ビビアンside②
「ビビアン……」
「?」
家族用の応接室の前を通っていたらわたくしの名前が聞こえた。
扉がほんの少し開いておりそこから声が漏れたみたいだわ。声の主はお父様とお母様。わたくしの話かしら。
扉が開いているとはいえ、盗み聞きと同じですわよね。けれども、良くも悪くも自分の話題となれば聞かずにはいられないというもの。
好奇心の方が勝ったわたくしは、通り過ぎようと思った足を止めて耳を澄まし、扉の向こう側に集中して聞き耳を立てた。
「レイニー殿下の……」
「レイニー殿下とは、我が国の第三王子殿下のことですか?」
「ああ」
え? レイニー殿下? なぜここにレイニー殿下のお名前が出てくるのかしら?
「これは議会が閉会して陛下が退出された後の話なんだが、ユージン殿下の結婚が決まっただろう。だから、次はレイニー殿下だという話になったんだ」
「レイニー殿下と言えば、王妃陛下似の美貌を受け継ぐ見目麗しい王子様だと聞いておりますわ」
「この前、直にお会いしたのだが、噂に違わぬというよりそれ以上だった」
「まあ。それほどなのですか? それで、その殿下がどうかされたのですか?」
「実はレイニー殿下の結婚相手にビビアンの名前が上がっていてな」
「まあ。そうなんですの? ビビアンならばぴったりではありませんか。爵位も容姿も教養も、全て揃っておりますもの。もっと早くてもよかったくらいですわ」
お母様ってば、すごいはしゃぎようですわ。姿が見えずとも声で様子がわかりすぎます。わたくしの事、べた褒めですわね。でも全部本当のことですもの。
一貴族の妻ではもったいなさすぎなのは一目瞭然誰でもわかることですわね。やはりお相手は王族でないと宝の持ち腐れというもの。
「ただ、名前が上がったのはビビアンだけではないのだが、他にブルーバーグ侯爵令嬢やエーデル辺境伯令嬢など複数上がっていたな」
ブルーバーグって、フローラの事ではないの? どうして? 婚約破棄された傷物令嬢じゃないの。そんな令嬢が王子殿下の妃になんて相応しいわけないでしょうに。名前が上がるなんてどうかしてるわ。
「その中でもビビアンが一番ではないですか。醜聞もありませんし、どこをとっても申し分ありませんもの。絶対に選ばれますわ」
「そうだな。レイニー殿下は王太子の補佐役として王子の地位もそのまま。結婚すれば王子妃となるから、王族の一員となる。王子妃を輩出したとなればわしの名声も上がる。公爵家として少々肩身の狭い思いもしてきたが、ビビアンが王子妃になれば、大手を振って歩けるようになるな」
「本当に、そうですわ。四大公爵家の内、王族と婚姻関係がなかったのはうちだけでしたものね。わたくしもつらい思いをしてましたの。ビビアンが王子妃に選ばれたら、他の公爵家に見返してあげられるわ。旦那様、どうかお願いいたします」
「ああ、わかっている。我がシュミット公爵家の名誉がかかっている。尽力するよ」
「旦那様……」
お父様もお母様もわたくしに期待を寄せていらっしゃるのね。
これ以上ここにいたら見つからないとも限らない。盗み聞きしたのがばれてしまいますわ。ここまで話が聞ければ十分だわ。
わたくしは足音を立てないように扉から離れて自室へと戻った。
薄明りの中、窓の外を眺めると三日月が浮かび星々が夜空を彩っている。
心配いりませんわ。わたくしのこの美貌、教養をもってすれば、婚約者に選ばれることは自明の理ですものね。なぜかフローラの名前が上がっていたようですけれど、相手にはなりませんわね。傷物令嬢などレイニー殿下が選ぶわけありませんもの。名前を上げるだけ無駄だというものですわ。
レイニー殿下。
成人の儀でお会いして以来、お慕いしておりました。
一目惚れというのでしょうか? レイニー殿下と目が合ったとたん、頭の中にウェディングベルが鳴り、ウェディングドレスを纏ったわたくしの姿がハッキリと浮かんだわ。
その時に確信したのですわ。将来、レイニー殿下と結婚するのだと。
だからこそ、相応しくあろうと知識だけでなくテーブルマナーやダンスに刺繍など、公爵令嬢としてありとあらゆる教養を身につけましたのよ。王族に相応しくあらねばと頑張りましたわ。
やっと、それが報われるのね。数々の縁談を断って待っていた甲斐がありましたわ。
議会の貴族の方々は名士で重鎮ばかりですものね。その方々に認められたのですもの。
レイニー殿下との婚約も近いですわ。
これが真に相応しい縁談というものよ。
フローラにも、とくと見せてあげなくてはね。
ふふふっ……
なんて、星空がきれいなのかしら。今夜はいい夢が見れそうだわ。
おやすみなさいませ。
愛しいレイニー殿下。よい夢を……いえ、わたくしの夢を見てくださいませね。




