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当ててみて、私の箱の中に何が入っていると思う?〜俺の冒險用ミミックだ!  作者: 上部乱
第二部——首都とネクロマンサーの観光農園

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第57話 これ、新種の悪魔を見つけたことよりも厄介だ。

「婆ちゃん。


もし“角笛をひと吹きしただけで、

宇宙船遺跡を丸ごと廃墟にできる悪魔”

がいるって言ったら、信じる?」


デレオは重い声でそう切り出した。


老婆は手にしていた茶杯の動きを止め、

鋭い視線を一瞬でデレオに突き刺す。


「坊や、あたしを相手に

冗談言ってるんじゃないだろうね。」


「こんなに、自分の話が

冗談であってほしいと思ったことは、

一度もないよ。」


デレオは大きく息を吸い込み、

その悪魔について語り始めた。


「ふん。

その宇宙船遺跡に、

そんな大物がいるもんかね。」


話を最後まで聞いても、

チェラーレはどこか納得していない様子で、

少し挑発めいた口調になる。


「チェラー……

ギルドの連中が、

もう何人もそいつに殺されてるの、

知ってるか?」


デレオは声を落とし、

沈んだ調子で告げた。


チェラーレは肩をすくめ、

負けん気の強い笑みを浮かべる。


「へえ?

じゃあ、その人たちは、何て言ってたの?」


「誰も、何も言えてない。」


デレオは首を振る。


彼女にも分かっているはずだ。

犠牲者の中には、

ふたりにとって共通の仲間も多いことを。


「そう……。

強すぎて、

遺体を持ち帰ることもできないレベルってわけ?」


チェラーレは首をかしげる。


半信半疑な言い方ではあるが、

話そのものはしっかり受け止めているようだった。


「遺体を持ち帰れないほど強い、ってだけじゃない。

もっとタチが悪い。

あいつは、死んだ人間の魂を拘束する。」


デレオの声音には、

はっきりとした警告がにじむ。


その言葉に、

チェラーレは小さく身震いした。


無意識に、

腰の短剣の柄へ手が伸びる。


人間の魂を縛る――


それは禁術の中の禁術。


反逆者の魔導師ですら手を出さない、

最大級のタブーだ。


「魂の拘束、ね……。

そんな真似に興味を持つのは、

本物の悪魔くらいさ。」


ウンブラ婆ちゃんは、

さすがに真剣な表情で言う。


「さあ、おいで。」


ウンブラは手をひらりと振り、

皆に付いてくるよう示した。


歩く速度はゆっくりだが、

その前を進もうとする者は誰もいない。


「おまえもだよ。」


ウンブラはアビスウズも呼び、

目で「傍観は許さないよ」と告げる。


「イナゴの翼、サソリの尻尾……

だいたい見大はつくよ、

その悪魔がどういう立場の奴かはね……。」


ウンブラは歩きながら、

低くつぶやいた。


その声は独り言のようでありながら、

あえて皆に聞かせているようでもある。


彼女は若者たちを連れて、

叫びマンドレイクの畑を抜け、

母屋の地下室へ向かった。


そこは湿り気を帯びた冷たい空気が溜まり、

壁には年月の刻んだシミが残り、

木の扉は開くたびにぎい、と軋む。


地下室の一角には、

厚い石壁で囲まれた小部屋があった。


ウンブラは銅製の鍵を取り出し、

錠前に差し込む。


重い扉が鍵の回転に合わせて、

ゆっくりと開いていった。


中には、

さまざまな古書や巻物、瓶や壺が

所狭しと積み上がっている。


年代物の電球が薄暗く光り、

舞い上がる埃を照らし出し、

異様で神秘的な雰囲気をつくり出していた。


ウンブラは、

博物館に寄贈されていてもおかしくないほど

古びた一冊の本を手に取った。


「これは太古の時代、

異世界への旅から戻った学者が残した記録さ。」


ウンブラは低く言う。


その声には、

深い不安がにじんでいた。


「ここを見な。」


ウンブラは皆を呼び寄せ、

その一ページを指さす。


『その煙の中から、イナゴが地上に出てきたが、地のサソリが持っているような力が、彼らに与えられた。

彼らは、地の草やすべての青草、またすべての木をそこなってはならないが、額に神の印がない人たちには害を加えてもよいと、言い渡された。

彼らは、人間を殺すことはしないで、五か月のあいだ苦しめることだけが許された。彼らの与える苦痛は、人がサソリにさされる時のような苦痛であった。

その時には、人々は死を求めても与えられず、死にたいと願っても、死は逃げて行くのである。

これらのイナゴは、出陣の用意のととのえられた馬によく似ており、その頭には金の冠のようなものをつけ、その顔は人間の顔のようであり、

また、そのかみの毛は女のかみのようであり、その歯はししの歯のようであった。

また、鉄の胸当のような胸当をつけており、その羽の音は、馬に引かれて戦場に急ぐ多くの戦車の響きのようであった。

その上、サソリのような尾と針とを持っている。その尾には、五か月のあいだ人間をそこなう力がある。

彼らは、底知れぬ所の使を王にいただいており、その名をヘブル語でアバドンと言い』


「ここに書かれている描写と、

俺たちが見たもの……。


たしかに、

いくつか特徴は重なってる。


ただ、俺たちが見たのは、

この“イナゴども”の方に近い気がする。」


デレオは小さく呟き、

黄ばんだ紙の上をそっとなぞった。


「その“底なしの淵の使い”の方には、

逆に一切、姿形の記録が残っていない。


時代が古すぎるのか、

それともこの手の異世界文献を

写したり訳したりするうちに、

細部が抜け落ちたのか……。」


ウンブラはわずかに眉をひそめる。


「いずれにせよ、老身の見立てでは、

そいつこそがアバドンだ。


新種の悪魔なんかじゃない。


無底の深淵の権能を持つ、

本物の魔王さ。」


ウンブラは本をぱたんと閉じた。


長年閉じ込められていたカビの匂いが、

ふっと空気に広がる。


「“新種の悪魔に遭遇しました”なんて話より、

よっぽど最悪だよ。


契約でこの世に呼ばれた下っ端じゃない。


魔王が、

自分の意思でこの世界に

実体を置いてるってことだからね……。」


彼女の声は一段と低くなり、

一行を引き連れて暗い書庫を後にした。


「政府の偉い人たちに、

ちゃんと報告した方がいいと思う。」


アビスウズが、

真劍な面持ちでデレオに進言する。


「そうだな。

そこらの冒険者パーティを

何隊か集めた程度じゃ、

とても太刀打ちできない。


軍隊を出すべき相手だ。」


ウンブラも、

重々しく言葉を重ねた。


「サリクス議長と、

禁衛軍のマスクルス司令、

それからフィネストラ会長には、

もう連絡済みだよ。」


アペスが答える。


彼女は、

兄なら必ずすぐ動いてくれると信じていた。


「そうだ、

フィネストラ会長が婆ちゃんを呼んでた。」


デレオは、

会長からの頼みをようやく思い出し、

慌てて付け加える。


「ここまで話が大きくなってるなら、

たしかに一度、

腹を割って話しておかなきゃね。」


ウンブラはうなずいた。


その瞳には、

決意と老いの疲れが入り混じった光が瞬く。


一行は母屋を出て、

悲鳴マンドレイク畑の真ん中まで移動した。


「でもさ、婆ちゃん。

どうやって首都に入るつもり?」


アビスウズは、

ウンブラにはもう一つ問題があることを分かっていた。


「どうやってって?

車でも徒歩でも、何だっていいさ。


あんた、あたしに

どんな入城方法を期待してるんだい?」


ウンブラは杖で地面をこん、と突き、

わざとらしくため息をつく。


アビスウズが分かっていて聞いているのが、

少し気に入らないらしい。


「でも、そんなに大量の不死生物の生體パーツを

持ち歩いてたら、

城門で止められるのがオチじゃない?」


チェラーレは腕を組み、

冷ややかな笑みを浮かべる。


「ふん、

あいつらの許可なんて、

いちいちいるもんかね。」


ウンブラは年寄りらしい尊大さで言い返した。


「とはいえ、そのまま歩いて行ったら、

市警備隊が全力で止めに来ますよね?」


デレオも口を挟む。


彼は、城門前で困り果てる

衛兵たちの姿を思い浮かべていた。


「ふん、

あたしを止めたいなら、

まず空軍を呼んでくるがいいさ。」


老婆の口元がきゅっと吊り上がる。


どうやら、

またひとつ悪戯のネタを思いついたようだ。


そう言い終えるやいなや、

ウンブラは勢いよく杖を草地に叩きつけた。


地面がかすかに震え、

濃い墨緑色の瘴気が、

彼女の足元からじわじわと広がっていく。


「ニュートン、メンデレーフ、メンデル、フロイト。

あいつを起こしておくれ。」


他人が慎重に長い詠唱を捧げるところを、

彼女はただ名を呼び、指さすだけ――


その実力差は、

ぞっとするほど歴然だった。


土が割れ、

地中から姿を現したのは、

腐肉に覆われ、

蒼い鬼火のような光を目に宿した巨大な影。


――ゾンビドラゴンだ。


喉の奥から響く低い咆哮と、

禍々しい闇の光が、

あたり一帯を震わせる。


あちこちの土から掘り起こされたマンドレイクたちが、

一斉に悲鳴を上げた。


本来なら、その絶叫だけで

ここにいる者全員の魂を抜きかねない。


それほどの奪魂の嘶きだ。


だが今は、

大地を揺るがす龍の咆哮が、

それすらねじ伏せている。


ゾンビドラゴンは、

ボロボロだが巨大な翼を広げ、

その影で悲鳴マンドレイク畑の半分を覆い尽くした。


やがて龍は首を垂れ、

翼を地面すれすれにたたむ。


ウンブラは一歩一歩、

その背中へと歩みを進めた。


杖を支えに、

しっかりと龍の背中に乗り上がると、

堂々と若者たちを見下ろす。


「こうして街に入ればね、

あたしを止めたい連中は、

对空砲のひとつやふたつ

用意しなきゃならないのさ。」


彼女はそう言って、

誇らしげに微笑んだ。


次の瞬間、

ゾンビドラゴンは地を蹴り、

悲鳴マンドレイク畑の上空へと舞い上がる。


ウンブラの高笑いが空にこだまし


龍の黒い影は、地平線の向こう、

首都の方角へと飛び去っていった。

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