22. 幻影艦隊の懸念
映像はここで終了する、最後に映った彼女はほとんど中身が抜かれ空洞になった骨と肉だけの存在であった。
「そしてこの後、私が手術で彼女を君の体内に移植したんだ…… システム適合はSSBFの完全な能力を引き出すのに必須だった。君には本当にすまない事をしたと思っている」
僕は圧倒的な虚脱感に打ちひしがれた後、妙な納得感を覚えていた。僕が今の立場を理解するのにやっとそれなりの答えが得られたからである。
「僕は、これを知って誰かを恨んだり責めようなんて気持ちは思わない。皆がどう考えて僕に接して来てたのか知らないけど、僕は自然に受け入れてくれた事に感謝してるし、今後何があっても考えを変えない様にしたいと思ってる」
僕の言葉はあまり慰めにはならなかったようだ。気持ちに嘘も皮肉も無いが、彼等には寧ろ怒った方が気休めになったのかもしれない。
「これで僕に対する説明は終わり?それなら早く出撃に備えた準備がしたいんだけど。時間も少なそうだし」
今は思い詰めるより目の前の使命を熟す方が全員にとっても良い筈である。
「博士、お客様が……」
入口に男が見えるここでは見慣れぬ制服を着ている。
「トニー博士、取り込み中だったかな?」
「いや、今終わった所だ」
「分かりました、では英国政府からのご報告です。本日未明、フェーズXの開始を受けて官邸は剣を抜きました。今後、ここでの軍事活動は完全なる英国軍との協調運用となりますので以後、お見知りおきを」
「──となると合衆国も決断したのか?」
「ええ」
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グリーンランド島 約300km沖合いの大西洋上
「APF通信、特派員のモリソンがお伝えします。私は今、大西洋の沖合いにいる米海軍の空母フォレスタルの甲板上に居ます。ご覧ください、ここに艦橋程の高さにもなる巨大な球体が鎮座しています。国防総省から公式に詳しい情報を入手する事は出来ませんでしたが。関係者の話によるとこの一連の活動は、現在国連本部で行われている緊急会合との関連性が非常に高く。巷で広く噂されている『未知の脅威』に対して軍が具体的な行動を取る決定を下したと目されています。以上、モリソンでした」
幾つもの護衛艦を引き連れた空母からなる巨大な艦隊。その中枢である空母の艦橋から謎の巨大球体を見下ろしていたのは、艦隊を率いる立場にも関わらず重要な情報を知らされていないまま任務に就いている艦長とクルー達である。
「ソ連潜水艦は依然我が方から方位260度、距離1万ヤードを維持。副長、我が艦は敵から何回撃沈判定を食らったかね」
「我々がこの位置に静止して一週間、入れ代わり立ちかわりで大凡魚雷100本くらい喰らいましたか。敵の動きで分かりますよ、イワンの奴ら経験の浅いサブマリナーに訓練がてら的あてをやらせてんだ」
艦長は葉巻きの煙を吹かした。
「俺が最も懸念してる事はこの馬鹿でかい金属の卵でも、周囲を飛び回ってるトカゲ共でも、ちんたら周りを彷徨いてるソ連艦でもねぇ、もっとずっと艦隊の後ろをピンガーの届かない海中変温層下に潜んでる潜水艦。この艦隊1のベテランソナーマンが音紋を解析した所によるとあれば米海軍の原子力潜水艦だと言っていた。──こういう立場に長い事居るとな、薄々わかる事があるんだよ。あれは恐らく国防省指揮下の艦では無い」
「……と言うと?」
「専ら影に居るのはCIA辺りだろう」
「また何でそんな所が」
「俺等が今請け負ってる任務ってのが誰の差し金かと言ったら、まぁ英国の連中だからな。状況に迫られて大統領もサインせざるを得なかったと言えるが、ホワイトハウスは同時に他の案も実行してると言う事だ。実際の所あの建物で誰がどういう判断をしたのか知らんが、これ以上の詮索は軍人としての資質に問われる問題だ。今の話は全て聞かなかった事にしてくれ」
「賢明な判断だ艦長」
後ろから声を掛けたのは自らの任務を次の階層に進めているポールであった。
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同地点より深度200m。
「もう数週間陽の目を見てないな、いい加減嫌にならんかね艦長」
「──今、水面で我が軍の優秀な対潜部隊がこの艦を捉えている所だ。味方に攻撃されても文句は言えんぞ?」
「それは問題無い。交戦規定によって所属不明潜水艦への攻撃を禁じているからな」
潜水艦の中では指令室で艦長と外部から来た男が会話している。
「おたくらの事は一切関知するなと海軍本部からの通達だが。必要な事態になったら俺の判断を優先させてもらう」
「──海軍はあまり我々と関わるのは好ましく無いらしい。此方としては友好の印に何でも話すつもりだったのに残念だ。少しくらい経緯を知ったって問題無いだろう?」
「今政権を握ってる保守派政党の中でも意見がバラバラに分断されててね。大統領にそれぞれの立場と思惑が記された幾つかのプランを提案されて、長い時間を掛けてそれらを吟味した結果。大統領は国防省と大学の有識者が発案した英国と協調する作戦を第1の実行案として採用した。これはMI6から提供された彼の地に関するレポートと、パルマリックと呼ばれる企業による一連の技術デモンストレーション。そしてナチス残党政権による核攻撃の脅威と言う複数の事案に対する総合的な判断の元にあった。今、水面上で活動してる艦隊はこの合意を元に作戦行動を行なっている。……奴等の持ち込んだ技術の一部は合衆国にとって余りに未知であり脅威でもあった。ここでの懸念はもし英国がそれらの技術を習得した結果、第二次大戦で苦労の末得られた我が国の地位が脅かされる点にあったんだ。なので我が国でも積極的に彼の地を目指し、膨大な資本力と生産力によってその時間差ギャップを埋めようとするのが、この案の長期的な計画だった」
男は手に持ったカップで飲み物を啜る。
「ここのコーヒー、中々イケるよ」
「そりゃどうも」
「さて……その案に真っ向から反対したのが副大統領を始めとする一部上院議員と資本家達によって発案された第2案、異人技術交流の完全なる禁止だ。太った豚共が言うには『ハッタリ』『時間のムダ』『イギリス人の罠』とまぁ既存利得側から出る言葉なんてそんなもんだな。そんな戯言の中にも我々としても気になった点があった、このレポートは何処まで真実が書かれているのか……ってね、勿論精査したさ一言一句。まず気になったのが所々に書かれている単位。現在使用されてるMKS単位系とは違う物が見受けられた。特に電子工学系に関わる物は向こうの使用基準をそのまま書き起こしているようで、これでは此方の判断手段には成り得ない物だった。それともう一つ、何故か提出されたレポートには一部に黒塗りが施されていた。改訂された物を提出すれば良いのにだ。こういう物があると何とか解析したくなる癖が身に付いててね。なんとか読める程度に浮き上がった文字は『フェーズX』と記されていた」
「それは何だ?」
「それが分かれば苦労はしない。然し依然、向こう側にジョーカーが残っている説明付けとしては十分だった。副大統領の説明に疑惑を深めた大統領は秘密裏に第2案の実行も許可し、そうして今君達は秘密作戦を行なっていると言う訳だね」
「さてと、それでは金庫を開けようか?艦長」
男は首に掛けていた鍵を取り出した。




