第28話 初めて忍び込んだ男の部屋――この人、私以外の誰かはいないの?
そして五日が過ぎた。
家でだらだら休んでいるのも、
そろそろ飽きてきた頃。
メジェド教団に顔を出して、
ボランティアでもしてこようか
……と考え始めていた。
手入れ半分の装備を片付け、
ちょっと外をぶらつこうとした、その時。
玄関のドアロックが、
カチャカチャと妙な音を立て始めた。
どう聞いても、
誰かが不正な方法で
鍵を開けようとしている音だ。
『まあ、
誰かはだいたい想像つくけどな……』
デレオがドアを開けると、
そこにはマスターキーの束を
手にしたカシヤが立っていた。
ぶきっちょな手つきで、
必死に鍵穴をいじっているところだった。
「うち、インターホンあるけど。」
デレオが声をかけると、
カシヤは肩をびくっと震わせ、
気まずそうに振り向いた。
「だって……
休んでるかもしれないのに、
騒がしくしたくなくて……。
それに、
ノックしたらご近所さんに
バレちゃうでしょう?
わたし、
こっそり抜け出してきたから。」
デレオは苦笑して首を横に振り、
ドアを大きく開けた。
「ここまで来たんだし、
とりあえず中に入れよ。」
カシヤは
少し遠慮がちにマスターキーをしまい、
仕草も足取りも、やけに慎重だった。
足音をなるべく立てないように、
そろそろと部屋に上がり込む。
彼女はうつむき加減に
部屋の中をちらちらと見回し、
その瞳には、
好奇心とわずかな恥じらいが浮かんでいる。
洗面台のところに
歯ブラシとコップが
ひと組しかないのを見て、
カシヤはほっとしたように息を吐いた。
「本当に、お邪魔していいの?
迷惑じゃない?」
柔らかな声が、聞いているだけで心地良い。
アレカはカシヤの声を聞くなり、
コトコトと跳ねて彼女の足元まで行った。
「迷惑なんてないよ。どうせ俺も、
ちょうど暇を持て余してたところだし。」
デレオが気軽に返すと、
カシヤはしゃがみ込んで、
アレカのフタをぽんぽんと撫でた。
「この数日、家ではちゃんと過ごせてた?」
問いかけると、
彼女はこくりと頷き、
口元に穏やかな笑みを浮かべた。
「おじい様は、
なにかと忙しそうで……。
屋敷で働いてる人たちは、
みんなあなたの話をしたがるの。
わたしは、
なんだか落ち着かなくて……
やらなきゃいけない
ことがある気がするのに、
何から手を
つけたらいいのかわからなくて。」
二人は居間の椅子に腰を下ろした。
カシヤはそっと髪を耳にかけ、
改めて室内を見回す。
彼女の瞳には、貴族令嬢に
よくある「値踏み」や「批判」の色はなく、
ただ純粋な好奇心と好意だけがあった。
「これが男の人の部屋……?
なんだか、質素で落ち着く感じ。」
彼女はそっとそう言い、
伏し目がちにテーブルの上に置かれた
デレオの冒険道具に視線を落とした。
「この数日、家の中があまりに退屈で、
もう窒息しそうだったわ。」
彼女は小さくため息をついた。
「退屈なのは当たり前でしょ。
だって『謹慎中』なんだから。」
「でも、ちょっとひどくない?
わたし、もう十八歳なのよ?」
デレオは心の中でこっそり笑った。
もし彼女の家出が成功すれば、
サリクス老は
使用人全員の給料を上げるつもりなのだ。
本人だけ、それを知らない。
「まあ……とりあえず、
もう抜け出してきちゃったわけだし。
見つかったら、
サリクス老にどんな罰を受けそう?」
「えっと……また何日か、
外に出ちゃダメって言われるだけ。」
カシヤは視線を泳がせた。
「はは、
それじゃ罰になってないようなもんだな。
じゃあ、
一緒にどこか出かけない?」
「うん!
お父さんとお母さんがいなくなってから、
誰かと街をぶらぶらなんて、
ずっとしてなかったから。」
「行きたいところ、どこかある?」
「どこでもいいよ。デレオは?」
「『ノールールマーケット』って
聞いたことある?」
「名前は聞いたことあるけど、
おじい様にあそこは
ダメって言われてるの。」
カシヤの表情は、
とてもわくわくしていた。
高級な海外旅行なんかよりも、
ちょっとワルい匂いのする場所のほうが、
この箱入り娘の心を
ずっと強く惹きつけるらしい。
デレオはバックパックを手に取り、
その中に
アレカが作り出した道具やアクセサリーを
いくつか詰め込んだ。
「じゃあ、
そこで何か買ったり、売ったり、
ついでに何かと交換したりしてみよう
か。」




