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8章:分かりました、答えは自分で出してみせます、必ず。

大型連休中の温泉旅行の一件から、僕の心は大きく揺らいでいました。あの日の夜、まさかあんな事になるなんて…。僕は一体どうしたらいいんでしょうか?あれから数日が過ぎましたが、いくら考えても答えは出てきません。バンドの方もそれが原因で帆乃風さんとは気まずくなるし、咲姫さんには何となく近寄り難くなるし、鋭士さんは何故かよそよそしいし……。僕のせいでバンドがメチャクチャになったらどうしよう!?こうなったら郁斗さんに相談してみるしかないですよね。

僕はやむを得ず郁斗さんに連絡して話をしたいとお願いしました。


時間と場所は変わって日没後、場所はヘアーサロン:クリエイトクリステラヘアー、通称クリクリ。今日、郁斗さんは仕事だったのですが、僕の為に閉店後に店で待っていると言ってくれたので会う事になりました。郁斗さんは優しい人ですね。

しかし足取りは重くて僕は緊張感が強くなるばかりでした。


「こんばんは…。」


なんとも覇気のないしょぼくれた声でクリクリの扉を開く。


「やあ、ナオちん!待ってたよ?」


郁斗さんはフロアのど真ん中で髪の生えた人形(多分モデルだと思われる)を相手に、首を斜めにしながら手で振付みたいな…とにかく変なポーズをとっていた。


「…それは何をしているんですか?」


「シーッ!今いいところなんだから。」


「はあ…?」


約2分後。


「さあ、完成したよお嬢さん。…ああ、ゴメン、新しい髪型をセットしていたんだよ。」


いや、髪型はわかりますけど、今人形に話しかけていませんでした?それに僕が聞いていたのはその前の謎の振付の方なんですけど……ま、いいかな。


「で、話って何だい?」


「その…あの……、れ、恋愛相談…です。」


僕はかなり上がってしまってまともに話が出来そうになかった。今すっごい顔赤いんだろうな、自分。


すると郁斗さんは…


キラァッッ☆


ま、眩しい!?今、眼が物凄く光りましたよね?閉店後の薄暗いクリクリ店内が一瞬真昼になりましたよ!?


「とりあえず今、紅茶をいれるね!」


それから郁斗さんは俊敏な手つき足取りで紅茶を入れ始める。入れている合間に何故か戦国スピリットの伊達政宗のフィギュアの甲冑を組み立てていた。それもすごいスピードで。なんかえらくテンション高いですよ?僕の話はテンションの下がる話なんですけど大丈夫かな?


「はい、ナオちん!これでも飲みながら話をしようね?」


目の前に出されたのは香りの引き立つアールグレイと、甘い香りのチョコバナナシフォンケーキ。


「はあ…。」


「で、改めて…ノッカのことだね?それにサッキー辺りかな?」


「何で知ってるんですかぁっ!?」


ついつい大きな声を出してしまった僕は、危うく反動でアールグレイをこぼしてしまうところだった。


「こう見えても伊達に男を21年やってないからね!恋愛もしかり!そのくらいはお見通しさ!」


21年って…郁斗さんは生まれた瞬間から恋愛してたんですか!?生まれながらにしてチャラ男だったんですか!?

僕はズズッと敢えて音を立ててアールグレイを飲みながら落ち着きを取り戻す。


「そ、そうなんですよ。でもって最近僕は帆乃風さんに告白されました。“好きです”って。」


「でも、僕は断りました。僕は…その…咲姫さんのことが好きなんです。」


「サッキーにはナオちんの気持ちを伝えたのかな?」


「いえ、それなんですけど、どうも無理そうな感じなんです。咲姫さんは帆乃風さんが僕の事を好きだって事を知っていたらしくて、そんなことしたらきっと僕は……。」


そこまで僕は言って、フォークの先でチョコバナナシフォンケーキを分断した。が、とても口に運ぶ事は出来なかった。


「そっか、でもサッキーと一度話をした方がいいよね?ナオちんが溜め込んでもスッキリしないとオレは思うよ?勇気を出して当たってみなよ。ノッカだってそうしたんだと思うよ?」


「ただ、僕は帆乃風さんにはあれでよかったのかなって、もし僕が咲姫さんとその…恋人同士になっちゃったら帆乃風さんはきっと…どうなっちゃうんだろうって…怖いんです。」


シフォンケーキを綺麗に平らげてアールグレイを一口飲み、郁斗さんは意外な事を口にする。


「今はノッカやサッキーの気持ちよりナオちん、キミの気持ちを大事にしてみたら?ナオちんの素直で正直な気持ちを大事にしてみようよ。」


そんな…帆乃風さんをないがしろにしておいて、自分勝手にしろって事ですか?そんなこと……。


「ナオちん、何も難しい事じゃないさ!ちょっと考えれば答えはすぐそこだよ?」


「それは教えてくれないんですか?」


真剣な眼差しで郁斗さんを見つめる。


「うーん、それをオレが言っちゃったら全部台無しになっちゃうからね。」


「分かりました。…すみません郁斗さん、甘えてしまって。」


僕は目を合わせずに応えました。


「気にしなくていいさ!ああ、そうそう、大事な事を忘れていたよ!」


郁斗さんは柏手をパンと打って慌てたように僕の目を合わさせた。


「何ですか?」


「まずそのアールグレイを全部飲み干して。」


「はあ。」


気の抜けた返事をして僕はそれを一気に喉に流し込んだ。冷め気味だったので難なく飲み干す事が出来たけど、強烈な渋みというか苦みが口内を刺激した。思わず顔をしかめてしまう。


「じゃあ、あとは残ったチョコバナナシフォンケーキを全部食べる。一口でね。」


「は、はあ?…分かりました。」


僕は今度はそこにあった茶黄色いケーキを一口で食べる。口をモゴモゴさせながら、むせそうになりながらも何とか喉を通した。時間差で強烈な甘みが頬を駆け巡った。郁斗さんには悪いけど、とても美味しいといえる食べ方ではなかった。


「食べましたよ?」


「じゃあお終い。」


「はい?」


「後はさっき言った通りさ。ま、とりあえず頑張ってみようか。」


そこにいたのはニコニコ顔の郁斗さん。とにかく郁斗さんを信じて、いや、自分自信を信じるしかないようです。


「分かりました、答えは自分で出してみせます、必ず。」


「そうだね、後はナオちん次第さ。」


僕は扉を開けてクリクリを出ました。後ろは振り向かずに。口の中には未だにチョコバナナ味が賑やかに騒いでいました。


〔そうか……わかった、那秧がそれでいいならそうしろよ。帆乃風の事はなんとかするから気にすんな。〕


「はい、本当に申し訳ないです。では。」


僕は鋭士さんに電話して咲姫さんの住所を聞きだしました。僕は決めたんです。今から行きますので待っていて下さい。


咲姫さんの自宅であるアパートに着いて、まずゆっくりと深呼吸を2回する。今僕は凄く緊張してます。ちょっと強引かな?ストーカーに間違われたりしないですよね?明日昼間に出直した方がいいかな?いや、明日になってしまったら気持ちが落ちてしまうかもしれない。やはり高ぶっている今しか機会はない。僕は意を決して呼び鈴に手を伸ばす。


「あれっ?ナオ!?」


その時後ろから声が掛かった。振り向くとコンビニの袋を下げた咲姫さんがそこにいた。そうか、外出中だったんですね。というか、びっくりして結局心臓バクバクです。


「な、何してんの?……まさか…ストーカー?」


違います。


「咲姫さんッ!!」


「じょ、冗談だってば!てか…何でアタシん家知ってんの?」


僕の耳にはもはや咲姫さんの声は届いていなかった。そして…


「僕は咲姫さんが好きです!僕は本気です!僕と付き合って下さい!」


言ってしまった。でも渾身です。握り締めた拳は未だに開かれそうにありません。そして咲姫さんの返事を待つ。しかし…


「…満足した?それで。」


「はい?」


「アイツを泣かせてまでアタシに告白して…、満足したかって聞いてんのッ!!」


「な!?」


彼女は持っていたコンビニの袋をぐしゃぐしゃに握り締めて僕に怒鳴った。……そうだ、僕は帆乃風さんを振ってまでここに来て咲姫さんに告白したんだ。咲姫さんが言わんとしている意味は痛いほど分かる。でも…それでも僕は……


「僕は、素直に咲姫さんに気持ちを伝えたかったんです!そりゃあ帆乃風さんには悪いですけど、僕は咲姫さんが好きなんです!こうしないと僕の気が済まなかったんですっ!!」


僕は負けずに怒鳴った。もう自分が何を言っているのか、何処を見ているのか、まるで分からなくなっていた。


「だから、僕と…」


パァァッンッッ!!


「うっ!?」


突然僕の左頬が乾いた高音を発した。一瞬何が起きたか分からなかった。眼に映ったのは地面に転がったジュースのペットボトルと同様に落ちてコンビニの袋からはみ出した菓子パン。そして、俯いて小刻みに震えている咲姫さん。


「アイツは…帆乃風は、ずっとナオのことが好きだったんだよ。話をすれば二言目には“ナオ君が、ナオ君が”って。アタシはそんな帆乃風の背中をいつも押して…。それなのにアタシ、こんなんじゃアイツに顔向け出来ないよ!」


「咲姫さん…」


「どうしてもって言うんだったら、アタシを殴ってよ!!そしたらアタシもアンタと付き合うからッ!!」


「!?」


「早く殴りなさいよッ!!」


「くっ!」


僕は拳をもう一度握り締めて咲姫さんの前に出る。これでいいんだろうか?本当にこれで…。


「…僕には出来ませんよ。」


今思えばそうだった。帆乃風さんはいつでも一途で真剣だったんだ。いつでも、どこでも、どんな時でも…、それなのに僕は…僕はッ!!


「ありがとうございます、咲姫さん!僕、やっと目が覚めましたよ。僕、行きますね、彼女の所に。」


「ナオ?」


地面に転がったジュースを袋に入れて咲姫さんの手に渡す。


「咲姫さん、あなたは素直で優しいんですね。僕はそんな咲姫さんが本当に好きです!今日会えて本当に良かったです!では!」


僕はそう言って踵を返した。


「ナオッ!!」


呼ばれて僕は立ち止まる。


「ありがとね!嬉しかったよ、好きって言ってくれて!」


僕は右手を挙げて再び歩き出す。振り向かずに。


「…ナオ、漢になってきなさいよ。」




僕は走り出していた。目指すは帆乃風さんの家。目的は…ただ謝りたい。会って一言謝りたい。彼女は僕に会いたがらないかもしれない。でもそれでもいいんです。僕が傷つけてしまったことを、一言ゴメンと言えれば後は何も望んだりしません。


走りに走り、僕は帆乃風さんのマンションに着きました。さっきと違って今度は躊躇わずにインターホンで呼び出す。


ピーンポーン………


しかし出てくる様子はなかった。出かけているのかな?時計を見ると午後9時を過ぎていた。

仕方なく僕は彼女に電話することにしました。しかし…


〔お掛けになった電話は、電波の届かない所か、電源が入っておりません…〕


どうやら電話はつながらないみたいです。

駐車場を見ると彼女の車はあります。歩いて飲みにでも行ったのでしょうか?少しだけ待ってみようかな。…でもなんでしょう?さっきからやな予感がします。


トン。


「うわっ!?」


「うおっ!?」


背後から急に肩を叩かれて驚いて振り向くと……鋭士さん?

そこにいたのは同様に驚いた顔をした鋭士さんだった。


「悪りぃ。脅かす気はなかったんだ。」


「いえ…。でも鋭士さん、何故ここに?」


「いや、さっき帆乃風と連絡取って飲みに行く事になったから、待ち合わせでここに来たんだが。お前こそ何でここにいるんだ?咲姫ん家行ったんじゃなかったのか?」


「行ったんですけど色々とあって……それより変ですね?帆乃風さんはいないみたいですよ?」


「んなバカな!アイツ、俺が来るまで家で待ってるって事になってんだぞ!?」


鋭士さんはそう言ってインターホンを押す。


ピーンポーン………


やはり返事はなかった

「おいおい、何処行っちまったんだ帆乃風は?」


鋭士さんは電話を掛けるがしかし、やはりつながらないようです。


僕達は一旦マンションから出ました。僕の件は何とかなるにしても、鋭士さんのはちょっと解せません。帆乃風さんは約束を放って一体何処に行っちゃったんでしょう?


その時3台のバイクが僕達の前に停まった。2ケツが2台で計5人、僕達を囲んだ。


「SHINEの鋭士ってのは、テメーか?」


「あん?だったら何だ?」


そのうちの一人が鋭士さんに絡んだ。憮然として応えた鋭士さん。


「死ね。」


戦慄の幕開けだった。


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