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ディアナside⑥

「これは……もしかして、ルナ・テラスのケーキ?」


「ええ、そうよ。そろそろ食べたいのでは、と思って買ってきたのよ」


 シックなケーキ箱のロゴを確認して感嘆の声を上げたのはアンジェラ。

 今日は彼女とのお茶会の日。月に一度は東の宮を訪れている。お茶会兼情報交換会といった方が正しいかもしれないわね。

 今の時間帯はリチャードはお昼寝中。


「そうなの。よくわかったわね。ルナ・テラスのケーキが恋しくなってたところなのよ」


「それは、グッドタイミングだったわね」


「あら。でも、ルナ・テラスはテイクアウトはNGだったはずだけど」


 お店で出来立てを食べてもらいたいという方針があるようで、持ち帰りを受け付けていない。


「基本はね。何事にも例外はあるわよ」


「そうなのね。まあ、そこはディアナだからってことかしら。あっ、でも。ローズ様にもお分けした方がいいわよね。お気に入りですものね」


「大丈夫よ。ローズ様にも届けてきたわ。たいそう喜んでくださったわよ」


「さすが、抜かりないわね」


「もちろんよ」


 実はルナ・テラスは馴染みのカフェ。

 ローズ様もアンジェラもお気に入りのお店の一つなのよ。王家の御用達に指定していないから、知らない貴族も多い。店主もそんな称号には興味はない。

 ある貴族が趣味で始めたものだから、ひっそりと限られた顧客でのんびりと運営する方が性に合っているらしいわ。お祖父様の友人でわたしも随分とかわいがってもらってたおかげで、いつもなら顔パスなのよね。少々のわがままを聞いてもらえるくらいには親しいのよ。今回のようにね。

 

「はあ。美味しいわねえ」


 苺のショートケーキを一口食べたアンジェラが感嘆の息を漏らす。

 これはルナ・テラスの一番人気。やはりこれは外せなかったわ。

 わたしもチーズケーキの次に好きなのよ。

 

「そういえば、先日、ビビアン様とルナ・テラスに行ってきたわ。フローラも一緒に」


「ビビアン嬢と? フローラちゃんと一緒なんて、珍しい取り合わせね」


「放課後に運悪く捕まってしまって、お茶をすることになったのよ。連れていかれたのがルナ・テラスだったのだけど、随分と自慢げだったわね」


「ルナ・テラスは一見お断りのお店だものね。誰でも入れるわけではないから、貴族のステータスだと言われているお店でしょう。自慢したくなるのもわからなくはないけれど、普通はしないわね。はしたないもの」


 特権を享受しても謙虚なタイプと人々に吹聴して自慢する虚栄心の塊のタイプ。たまにいるのよね。後者のタイプが……

 そんなタイプだと知っているから、私がお店に入ってきても特別なもてなしはなかったのよ。

 ビビアン様には丁重な挨拶はあったけれど、私には初対面の接し方。私が常連客なんてばれたら、彼女の面目丸つぶれですものね。そこは店側のTPOがしっかりと教育されているということ。

 おかげで、ビビアン様の虚栄心も自尊心も保たれたと思うわ。


「それにしても、相手は公爵令嬢なのに、運悪くって、ビビアン嬢も気の毒ね」


 ツボはそこだったのかしら?

 アンジェラはぷっと吹き出すとケラケラと笑い出した。

 相当ウケたのか涙まで出てるわ。無表情な侍女が素早くハンカチを渡している。

 笑いすぎ。

 なかなか笑いの止まらないアンジェラを遠い目で見ながらケーキを口に運ぶ。飾りの苺の大きいこと。馥郁とした苺の甘さがじゅわっと口の中に広がって、言葉にならないくらいに美味しい。

 まだ、笑ってるわ。

 そんなにウケることかしらね。しょうがない、しばらく好きにさせとくわ。

 そして、ひとしきり笑ったアンジェラが落ち着いたところで話を切り出した。


「ビビアン様よりも気の毒なのはフローラの方よ」


「フローラちゃん? 何があったの」


 心配げに眉を顰めたアンジェラにあの日の出来事を話して聞かせた。


「ちょっと、それ、なんなの? 酷いじゃないの。大体ねえ、悪いのは元婚約者であってフローラちゃんではないでしょう。どういうことなのよ」


案の定、怒って憤りを見せるアンジェラ。 持っていたフォークを握りしめてわなわなと震えている。柳眉を逆立てまくし立てる彼女を宥めてるのに一苦労したわ。これが普通の反応だわ。激怒するのは当たり前よね。



「彼女とは気が合わないと思っていたけれど、この先も合う気がしないわね」


 やっと怒りが治まったアンジェラの諦めたような口ぶりで肩を竦めた。


「王太子妃がそんなことを言ってはいけないわ」


「説得力に欠けるわよ。顔が緩んでいるもの。鏡を貸しましょうか?」


「大丈夫。自覚しているから」


 気持ちはわかるから、咎めるつもりもないし説得する気もない。一応ね、形だけ。


 王妃主催の公爵家を招くお茶会や食事会が年に数回あって、それぞれの公爵家とは交流があるから令嬢達とも顔馴染み。年齢によってもつき合い方は変わるし、気の合わない令嬢もいたりすると自然と疎遠になってしまうのよね。

 アンジェラとビビアン様もそんな感じかしら。自然というよりアンジェラの場合、意図的に避けていたと考える方が妥当かもしれないわ。

 公爵令嬢なのに、王太子妃に敬遠されているビビアン様も気の毒だわね。どうでもいいけれど。


「そういえば、今度レセプションパーティーを開くのでしょう?」


 いつまでも怒りに燃えていても仕方がないので話題を切り替えたわ。


「ええ。フローラちゃんのカフェの話ね。わたくしも驚いたわ」


「知っていたのね」


 正確にはシャロン様のお店だけれども、フローラも関わっているから特に訂正はしないでおく。


「もちろんよ。招待状をもらったもの」


 てっきり知らないと思ってサプライズしようと思ったのに、


「招待状? 王太子妃に?」

 

 目を瞬かせてびっくり眼の私にしてやったりの顔をしてニヤリと笑うアンジェラ。

 招待状も見せてくれた。確かにアンジェラ宛だったわ。


「お母様はフローラちゃんを相当気に入ったのね。何でもしてあげたいって言っていたわ。今回のパーティーはそれ故よね。ローシャス家は筆頭公爵家。うちの邸を使うだけでも格は上がるし、その上に王太子妃のわたくしが参加したらどうなると思う?」

 

「それは、大きな後ろ盾を得たと思われるでしょうね。次期王妃の実家だものね」


 フェリシア様も発想が大胆ね。世話好きな方だから、張り切っていらっしゃる姿が想像できるわ。


「それに、マクレーン伯爵家が揃えばこれ以上はない箔が付くと思うわ。経営が成功するためには最初が肝心。話題性も必要だと思うのよって、お母様が言っていたわね。わたくしもその日が楽しみだわ」


「そうね。ローシャス公爵家、マクレーン伯爵家。二家が揃えば怖いものなしね。フローラも侯爵令嬢だから爵位的にも不足はないわね」


 アンジェラの言う通り。これ以上はない最上の組み合わせだわね。


「それはそうと、フローラちゃんとレイニーはどうなっているの? 少しは進展しているのかしら?」


 問題はそこよね。二人がうまくいってこそ、外堀を埋めた甲斐があるというもの。


「それが……なかなか」


「もしかして、まだ、仲の良いお友達関係が続いているとか……」


 言い淀んだわたしの言葉を察したのか、呆れたような顔で見つめられてしまったわ。

 

「朗報が届かないところをみるとそんなことだろうとは思っていたけれどもね。レイニーったら、何やっているのかしら。サッサとプロポーズしちゃえばいいのに。フローラちゃんって恋愛事は鈍そうだし、はっきり言わないとそのうちに誰かに取られちゃうんじゃないの」


「その可能性は無きにしも非ずなのよね。縁談は来ているっていうし。レイニーには一応、危機感を匂わせてはみたけれど、どこまで通じていることやら」


 アンジェラは興奮した気持ちを静めるように紅茶を手に取った。少し冷めてしまった紅茶の温度がちょうどいいわね。


「こんなことなら、王命を使って頂いた方がよかったのではないかしらね。そのほうが早くまとまりそうよね。いっその事、陛下にまとめて頂いた方がいいんじゃないかしら」


 アンジェラ。自重しましょう。この調子だと両陛下に直談判しかねないわ。


「まあ、まあ。それを言ってしまったらお終いだし、フローラの気持ちを大事することにはならないわ」


「……それは、そうだけど。でも、じれったくてやきもきしてしまうわ」


「それは、わたしも同じよ。けど、王命は使わないとの約束だし、フローラの幸せが最優先だから、じれったくても見守るしかないのよね」


「わかっているわ。フローラちゃんはどうなのかしらね。レイニーのことをどう思っているのかしら?」


「好意は抱いているとは思うわよ。それが恋なのかはわからないけれど。あの時は結婚なんて考えていないと言い切っていたから、そこが心配ではあるわね」


 傷物令嬢なんて、誰もそんなこと思っていないのに。むしろあの男と縁が切れてこちらはせいせいしているというのに。嫌味なことを言ってくれたものだわ。思い出したら、ムカムカしてきたわ。


「好意があるだけでも十分かしらね。毎回、レイニーの所に行っているけれど、楽しそうにしているみたいだし、宮も以前より華やいでいるみたいですものね」


「インテリアも変わっていたし、特に侍女達が張り切っているみたいよ。フローラが宮に入ってきただけでこうも違うのかって驚いたもの」


「まあ、そんなに違うの? わたくしも一度覗いてみようかしら」


 好奇心に駆られたアンジェラに


「今度、一緒に行ってみる?」


 なんて、誘いをかけてみたわ。百聞は一見に如かずというものね。


「行くわ」


 即答だった。ちょっと苦笑い。


「そういえば、気になることがあるのよ。これはエドから聞いた話なのだけれど」


「エドアールから?」


「ええ。レイニーの結婚についてたまに聞かれるらしいのよ。そろそろどうかとね。ユージーンの結婚が決まったから、貴族達の関心がレイニーに移ってきつつあるみたいね。まだ、本格的に話が出てきているわけではないみたいだけれどもね」


「なるほどね」


 王太子の耳にも入ってきているのね。


「エドもうまく濁してくれたみたいだけれど」


 こんな事態になることは想定できないことではなかったけれど、両陛下が首を縦に振らない限り結婚は成立はしないから、心配することはないとは思う。それでも政治が絡んだりしたら厄介だわよね。注意するに越したことはないわね。


「事が事だけに、一刻でも早く、フローラちゃんとの結婚がまとまって欲しいわね」


「本当に。それこそ、みんなが幸せになる早道よね」


 わたしたちは心を一つにして、頷き合った。


 わたしは心の中で密かに祈ったわ。

 レイニー。あなたにかかってるの。頑張るのよ。



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