第1話 動き出す時代
黒板にチョークで文字を書く音が教室に鳴り響く。
「カレンシュタット、地平の霧について答えろ」
「はい!」
返事をして立ち上がったのは金髪ツインテールの少女。
胸は控えめで小柄な少女である。
「今から一一四年前に神の死と同じくして現れたとされています。始めは神を閉じ込める檻として作られた物が暴走したとされる説が定説になっています」
神の事を人々はいつしか「クイーン」と呼ぶようになった。
侵略者の王であり、侵略者である堕天を生み出す事ができたからだ。
「続けて答えてもらうが、何故当時の記録が無くなった?」
「それは霧の研究施設がクイーンにより破壊され、霧の向こう側に記録端末が分断されたからです。そして当時を知るヴァイターは神討伐戦で全滅。一人も生還者がいなかったからでもあります」
「概ね正解だ。座っていいぞ」
少女が着席すると、男勝りの女性教師が続ける。
「霧が無くならないのは神骸をこっちに封印する意味も備えている。そして我らヴァイターが人の世界に行けば、堕ちた者により被害が出る可能性がある。それを食い止めるためにも、互いに住む場所を別けている。それに今、霧が無くなればレイギスや天鬼を外に放つことになる。そうなれば被害は想像に固くない」
説明を続ける教師を無視し、一人の黒髪の男が窓の外を眺めていた。
目に映るは平和な日常。
学生達が体育をしているグラウンド。
楽しそうな声が響いてくる。
だが、この学校はヴァイターの育成機関。
無論、学年が上がれば戦闘訓練が待っていたりする。
そして男はつまらなさそうに、ため息を吐く。
「戦いてぇー」
体の底から湧き上がる戦闘への欲求。
それは命を賭けた全力の戦闘への渇望。
力を失ってから長い月日が経ち、彼の内には全力が出せない鬱憤が溜まっていた。
かつての仲間の認識票をポケットから出すと、それを眺め神討伐戦を思い出す。
(流石にあのクラスの戦いはうんざりだけどな)
独り言を呟くかのように、心の中でその言葉が浮かぶ。
「おい! 聞いているのか刀藤!!」
怒鳴り声と共にチョークが頭に直撃する。
認識票を咄嗟にしまい声を荒らげる。
「いきなり何するんだよ!? これは体罰だろ!」
「ほう? そんなに体罰を体に刻み込んで欲しいのか?」
「それはルイスにどうぞ」
いきなりのとばっちりに赤髪の男、ルイスが反論する。
「おい龍一! こっちに振るな! 弁当食ってるのがバレるだろ! ……あ……」
「貴様らそんなにしばかれたいのなら、要望通りにしてやろうか」
拳を鳴らしながら、獲物を見つけた蛇のような目で睨みつける。
「それは勘弁!」
そう言って一抜けしたのは龍一だ。
そんなバカ二人を呆れた様子で、同じ班のメンバーであるイリヤ・カレンシュタットが眺めていた。
そして手を振って龍一が、教室を逃げるように去る。
その足取りは慣れたもんである。
女教師は先に逃げた龍一からルイスへと、標的を変える。
「さぁ、一緒に来てもらおうか」
何とも楽しげな悪い笑みである。
「ちょっと自習して待ってろ」
そう言ってルイスを引きづりながら教室を後にする。
「せめて弁当最後まで食ってからにしてくれ……っ!?」
鉄拳が頭部に炸裂し、絞められたカエルの様な声を出す。
その頃、逃げた龍一は屋上に来ていた。
仰向けに寝転がり、青く澄み渡る空を呆然と眺めていた。
手を天に向け、力を込める。
だが、何も起きない。
固有武装を展開しようとしたが、一瞬だけ変異の兆候を見せるだけだった。
何かに抑制されるように、力が上手く使えない。
「こんだけ時間が経っても未だに回復の兆しはなし、か」
いつもと変わらない自分に嫌気が指す。
だが、それも一周回って清々しくすら感じる。
「ま、こんなもんか」
そう言って目を閉じる。
暖かい陽光が心地よく、気づいたら眠ってしまっていた。
それからしばらくが経ち、一人の人物が屋上を訪れていた。
そして手に持った冷たい飲み物を龍一の頬に当てる。
「つめたッ!?」
不意を突かれ声が出てしまう。
その様子を面白そうに微笑んでいる少女がいた。
「よう、我が妹よ」
「起きた? お兄ちゃん」
「ああ。……赤のチェックか。可愛いパンツ履いてるな」
「もー、お兄ちゃんったら」
怒る素振りすら見せず、ただ可愛らしく微笑をする。
「はい、これ」
「お! ガルピスじゃないか」
「今日は偶々売ってたんだ~」
飲み物を手渡した後、龍一の分の弁当も一緒に渡す。
蓋を開け、二人は楽しそうにそれを食べていた。
「別に俺らヴァイターは、食わなくても死なないだろ」
「それでもこうやって、誰かと食べるのは楽しいから、やーだ」
「まったく」
小さく笑う。
「所で、お兄ちゃんまた授業サボってたでしょ」
「だってさ、当時を知る人間からしたらつまらんねーじゃん。歴史なんてさ。戦闘訓練もやる必要ないし。まあ遊ぶのは楽しいけどな」
「わからなくは無いよ。でもせっかく人生二度目の学校生活だし、授業も楽しまないと!!」
前向きに明るい笑顔をしながら語る。
その姿に、勝てないな、と思う優一であった。
「そういえば神骸の状態はどうだった?」
「南と南東は変わりないよ。もうびっくりするくらい」
「なら安心だな。力が戻る前に復活されても困るしな」
「あの地獄は来ないで欲しいな。また、壊滅なんて嫌だよ」
「だな」
そうこうしていると、もう二人屋上に上がって来た。
その気配に気づき、二人は扉に視線を向ける。
「やっぱりここにいたのね」
そう言ったのはイリヤだった。
その隣にはルイスが弁当を持って立っていた。
「お前まだ食うのかよ」
呆れたと表情に出る
それに同意すべく、イリヤがルイスの隣で頷いていた。
「授業中のは前菜だからな」
その言葉に返す言葉が見つからない一行。
そして円を組むように、座る。
「授業、今さっき終わったんだけど」
「それがどうかしたか?」
「何で私たちより早く、お弁当食べてるの?」
「美優が来たからな」
「ミユからも何か言ってあげなさいよ」
まるでダメな兄の説得を頼むような声音。
それに答えるべく、口を開く。
「お兄ちゃんだから、許させるんだよ!」
「うん。ミユもダメだったかー」
どこか諦めを感じさせる。
楽しそうにしていると、着信音が鳴り響いた。
誰なのか皆、一瞬見渡しすぐにわかった。
美優がスマホ様な端末を取り出す。
「こちら八雲どうぞ」
「仕事だ。西部北西方面で大型の堕天が出現した。討伐してこい」
透き通るような女性の声が、通信端末から聞こえてくる。
「嫌です。今、お兄ちゃんと一緒にお弁当食べてるから。それに緊急でもないなら尚更」
駄々をこねる子供のように言う。
「……わかった。それが終わったら早急に向かえ!」
それを最後に通信が切れた。
どこか呆れているようで、怒っているような声。
もしくは諦めが交じったと言うべきか。
美優の強さは飛び抜けており、大隊規模で倒す敵を一人で討伐できる程の実力者なのだ。
故に、軍も強くは言えない。
下手に拗ねられると作戦に影響が出るからだ。
当人は階級など気にもとめず、兄である龍一といる時は全てにおいて、これが優先される。
美優が居ないと強敵との戦闘で、かなりの戦力を消費することになる。
だからこそ、軍も美優には処分を下さないのだ。
「行かなくていいのか?」
「いいの。お兄ちゃん優先だから!」
勢いに負け、説得を諦める龍一。
それを苦笑いしながら、一行は見ていた。
「軍の命令でしょ。ほんとに行かないと不味いでしょ」
「だーいじょうぶ!軍も私には強く言えないから」
軍との立場を理解してるだけあって、扱いが上手い。
それを呆れたように兄である龍一が見ていたが、彼も人の事は言えない。
よく命令を突っぱねているのだから。
「そう言えば今日って、実技あったけ?」
「固有武装の実技が午後一番だったはずだ」
確認するようにルイスがイリヤを見ると、それを見て頷いて肯定した。
「さて、雲隠れするか」
「おい!」
そのやり取りに皆が笑う。
「もーたまには出てよ。私たちの班だけ、一人かけるんだよ」
「俺は人気者で忙しいのだよ」
「はぁ、全く……」
呆れた様にため息を吐く。
「そう言えばイリヤは実戦に駆り出されてるだよね?」
「え、あ、うん。よく知ってるね」
「学生の新人がいい働きしてるって噂で聞いたからね〜」
「おかげで嫉みも酷いけどな」
ルイスが弁当に夢中になりながら、口を挟む。
その意見に一行は渋い表情を見せる。
「嫉むならせめて、しっかり努力してからにして欲しい」
「努力すればセーフなのか」
「アウトよ!」
だよなー、と言いながら龍一が苦笑いを浮かべた。
そうして昼休みの終わりを告げる鐘が学校中に鳴り響き、一行は解散した。
龍一は宣言通り午後の実技試験には顔を見せない。
堂々と玄関から校舎を出て、正門に向かう。
「おやおや龍一君じゃないか」
龍一を呼んだのは、ブロンド色の長髪を後ろで束ねて、眼鏡をかけた長身で細い体つきの男だった。
眼鏡のせいなのか、どこか胡散臭く見える。
「なんだ学長かよ」
「釣れないこと言わないで欲しいな〜」
つまらなそうに学長が口を尖らせる。
「それで今から仕事かい?」
「まあな。昼休みに爆乳から通信が入ってな」
嫌々といった様子。
「ははは。それはさぞ大変だろうね」
「他人事だと思いやがって」
愉快に笑う学長を睨む。
「迎えが来たようだね」
「隊長ーー!!」
龍一と同年代の男女二人が、兵員輸送用の軍事車両の前で手を振っている。
軍事車両はジープ型で運転席と助手席に1人ずつ、そして後方に数人が乗れる中型タイプである。
「じゃあな」
「頑張ってね〜」
その言葉には、言葉通りの感情があまり乗っていなかった。
どちらかと言うと、行ってらっしゃいに近い感じだ。
「お前も花への水やりに精を出せよ」
背中越しに手を振り、迎えに来た二人の元へ歩みを進める。
龍一が近づいてきた所で、二人が敬礼する。
そのやり取りがめんどくさく、適当に手を振って楽にしろと命じる。
「にしても、たった三人乗るのに、これで来る意味あったか?」
「これしか空いてるのなかったんだ。後はメンテみたいで」
「ちゃんと予約入れとけよ」
男の団員の肩に右手を置いて、運転席に向かう。
「それ俺の仕事じゃありませんって!!」
「隊長って、やっぱ隊長よね」
適当で大雑把な性格の為、適当な言動を見るとどこかほっとする二人であった。
「で、今回は直か?」
「一旦、北東第三基地経由で目的地に向かいます。ルートはAポイントを通過し、断崖の丘から東に六キロの地点になります」
「めんどいな。武器の整備はどうなってる?」
「リッカ整備長が『完璧!!』と言っていました」
「流石だな」
「ですね」
橘リッカは十代後半と言う若さながら、他の追随を許さない程の実力と、明るい性格をしており、自身の力だけで整備長まで登りつめた実力者なのだ。
周りからの信頼も厚く、女性と言うのもあって、男どもの士気を知らず知らずの内に上げている。
「持っていく武器は相変わらず、新型か?」
「はい。隊長の愛武器は、いつも通り禁止とニーナ大佐が」
「隊長が防衛対象ごと敵を破壊するから、そうなるんだよ!」
その余分な言葉が仇となり、運転がかなり楽しい事になる。
酔わない体質でなかったら、数回は嘔吐する程の楽しい運転だ。
「こ、このバカ!」
その言葉には、殺意が滲んでいた。
無論男の隊員への。
「ふむ。着いたな」
その頃には二人は口を押さえてダウンしていた。
顔が真っ青でちょっとでも刺激したら、中身がこんにちわしそうな程。
そして崩れ落ちる様に車を降り、壁に手を当てながら、龍一を追う二人。
「ようリッカ」
挨拶代わりに、軽く手を振る。
「お疲れ様〜。準備は出来てるよ! 付いて来て」
リッカがいつもの場所に向かって歩き出す。
到着したのは整備が終わり、各隊員の武器が格納されたエリア。
一つ一つの武器が専用のケース入っている。
手慣れた手つきで、リッカがコンピューター命令を打ち込んでいく。
「相変わらずの手際だな」
「夢に出るくらいはやってるからねー」
龍一とリッカは付き合いが長く、親友の様に互いを思っている。
なので結構軽い。
「二人共に無事に帰って来て、しっかり武器のメンテさせてよ」
「おう!」
「はい!!」
二人が元気よく返す。
「俺は?」
「武器を壊さないでね!! 直すの大変なんだから!」
「俺だけで酷くね!?」
「普段の行いだね」
リッカの言葉にうんうん、と二人が頷く。
「じゃあ行っくるわ」
「皆気をつけてね!」
龍一達は、即効性の猛毒が入った筒状の注射器を首に押し当て、それを注射する。
猛毒に苦しむ事はない。
即死なのだから。
三人の体が霧散していく。
持ち物も全て。
そして三人の意識はすぐに覚醒する。
蘇生柱と呼ばれる装置の前で蘇生した。
まるでゲームのファストトラベルの様に移動する為の、ヴァイター専用の移動手段である。
ヴァイターは死ぬと体が霧散する。
その性質を利用し、チェックポイントとなるのがこの蘇生柱なのだ。
戦闘中に死亡した場合は、例外を除き、直近の蘇生柱に蘇生する。
ちなみに血命核が砕かれた場合は、蘇生出来ない。
そしてヴァイターは、敵から力を少し吸い取る事ができ、一定時間すると、体が力に適合し、自身の力にする事が出来るが、死ぬと死亡地点に適合していない力が少しの間、滞留する。
そのため消えるまでに回収する必要があるのだ。
「着いたな」
「お待ちしていました。こちらです」
「話が早くて助かる」
第三基地所属の男性隊員が三人を、今回使用する車両まで案内した。
「一応、飲食料はありますので、道中の暇つぶしに食べてください」
「ありがとうございます」
「いえいえ」
男性隊員が顔を少し赤くして、その場を後にする。
「特務の皆さん、無事を祈っています」
第三基地整備班所属の女性隊員が、車両の最終チェックを終え、門を開き三人を見送る。
エンジン音を響かせながら、朽ち果てた地を駆ける。
運転は交代で行い、目標地点に向かう。
「いつも思うけど、トイレ行かなくていい体は旅に便利だよな隊長」
「だな。一々どっかで休む必要もないし」
「もー女の子前でそんな話はダメだよ〜」
運転中の女性隊員である゛ミア・ユースティア゛が、男同士の気兼ねない話に冗談混じりに言う。
「お前の前だからこんな話が出来るんだよ。他の女子だと引かれちまう」
「そうだね〜」
何とも言えない笑みを浮かべる。
「……確かに、生理とかも無くなったし、トイレも必要ない何て女の子的には結構嬉しいんだよ」
「その辺の気持ちは共感できんな。オスにはない機能だし」
「あったら怖いですよ」
実際、彼らヴァイターは睡眠すらも必要ない。
生命維持に必要な一部機能は、ただ残ってはいるだけで、個人の自由で寝たり食べたりするだけの機能まで成り下がっていた。
そして人体の欠陥の一部は完璧に消えていた。
「隊長、言い方な。せめて雄って言おうぜ」
「変わらないからね、それ」
冗談を言い合いながら、朽ち果てた地に笑い声が微かに響く。
「隊長見えてきたぞ」
男の隊員である゛太刀山 マサキ゛に運転を交代していた。
「今回の討伐目標はなんだ? 今更だが俺は聞いてないぞ」
「流石隊長ですね」
「褒めるなよ。照れちゃうだろ」
「褒めてない!」
ミアが呆れ顔をしていた。
そして咳払いをして、説明を始める。
「今回の討伐目標はB級指定堕天のノスノスとA級指定堕天のバギスです」
「数は?」
「ノスノスが一二とバギスが二です」
説明の最中に車が止まる。
崖の様になったちょっとした丘から、三人が備え付けの双眼鏡で敵を探す。
「いたぞ。一時の方向、崩れかけてるビルの影だ」
「こっちも確認したぞ隊長」
「私もです」
そこに居たのはノスノスであった。
見た目はカピバラに違いが、肉食獣の様な牙に、小型恐竜の爪の如き爪を持った四足獣だ。
もちろん、地球に元から居た生物が進化したものではない。
「牙とか爪がなければ可愛いんですけどね」
「見た目カピバラだしな」
呑気な会話をしながら、索敵を進めていく。
「隊長、報告と数が違うぞ。パッと見、二一匹くらいいるぞ」
「まあ、誤差だな」
「いやいや、誤差で済ませちゃダメですよ!」
ノスノスは見た目に反して好戦的で、戦車の装甲を紙の様に扱う程の戦闘力がある。
決して油断出来る相手ではない。
「で、メインディッシュはどこだ?」
龍一がご馳走を探す子供みたいに周囲を見渡す。
「いませんね」
「いねーな」
二人も見つけられていない。
「物陰で見えないんじゃないか?」
「マサキの言う通りかもな」
「ですね」
三人は双眼鏡を車に戻し、装備を整え始める。
「あ、これ開発班からデータどりの為に使って欲しいそうです」
ミアが取り出したのはアサルトライフの形をした試作品の銃だ。
特殊弾と通常弾の両方のマガジンが用意されていた。
「俺らをテスターか何かと勘違いしてないか?」
「報酬も出るらしいぞ」
「全く俺らが居ないとテストも出来ないのか。仕方ないな〜」
「さすが隊長。掌ドリルなだけありますね」
「それに金にがめつい所も褒めないとな」
ミアとマサキが苦笑いを浮かべていた。
褒められて嬉しい龍一だった。
そして三人は物陰伝いに移動し、目標地点付近にあった廃アパートの一室から目視で地形と敵の位置を確認する。
「概ね偵察時から動いてないな」
「ですね。放射線測定器と瘴気測定器も反応なしです」
ミアが利き手と反対の手首につけている各種簡易計測器を確認する。
報告を聞き、二人も利き手の反対につけた計測器を確認した。
「マスクは必要なさそうだな」
龍一の言葉に二人が頷いた。
三人はアサルトライフのコッキングレバーを引き、弾を薬室に込める。
「行くぞ」
「「了解!!」」
窓から飛び降り、ノスノスの群れの後方へ移動し、発砲を開始。
消音器を装備させていないため、気持ちの良い銃声が、廃墟の街に木霊する。
弾丸の雨がノスノスを襲う。
ダメージは入っている殺しきるまでに時間がかかる。
「こりゃー、時間がかかるな。敵次第だと殺りきれねーぞ」
「ノスノスは硬い分類の堕天だから、改良すれば大体の敵なら殺れそうですね」
銃の感想を言い合っていると、地響きが聞こえ、一行は警戒レベルを一段階引き上げた。
「試作特殊弾用意!! 装填後、各自の判断でぶっぱなせ!」
「「了解!!」」
手慣れた動きで装填を行う。
マガジンをリリースし、特殊弾が入ったマガジンを差し込む。
薬室に一発だけ残っていることで、コッキングの過程を飛ばし、そのまま発砲する。
銃声が変わった。
先程までの重々しい音ではなく、どこか乾いたような音だ。
「おいおいおい!! 銃声に誘われてノスノスが増えたぞ!」
最悪な物を見た時の表情をマサキが浮かべ、それを見た龍一が不敵に笑った。
「わくわくするなー」
「しません!!!」
ミアが全力で否定。
その反応もまた面白かったのか、鼻で笑う。
「どうやらお客さんの様だ」
「ですね。手筈通りここは私たちが受け持ちます。隊長は存分に暴れてください」
「了解だ。さて、メインディッシュを貪るとするか!!」
その瞳には狂気的なまでの殺意が滲んでいた。
ありとあらゆる物を破壊したいという破壊衝動が彼の殺意をさらに増幅させる。
だが、その衝動を深呼吸して抑え込む。
これは彼の切り札であり、諸刃の剣でもあるからだ。
「もう1匹はどうした?」
その問いに答えることはない。
ただ咆哮を上げて、バギスが龍一を襲う。
虎に似た顔にゾウの様なずっしりとした巨体、戦車の装甲が着いたような印象を持たせる四足獣。
その強靭な肉体から放たれる一撃は、ただ腕を振り下ろしただけでも、かなりの威力を誇る。
「おっと、あぶね〜」
バギスの攻撃を避け、アサルトライフルの引き金を引き、銃弾を叩き込む。
敵との距離を取り、常に走りながら攻撃する。
血の力を解放し、力を銃に注ぎ込む。
それにより高火力の攻撃が可能となる。
バギスが加速した。
発達した牙で喰らいつこうと攻撃する。
その加速に一瞬反応が遅れた龍一は、銃を放棄した。
銃はバギスの牙よって破壊されてしまう。
「ちー。……やばっ! 武器置き忘れた!!」
咄嗟に武器取ろうと、背中に手を回す。
しかし、手は空を切る。
その頃ミア達は。
「減る気配がねーぞ。てか、増えてね?」
「文句言わない」
「この武器だと火力が足りない」
「否定はしないよ。……?」
近くに置かれた武器ケースを見て、ミアが首を傾げた。
そこにはミアとマサキの分、そして龍一の分があった。
「ねぇマサキ、これって隊長のメイン武器だよね?」
「あ? あーだな。……ってことは……」
「うん。多分今頃、逃げてるんじゃないかな」
銃声に悲鳴と轟音が響く。
逃げる龍一と追うバギスのものだ。
段々と近づいてくる。
その気配に嫌な予感を覚え、二人が音の方を振り返る。
ノスノスをいなしながら、音の方を注視すると、全力で走っている龍一が視界に映る。
「何やってんだ。うちらの隊長わよう」
「あはは。全力でこっち向かって来てるね……」
「やばくね?」
「やばいね」
互いに顔を見合うと、自分達の武器ケースを握り、近くの廃ビルの影に飛び込む。
龍一が武器ケースを回収すると、ミア達の邪魔にならない様にバギスを誘導する。
「行ったな」
「だね。……こっちもそろそろ本気で片付けようか」
「ああ」
二人は武器ケースを開き、中から愛用の武器を取り出す。
マサキは大剣を構え、ミアは銃剣を構える。
銃剣は血の力を使って銃撃するため、現在開発中の銃とは設計が違う。
「堕ちるなよ、ミア」
「余計なお世話よ。この力とどれだけ付き合ったと思う?」
マサキが鼻で笑った。
「足引っ張るなよ」
「それは私の台詞!」
二人がノスノスの群れに突っ込んでいく。
マサキが大剣を振るい、重い一撃で敵を両断し、敵の攻撃を大剣を盾にしながら防ぐ。
銃剣による素早い斬撃で敵を切り裂き、距離が離れた瞬間に銃撃で敵を貫く高速戦闘を行うミア。
ミアの固有武装は、攻撃特化したものでは無い。
視力を異常な程強化し、身体能力を上昇させる武装だ。
固有武装が目を覆い、目に関わる全ての能力を跳ね上げることで、まるで時間の流れが遅くなった様に全ての現象がスローに見える。
その状態に適応する為、身体能力も強化されている。
敵の攻撃を防ぎながら攻撃を行うマサキが固有武装を展開する。
左腕が変異し、異形の物になるが腕の形状は保っている。
その左腕は途轍もなく硬く、中遠距離攻撃の威力を上昇させる能力であり、敵への切り裂きや突きといった攻撃も可能。
「数が多い!」
ミアが愚痴を漏らす。
それと同じくして、右腕変異させて敵に突き刺し、力を吸い上げる。
目を強化する固有武装は、両腕を変異できる代わりに攻撃がかなり低い。
そのため、敵の装甲を破壊するなどしなくては、刺すことが出来ない。
そしてマサキがノスノスを左腕で貫き、力を吸い上げる。
これにより消耗した血を回復させる。
『こりゃー、隊長が上に怒鳴り込みに行くな』
『上の人達も大変なことになるね』
通信をしながら、呑気に戦闘を行う。
声音にはまだ余裕の色が見える。
ミア達と距離が取れたのを確認すると、龍一が武器ケースから愛用の武器を取り出す。
バキスよ方へ反転し、戦闘態勢に入る。
「いっちょ、やりますか!」
力強く地面を蹴り、突進してくるバギスに突っ込んでいく。
バギスが口を開き、噛み付いてくる。
回避と同時に剣で斬りつけたが、切り裂く事ができず、弾き飛ばさる。
「うおっ!」
数メートル吹っ飛んでから体勢を立て直す。
互い睨み合う。
近くで瓦礫が崩れ、その音を合図とする様に、攻撃を仕掛ける。
バキスが前脚を振り上げ、振り下ろす。
踏み潰す様に攻撃を連続する。
それを剣で受け流したり、回避をしながら少しずつ斬りつけ、ダメージを蓄積させていく。
バギスが噛みつき攻撃の為に、体勢を低くした瞬間、龍一がバギスの腕を踏み台にして、跳躍した。
そして左手でバギスの背中を触る。
すると、接触が条件で発動できる血技が放たれた。
技の名は゛ディテーション・ボルト゛。
釘打ち機の様に血の力で作られた棘を打ち込み、内部で爆散させる技。
耐久力が無い敵なら、原形さえ残らない。
だが、バキスは死ぬことはなく、ただ怯み痛みで絶叫するだけだった。
「やっぱ耐えるか。……ディテーション・ボルトを耐えきるとか、自信なくなっちゃうぜ」
余裕の色を残し、敵を観察する。
バギスが跳躍して、龍一を叩き潰そうと攻撃してくる。
龍一はバックステップで避け、距離を取る。
すると、バギスが雷の槍を六本作り、それを放つ。
「やば!」
龍一が避けると、その硬直狙うように雷の槍が追加で飛来する。
降り注ぐ様な攻撃を避けながら、バギスに向かって走り出す。
雷の槍が目の前に迫り、直撃しそうなタイミングで体を霧散させた。
そして数メートル進んだ先で実体化する。
地面を強く蹴り、バギスとの距離を詰める。
バギスの大ぶりの振り下ろしを避けると、血の力を解放して剣に力を注ぎ、敵の右前脚を斬り飛ばした。
龍一の鋭い眼光がバギスを捉えて、決めにかかる。
敵が仰け反っている間に連撃を与える。
そして敵を両断する。
その傷は深々とバギスに刻まれた。
露出した核を素手で抉り取り、それを捕食する龍一。
その時であった。
一瞬の隙をつき、もう一体のバギスに龍一が殺された。
「しまった!!」
死んだことで体が霧散していく。
霧散する直前に血の印と呼ばれる血の力を応用した特殊技能を使う。
これは設置した地点に蘇生する事ができる。
ただし、一定時間が過ぎると効果が消えてしまう。
「まさか、リセットさせられるとわな」
死んだ地点まで移動し、取り込みでいる最中だった力を回収すると、剣を構える。
「さて、第二ラウンドだ」
子供が新しい玩具で遊ぶ様なわくわくとした表情を浮かべる。
それは純粋な殺したいという、無垢なもの。
今から始まる戦闘に心踊らせる。
最初に動いたのは、バギス。
だが、龍一はすでに血の力を解放した状態。
つまり、最初から殺る気満々。
バギスの初撃やり過ごし、腕を跳ねる。
返す刃で右目を斬り裂いた。
そして二回目の攻撃避け、コアがある腹部に潜り込み、腹を掻っ捌く。
露出したコアを左手で抉り取り、勝敗がつく。
取り出したコアは捕食し、取り込む。
「こっちは終了っと。あいつらは、終わったかな?」
二人の元へ龍一が歩いてく。
ミア達が視界に入る。
まだ戦闘は続いていた。
「こっちは終わったぞ」
戦闘に参加する。
血の力は解放していない。
それでもノスノスは、もはや雑魚の様に蹴散らされていく。
「早すぎ……なんです、よ!!」
ミアと背中合わせになる。
「まだまだだな。こんなのに苦戦するとは」
龍一が参戦したせいで、見る見るうちに数が減っていく。
「終わった〜。隊長マジで強すぎ」
「それ毎回言ってない?」
「ははは! 言ってる」
二人が談笑している。
『おい爆乳、終わったぞ』
『了解だ。素材の回収も忘れるなよ』
『わかってるって。じゃあな』
龍一が通信を切る。
「素材取って、撤収するぞ」
「「了解」」
「とりあえずこれだな」
三人はバギスを見て、表情を曇らせる。
何せ大きさが大きさだ。
剥ぎ取る量もかなりある。
そしてコアを引き抜いている以上、時間が経てば死体が霧散する。
その為、高速で解体せねばならない。
かと言ってコアが肉体に残していると蘇生されてしまうため、残しておくという選択ができない。
強い敵なら尚更に。
「終わる気がしない……」
「この後はノスノスも解体しないと……」
三人共、目が死んでいる。
「戦闘中、漏らさなかったようだな」
「当たり前だろ。初陣じゃないんだからさ」
「…………」
ミアが黙っているのに気がつく。
「もしかして」
「お、お漏らしなんかしてない! ちょっと出ちゃっただけだから」
龍一が下に視線を移す。
スボンが濡れていた。
「み、見ないで! 敵の攻撃防いだら力んで……仕方ないじゃん」
恥ずかしそうに顔を赤く染める。
「さては飲み物を飲んだ後に、完全吸収するの忘れてたな」
「あーなるほど。普段使わない機能だから、抑えが効かなかったのか」
「分析しないで!!」
龍一が優しく撫でた。
それでさらに恥ずかしくなったのか耳まで赤い。
「もー忘れただけで、こんなことになるなんて……」
「仕方ないな。機能として残ってるから、入れたら出さざるを得ない」
「次からは忘れないようにする……」
涙ぐみながら手を動かす。
「俺も気をつけよ」
龍一が移動車両から戻ってくる。
「ほら、これで拭いとけ」
「ありがとう」
受け取ったタオルで顔を隠す。
そして少しして濡れた部分をタオルで拭う。
「にしてもミア、なんでズボンなんだ? いつもスカートだろ」
「洗濯したんだけど、雨で全滅しちゃったの。上はロッカーに入れてた予備かな」
「昨日の雨やばかったもんな」
マサキとミアが空を見上げた。
やや雲がかかり、雨が降りそうな感じだ。
少し青空が雲の隙間から顔を覗かせる。
「お前ら、ひと雨来る前に終わらせるぞ。ずぶ濡れは回避したい」
「そうですね」
「だな〜」
そんなことを言い合い、死体の山を見てため息を零す三人だった。
そして素材の回収を終わらせた三人は、移動車両に乗り込み、基地を目指す。
「二人とも、ご、ごめん。車止めて」
「ミア、大丈夫か? 顔が真っ青だぞ」
ミアが腹を押さえていた。
移動車両が止まると、慌てて降りた。
「た、隊長、ついて来ないで」
「仕方ないだろ。俺らのパーティー、女子はお前しか居ないんだから。必然的に、護衛もこうなる」
諦めた様に瓦礫の影へ歩くミア。
「み、見ないでよ」
「ここにいるからさっさと済ませてこい」
「ん」
そして瓦礫の影で、ズボンと下着を下ろす。
「変なもんでも食ったのか? ヴァイターは普通、腹痛なんて起こさないぞ」
「両手が塞がってた時にノスノスに攻撃されて、それを喰いちぎったのが原因かな。その時、うっかり飲み込んじゃったんだよ」
「それだな」
龍一が気を利かせて、大声で話す。
周りに敵が居ないことを確認した上で。
戻ってきたミアに薬を渡した。
「水ある? 手を洗いたい」
「あるぞ」
持っていた水筒の蓋を開ける。
ミアも察して手を出して、手を洗う。
「薬飲んだか?」
「うん」
「じゃあ行くぞ」
移動車両へ戻る二人。
「まさか完全吸収ができるヴァイターで、腹を下す奴がいるとは、思わなかったぞ」
「こればっかりは、反論できない……」
しょんぼりするミアを、龍一は励ますように笑う。
「マサキ、運転変わるぞ。お前らはゆっくり休んでるといい」
「そうさせてもらう」
運転を交代すると、龍一が第三基地まで運転する。
基地に着いたのは明け方だった。
素材や任務の詳細を報告し、一通りの事をやり終え、三人は中央本部へと帰還した。
三人を迎えたのは、リッカだった。
「三人とも、おつかれ〜。無事に帰ってきて何よりだよ」
「おう、ただいま。メンテ頼んだぞ。あと試作品の実験データなこれが」
「ありがとう。これで開発が捗るよ」
一行は武器を近くの台に置くと、リッカが部下に指示を出してそれを運ばせていた。
「ゆっくり休んでね」
「言われなくても。じゃ、またな」
「バイバイ」
龍一が背中越しで手を振って、その場を後にする。
ミア達もリッカに一礼して、龍一の後を追う。
「整備長、あの二人も成長しましたね」
「そうだね。武器がこんなになる程だもん」
整備班の二人が誇らしげに、その背を見届ける。
その頃、他の戦場では広域で通信障害が発生していた。
磁場に干渉する堕天によるものだ。
ほとんど戦闘力は無い代わりに、小型で俊敏性が高い。
その上、物陰に身を隠す習性があり、擬態などを行う際の能力行使が、通信障害の原因となる。
見つけるのがかなり大変で有名でもある。
「司令部! 司令部! 応答願います! 司令部!!」
何度問いかけても聞こえてくるのは、ノイズ音だけだった。
通信できない状況に、問いかけを行っていた赤髪の少女が舌打ちをした。
それほどの緊急事態に見舞われていた。
彼女たちの部隊の隊長が、天鬼へと転化し始めていたからだ。
゛RC89細胞因子゛との適合率が高いほど、強力なヴァイターとなる。
だが、その反面、天鬼へと落ちれば、強力な個体が出来上がる。
そして彼女たちの隊長はの適合率は、Aランク。
上から数えて、二番目に高い適合率の区分に分類される。
つまり、Aランクもしくはそれ以上の脅威となる天鬼が生まれようとしているのだ。
「イリヤ待て!!」
赤髪の少女の制止の声を無視し、銃剣を握りしめて隊長に向かって突貫していく。
次の瞬間には、隊長の心臓部を銃剣で貫いていた。
「あり……が、とう」
そう言い残して体が霧散していく。
死に戻りの状態ではない。
完全なる死だ。
残ったのは認識票と、隊長が愛用していた小型の片手剣そして衣服だけだった。
イリヤの脳裏に泣きながら微笑む隊長の姿が、焼き付いて離れなかった。
唇を強く嚙み、スカートの裾を強く握り、平静を装う。
「何故殺した!! 命令は待機だったはずだ」
「今殺らなければ、取返しのつかないことになっていました。それに隊長以外は全員生きてますよね?」
赤髪の少女が勢いよく、イリヤを殴った。
それは命令違反に対するものでもあり、まだ助かる可能性が残っていたやるせなさからだ。
薬の使用許可さえ取れれば、転化を止めることが出来た。
だが、責めるものはいなかった。
これが現状の最善だったから。
一行は隊長の遺品を回収して、基地へと帰還した。
イリヤだけが司令部に呼び出された。
「……転属、ですか?」
「ああ。今回の命令違反及び隊員殺害への処罰だ」
「納得がいきません大佐! あの状況ではあれが最善だったはずです。何故なんで――」
「軍とは! 命令が全てだ」
白髪が生え、髭も白くなる程の歳。
だが、体つきは現役の軍人だった。
そんな男がイリヤの言葉を遮り、終わりだと言わんばかりに、椅子に座り背を向ける。
「……失礼します」
声に覇気がない。
気分も最悪と言った様子だった。
彼女が去った後、補佐官が口を開く。
「よかったんですか? 大佐。彼女ほどの隊員を戦力から除いて。まだ学生ですし、成長の余地はあったのでは?」
「だからだよ。イリヤ学生は、優れた判断力がある。一隊員として燻ぶらせるよりも、独立部隊の隊長を目指してもらう」
「配属先は――。なるほど」
転属書類には、゛中央本部所属第00独立小隊゛と記載されていた。
隊長名は刀藤龍一。
転属理由には、命令違反とのみ記載され、認印が押されていた。
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