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〈ミッション3日目③〉唯一の友へ

続きっす。

-side 南条翼-


 真冬の屋上。『男1女2』の組み合わせの高校生3人組が屋上の入口扉の前に輪を作り、各々座って弁当を開封する。


「いやー! 翼くん! 茜ちゃん! やっぱりまたまだ寒いね!」


「あ、ああ! クソ寒いな!!」


「そ、そうね。確かに寒いわね...」


「...」


「...」


「...」



 あはっ♡ 会話が続かないっ♡




 やべぇ。マジでどうすればいいんだ。よくよく考えたら俺がこの3年間でマトモに話した女子って柳しか居ないじゃないか。そういやパンツミッションが開始する前までは全然片桐と喋ってねぇんだったわ。え、マジで何話せばいいのか分からんのだが。


「ね、ねぇ、愛佳、南条」


 お! なんかよく分からんけど片桐から会話のパスが来た! フッ、コイツなんだかんだでやっぱり俺のこと好きなんだな。まったく。素直じゃない奴め。


「愛佳はどうして昨日南条にパンツを見せようとしてたの...?」


 飛んで来たのはとんでもないキラーパスだった。


「あ、茜ちゃん!? き、急にどうしたの!?」


 おい柳。お前動揺し過ぎだろ。気持ちは分かるけどもう少し抑えろ。一旦落ち着け。


「いや、昨日は愛佳が南条から嫌がらせを受けてたのかなって思ってたけど...よくよく考えたら愛佳が断れば良いだけの話だなって思って...」


 あー、うん。できれば片桐さんには俺にハイキック喰らわせる前にその結論にたどり着いて欲しかったかな。いや、まあお前がハイキックしてくれたおかげで黒のエロいヤツ見れたから別に良いんだけどさ。


「え、え、えっとね、あ、茜ちゃん、昨日のアレはね、えっとね...」


 だから動揺し過ぎだろ柳ちゃん。バグったAIみたいになってるぞ。


 ...はぁ、仕方ない。ここは俺が助け舟を出すしかないか。


「あのな、片桐」

 

「今から愛佳が何か話そうとしてるでしよ。とりあえず南条は黙ってて」


 助け舟、即沈没。


「え、えっと...えっと...」


「...愛佳?」


 あー、多分アレだな。柳って不測の事態に対応できない系女子なんだろうな。多分アドリブとか苦手なんだろ。片桐からこんな事聞かれるとは思ってなかったんだろうな。だからこんなに慌ててるんだろうな、きっと。


 ...よし、ここは天才南条様がもう一度助け舟を出すとしよう。


「おい柳。そういやさっき言い忘れてたけど新山先生がお前に用があるって言ってたぞ。今すぐ職員室行ってこい」


「え!? 翼くん、それ本当!?」


 もちろん嘘だ。ていうかお前って俺の嘘見抜けるんじゃなかったっけ。まあ細かいことは良いや。とにかく柳は今すぐ屋上から出て行った方が良い。万が一だが、焦って『翼くんが見たいって言ったからパンツを見せたんだよ』とかゲロりやがったら柳まで片桐から変態認定を受けてしまうからな。それは絶対に避けなければなるまい。お前まで片桐から警戒されてしまったら協力してもらう意味が無くなってしまうんだよ。変態は2人も要らない。俺1人で十分だ。


「おい柳。いいから早く行ってこいよ」


「う、うん分かった! すぐ戻ってくるから茜ちゃんと翼くんはこのまま屋上に居てね!!」


 すると柳は猛ダッシュで屋上を去って行った。


「...ねぇ南条、どういうつもり?」


 そして速攻俺に懐疑的な目を向けてくる片桐さん。


「どういうつもりも何も今言った通りだよ。柳は先生に呼び出されたんだ」


「いや、それ嘘でしょ」


 ...え? バレてんの?


「アンタさっき喋ってる時鼻動いてたもん。嘘つく時の癖よ。昔から変わってないのね」


 はっはーん、さては俺が嘘をつく時の癖を柳に教えたのは貴様だな?


「なんであんな嘘ついたのよ」


「...それは天のお告げがあったかr」


「いや、そういうのいいから」


 辛辣。


「はぁ...まあいいわ。アンタが嘘をついた理由なんて別に興味無いし」


「な、なんつーか...片桐って俺と2人きりの時は意外と普通に喋ってくれるのな」


「は!? べ、別に2人きりだからって訳じゃないわよ!」


 相変わらずツンデレだなぁ。


「ていうかなんでいきなり私をランチになんか誘ったのよ。仲良くなりたいから、なんて建前でしょ? どうせアンタのことだからもっと下衆な目的で...」


「いや、そこに関しては嘘は無い。俺はもう1度お前と仲良くなりたいんだ」


 ...うん、嘘は言ってない。


「な、なんで今さらそんなこと言うのよ」


「うっ、そ、それは...」


「今になってそんなこと言われたって信じられないよ...だって中学の時に私から離れて行ったのは翼の方じゃない...!」


 やばい。この展開はちょっとマズイ。


「......それは悪かったと思ってる。本当にすまない」


「い、今さら謝られたって...!」


「......本当に悪かった」


「そんな事言われたって...! 私...! 私...! そんなのどうすればいいのかなんて分かんないよ!!」


「あ! 待ってくれ片桐!!」


 しかし俺の声は届かず、そして咄嗟に片桐を引き止めようとして伸ばした手も届かず、彼女は屋上から全速力で出て行ってしまった。


 ...そして1人屋上に取り残された俺は入口の扉に向かって語りかける。





 

「おい、柳。どうせ扉の裏に居るんだろ。今のやりとりも全部こっそり聞いてたんだろ。それでさっき屋上から出て行く片桐の姿を見てちょっと気まずくなってんだろ。大人しく出てこいよ。別に怒らないからさ」


「あ、あはは...やっぱりバレてたか...」


 すると先ほど片桐が乱暴に閉めた扉が再び開き、どこか申し訳なさそうな様子の柳が出てきた。


「どうせ教師からの呼び出しが嘘だというのはお前にはバレてただろうからな。カミカゼを覗いていたお前のことだ。どうせ扉の裏にでも隠れていると思ってたよ」


「い、いやー、私が慌てて変なことを言う前に翼くんが機転を効かせて私を屋上から出て行かせたのは分かってたんだけど...な、なんていうか、その...どうしても2人のことが気になって...ごめんなさい」


 そう言いながらペコリと頭を下げる柳さん。


「だから怒ってないって言ってるだろ。別に謝らなくてもいいよ」


「...ねぇ、翼くん。さっき茜ちゃんがすごく怒った顔して屋上から出て行ったように見えたんだけど...」


「...あぁ、怒ってたな」


「そ、その...こういうこと聞くのは良くないって分かってるんだけど...一体2人の過去には何があったの...? 多分2人がずっと反発しあってるのって過去に何かがあったからだよね...?」


「はぁ...さすがにもう隠しきれないか。あぁ、そうだよ。俺と片桐の間には大きな確執があるんだよ」


「や、やっぱりそうなんだ...」


 『やっぱり』か。まあコイツは結構前から薄々気付いてる気配があったからな。あまり驚いていないみたいだ。


「ねぇ、翼くん」


 柳は突然俺に呼びかけると、普段は見せないような真剣な表情で俺のことをじっと見つめてきた。


「...な、なんだよ」


 柳の目力に圧倒されて少し怯む俺。


「2人の過去に何があったのか私に教えて欲しい」


 柳の口から出た言葉は大方俺が予想していた内容のものだった。


「...別に聞いても良いことなんてないかもしれないぞ」


「それでも良いよ。私は翼くんと茜ちゃんが仲良く...仲直りするための力になりたい。そのためには2人の過去のことを知っておきたいの」


「柳...お前...」


「茜ちゃんは私の大事な友達。そして翼くんも...認めるのは嫌だけど大事な友達。だから私は2人に仲良くして欲しいの。私はそのためだったら何だってするよ」


「......ああ、分かったよ。じゃあ今日の放課後ウチに来てくれ。話せば長くなるからな。昼休みだけじゃ時間が足りない」


「うん! 分かった!」


「...はは、相変わらずお前は元気なヤツだな」


 眩しい彼女の笑顔を見て俺は改めて思う。柳はやっぱりアホであると。


 コイツは間違いなくアホだ。呪い解除ミッションとかいうワケの分からないことに率先して協力するし、反発し合う俺と片桐を何の見返りもなく和解させようとする。下手をすれば彼女自身と片桐の友人関係にヒビが入りかねないというのに。きっとコイツは後先考えず損得勘定無しに自分がやりたいことをやってしまうアホなんだろう。


 --でもこの時の俺はそんな彼女が羨ましいと思ってしまった。


 きっといつからか俺は自分が負うリスク、他人が負うリスクばかりを考えるようになっていた。ああ、多分俺は臆病なのだろう。臆病だから人の手を素直に借りることができない。臆病だから自分だけで何でもこなそうとする。そして...


 --臆病だから他人と距離をとろうとする。


 結局のところ俺が普段抱いている過剰な自信は自分を誤魔化すためのまがい物に過ぎない。俺は臆病な自分を騙すために『俺は天才だ。何でもできる』と自分に言い聞かせているだけなのだ。そうでもしないと俺は自分の弱い心に飲み込まれてしまいそうになってしまうのだ。


 --だから俺はありのままの自分をさらけ出せる柳のことを羨ましいと思った。






「どうしたの、翼くん。急にボーッとしたりなんかして」


「ああ、いや、なんでもねぇよ。ちょっと考え事をしてただけだ」


「へぇ、珍しいこともあるもんだね」


「...なぁ、柳」


 どうしてなのかは分からない。だが、俺は彼女の名を呼んだ。


 どうしてなのかは分からない。だが、この時だけは無駄に高いプライドを捨てて素直に彼女と向き合うべきだと思う自分が居た。


 いつもは色んなものが邪魔をして柳には素直に感謝を伝えることができていない。でも今日は、今日だけはそんなくだらない感情をかなぐり捨てても良いと思える自分が居たのだ。


 --だから俺は彼女に告げる。







「ありがとう、柳。お前が俺の友達でいてくれて本当に良かった」


 卒業間際の2月下旬。俺は今まで言いたくても言えなかった思いをやっと彼女に伝えることができた。

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