〈ミッション3日目④〉守りたい理由
続きです。
-side 南条翼-
放課後。2日目連続で柳と帰り道を歩く。
...だがなぜか今日は隣を歩く柳がいつもよりウザい。
「つーばさくんはツンデレさーん♪」
「なんだよそのクソみたいな歌。あとニヤニヤしながら俺の方見るのやめろ。なんか腹立つ」
「ふふふ、またまたぁー。翼くんは素直じゃないなぁー。本当は唯一の友達と下校できて嬉しいんでしょ? このこのぉー!」
ウゼェ。
「チクショウ。やっぱ柄にも無いことは言うもんじゃねぇな...」
今の柳は間違いなく調子に乗っている。きっと俺が昼休みにコイツに『ありがとう』なんて言ってしまったからだろう。
はぁ...なぜ俺はあんな事を言ってしまったんだ。柳が調子に乗る未来なんて目に見えてただろ。俺らしくもない。
「あいたぁ!!」
「...急に何コケてんだよお前」
何やら調子に乗ってスキップをしていた柳さんが足元に何もないところで突然コケた様子。何やってんだよお前。やっぱアホだな。
「いたたたた...」
「...おい、柳。足元に何か落ちてるぞ」
スカートをはたきながら立ち上がる柳の足元には何やらキーホルダーのようなものが落ちているのが見える。おそらく学生カバンにつけていたものだろう。コケた拍子に地面に落ちたんだろうな。
「ん...? あ、ほんとだ! 教えてくれてありがとう翼くん! これ結構大事なものなんだよね...」
地面に屈み、小さなキーホルダーを丁寧に拾い上げる柳。
「随分ボロボロなキーホルダーだな。なんでそんな物をカバンにつけてるんだ? 新しいのを買えばいいじゃないか」
柳が拾い上げたのは魔法少女的なキャラもののキーホルダーだった。だが随分と年季が入っているように見える。ところどころに傷が入っており、色もかなり薄くなっているのだ。
「い、いやー、まあ翼くんが言う通り結構ボロボロなんだけど...このキーホルダーは私にとって特別なものなんだよね。他の物より思い入れがあるんだよ」
「ふーん、そうなのか。まあよく分からんけど大事な物なんだったらもっと大切にしろよ。スキップした拍子に落として失くす、なんてバカバカしいじゃねぇか。探すのだって大変なんだからな?」
「う、うん、分かった...うふふ、でもさ、私がキーホルダーを失くしたらその時は翼くんも一緒に探してくれそうだよね」
「......うるせぇよ。ほらさっさと行くぞ。このままチンタラ歩いてたら日が暮れちまう」
「あー! ちょっと待ってよ翼くん! 歩くの早いよぉー! 置いてかないでよぉー!」
そして俺は後ろから聞こえて来る柳の声を無視し、歩行ペースを上げつつ我が家へと向かった。
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「ほら、茶と羊羹だ」
「わーい、今日はお菓子もついてるー!」
我が家に到着。昨日と同じく柳はソファーに座り、俺がカーペットに直座りという状態でテーブルを挟んで向かい合う。つーか和菓子出しただけで喜び過ぎだろコイツ。小学生かよ。
「...テレビでもつけるか?」
「ダメに決まってるでしょ。今日は私が翼くんからしっかりお話を聞かなきゃいけないんだから」
「あ、あはは...冗談っすよ...」
「じ、じゃあその...翼くんと茜ちゃんについてのお話を聞いてもいい...?」
普段とは違い、柳は随分遠慮がちに俺に尋ねてきた。
「...ああ、分かったよ。多分長くなるから覚悟しとけよ」
「うん。覚悟はもうできてるよ」
...こういう迷いのない真っ直ぐさは俺には無い柳の長所なんだろうな。
そんなことを思いつつ軽く息を吐き、過去に思いを馳せる。今から話す内容は決して楽しいもんじゃない。出来ることなら思い出したくない事でもある。
それでも唯一の友人であるコイツには話しておくべきなんだろう。まあいずれ話すべきことだとは思ってたのだが。
「スゥー......ハァー......」
...よし、精神統一終了。じゃあ話を始めるとするか。
「...コホン。えー、まず初めに1つ確認だ。南条翼と片桐茜は幼馴染同士。確かそれは知ってるんだよな?」
「う、うん、それは結構前に茜ちゃんから聞いたことあるよ」
「そう、俺と片桐は幼馴染。それも昔はかなり仲が良い幼馴染だったんだ。まあ今の俺たちを知るお前には信じられないことだろうけどな」
「う、うん...確かにそうだね...」
「それで仲良くなったきっかけっていうのは結構単純でな。小学生の時に男子からイジめられてる片桐を俺が助けたっていうのが俺たちの出会いだった」
「え...? 茜ちゃんってイジメられてたの...?」
「まあ小さい頃の話だけどな。ほら、片桐って結構特徴的な声してるだろ? アニメ声的な感じの。今はルックスも良いし声もかわいいっていう理由で男子から大人気だが、昔はその声をバカにするヤツらが多かったんだよ」
「なるほどね...」
「...まぁ、その、なんだ。お前からしたら俺が片桐を助けるっていうイメージはなかなかできないかもしれないが、俺がイジメから片桐を守っていたっていうのは本当だぞ? 昔の俺は今と違って善良な少年だったからな」
「あー、いや、別にそこに関してはあんまり意外だと思ってないよ。なんとなく想像できる」
「そ、そうか...」
そこはすんなり信じてくれるのな。うん、なんなんだろ。柳って俺を高く評価してるのか低く評価してるのかイマイチよく分からないんだよな...
「...コホン。で、まあ片桐を助けて以降、アイツはずっと俺に引っ付いてくるようになってな。小学校を卒業するまでの間は2人で居ることが多かったんだ」
「...2人は仲良しだったんだね」
「ああ、俺たちはそれはそれは仲が良い幼馴染だったのさ。あの頃の片桐はかわいかった。ずっと俺の後ろを付いてくる大人しい女の子だった」
「でも...それがいつまでも続いたわけじゃなかったんだよね...?」
「ああ、その通りだ。異変が起きたのは中学に入ってからだった。そう、ちょうど思春期に入り始めて誰しもが色気付き始める時期だ」
「...」
「俺と片桐は中学に入ってからも一緒に居ることが多かった。一緒に登校し、休み時間は2人で語らい、そして一緒に下校する。中学に入ってからも俺たちは2人で楽しく過ごしていたのさ」
「2人は...本当に仲が良かったんだね...」
「当時の俺たちは別に付き合っていたとかそういうわけじゃない。ただ小さい時からずっと一緒に居たから当たり前のように一緒に時間を過ごしていただけなんだ。でも色気付き始めた周りのヤツらは俺らのことを『そういう目』で見るようになり始めてな」
「...」
「男友達には『なぁなぁ、お前ら付き合ってんの?』とか『付き合ってもないのになんでずっと一緒に居るんだ?』とか言われるし、別に仲良くもない奴から『茜ちゃんとお前は一体どんな関係なんだ!』とか言われることもあった。まあ片桐茜は誰もが認める美少女だ。簡単に言うと俺は周りの野郎共から嫉妬されるようになったんだよ」
前までは仲良くしていた奴が片桐に惚れた途端に俺の陰口を言うようになったこともあった。顔もよく知らない奴から『付き合ってないんだったら片桐さんから離れろよ』と言われることもあった。今まではそんなことなんて一切無かったのにな。
でも当時の俺はそれも仕方ないことだと思っていた。そう思えるほどに中学生になった片桐茜は美しかったのだ。誇張抜きで当時の学年の男子のほとんどは片桐に惚れていたと思う。
片桐茜は普通の美少女ではないのだ。街を歩けば誰もが彼女の方を振り向く。1度彼女から笑顔を向けられれば、それだけで彼女の虜になってしまう。片桐茜とはそんなとんでもない領域に居る美少女なのだ。彼女の顔を見てその存在を無視できる男子など当時の俺の学年には居なかった。
--そう、片桐茜とはまさに魔性の少女なのだ。
「じゃあ翼くんは周りに嫉妬されるようになったから茜ちゃんと距離を置いたの...?」
「いや、別にそういうわけじゃないぞ。俺が周りから攻撃されるだけなら全然良かったんだよ。まあ友達を作ろうと思わなくなったのはちょうどその頃だったが」
「え...? じゃあなんで翼くんは茜ちゃんから離れたの...?」
「...結論から言おう。俺が片桐茜と関わりを絶った理由。それは俺のせいで片桐が傷つくようになったからだ」
「え...!?」
「なぁ柳。唐突だが俺はカッコ良いと思うか?」
「え!? そ、それは...」
「俺の性格は完全無視で顔だけで判断してくれ」
「だ、だったら...まぁ...カッコ良い方だと思うけど...でもそれが今の話と何の関係があるの?」
「...お前が言ってくれた通り俺は顔が良い。そして昔の俺は誰にでも優しくするジェントルマンで頭も良くて運動もできる完璧人間だった」
「...え?」
「つまり昔の俺は超モテていたということだ」
「うっわ...」
「ねぇ、ガチで引くのやめてくんない? 一応これマジ話だからね? 告白とか超されてたから」
「ま、まあ...性格が良い翼くん...ホワイト翼くんならモテなくはないか...な?」
あっはっは、そうそう。性格が悪い今の俺はブラック翼くん......って誰がブラックやねん。
「...よし、では話の続きだ。女子の柳さんに質問です。モテモテ男のそばにずっとくっ付いてる女子が居るとします。さて、他の女子たちはどんな反応をするでしょう」
「う、うーん...人によるとは思うけど...嫉妬する子も居るんじゃないかな...」
「お、ご名答だ。さすが女子だな」
「え...? じゃあまさか茜ちゃんも...?」
「ああ、そのまさかだ。片桐も他の女子から色々言われ始めたみたいなんだよ。しかも俺に見えない場所でな。女子ってホント陰湿だよな。俺もそれに気づくまで相当時間かかったわ」
「え...? じゃあ翼くんが茜ちゃんから距離を置いたのって...」
「ああ、そうだ。片桐を傷つけないようにするためだ」
...片桐を守ろうと思ったこともあった。でも片桐はいつも俺が見えない場所で傷ついている。だから俺じゃどうしても片桐を直接守ることはできない。
だから彼女が傷つかないようにするためには俺が彼女から離れるしか無かった。ずっと一緒に居たかったけどそうするしかなかったんだ。
でも片桐から離れるのはそう簡単なことじゃなかった。片桐はいくら自分が傷ついても、それでも俺のそばに居ようとしたからだ。
--だったら俺が皆から嫌われるような人間になれば良いと思った。
俺が嫌われ者になって周囲から疎まれる存在になれば片桐も俺に近づきにくくなる。俺が最低な人間になれば片桐が周囲から嫉妬されることも無くなる。
--俺が片桐から嫌われるような人間になれば片桐は俺から離れていく。そうすれば片桐はもう傷付かずに済む。
だから俺は皆に嫌われるために意識的に周囲を見下すようにした。
【お前って俺のこと好きなんだろ?】
上から目線のナルシストになればいいと思った。
【はっ、やっぱり俺は天才だな】
才能をひけらかす嫌なヤツになればいいと思った。
【今すぐどけろ。さもなくば俺がお前の膝の上に座る】
欲望を全て口に出す変態になればいいと思った。
--そうすれば俺が彼女の青春を邪魔せずに済む。
...だから俺は片桐茜との関係を壊したのだ。
「そんな...そんなの悲しすぎるよ...」
柳は俺の目の前で俯き、暗い表情を浮かべている。
「...そうするしかなかったんだ」
「でも...! それじゃ翼くんがあまりにも...!」
「はは、お前は本当に優しいヤツだな。俺は今まで散々お前をバカにしてきたっていうのに。なんで俺のためにそんなに悲しんでくれるんだよ」
「だって...翼くんは茜ちゃんのために行動したのに...茜ちゃんはそれを知らないんだもん...! そんなの納得できないよ...!」
「なぁ、柳。世の中なんて納得できないことだらけなんだよ。理不尽なことなんてそこら中に転がってる。報われない努力もあるし、誰にも気付いてもらえない善行だってある。誰かのために行動したからといって相手から必ず感謝されるとは限らないんだよ」
「それは...それは分かってるけど...!」
「それに俺がとった行動はあくまで自己満足に過ぎない。片桐から頼まれてアイツと距離をおいたわけじゃないからな。結局のところ俺の自己満足なんだよ」
「翼くんは...どうして茜ちゃんのためにそこまで...」
「...はは、そんなの決まってるだろ」
ああ、聞かれるまでもなくそんなことは分かっている。俺がわざわざ最低人間になってまで片桐を...茜を守ろうとした理由なんて1つしかない。
--そう、俺がどうしても、自分を犠牲にしてでも彼女を守りたかった理由はやはり『それ』しか思いつかない。
「茜のことが好きだから。それ以外にアイツを守りたい理由なんてねぇよ」




