らしました。
「やきもちというか……ちょっと? ほんの少し? 気になっただけよ?」
おずおずと切り出してみると口を押えたディアナの目が見る間に大きく見開かれました。そんなに驚くことなの? 驚愕の表情で私を見るディアナに狼狽えてしまいます。
「フローラもそんな感情を抱くようになるなんて、恋って偉大ね」
感慨深げに感動しきりに胸に両手を当てているわ。
「ちょっと、気になっただけなのよ。それだけよ」
やきもちとかではないわ。先日のことがあったから、ちょっと引っかかっていたのかもしれないわ。
「いいじゃない。フローラの気持ちもわからないでもないから。王子達とは兄妹のようなものだから、何も疚しいことは無いから安心してちょうだい。常に側近達もいるから二人っきりにもならないわ」
「そ、それは、いいのよ。ディアナの自由だわ」
ディアナは幼い頃から王城に通っていたことも両陛下から可愛がられていることも知っているし、レイ様と仲がいいこともわかっているもの。
変に勘ぐって嫌な思いをかけるとこはないものね。私の心が狭いだけよ。
「ふふっ。顔、真っ赤よ」
からかうように指摘されて頬に手を当てました。本当だわ、熱を持っているみたい。
羞恥にまみれた私はディアナの視線から逃れようと両手で顔を隠しました。ああ、穴があったら入りたい。
しばらく、羞恥に悶えているとディアナの声がしました。
「ねえ、フローラ。真面目な話だけれど、あなたはレイニーのことをどう思っているの? 聞かせてほしいわ」
ディアナの言う通り、真面目で真剣な眼差しが目の前にあります。からかうこともなく面白がることもなく、正面で見据えられた姿に空気が張り詰めたような感じがしました。
少しの間、言葉に詰まりました。自分の気持ちを打ち明けていいのかどうか。すでにプロポーズはお断りしている時点で、自分の気持ちは必要なのだろうかと迷います。
レイ様の情愛のこもった熱い眼差しを思い出して切なくなりました。今も吹っ切れていないこの気持ちを口に出していいのか。都合のいい夢を見てレイ様に甘えている自分が情けなくて。
「フローラ。本当の気持ちを正直に教えてくれないかしら?」
懇願の入り混じった声音が心を揺さぶります。ここまで話しておいて肝心なことは話していなかったわ。レイ様の事は話したのに私の気持ちは秘密なんてフェアではないわよね。
「えーと、あの……」
なかなか言い出せなくてもじもじする私をせかすことなく黙して待っています。




