9・ニホンジンノココロ【改稿版】
あー……。
オレンジと白のツートンカラーが眩しい。
某道庁所在地名メーカーの一番味噌ラーメンじゃないですか!
口の中に広がる味噌の記憶。
今後はもう気軽に味わう事も出来ないかもしれない。
ぐーーーきゅるるるる。
腹が鳴った。
じー……。
無言でエミュアを見つめる。
「えっ? まさかだろ? 献上すれば相当の褒美が下賜されるんだぞ? 金貨以上は間違いない」
「エミュア、そのラーメン食べたことあるの?」
ジト目はやめてやらない。
金貨がどの程度の価値のモンかは知らんけど。
「らぁめん……と言うのか? この食べ物は。これと同じものかどうかは分からんが、以前やんごとなき場所で小さな器に少しだけ……」
その時の味わいを思い出したのか少し目に迷いが見える。フフ、迷え迷え。
「エミュアは、異界人が作る異文明料理って食べてみたいと思わないのかなぁ、一口どころかキッチリ一人前、味噌味だよ。日本人の心だよ」
まぁ分けて食べるんだけどなぁ。
「ニホンジンノココロ……ミソアジ……」
ごきゅり、エミュアたんのつばを飲む音。
「あーあ、このあと死んじゃったりしたら、金貨どころかせっかくの異文明の食料もダンジョンに食われちゃうんだねぇ」
キュルルるるん。
おや、淑女のお腹から何やらかわゆげな音が聞こえて来ますか?
「異文明世界でも大人気なラーメンを手に入れたのに、味も知らずに死んじゃったらもったいないよねぇ……」
そぉら、もう一押し。
「食料も足りないし、罰は当たらないよねぇ。黙ってりゃ誰もエミュアが食べちゃったなんて分からない訳だし」
溜息をつきながら落とした鉄盾を拾い上げる、心なしかさっきより軽い気がする。
まてよ?
冷静に考えてみろ。日本に居たときの自分にこんなモンスターと戦って勝つなんて芸当ができると思うか?
学校出てから碌に運動もしていないし、仕事・食う・寝るのローテーション。
ファルートの重い金属鎧まで着けて、ダッシュでシールドチャージなんて俺に出来るわけが有るか?
位階上昇のおかげか?
日本に居た頃の俺がレベル1だったとして。
レベル11で11倍——にはなっていないとは思うけど。
レベル1で1割上昇したとして、力とか反射神経は最低でも倍ぐらいになっているんじゃないか?
これならマジで生き残れるかもしれない。
明日への希望が湧きあがる中、がさりとビニールの擦れ合う音が聞こえた。
ふと、見上げれば。
白とオレンジのツートンカラーの小袋を、おずおずと差し出すエミュアの姿があった。
◇
さて、今回もお世話になります。
鍋代わりのファルートの金属ヘルメットの内側を水魔法でよく洗う。
「いや、二人で得たアイテムだしな、当然クレオの取り分も含まれているし、半分だけ食べて……というわけにもいかんだろうしなぁ」
さっきから顔を赤くして盛んに言い訳をくりかえしているけど。
いいんやで?食いしん坊さん。
◇
「うみゃい!」
味噌ラーメンのスープを口にしたエミュアの第一声が通路に響き渡った。
インスタントラーメンを作っている間、一挙手一投足をじっと凝視され続けて緊張した。
でも、その甲斐があったぜ、ふふふ。
洗った鍋に多めに水を張ってスープの量を稼いだ、俺にとってもさっぱりしていて丁度いい。
互いのカップにサッポ◯一番味噌ラーメンの麺とスープを盛りつけた。
「「いただきます」」
と、言っているように俺には聞こえたのだがエミュアの方が言葉を発している時間が長かった様に思う。
言語理解というスキルを使ってくれて居るから話は通じているけれど、エミュアの喋っている言葉は多分日本語じゃない。
それよりも味噌ラーメンだ。
無敵だな。
エミュアも夢中でスープを味わっている。
熱いスープで口の中を味噌の味で満たした。
うん、普通にうまい。満たされていく——。
そして、麺を啜り上げる。
ずぞぞぞっ――
――かぁあああッ!味噌美味えッ、美味いなァ。
今後はもう気軽に味わえなくなるんだなぁ。
感慨の思いを込めてじっくりと噛み締める。
「クレオ! お替りを所望する」
早っ!
人が万感の思いに耽っている最中に……。
エミュアが目をキラッキラさせてカップを差し出していた。
ふふ、まぁ気に入ってくれたならいいか。
カップでは半人前でも入り切らなかったので鍋ヘルムにはまだ麺もスープも残っている。
お玉も菜箸も無いのでカップでスープを掬い、フォークで麺を入れてやる。
目をハートに輝かせたエミュアは、ラーメンカップを受け取るとクピクピとスープを呑み、ハムハムとフォークで麺を口へ運ぶ。
ズぞぞぞぞぞぞぞぞッ。
勢いよく麺を啜り上げる俺に、口から麺の尻尾を垂らしたエミュアのジトっとした視線が……。
「ん? コレは正しくラーメンを食する際の作法だが? この食べ方を『啜る』というのだ、この方がより美味くラーメンを食せる」
「ススる……」
唇を尖らせたエミュアが、一本垂らした麺をモゴモゴとさせながら息を吸ってみたりと悪戦苦闘している。
まぁ外国人には『啜る』という行為自体が出来ない輩も居るらしいからな。
第一『啜る』という行為は汁物を食べる際、吸気と同時に香りを鼻腔に取り込み嗅覚を増幅させるという大事な効果があるのだ。
昔見たテレビ番組でワインソムリエがテイスティングの時に、クチュクチュジュルルやっていて、それはワインに空気を含ませて香りを確かめているのだという。
方法論は判っているはずなのに何故自分達が味わう時にソレをやらず他国文化に物申すのかは甚だ疑問である。
閑話休題。
チュルン。
ほう、エミュアさん。
どうやら試行錯誤ののち麺一本を啜る技は会得したらしい。
うん、筋がいい。
ズッ……。
お、最初の一啜りはできるようになったね。
やはりエミュアはできる女だった。
「クレオ、ミソのスープを貰うぞ」
さっさとお替りも平らげたエミュアは、返事も待たず鍋ヘルムの縁を掴み、口を付けるとクックックッと煽って行く。
鍋からラーメンスープ直イッキかよ……いやいや、エミュアさんどこの貴族令嬢なんだよ~。
「ぷはぁぁ~~っ」
至福の顔のエミュア。
それ場末の飲み屋でオヤジがホッピー割り煽ってるのとあんま変わらんからな。
でもハリウッド級モデルがやると、それなりに絵になってしまうのは何でだろう。「なぁ、クレオ。ミソらぁめんだが、流石に一人分を二人でというのは少なかったような気がするな」
エミュアが遠い目をしている、恋に落ちた乙女の瞳だな、これは。
そうさ、これが味噌の力。
2/3人前はエミュアに食われたんだけどな。
「スケルトンともう一戦交えるか?」
俺の一言に一瞬逡巡したものの。
「いやすまん、目途が立つまで戦闘は最小限にするべきだろう。それにスケルトンと再戦しても必ずしも同じモノがドロップするとは限らん」
あードロップってそういう仕様なんだ。
まぁ、味噌ラーメンに目がくらんで余分な戦闘をする指揮官様じゃなくてよかったよ。
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