第2話 新しいメンバー
イリヤが転属先の書かれた紙を片手に、喫茶店の前に立っていた。
看板には゛竜のまったり亭゛と書かれており、入口の扉に゛OPEN゛と表示された看板が掲げられていた。
店の外見は喫茶店に近い。
「ここ?」
紙と建物を交互に見て、首を傾げた。
どこからどう見ても、軍の支部には見えない。
「うーん……。一か八か入ろうかな」
意を決してドアノブに手をかけ、扉を開く。
すると、鈴の音がお客さんの来店を知らせた。
「いらっしゃい」
珈琲を作っていた男性が、イリヤを迎え、奥から一人の少女がやってきた。
「いらっしゃ~い」
明るい笑顔で出迎える。
「見ての通り、閑古鳥が鳴いてるから好きな所に座ってね~」
気楽で馴れ馴れしいが、それがどこか心地よく感じる。
「あ、あの……」
「どったの?」
少し間が空く。
間違っていたら、という抵抗感で口ごもる。
だが、意を決して言葉を振り絞った。
「……今日から配属になりました。イリヤ・カレンシュタットです! よろしくお願いします」
頭を下げ、礼をした。
「お~君が噂の~。ようこそ~、まったり亭に。ごめんね。うちらの隊長は、まだ任務から帰ってないんだ」
手を合わせてごめんと謝る。
「い、いえ、大丈夫です」
「自己紹介が遅れたね~。ワタシは恵美、高海恵美だよ。よろしく~」
テンションが終始高い。
それがイリヤの抱いた印象だった。
「で、こっちで珈琲入れてる、むさいイケオジがニコライだよ~、このお店の店長!」
「よろしく」
渋めの声が響く。
ゆったりとした印象だ。
「ほらほら、好きに座る! 何か出すからね」
「い、いえ、お構いなく」
恵美に圧に負け、言われるがままにカウンター席を座るイリヤ。
(ほ、本当にここが支部なの?)
店の雰囲気からは、軍に所属しているとは感じられない。
むしろ、普通にゆったりとできる喫茶店といったところだ。
出来たての珈琲がイリヤの前に置かれた。
「こっちはワタシからのサービスだよ。ゆっくりしてね」
恵美が特大パフェを珈琲の横に置いた。
中々の大きさに言葉が出ないイリヤ。
唖然としていた。
「あ、ありがとうございます」
「堅いよ~。もっと気楽に~。そうそうワタシの事は恵美でいいよ」
そう言い残し、スタッフルームに歩いていく。
黙々と特大パフェを食べながら、ふとあることが脳裏によぎる。
「あの、皆さんは任務に行かないんですか?」
「ん? ああ、ボク達はもう引退しているんだ。前にあった大規模な戦いで、深手を負ってしまってね」
「深手、ですか?」
「治らないものさ。リセットしてもね」
「ごめんなさい」
申し訳なさそうに謝る。
「気にしなくていいよ」
ニコライが気にしていないと、微笑する。
「龍とは知り合いかい?」
場の空気が重くなり、それを変えようとニコライが話題を変えた。
「えーと、龍一……さんは、最強のヴァイターと聞きいたので、多分別人かと」
「そうか」
そんな事を話していると、駐車場から車のエンジンが止まる音が聞こえてきた。
小規模な駐車場の為、店の入口まではすぐだ。
「もー、今日は災難続きだったよー」
「隊長並の運の無さだったな」
「人が不幸な奴みたいに言うな。事実だけど……」
ノスノスとバギスの討伐任務を終え、一行が店に戻って来たようだ。
入口付近が騒がしくなり、店の中からでもわかる。
「ただまー」
龍一が勢い良く扉を開く。
「お疲れ様」
ニコライは動じずに、挨拶を返す
その反面、イリヤが肩をビクッとさせて、驚いていた。
「よう、イリヤ。店に来てたのか」
知ってる顔を見かけて、とりあず声をかける。
「隊長~誰ですか? この可愛い子わッ!?」
いきなりミアに小突かれたマサキが変な声を出す。
「あー、もしかして新人さん?」
一人だけ訳知り顔をしている。
その反応に男二人が首を傾げた。
「どういうことだ? 新入りが来るとは聞いてないぞ」
チラリとマサキを見るが、知らないと言わんばかりに、首を横に振る。
「は、初めまして。今日から配属になりました、イリヤ・カレンシュタットです!」
慌てて席を立つ。
その姿にミアが可愛く笑う。
「そこまで畏まらなくていいよ。……私はミア・ユースティア。これからよろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
まだ堅さが抜けないのを見て、初々しいさを感じるミア。
「ほら、マサキも!」
「お、おう」
ミアの勢いに負け、歯切れの悪い声が漏れる。
「オレは太刀山マサキだ。よろしく」
一通り自己紹介を終え、イリヤが疑問を口にする。
「あの、えーと、隊長はどちらに?」
「お前の目の前にいるだろ」
龍一が言うのとほぼ同時に、ミアとマサキが龍一を見た。
その反応を予想していなかったのか、イリヤが呆然としている。
そして有り得ない、と顔に出ていたのを本人は気づいていない。
その反応を見て、ミアとマサキの二人が、その気持ちわかる、と言う感じで頷いていた。
「お前ら、酷くないか!? どっからどう見ても、隊長の風格が出てるだろ俺」
返ってきたのは、残念そうなため息。
それがショックだったのか、龍一が肩を落とす。
「ま、そんな訳で俺が隊長だ、よろしく!」
この空気をなかったことにしようと、必死で誤魔化す様に元気よく言う。
「諦めて」
「だから、人を残念な奴みたいな扱いやめよ。しかも、今の雰囲気だいなしよ」
ミアの一言で台無しなった。
「ま、お前の言いたいこともわかるけどな。俺も最初はそうだったし」
抗議をする龍一を捨ておき、マサキが昔を見るよう言った。
彼も最初は、イリヤと同じ感情を抱いていた。
だが、実力を見せられ、納得したのだ。
それと同時に敗北感の混じった悔しさを感じていた事を、今も覚えている。
「だって、私に模擬戦で勝利したこともないんですよ? ……先輩」
「手を抜かれているな。模擬戦用の武器だと、隊長は本来の力の一部も発揮できないから」
「それでも剣技とかで補えるはず」
イリヤの問いに対し、何かを悟ったように目を逸らす。
「あー、それはまじで手抜きされてるな。面倒だから適当にって感じで。……ま、納得いかないなら、地下で模擬戦やればわかると思うぞ」
「地下?」
「ああ。この店の地下には訓練室があるからな」
「!?」
普通の店に射撃や模擬戦が出来ほどの施設があると、予想している訳もなく、それを聞いてイリヤは驚きを隠し切れていなかった。
新人隊員は、皆同じ反応をする。
ある意味の恒例行事となり、店長であるニコライ含め、その反応を楽しみにしている節がある。
その証拠に珈琲を作りながら、ニコライが嬉しそうにしていた。
「話は着いたか?」
「新人が隊長とガチで模擬戦したいってさ」
「なら地下行くぞ」
そう言って龍一達がスタッフルームに入り、そこから地下へ続く階段を降りていく。
イリヤが辺りを見回しながら、その後を追う。
地下に到着するといくつかの部屋があり、その内、模擬戦などが出来るほど広い、第一訓練室に入って行く。
「そこにある武器、好きなの使ってくれ」
「これって本当に模擬戦用なの?どう見ても実戦で使うやつ何だけど」
「旧式を譲って貰ってるからな」
武器を選びながら互いに話していた。
龍一は慣れた手つきで使いたい物を探す。
「こっちは決めたよ」
「ならこれでいっか。……こっちもだ」
龍一が選んだのはやや大きめの片手剣。
それに対し、イリヤは小型の銃剣を選んだ。
「ルールはどっちかを殺す、急所への寸止め、もしくは相手の棄権が勝利条件でどうだ?」
「うん。それでいいよ」
龍一がマサキに、合図をやれと視線を送る。
その意図を理解し、頷いた。
二人が距離を取り、武器を構えたのを確認する。
そして合図を出した。
「始め!」
両者動かない。
睨み合ったままだ。
「来ないのか?先手は譲るぞ」
その声からは、余裕が感じられる。
それを挑発と解釈したのか、イリヤが床を強く蹴り、龍一に向かう。
「なら、お言葉に甘えさせてもらう」
一気に距離を詰めるかと思いきや、銃撃を数発挟み、それから剣による近接攻撃をした。
擬似的な二対一を再現する。
血の力で身体能力が跳ね上がり、銃弾と並び、そして追い抜く。
イリヤがこれで決まったと思った瞬間――。
龍一が銃弾を避け、イリヤの剣を受け流した。
そして片手で首を掴み、軽々と投げ飛ばした。
小柄で比較的軽いとはいえ、人一人をまるで野球ボールを投げるかのように投げ飛ばされ、驚きと困惑がイリヤの思考を支配した。
それでやっとイリヤが、本気を出すことを決めた。
小柄なだけあって身軽だ。
移動速度が先程よりも上がり、発砲する頻度が増えた。
最大まで加速した状態で、斬り込む。
だが、それを紙一重で避けると、龍一がイリヤを蹴り飛ばした。
腹部に綺麗に決まり、鮮やかに吹っ飛んでいく。
体勢を立て直そうとした時、イリヤの首筋に龍一が剣を当てた。
「そこまで!」
終わりの合図と共に剣を下げる。
「うそ……」
零れるようにポツリと呟く。
手も足も出なかった事への驚きもあるが、普段の龍一からは考えられないと、感じていた。
「さて、これで隊長として認めてくれるか?」
「え、あ、うん」
いきなりの事で言葉が見つからない。
そこでイリヤが深呼吸をして、落ち着きを取り戻そうとしていた。
龍一が武器を置くと、通信端末から着信音が鳴り響く。
『俺だ』
『帰還そうそうだが、追加の任務よ』
『休まないと過労死しちゃうな〜』
『安心なさい。ヴァイターは、死なない』
電話の向こうで、煙管の灰を捨てる音がした。
そして何かを啜る音も一緒に。
『ひでー扱いだな。今度、その乳揉ませてくれるなら受けるが』
『手足を切り落とされる覚悟があるならいいわよ』
『そりゃ勘弁』
他愛もない話を交わしていると、ニーナの声音が真面目のそれに変わった。
『冗談はさて置き、要件を伝えるわ。緊急の任務よ』
『内容は?』
『バイナーの討伐。場所はこの街の近くよ。討伐隊の一つが壊滅した。生き残りからの報告で今さっき発覚したことよ』
『軍の索敵に引っ掛からないってことは、地下を移動してきたみたいだな』
『ええ。こっちもその線で探っているわ。今、バイナー討伐が行える部隊は、お前達の隊だけ。他は出払っているわ』
『はぁぁ……報酬は上乗せで頼むぞ』
仕方ない、と呟き溜め息を吐く。
『わかっている。オペレーターはいるか?』
『いつも通りだ。情報が更新された時に、報告があれば十分だ』
『了解した。では以上だ』
通信が切れる。
龍一が深く息を吸い、そして吐く。
「さてっ、やるか!」
やる気を無理矢理出そうとしていた。
龍一がミア達の元に戻った。
「何の通信だったんですか? 嫌な予感しかしませんが……」
何かを察し、一歩後ろへ下がる。
その予感は当たっていた。
「爆乳からのご指名だ。内容は、バイナーの討伐。んじゃ、行くぞ」
「マジかよ!? 今帰ってきたばかりだぞ、俺ら」
「俺も同じ気持ちだ。俺ら以外の部隊は出払ってるってさ」
その言葉を聞き、ミアとマサキの二人は諦めた。
緊急の任務だと察したからだ。
「今日は厄日だよ……」
小さくそんなの事を呟くと、龍一とマサキが笑った。
不服そうにしているミアを無視し、階段に向かっていく。
「イリヤ、配属早々で悪いが任務だ。付いて来い」
「あ、うん……」
何処か納得が出来てないといった感じである。
負けたことに対してもそうだが、実は部隊長をやっていたと言う事実に対してだ。
「確認なんだが、完全吸収は使えるか?」
「ううん。使えない」
「わかった」
それだけ聞くと、龍一達が準備を整え、駐車場に止めていた車に乗り込む。
「今回からは、少し旅が長くなるな」
「マサキ、あまりそう言うことは言わない方がいいよ」
「悪い。悪気はなかった」
ミアとマサキが話をしてる傍らで、龍一が転送されてきたデータに目を通していた。
運転手は、イリヤの様だ。
任務の内容と捜索範囲を再確認し、現情報を確認していく。
どうやら情報は、ニーナが通信してきてから更新されていない様だ。
「お前らも確認しておけ」
そう言って龍一がタブレットをミアとマサキの間に投げ込む。
当然の事に、マサキが虚を突かれた表情をしていた。
そして少しすると基地に着いた。
一行が車から降り、整備場へ向かう。
「よう、リッカ。さっきぶりだな」
「大急ぎでメンテしといたよ。もう、大変だったんだから~」
「文句は上に言ってくれよ。今回はさ」
「もっと優しく扱ってくれれば、ここまで大変じゃないんだよ」
端末を操作して、各自の武器を取り出す作業をしているリッカと雑談していた。
「武器の展開、終わったよ。後、車の準備も万全だから、そこのやつ使って」
視線を車両の方へと送る。
いつでも出撃出来るように、門の前まで移動してあった。
各々、自分の武器を取ると、車両に乗り込んでいく。
「一応、新型の銃を搭載しといたから、上手く使ってね」
「要するに実験して来いってことだろ」
リッカが小さく笑う。
それは、龍一の意見を肯定するものだ。
「皆、気をつけてね。行ってらっしゃい」
「おう、行ってくる」
それだけ言って、窓を閉める。
窓越しで軽く手を挙げる龍一。
エンジン音が鳴り響く。
そして門が開いて少ししてから、アクセルを踏み、進み出す。
一行を見送ったリッカが、作業場に戻って行く。
龍一が出撃する少し前。
部屋の一部に畳が敷かれ、贅沢そうな装飾がされた執務室でニーナが煙管を吸っていた。
「大佐、良かったんですか? あれで」
「? 報酬の件か。それなら基本報酬を言ってないから、上乗せしたことにすればいい」
「……それよりも彼らは帰還したばかりなんですよ」
「どうせ、龍一は戦わないよ。あいつの事だ、部下に丸投げだろうな。それに今回は緊急だ。防壁を越えられるとまずいのは、分かっているでしょ」
「はい」
「ヒバナも知ってると思うけど、あいつの部隊が疲労でミスすることは、ほぼないって。何せ、元最強が率いる精鋭部隊なのよ」
戦局をタブレットで確認しながら、煙管を再び吸う。
補佐官兼龍一のオペレーターをやっているヒバナが、心配そうにしていた。
「……ですね。そろそろわたしも、仕事に戻ります」
「待てヒバナ。君には、基地のレーダーでバイナーの痕跡を探ってもらいたい。少しでも早く始末しないと、まずいからな」
「分かりました。ドローンなども使って地下の探索も並行して行います」
「助かる。現在の調査状況は、そっちに送ってあるから確認頼むわよ」
「はい!」
ヒバナが敬礼をしてから、部屋を後にした。
「頼むから、周辺の地形を変えてくれるなよ」
祈るように天井を見上げるニーナだった。
『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。




