四七話 優佑は変態?
「美味しかった、ありがとう」
「口に合ったようで何よりだよ、お皿は俺が洗っとくから有栖はくつろいでてくれ」
「む、シャワー借りてお昼ご飯も作ってもらったからそのくらい私がやる」
「それを言うなら俺は有栖に話聞いてもらったんだし、そもそも有栖はお客さんなんだからこのくらいやるよ」
有栖の申し出は嬉しいが、こんな事までやってもらっていては今日の恩が返せない。
別に洗い物の量も全く多くないのでやると言ってくれた有栖を無理矢理説得してサクッと洗い物を済ませる。
「……私がやったのに」
思ったよりも有栖にはやる気があったようで、キッチンから戻ってくると少し不満げな顔をした有栖が待っていた。
「悪かったって……」
「次は私がやる」
「ならもし次があればお願いするよ」
「ん、まかせて」
果たして有栖にご飯を作ることがまたあるのかは分からないが……
とりあえず有栖はそれで一応納得してくれたらしく、ジトッとこちらを見ていた目を止めてくれた。
「さて、後1、20分もあれば乾燥も終わるだろうし、外もようやく雨上がったっぽいけど……英一郎さんも心配してるだろうし洗濯終わったら帰るか?」
本来ならお昼ご飯前には帰る予定だったが、服を洗濯しているためにお昼ご飯を家で食べる事になった。
英一郎さんにもその事は連絡しているので、もちろん心配してるだろう。
「……もうちょっと居ちゃダメ?」
「まあ、確かにそれ読みかけで帰るのはイヤだよな」
今有栖が読んでいる本は一冊の中で事件が起こり、それを解決していくストーリーの物。読んでいるこちらもドキドキワクワクできるので俺も好きだが、その分それを途中で読み止めるのがイヤになるのはよく分かる。
ちなみに俺が委員会決めの日に夜更かししてしまった理由もこの本だったりする……
「ん、今から解決するとこだから、それに…………この服の着心地良かったから、もうちょっとこのままが良い」
「そ、そうか……そんなにその服が気に入ってるんだったらあげるよ。あーでも、俺が着てたやつだし新しいやつの方が――」
「これがいい」
「まあ有栖がそれでいいって言うなら……」
特に思い入れのある服でもないし、部屋着を一着くらいあげても問題ない。
俺の匂いが臭くないかだけが心配だが……洗濯もちゃんとしているし問題ないと思いたい。
「……面白かった」
「お、読み終わったか。この巻は特に面白いよな、特に主人公がヒロインを守る所とか」
「ん、主人公格好良かった」
「ああ、ちょっと鈍感すぎるところはあるけど、なんだかんだ決めてくれるところがいいよな」
ストーリーとしては王道だが、王道だからこそ面白い。
有栖も気に入ってくれているようで何よりだ。
「そういえば乾燥はもう終わってたから取り出しておいたけど……どうする?」
「んー、おじいちゃんに悪いからそろそろ帰る」
「ああ、そうしてあげてくれ」
そうして会話が一区切りついたのでお互い無言になったのだが、有栖はこちらを見てきている。
なんだろうとこちらも見返すと、ジーっと見ているというよりはジトーッとに変わってきた。
一体これは何の時間なんだ……
「……優佑」
「ん? なんだよ」
「そんなに私の着替えが見たいの?」
「えーっと……」
有栖が帰るには服を着替えないといけない訳で、ここに俺が居たら着替えられなくて困るのも当然だ。
自分の家なのに配慮が足りてなかったのは圧倒的に俺のようだ。
「優佑の事は信用してるけど、流石にそれは恥ずかしい……」
「ち、違っ、すぐ部屋出ますごめんなさいっ」
申し訳なさと恥ずかしさで、逃げるように部屋を出る。
今の話のせいで妙に意識してしまいそうになるのを、ブンブンと頭を振って追い出す。
「……なにしてるの?」
間違っても変な事を考えないようにしながら待っていると、着替え終わった有栖が部屋から出て来た。
「いや、なんでもないよ……それより雨は止んでるとはいえ、気を付けてな」
「ん、同じような事はもうしない」
「じゃあまた今度」
「ありがとう、じゃあまたね」
バタンと扉が閉まって一人になる。
今までもそうかもしれないと思っていた。
でも今日の一件ではっきりしたことがある。
俺は、有栖の事が好きみたいだ。




