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哲学科助教授・我妻行人、異世界で我思う、故に・・・  作者: 深海周二


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終章 我思う、故に・・・

眠れない夜が来た。

理由はなかった。ただ、目が覚めて、もう眠る気にならなかった。

行人はそっと戸を開けた。


明け方前の、一番暗い時間だった。村は静かだった。遠くで鳥の声がした。風が低く流れていた。


ふらふらと歩き始めた。どこへ向かうでもなかった。


村の中を、歩いた。見慣れた石畳の道。エナの家の前を通った。テアとよく話した場所を通った。ライナがいた村の外れを通った。どこを歩いても、どこかがあった。それぞれの場所に、この数ヶ月の何かが、静かにあった。


帰ることを考えようとした。


元の世界。K大学の百十二番講義室。宮内瑠奈。小川奈々美。


浮かんで——何もなかった。


もう一度考えようとした。やっぱり何もなかった。引き出しを開けたら空だった、というのとも違う。引き出しの場所がわからなくなっていた。


どこへ行っても、俺は同じことをやっている。


その言葉が来た。来て——何もついてこなかった。嘆きも分析も自嘲も来なかった。ただ来て、そのままそこにあった。


行人は空を見上げた。


三つの星が出ていた。


少し止まった。


そうか、俺は異世界にいるんだった。


驚きではなかった。感慨でもなかった。財布を忘れたことに気づいたときのような、静かな了解だった。


最初にこの星を見たのは、この村に来た最初の夜だった。眠れなくて外を歩いて、空を見上げたら三つの星があった。あのとき初めて、本当の意味で、俺は異世界にいると了解した。


今夜は、それがない。


ただ、三つの星が出ている。当たり前のように出ている。


風が来た。夜明け前の、少し湿った風だった。


遠くで鶏が鳴いた。まだ暗いのに、鳴いた。


行人は息を吐いた。嘆息ではなかった。ただ、息を吐いた。体が自然にやることをやった。それだけのことだった。


東の方から、空が少しずつ白み始めていた。村の輪郭が、ゆっくりと夜の中に現れてきた。煙突。木々。石畳の道。見慣れた景色が、明け方の光の中で少しずつ姿を取り戻していく。


行人はそれを見ていた。


どこへ行っても、俺は同じことをやっている。


最後にそう思った。今夜のその言葉には——何もついてこなかった。何もつかなかった。


三つの星が、静かに浮かんでいた。


我思う、故に——。


続きは、来なかった。


来なかったが——それでそういうことになっていた。


鶏がまた鳴いた。今度は近かった。


行人はゆっくりと歩き始めた。


ガランの家の方へ。


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