表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/58

聖竜の伝説

 その爪は大地を割り。口から放たれる炎は一国を焼き尽くす。聖竜のその巨大な力を伝える伝説だ。


 だが、俺達の目の前の老いた体を横たわらせる聖竜は、その伝説を微塵も感じさせ無かった。


「半年程前の事だ。この聖竜は死期を悟ったのだろう。弱った体に鞭を打ち卵を生んだ」


 だが、その卵は奇怪な老人に奪われた。この世界に魔法を造り出した伝説の一族。ロッドメン一族の信奉者と名乗った老人だったと言う。


 後はユリサの話の通り、その卵は人から人の手に流れ、この国の生物学者の手に渡った。


「この老いた聖竜に世界を滅ぼす力など無い。上層部にそう伝えろ」


 コルカの言葉に、ユリサは考え込むように暫く黙っていた。


「コルカさん。一つお尋ねしたい事があります。畑を荒らしていたと言う事は、この聖竜は野菜を主食としているのですか?」


 ユリサの質問に、コルカの表情が固まった。俺にはその表情が、何かを警戒しているように見えた。


「獣の肉を与えれば、聖竜の体力は幾分か回復するのでは?」


 ユリサは真剣にコルカを見つめ質問する。


「聖なる森でこの聖竜を俺に託した男は言った。決してこの竜に肉を与えるなと」


 コルカは続ける。聖竜は数百年前から聖なる森で四手一族に守られ過ごしていた。聖竜が口にするのは野菜のみ。


 守護者である四手一族は聖竜が肉を口にしないように細心の注意を払い腐心して来た。何故なら、聖竜が一度肉の味を覚えると、二度と草食には戻れないなからだ。


「獣を食い尽くした後は人間と魔族。その他ありとあらゆる種族が食われる」


 コルカは淡々とした口調で世界の破滅を呟いた。イバトとクレアですらコルカ話に顔を歪めていた。


「······コルカさん。聖竜が肉を口にすれば、力を取り戻しますか?」


 ユリサが確信に迫る質問をする。俺は胃の辺りに鈍い痛みを感じて来た。


「試してみるか?お前の言い方を借りれば、代償は世界の滅亡だ」


 コルカの言葉に、洞窟内は耳が痛くなるような沈黙に包まれた。


「······コルカさん。エリクさん。イバトさん。クレアさん。ここからは私の個人的な話をさせて頂きます。私は聖竜を安全な場所に逃したいと思っています。地底人一族にも。私が仕えるこの国にも。聖竜を利用させたくはありません」


 ユリサは何か吹っ切れたようや表情で意外な事を口にした。


「自分の仕える国にもか?」


 コルカがユリサの言葉を疑うように質問する。ユリサは頷く。


「私は戦災孤児でした。私のような孤児を多く生み出す災厄は見逃せません。例え国に反逆する事となっても」


「娘。お前の言葉を真実と足る証拠はあるのか?」


 コルカの追求に、ユリサは腰から短剣を抜いた。そして自分の束ねた髪を迷いも無く切った。


「ユ、ユリサさん!?」


 クレアが悲鳴に近い声を発した。ユリサは切り落とした長い金髪の束を左手に握り、コルカに差し出す。


「······今の私にはこれ位しか決意をお見せする事が出来ません。後は私の行動を見て判断して頂けますか」


「女の命である髪を切った。それがお前の決意と言う訳か」


 ユリサとコルカの視線が交錯する。俺はいよいよ退路が絶たれた気分になっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ