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ある冒険者の引退

「いやいや。生きてまた虹の橋を見れるとは思わなんだ。礼を言うぞ。若い衆」


 天界人と聖竜を見届けたネテス老人は、満足そうに笑っていた。


「あ!!」


 全身に虚脱感を感じていた俺は、突然のクロシードの叫び声を聞いた。


「おいモナコ!この塔に来たら巨大な幸運があると言ったな!いつになったら、その幸運が手に入るのだ!?」


 クロシードは叫びながら周囲を見回す。金目のような物はどう見ても無かった。


「またいつもの外れか!!お前はどこまで無能なんだ!!」


「ひぃぃっ!!お許しをクロシード様!」


 クロシードが激昂しながら杖の先でモナコの頭を叩く。叩かれながら許しを乞うモナコの表情は嬉しそうだ。


 そしてクロシードは小竜に足を噛みつかれ絶叫する。何度も見たいつもの光景だった。


「お宝ならこの塔全体がそうじゃないか?何しろ魔法石で造られているんだからな」


 ザンカルはそう言いながら、魔法石の欠片を入れた似袋をクロシードに見せる。魔法石を求めていたザンカルの目的は十分に達成されたようだ。


「魔法石!?そうか!この魔法石を売ればいいのか!モナコ!ホケット!何を呆けておるか!さっさと砕けて落ちた魔法石を拾え!」


 クロシードは意地汚い根性を如何なく発揮し、必死に魔法石の欠片を集め始めた。ザンカルは側にいたコルカに顔を向けた。


「お前コルカと言ったな?良かったら俺の国に来ないか?城の厨房では、お前と同じ四手一族の男が働いているぞ」


「······四手一族が?厨房で?」


 ザンカルの意外な誘いに、コルカは驚いた声を発した。城には六手一族の女料理人もいると聞いて、コルカは更に驚いていた。


「······エリクのおっさん。おっさんはこれからどうするの?」


 イバトとクレアが俺の側に寄り、俺の肩を見ながら子供達は心配そうにしていた。


「この左肩は骨が砕けている。恐らく神経もやられているだろう。そうなれば治癒呪文でもどうにもならん。俺の冒険者人生もここで終わりだ」


 俺は他人事のようにイバトとクレアに自分の引退宣言を話していた。たが不思議と後悔は無かった。


 あるとすれば、この少年少女ともう少しパーティーを続けたかったくらいか。


「イバト。クレア。俺達のパーティーは今日ここで解散だ」


 俺の解散宣言にイバトは沈んだ顔になり、クレアは泣き出した。その時、俺達は今日何度も感じた大きな揺れを再び体感する。


「こ、この塔また動いている!こ、今度は下に沈んで行く!?」


 イバトが窓枠から外を見ながら叫んだ。塔は役目を終えたとばかりに、また地中に戻るようだ。


 俺達は最上階が地上と同じ位置に下がる時を待った。そしてその瞬間、窓枠から全員が外に脱出する。


 幸い全員が無事に地上に戻れた。地鳴りと共に塔は完全に地中に埋まった。その空いた大穴も浮遊した岩石が集まりだし埋めて行く。それは、何とも不思議な光景だった。


 それを眺めていた俺達の背後から、野太い声が響いて来た。


「見つけたぞ黒いコート野郎!!ホケット坊っちゃんを返しやがれ!!」


 それは、この塔に来る前に遭遇したウラフ軍団の手の者だった。クロシードは舌打ちをしながら走り出す。


 クロシードの後を追おうとしたモナコと俺は一瞬目が合った。


「君が言っていた俺の大きな災厄とはこの肩の事かな?」


 片腕を使えなくなった冒険者など、廃業するしか選択肢は無かった。


「はい。その通りです。ですが、災厄はここで終わりそうですよ。エリクさん」


 モナコはまた不思議な雰囲気を纏った表情で俺に答えた。災厄はここ迄?それはどう言う意味なのか?


「それは聞かない方がいいでしょう。良くも悪くも。未来など知らない方が人は幸せです」


 神託を生業とする自分を否定するかのような言を残し、モナコは微笑してホケットの手を引き、クロシードの後を追って行った。


「じゃあね皆!結構楽しかったよ!」


 ホケットも笑顔で俺達に手を振って去って行く。案外あの少年は逞しいのかも知れない。


 俺はコルカとザンカルに挨拶を済ませる。どうやらコルカはザンカルと共に行動するらしい。


 イバトとクレアにも最後の別れを言うために振り返ると、少年少女はネテス老人と共にいた。


 ネテス老人の周囲に風が巻きが起こっていた。これは、風の呪文か?


「エリクのおっさん!早く来なよ!ネテスの爺さんが送ってくれるって!」


「早く来てエリクのおじさん!一緒に行きましょう!」


 俺には二人の言葉の意味が分からなかった。


「おい。イバトにクレア。行くって何処にだ?」


 怪訝な表情の俺の右手を、イバトとクレアが掴み引っ張る。その瞬間、俺達は風の呪文で空に飛び立った。






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