焚き火を囲んで
「自己紹介でもしません?」
大蟒蛇を探す為に森に来て焚き火を囲んでいる2日目の夜、俺はポツリと呟いた。
「すっごく今更なんですけど俺達ってお互いの事ほとんど知らないじゃないですか、だから一度自己紹介でもどうかなって…」
「いいね♪じゃあわたしから」
フリエさんは勢いよく立ち上がり話し始めた。
「改めて、名前はフリエ・アイズ。
好きな物は魔法の勉強、甘いもの、お母様。嫌いな物はお野菜とお薬。
得意なのは魔法♪魔力量が多いらしくて火力だけならたっぷりでるよ。」
なるほどなるほど、魔法使いなんだね。野菜と薬が嫌いって事は苦い物は基本駄目なのかな?
「では次は私が、名はシルド・リモア。
好きな物は強い人、嫌いな物は血、ですかねぇ、と。
得意なのは『シールド』と呼ばれる特殊な魔法ですね、要するに防御特化と考えて貰えれば、と。」
血が嫌い、か。やっぱり『いい人』だなシルド君、最初は何考えているのかぶっちゃけさっぱり分かんなかったけど…
さて、俺の番か。
「俺の名前はミカ・ツクヨ。
好きなことは人助け、修行、弟妹達の世話。嫌いな物は殺し合い。
得意なのは〜剣を振ること、近接戦闘ならそう簡単にはやられないですよ。」
「「…………………」」
うん?二人とも黙っちゃってどうしたんだろう?何か変なこと言ったっけ?
「その、ミカ君は経験したことがあるの?殺し合い…」
………ああ、そのことか。
「そうですね、ありますよ冒険者としての依頼の中で。
いいもんじゃないですよ、あんなの。経験しない方が良いに決まってる。」
「「…………」」
ッハ、しまった空気を重くしてしまった!なんとかして話題を変えねば…
「そ、そんな話なんかより明日の作戦でも立てません?
ほら、皆の得意技も分かったことですし…」
「そ、そうだね。」「ええ、そうしましょう。」
その日は皆、上の空で禄なアイデアも出ず眠りについた。
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(フリエ視点)
その日眠れなかったのは焚き火の炎が眩しいからでも梟の声がうるさかった訳でもなく、ミカ君が『殺し合い』を経験したことがある、と分かったからだろう。
『殺し合いを経験したことがあるの?』
それを聞いた時のミカ君の顔を思い出すたびに胸が痛む、あの顔が頭の中で反芻するたびに。
あの時ミカ君の持った感情はどんなものだったのか、わたしにはそれを察する事なんてできやしない、分かるのはただ決して明るいものではないだろうという事だけ。
どうしてあの時わたしは彼に聞いてしまったのだろう、彼はそれを嫌いだと言ったのに。
あの時わたしはどんな顔をしていたのだろう、どうしてあの時直ぐに何か言葉を発せなかったのだろう、あの時あの時あの時………
わたしのせいでミカ君に辛い事を思い出させてしまった、わたしのせいで貴重な時間を潰させてしまった。
どうしてわたしはこんな…
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
寝袋に包まりながらわたしは涙を流し謝り続ける、皆眠りに落ちて誰も聞こえてなんかいないのに…
単純に考えてあの時直ぐに謝るべきだったのだ。
でもその言葉はわたしの口からは出てくれなかった、そして誰も聞いていないのに今更謝罪の言葉が出てくるわたしに本当に嫌気が指す。
これだから友達が出来なかったんだ。
普通なら公爵の娘という肩書をわたしには寧ろ繋がりを持とうとして寄って来る人間がたくさんいる筈、なのに来ないのは当然理由がある。
そしてその理由も言わず嘘をついてミカ君に関わった自分がだいっきらいだ…
「いや〜すいませんね、フリエさん。」
その声が聞こえたわたしはギクリと体を固まらせてぎこちなく反対側を向くとミカ君の顔があった。
「な、なななななっなななんで!!??ミカ君お、起きてたの!?」
「いえ?寝てましたよ?ただ寝ている間に襲われる事も少なくないので眠りは浅いんですよ。」
「そ、そうなんだ。」
は、恥ずかしい!今まで泣いてたのとか聞かれてたのかな、どうしよう今何を言えば良い?ど、どうすれば…
「ところでフリエさん。」
「ひゃ、ひゃい!」
「ひゃいってなんですの、まぁそれは置いといて…
すいませんでした。」
そう言うとミカ君はいきなり頭を下げた。
「ど、どうして…謝るのはわたしの方なのに…」
「俺の失言のせいで不快な思いをさせてしまって申し訳無いです。
そのせいで嫌な事まで思い出させてしまったみたいですし。」
違う、その言葉は全てわたしが言うべきだった。
原因は全部わたしにあるのに…
「俺の責任なんです、どうか許していただけないでしょうか。」
「やめて。」
「俺に出来る事なら何なりとするので、どうかこのとうり。」
「やめてって言ってるでしょ!」
その言葉にわたしは耐えきれず立ち上がってしまった。
「やめてよミカ君、わたしが悪いの。
あなたが謝る必要なんてどこにもないの…
わたしが嫌な事聞いちゃったから、わたしが上手に答えられなかったから…」
「それでも原因は俺です、きっかけを作ったのは俺なんだから謝るのも俺なんです。」
そんなことはない、だってわたしが、わたしが…
「それに、わたしはミカ君を騙してたんだよ!?」
「うん?もしかしてあなたの噂の事ですか?だったらとっくに知ってましたけど…」
え?
「アイズ公爵の娘はとんでもない魔力量にも関わらず制御が下手くそだから周りの物も人もなんでも壊してしまう、人呼んで『爆裂姫』でしたっけ?」
そう、わたしは生まれつき何故か魔力が人の何十倍も多かった。
でもそれに見合うだけの制御能力は持たず一般人と変わらない。
そのせいで多くの人に迷惑をかけてしまった、たくさん恐れられた、冷たい目で見られた。
「知ってて、なんで…」
「周囲の噂がどうあれ、貴方は俺に声をかけてくれた。それでは俺が貴方を優しい人と判断するには不足ですかね?」
不足しているに決まってる、そんな事で人を優しいかどうかなんて判断するなんて出来る筈がない。実際わたしは騙してた。
それを言えば良いだけだった、でも不思議と確信を持って話すミカ君にわたしはその言葉を吐き出せなかった。
「わたし、さっきみたいに無神経に嫌な事も聞いちゃうし…」
「よく俺も妹達に無神経だって殴られますよ、おんなじです。」
「ま、魔法で傷つけちゃうかもしれないし…」
「別に良いですよそんな事、そんなのは貴方が優しくないという理由にはならない。」
「わ、わたしミカ君を騙してたし…」
「隠し事ぐらい普通いくつかありますよ、俺だって少しはありますもん。」
わたしの言った悪い所が全て肯定されていく。それでもわたしの悪い所はたくさんある、そしてなおミカ君は肯定してくるだろう。
それがとっても嬉しかった。こんなにひどいわたしを認めてくれる事が…
「ミカ君はわたしと友達でいてくれるの?」
ビクビクと言ったわたしのその言葉にミカ君は
「ハァ〜」
大きな溜息をしてわたしの頭にチョップをしてきた。
「痛っ」
「呆れましたよ、もうがっかりです。ミカさんがっかり。
わかりきってる事を何度も確認するのはうざがられますよ、フリエさん。」
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「いや〜中々感動的な場面でしたねぇ、と。」
わたしが泣き止んだ後、当たり前の様にシルド君は起きて感想を言ってきた。
も〜やだ、ウジウジ悩んでる姿を2人に見られてしまった。恥ずかしいったらありゃしない、クッ殺せ!
「寝る前のフリエさんの表情が気にかかり起きていたら、お蔭で感動的なものがみれましたよ、と。」
「う〜〜、うるさいうるさい!ミカ君もシルド君もバカ!アンポンタン!すっとこどっこい!
もう寝る!」
そうして半ばヤケクソ気味にわたしは寝袋を被る。
「また泣かないでくださいよ、と。」
「うるさいよ!シルド君!」
最後までシルド君にからかわれてわたしは目を閉じる。
今度は早く眠れそうだ。




