表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

第2話 新しいメンバー

 イリヤが転属先の書かれた紙を片手に、喫茶店の前に立っていた。

 看板には゛竜のまったり亭゛と書かれており、入口の扉に゛OPEN゛と表示された看板が掲げられていた。

 店の外見は喫茶店に近い。


「ここ?」


 紙と建物を交互に見て、首を傾げた。

 どこからどう見ても、軍の支部には見えない。


「うーん……。一か八か入ろうかな」


 意を決してドアノブに手をかけ、扉を開く。

 すると、鈴の音がお客さんの来店を知らせた。


「いらっしゃい」


 珈琲を作っていた男性が、イリヤを迎え、奥から一人の少女がやってきた。


「いらっしゃ~い」


 明るい笑顔で出迎える。


「見ての通り、閑古鳥が鳴いてるから好きな所に座ってね~」


 気楽で馴れ馴れしいが、それがどこか心地よく感じる。


「あ、あの……」

「どったの?」


 少し間が空く。

 間違っていたら、という抵抗感で口ごもる。

 だが、意を決して言葉を振り絞った。


「……今日から配属になりました。イリヤ・カレンシュタットです! よろしくお願いします」


 頭を下げ、礼をした。


「お~君が噂の~。ようこそ~、まったり亭に。ごめんね。うちらの隊長は、まだ任務から帰ってないんだ」


 手を合わせてごめんと謝る。


「い、いえ、大丈夫です」

「自己紹介が遅れたね~。ワタシは恵美、高海恵美だよ。よろしく~」


 テンションが終始高い。

 それがイリヤの抱いた印象だった。


「で、こっちで珈琲入れてる、むさいイケオジがニコライだよ~、このお店の店長!」

「よろしく」


 渋めの声が響く。

 ゆったりとした印象だ。


「ほらほら、好きに座る! 何か出すからね」

「い、いえ、お構いなく」


 恵美に圧に負け、言われるがままにカウンター席を座るイリヤ。


(ほ、本当にここが支部なの?)


 店の雰囲気からは、軍に所属しているとは感じられない。

 むしろ、普通にゆったりとできる喫茶店といったところだ。

 出来たての珈琲がイリヤの前に置かれた。


「こっちはワタシからのサービスだよ。ゆっくりしてね」


 恵美が特大パフェを珈琲の横に置いた。

 中々の大きさに言葉が出ないイリヤ。

 唖然としていた。


「あ、ありがとうございます」

「堅いよ~。もっと気楽に~。そうそうワタシの事は恵美でいいよ」


 そう言い残し、スタッフルームに歩いていく。

 黙々と特大パフェを食べながら、ふとあることが脳裏によぎる。


「あの、皆さんは任務に行かないんですか?」

「ん? ああ、ボク達はもう引退しているんだ。前にあった大規模な戦いで、深手を負ってしまってね」

「深手、ですか?」

「治らないものさ。リセットしてもね」

「ごめんなさい」


 申し訳なさそうに謝る。


「気にしなくていいよ」


 ニコライが気にしていないと、微笑する。


「龍とは知り合いかい?」


 場の空気が重くなり、それを変えようとニコライが話題を変えた。


「えーと、龍一……さんは、最強のヴァイターと聞きいたので、多分別人かと」

「そうか」


 そんな事を話していると、駐車場から車のエンジンが止まる音が聞こえてきた。

 小規模な駐車場の為、店の入口まではすぐだ。


「もー、今日は災難続きだったよー」

「隊長並の運の無さだったな」

「人が不幸な奴みたいに言うな。事実だけど……」


 ノスノスとバギスの討伐任務を終え、一行が店に戻って来たようだ。

 入口付近が騒がしくなり、店の中からでもわかる。


「ただまー」


 龍一が勢い良く扉を開く。


「お疲れ様」


 ニコライは動じずに、挨拶を返す

 その反面、イリヤが肩をビクッとさせて、驚いていた。


「よう、イリヤ。店に来てたのか」


 知ってる顔を見かけて、とりあず声をかける。


「隊長~誰ですか? この可愛い子わッ!?」


 いきなりミアに小突かれたマサキが変な声を出す。


「あー、もしかして新人さん?」


 一人だけ訳知り顔をしている。

 その反応に男二人が首を傾げた。


「どういうことだ? 新入りが来るとは聞いてないぞ」


 チラリとマサキを見るが、知らないと言わんばかりに、首を横に振る。


「は、初めまして。今日から配属になりました、イリヤ・カレンシュタットです!」


 慌てて席を立つ。

 その姿にミアが可愛く笑う。


「そこまで畏まらなくていいよ。……私はミア・ユースティア。これからよろしくね」

「はい! よろしくお願いします」


 まだ堅さが抜けないのを見て、初々しいさを感じるミア。


「ほら、マサキも!」

「お、おう」


ミアの勢いに負け、歯切れの悪い声が漏れる。


「オレは太刀山マサキだ。よろしく」


一通り自己紹介を終え、イリヤが疑問を口にする。


「あの、えーと、隊長はどちらに?」

「お前の目の前にいるだろ」


 龍一が言うのとほぼ同時に、ミアとマサキが龍一を見た。

 その反応を予想していなかったのか、イリヤが呆然としている。

 そして有り得ない、と顔に出ていたのを本人は気づいていない。

 その反応を見て、ミアとマサキの二人が、その気持ちわかる、と言う感じで頷いていた。


「お前ら、酷くないか!? どっからどう見ても、隊長の風格が出てるだろ俺」


 返ってきたのは、残念そうなため息。

 それがショックだったのか、龍一が肩を落とす。


「ま、そんな訳で俺が隊長だ、よろしく!」


 この空気をなかったことにしようと、必死で誤魔化す様に元気よく言う。


「諦めて」

「だから、人を残念な奴みたいな扱いやめよ。しかも、今の雰囲気だいなしよ」


 ミアの一言で台無しなった。


「ま、お前の言いたいこともわかるけどな。俺も最初はそうだったし」


 抗議をする龍一を捨ておき、マサキが昔を見るよう言った。

 彼も最初は、イリヤと同じ感情を抱いていた。

 だが、実力を見せられ、納得したのだ。

 それと同時に敗北感の混じった悔しさを感じていた事を、今も覚えている。


「だって、私に模擬戦で勝利したこともないんですよ? ……先輩」

「手を抜かれているな。模擬戦用の武器だと、隊長は本来の力の一部も発揮できないから」

「それでも剣技とかで補えるはず」


 イリヤの問いに対し、何かを悟ったように目を逸らす。


「あー、それはまじで手抜きされてるな。面倒だから適当にって感じで。……ま、納得いかないなら、地下で模擬戦やればわかると思うぞ」

「地下?」

「ああ。この店の地下には訓練室があるからな」

「!?」


 普通の店に射撃や模擬戦が出来ほどの施設があると、予想している訳もなく、それを聞いてイリヤは驚きを隠し切れていなかった。

 新人隊員は、皆同じ反応をする。

 ある意味の恒例行事となり、店長であるニコライ含め、その反応を楽しみにしている節がある。

 その証拠に珈琲を作りながら、ニコライが嬉しそうにしていた。


「話は着いたか?」

「新人が隊長とガチで模擬戦したいってさ」

「なら地下行くぞ」


 そう言って龍一達がスタッフルームに入り、そこから地下へ続く階段を降りていく。

 イリヤが辺りを見回しながら、その後を追う。

 地下に到着するといくつかの部屋があり、その内、模擬戦などが出来るほど広い、第一訓練室に入って行く。


「そこにある武器、好きなの使ってくれ」

「これって本当に模擬戦用なの?どう見ても実戦で使うやつ何だけど」

「旧式を譲って貰ってるからな」


 武器を選びながら互いに話していた。

 龍一は慣れた手つきで使いたい物を探す。


「こっちは決めたよ」

「ならこれでいっか。……こっちもだ」


 龍一が選んだのはやや大きめの片手剣。

 それに対し、イリヤは小型の銃剣を選んだ。


「ルールはどっちかを殺す、急所への寸止め、もしくは相手の棄権が勝利条件でどうだ?」

「うん。それでいいよ」


 龍一がマサキに、合図をやれと視線を送る。

 その意図を理解し、頷いた。

 二人が距離を取り、武器を構えたのを確認する。

 そして合図を出した。


「始め!」


 両者動かない。

 睨み合ったままだ。


「来ないのか?先手は譲るぞ」


 その声からは、余裕が感じられる。

 それを挑発と解釈したのか、イリヤが床を強く蹴り、龍一に向かう。


「なら、お言葉に甘えさせてもらう」


 一気に距離を詰めるかと思いきや、銃撃を数発挟み、それから剣による近接攻撃をした。

 擬似的な二対一を再現する。

 血の力で身体能力が跳ね上がり、銃弾と並び、そして追い抜く。

 イリヤがこれで決まったと思った瞬間――。

 龍一が銃弾を避け、イリヤの剣を受け流した。

 そして片手で首を掴み、軽々と投げ飛ばした。

 小柄で比較的軽いとはいえ、人一人をまるで野球ボールを投げるかのように投げ飛ばされ、驚きと困惑がイリヤの思考を支配した。

 それでやっとイリヤが、本気を出すことを決めた。

 小柄なだけあって身軽だ。

 移動速度が先程よりも上がり、発砲する頻度が増えた。

 最大まで加速した状態で、斬り込む。

 だが、それを紙一重で避けると、龍一がイリヤを蹴り飛ばした。

 腹部に綺麗に決まり、鮮やかに吹っ飛んでいく。

 体勢を立て直そうとした時、イリヤの首筋に龍一が剣を当てた。


「そこまで!」


 終わりの合図と共に剣を下げる。


「うそ……」


 零れるようにポツリと呟く。

 手も足も出なかった事への驚きもあるが、普段の龍一からは考えられないと、感じていた。


「さて、これで隊長として認めてくれるか?」

「え、あ、うん」


 いきなりの事で言葉が見つからない。

 そこでイリヤが深呼吸をして、落ち着きを取り戻そうとしていた。

 龍一が武器を置くと、通信端末から着信音が鳴り響く。


『俺だ』

『帰還そうそうだが、追加の任務よ』

『休まないと過労死しちゃうな〜』

『安心なさい。ヴァイターは、死なない』


 電話の向こうで、煙管の灰を捨てる音がした。

 そして何かを啜る音も一緒に。


『ひでー扱いだな。今度、その乳揉ませてくれるなら受けるが』

『手足を切り落とされる覚悟があるならいいわよ』

『そりゃ勘弁』


 他愛もない話を交わしていると、ニーナの声音が真面目のそれに変わった。


『冗談はさて置き、要件を伝えるわ。緊急の任務よ』

『内容は?』

『バイナーの討伐。場所はこの街の近くよ。討伐隊の一つが壊滅した。生き残りからの報告で今さっき発覚したことよ』

『軍の索敵に引っ掛からないってことは、地下を移動してきたみたいだな』

『ええ。こっちもその線で探っているわ。今、バイナー討伐が行える部隊は、お前達の隊だけ。他は出払っているわ』

『はぁぁ……報酬は上乗せで頼むぞ』


 仕方ない、と呟き溜め息を吐く。


『わかっている。オペレーターはいるか?』

『いつも通りだ。情報が更新された時に、報告があれば十分だ』

『了解した。では以上だ』


 通信が切れる。

 龍一が深く息を吸い、そして吐く。


「さてっ、やるか!」


 やる気を無理矢理出そうとしていた。

 龍一がミア達の元に戻った。


「何の通信だったんですか? 嫌な予感しかしませんが……」


何かを察し、一歩後ろへ下がる。

その予感は当たっていた。


「爆乳からのご指名だ。内容は、バイナーの討伐。んじゃ、行くぞ」

「マジかよ!? 今帰ってきたばかりだぞ、俺ら」

「俺も同じ気持ちだ。俺ら以外の部隊は出払ってるってさ」


 その言葉を聞き、ミアとマサキの二人は諦めた。

 緊急の任務だと察したからだ。


「今日は厄日だよ……」


 小さくそんなの事を呟くと、龍一とマサキが笑った。

 不服そうにしているミアを無視し、階段に向かっていく。


「イリヤ、配属早々で悪いが任務だ。付いて来い」

「あ、うん……」


 何処か納得が出来てないといった感じである。

 負けたことに対してもそうだが、実は部隊長をやっていたと言う事実に対してだ。


「確認なんだが、完全吸収は使えるか?」

「ううん。使えない」

「わかった」


 それだけ聞くと、龍一達が準備を整え、駐車場に止めていた車に乗り込む。


「今回からは、少し旅が長くなるな」

「マサキ、あまりそう言うことは言わない方がいいよ」

「悪い。悪気はなかった」


 ミアとマサキが話をしてる傍らで、龍一が転送されてきたデータに目を通していた。

 運転手は、イリヤの様だ。

 任務の内容と捜索範囲を再確認し、現情報を確認していく。

 どうやら情報は、ニーナが通信してきてから更新されていない様だ。


「お前らも確認しておけ」


 そう言って龍一がタブレットをミアとマサキの間に投げ込む。

 当然の事に、マサキが虚を突かれた表情をしていた。

 そして少しすると基地に着いた。

 一行が車から降り、整備場へ向かう。


「よう、リッカ。さっきぶりだな」

「大急ぎでメンテしといたよ。もう、大変だったんだから~」

「文句は上に言ってくれよ。今回はさ」

「もっと優しく扱ってくれれば、ここまで大変じゃないんだよ」


 端末を操作して、各自の武器を取り出す作業をしているリッカと雑談していた。


「武器の展開、終わったよ。後、車の準備も万全だから、そこのやつ使って」


 視線を車両の方へと送る。

 いつでも出撃出来るように、門の前まで移動してあった。

 各々、自分の武器を取ると、車両に乗り込んでいく。


「一応、新型の銃を搭載しといたから、上手く使ってね」

「要するに実験して来いってことだろ」


 リッカが小さく笑う。

 それは、龍一の意見を肯定するものだ。


「皆、気をつけてね。行ってらっしゃい」

「おう、行ってくる」


 それだけ言って、窓を閉める。

 窓越しで軽く手を挙げる龍一。

 エンジン音が鳴り響く。

 そして門が開いて少ししてから、アクセルを踏み、進み出す。

 一行を見送ったリッカが、作業場に戻って行く。



 龍一が出撃する少し前。

 部屋の一部に畳が敷かれ、贅沢そうな装飾がされた執務室でニーナが煙管を吸っていた。


「大佐、良かったんですか? あれで」

「? 報酬の件か。それなら基本報酬を言ってないから、上乗せしたことにすればいい」

「……それよりも彼らは帰還したばかりなんですよ」

「どうせ、龍一は戦わないよ。あいつの事だ、部下に丸投げだろうな。それに今回は緊急だ。防壁を越えられるとまずいのは、分かっているでしょ」

「はい」

「ヒバナも知ってると思うけど、あいつの部隊が疲労でミスすることは、ほぼないって。何せ、元最強が率いる精鋭部隊なのよ」


 戦局をタブレットで確認しながら、煙管を再び吸う。

 補佐官兼龍一のオペレーターをやっているヒバナが、心配そうにしていた。


「……ですね。そろそろわたしも、仕事に戻ります」

「待てヒバナ。君には、基地のレーダーでバイナーの痕跡を探ってもらいたい。少しでも早く始末しないと、まずいからな」

「分かりました。ドローンなども使って地下の探索も並行して行います」

「助かる。現在の調査状況は、そっちに送ってあるから確認頼むわよ」

「はい!」


 ヒバナが敬礼をしてから、部屋を後にした。


「頼むから、周辺の地形を変えてくれるなよ」


 祈るように天井を見上げるニーナだった。

『面白い』や『よかった』と思っていただけたら評価やブックマーク、感想等をしていただけると嬉しいです。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ