プロローグ 運命の出会いは蒼炎の中で
どうも、金林檎です。
この物語が読者の皆様の暇潰しの一助になれば幸いです。【蒼炎のムト】をどうぞ宜しくお願い致します。
倒れた街灯 割れた道路 死臭が満ちる街で倒れる僕が蒼く燃える炎の中で最後に見たのは、蒼炎を纏う一人の少女の姿であった。
この世に運命なんてものが有るとするなら間違い無く今のこ瞬間なのであろう。
この日を生涯決して忘れない。
薄れゆく意識の中で僕はそう思った。
■■■■
桜咲く春の空は今日も晴天だ。
自らの通う高校への通学路を歩く僕の名は平泉健。
家庭はそこそこ、決して金持ちでは無いが貧乏でも無い。
両親は現在で仲も良好。
兄弟は居ないが今年には妹が産まれる予定だ。
中学の頃から学業の成績は平均を下回った事は無い。
成績を上げようという気概はないが成績が落ちるのが怖いので適度に努力はする。
そんな何処にでもいる普通の高校生だ。
そんな事を中学からの友人に言うと、鼻で笑われる。
曰く「お前が普通であってたまるか」とのことだ。
何故だ、解せぬ。
そんな事を考えながらも桜並木を歩いて行く。
今年は雨が少なく今は春も終盤に差し掛かったのにも関わらず、今歩くこの桜並木はまだとても綺麗な桜の花が見ることが出来る。
中学時代には想像するのも難しかった高校生活にも慣れ、桜の花に思いを寄せるぐらいには余裕も出来た。
束の間の刺激的な日々も慣れてしまえば日常だ。
だがそこに不満など無い。
平和が何より素晴らしい。
みだりに他人との衝突する程ヤンチャでも無いので、友人も何人かは出来た。
受験や就職などの遙か先の未来に悩む事など無く今日も一日が終わる。
その日の放課後も何となく漫画目的で近所のショッピングモールの本屋を巡って、そろそろ帰ろうかと思った頃だった。
異変は直ぐに分かった。
まだ日が落ちる前なのに外は薄暗く、しかし夜の闇にしては街灯の明かりがないのに周りははっきりと見える。
「なんだよ、これ」
言いようのない恐怖に突き動かされ、足が自然と外へと向かう。
ショッピングモールの外に出た時に見た光景が信じられず平泉健はその場で立ちすくんだ。
「嘘だろ、おい」
そこには駐車場で倒れる無数の人とその傍らに立つ多種多様な怪物の姿があった。
全身が毛むくじゃらな蛇にウナギの頭をした人型のなにか、フランス人形をそのまま等身大にしたような不気味な存在。
姿かたちが異なる怪物達は取る行動は同じであった。
倒れた人々をその口に運び喰らう。
口のでかいものは一飲みに、口の小さななものはクチャクチャとよく噛んで。
ただ一心不乱に捕食している。
衝撃的な光景に固まっていたが、流石にこのままでは不味いと思い無理やり体を動かす。
兎にも角にも隠れなければ。
しかしそれは余りにも遅い決断であった。
『あれ?なんで動いているのが居るんだ?』
怪物の一体と目が合った。
(ヤバい!バレた!?)
僕と目が合った怪物が首をひねり、隣にいた等身大フランス人形に声を掛ける。
『ねぇねぇ。なんかあそこに動いている奴が居るんだけど?何なのあいつ?』
『ん?あら本当だわ同胞かしら?でも今日の狩は私達だけのはずよね?』
『あいつ人間臭いよ?』
『まさかそんな筈ないわ。〝原罪の魔〟が張った【珠界】の中で動ける人間がいるものですか』
ふくとぅす?しゅかい?なんだそれは?
いやそんな事は後だ。
なんか知らないけどあの怪物達今は問答無用で襲って来る気配が無い。
何だか困惑しているようだ。
その間に少しでも距離を取ろう。
平泉健は少しずつ後ずさりショッピングモールの中に戻ろうと努力する。
障害物の多い店内のほうがこの見晴らしの良い外よりもましだと判断したからだ。
『まさか他の〝原罪の魔〟がお越しになったのかしら?』
『どうする?ねぇどうする?』
『そうねぇ、ここは我等の主の狩場。アポイントメントの無いお客様に土足でのお越しはご遠慮して貰いたいものだわ。もし其処の貴方少しよろしいかしら?』
等身大のフランス人形に声を掛けられた。
(ヤバいどうする合わせるか?いや駄目だ絶対ボロが出る。ならもう一か八かだ、ええいままよ!)
徐々に距離を取るのをやめ平泉健は全力でショッピングモールの中に逃げ込んだ。
『あら逃げたわ?』
『やっぱり人間じゃん』
『そうねぇ、流石に〝原罪の魔〟の御方が我々〝霊障〟如き相手に逃げるなんてある筈無いし』
『ということはあの人間ってレア物じゃない?』
『ええ、それも【珠界】で動ける程のとびっきりのレア物よ』
『喰らって良い?』
『勿論、貴方は四肢を喰らいなさい?私は新鮮な腸をいただくわ』
『決まりだ!いただきまーす!』
ガラス張りに成っているショッピングモールの正面入口にウナギ頭の人型が突っ込む。
ガシャンと音を立てガラスを割りながら店内に飛び込み、有るのか無いのか分からない鼻を鳴らし獲物を探る。
『見ぃつけた』
吹き抜けに成っている一階ホールから二階にいる平泉健を捕捉すると一飛で二階まで跳躍する。
「クソ!来やがった!」
平泉健は悪態をつきながら力の限り走る。
怪物に捕まれば喰われる命がけのリアル鬼ごっこ。
前触れもなく始まったこの理不尽極まる地獄のような催しに、それでも諦めず走り続ける。
(こういうホラー系はどこか出口がある筈だ!とりあえずそこを探す!ここから出れば何とかなる!じゃなきぁこんな事わざわざしないだろ多分!)
走る走る必死に走るひたすら走る。
(後ろは振り向かない!何故なら怖いから!)
しばらく走ると階段が見えた。
(上は駄目だ追い詰められる!んじゃ下だ!)
三段飛ばしで駆け下りる。
背中に感じる確かな重圧にビビりながらも、追いつかれまいと必死に走る。
『ワタシを忘れるなんてつれない子ね』
「うわぉぉぉ!?たっちゃぶる!!」
階段を下りた先に等身大フランス人形が待ち構えていた事に驚きつつも勢いそのままに股の下をスライディングで切り抜ける。
『あらすごい、でも失礼しちゃうわ』
(後ろは気にしない!後ろは気にしない!!二匹抜いたぞ!後は毛むくじゃらな蛇だけだ!多分!!お願い合ってて!!!)
ショッピングモールの裏口から飛び出し外に出た。
「よし!あの毛むくじゃらはまだ正面入口だ!後は走るのグハァ!!??」
ショッピングモールの敷地内から出ようとした時、平泉健は見えない壁に激突した。
その衝撃で大きくのけぞり、尻もちをついてしまう。
そのインターバルが命取りだった。
『凄いわね、まさか【珠界】の端まで逃げるなんてねぇ。貴方本当に人間なの?』
『活きのいい獲物は好きだぞ、だって美味いからな』
追いつかれた。
体勢も悪い、直ぐには動けない。
(あ、死んだ)
フランス人形の手が自分向けて伸ばされるのを見て、平泉健は自らの死を覚悟した。
(父ちゃん母ちゃん先立つ不幸をお許しください。まだ見ぬ妹よ不甲斐ない兄ですまない。心残りはせめてお前の名前が決まってて欲しかった。今年産まれるってのに激論だったもんな父ちゃんと母ちゃん。後 目の前の怪物達、お前等絶対ぇ許さねぇからな。呪ってやる、祟ってやる、化けて出てやる覚悟しろ畜生)
『あらあら睨んじゃって。凄く痛いかも知れないけどごめんなさいね?【珠界】で動けたのが運の尽きよ、諦めて?』
文字通り人形のような冷たい手が頬に触れられ、恐怖心から反射的に目を瞑った。
『………………………………あら?』
フランス人形の怪物の呆けた声と共に、ポトリと何かが落ちる音がした。
「…………?」
何かが起きた。
何かは分からないが、少なくとも平泉健が直ぐに喰われないだけの何かが。
恐る恐る目を開けると、目の前にあったフランス人形の腕は無く、フランス人形の怪物が無くなった片腕を押さえ僕を睨んでいる。
否 僕では無い僕の後ろにいる何かを睨んでいた。
「〝原罪の魔〟ではないな、どれもこれも〝霊障〟か」
凛とした声はまだ幼さを残す女性のそれだ。
しかしそこにはか弱さなど感じさせず、芯の通る確かな力強さを宿していた。
『…………あらあらあら。これはこれは、とんだ大物が迷い込んで来たわね?〝執行者〟さん?』
「やはり言葉を話せるのか、随分と知能の高い〝霊障〟だな」
フランス人形の怪物に〝執行者〟と呼ばれた女性は人外の化け物相手に気負う事なく言葉を紡ぐ。
しかしどこか独り言の様に、目の前の怪物を意に返さない。
『ワタシの腕を切り落とした手際をみるに並の〝執行者〟ではないわね?でも貴女分かっているの?ここは我等が主〝屍山血河〟バスディ様の縄張りよ?死にたいのかしら?』
「〝屍山血河〟か、道理で〝霊障〟の知能が異様に高い訳だ」
『…………引く気は無いのね?』
「引く道理が無い」
『そう、じゃあ死になさい?』
ゴッバッっと音を響かせ正面入口に居た筈の毛むくじゃらの巨大な蛇が道路の中からコンクリートを割って飛び出してきた。
「うぉぉぉ!!!??ゴハッ゙!!」
その衝撃で吹き飛ばされた平泉健は車に激突し、背中を強く打ちつける。
あまりの痛みに身体全体が痙攣し、一瞬息が出来なかった。
だがそんな事は些細な事だ、自分がこれだけの衝撃を受けたのだ直ぐ後ろに居たであろう少女などひとたまりもない。
「ゴホッゴホッ、お、おい!大丈夫か!?」
咳き込みながらも少女の安否を確認する。
平泉健が視線を向けたと同時にバッンっと爆いう音と共に蒼い炎が吹き荒れた。
「まずは一匹」
蒼炎の中から現れたのは大太刀を携えた少女一人。
その手には毛むくじゃらの蛇の頭があった。
『おいおいおい!アイツやられちまったぞ!?何なんゴハッ゙!!!??』
「二匹目」
仲間の死に動揺するウナギ頭の人型の胸に一突き。
そのまま太刀を横に振るい切り裂いた。
ウナギ頭の人型は断末魔を上げ絶命した。
『身の丈程の大太刀にこの地獄の炎、ま、まさか貴様は〝蒼炎〟か!!?』
「三匹目」
コトリと驚愕した表情で固まったフランス人形の首が落ちた。
『あり………えない』
自らの胴体を切り離された頭が信じられないような顔で見つめ機能を停止させた。
ショッピングモールに現れた人外の化け物共は僅か五分で全滅。
とてもでは無いが信じ難い光景である。
しかし平泉健は見惚れていた。
蒼炎に靡く白髪に紅い瞳、そして人形の様に整ったその顔立ち。
何よりもその埒外な強さに。
「それで貴方は何者なのかしら?【珠界】で動ける不思議な人間さん?」
圧倒的強さを見せつけ、その場を圧巻した蒼炎を操る少女が今その大太刀を向けるのはこの場にただ一人。
平泉健その人である。
「…僕………は…」
多大な疲労と先ほどのダメージで意識が朦朧とする中、平泉健は自らに向けられた大太刀など眼中に無く少女を見つめ呟いた。
「……あぁ……月が綺麗…ですね…」
「?…………………はぁ!?ちょ、貴方!」
少し臭い台詞だったかな?でもこれは僕の偽りの無い本心だ。
少し赤らめた少女の顔を名残惜しく眺めながら平泉健は意識を手放した。
その日。
その日、蒼炎の少女との出会いが平泉健の運命の歯車を大きく変える事となる。
それが彼等にとっていどの様な影響を及ぼすか。
今はまだ、誰も知らない。
最後まで読んでいただき有り難うございます。
最近あまり見なくなった古き良きライトノベルが読みたくなって自分で書いてしまいました。
拙い文章では有りますが、続きを読んであげても良いかな?と思ってくれた心優しい読者様が居りましたら次回をお楽しみに。




