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9・ミソノチカラ

「うみゃい!」


 味噌ラーメンのスープを口にしたエミュの第一声が通路に響き渡った。


 インスタントラーメンを作っている間じっと一挙手一投足を凝視され続けて緊張したけど、その甲斐があったぜ、ふふふ。


 ルオハレートのヘルムに多めに水を張ってスープの量を稼いだ、俺にとってもさっぱりしていて丁度いい。


 互いのカップにサッポ◯一番味噌ラーメンの麺とスープを盛りつけた後。


「「いただきます」」


 と、言っているように俺には聞こえたのだがエミュの方が言葉を発している時間が長かった様に思う。


 言語理解というスキルを使ってくれて居るから話は通じているけれど、エミュの喋っている言葉は多分日本語じゃない。


 それよりも味噌ラーメンだ。無敵だな。エミュも夢中でスープを味わっている。


 熱いスープで口の中を味噌味に満たした後、麺を啜り上げる。


 ずぞぞぞっ――


 ――かぁあああッ!味噌美味えッ、美味いなァ。


 今後はもう気軽に味わえなくなるんだなぁ。感慨の思いを込めてじっくりと噛み締める。


「クレオ!お替りを所望する」


 早っ!

 人が万感の思いに耽っている最中に……。

 エミュが目をキラッキラさせてカップを差し出していた。

 ふふ、まぁ気に入ってくれたならいいか。


 カップでは半人前でも入り切らなかったので鍋ヘルムにはまだ麺もスープも残っている。


 お玉も菜箸も無いのでカップでスープを掬い、フォークで麺を入れてやる。


 使ったフォークでーーーなどと文句を垂れる状況でもあるまい。


 目をハートに輝かせたエミュはラーメンカップを受け取るとクピクピとスープを呑みハムハムとフォークで麺を口へ運ぶ。


 ズぞぞぞぞぞぞぞぞッ。


 勢いよく麺を啜り上げる俺に、口から麺の尻尾を垂らしたエミュの視線が。


「ん?コレは正しくラーメンを食する際の作法だが?この食べ方を『啜る』というのだ、この方がより美味くラーメンを食せる」


ススる(ふふふ)……」


 唇を尖らせたエミュが一本垂らした麺をモゴモゴとさせながら息を吸ってみたりと悪戦苦闘している。


 まぁ外国人には『啜る』という行為自体が出来ない輩も居るらしいからな。


 第一『啜る』という行為は汁物を食べる時吸気と同時に香りを鼻腔に取り込み嗅覚を増幅させるという大事な効果があるのだ。


 昔見たテレビ番組でワインソムリエがテイスティングの時にクチュクチュジュルルやっていて、それはワインに空気を含ませて香りを確かめているのだという、方法論は判っているはずなのに何故自分達が味わう時にソレをやらず他国文化に物申すのかは甚だ疑問である。閑話休題。


 チュルン。


 ほう、エミュさん。どうやら思考錯誤ののち麺一本を啜る技は会得したらしい。筋がいい。


 ズッ……。


 お、最初の一啜りはできるようになたねーー。

 やはりエミュはできる女だった。


「クレオ、ミソのスープを貰うぞ」


 さっさとお替りも平らげたエミュは返事も待たず鍋ヘルムの縁を掴み。口を付けるとクックックッと煽って行く。


 鍋からラーメンスープ直イッキかよ……いやいや、エミュさんどこの貴族令嬢なんだよ~。


「ぷはぁぁ~~っ」


 至福の顔のエミュ。

 それ場末の飲み屋でオヤジがホッピー割り煽ってるのとあんま変わらんからな。

 でもハリウッド級モデルがやるとそれなりに絵になってしまうのは何でだろう。


「なぁ、クレオ。ミソらぁめんだが、流石に一人分を二人でというのは少々少なかったような気がするな」


 エミュが遠い目をしている、恋に落ちた乙女の瞳だな、これは。

 そうさ、これが味噌の力。2/3人前はエミュに食われたけどな。


「スケルトンともう一戦交えるか?」


 俺の一言に一瞬逡巡したものの。


「いやすまん、帰還の目途が立つまで戦闘は最小限にするべきだろう。それにスケルトンと再戦したとしても必ずしも異界のモノがドロップするとは限らん」


 あードロップってそういう仕様なんだ。


 まぁ、味噌ラーメンに目がくらんで余分な戦闘をする指揮官様じゃなくてよかったよ。


 ◇


 幸運な事に食事中も片づけ中もモンスターに襲われることは無かった。


 再度ウィル・オ・LEDを飛ばして通路の状況を確認とりあえず目の届く範囲の通路にはモンスターの姿は見つからない。


 さて、どちらに進むかだが。


「クレオに特に意見が無い様ならとりあえず右へ進んでみようか」


 ボスが決めたのでそのように進むこととしよう。

 人間は左右への分岐があると自然と左を選ぶ癖があるらしい。

 このダンジョンが人間の心理行動に基づいて造られているとしたら、転送部屋から出たら右折の方が出口(浅層)に向かう可能性が高いんじゃないかな。

 まぁ半分あてずっぽうだが。


 ヘタな考え休むに似たり。間違っていたら戻ればいい。


 真っすぐ進んで右への曲がり角へ着いたらとりあえずウィル・オ・LEDを先行させ耳を澄ませる。モンスターが居ればなんか騒がしくなって判るでしょう。


 暫く待って曲がり角の隅から銀色に輝くルオハレートヘルムだけを覗かせて角の先を見る。

 よし、狙撃なし、敵影もなしと。と。


 ヘルムを被り盾を構えてからようやく角から向こうを覗き込んで見る。


「すごいな、クレオ。異界人というのはそのようにしてダンジョンへ潜るのか?」


 声に感嘆の響きがこもっている。ふふ、何か心地いい。


「いや、俺の居た世界にはモンスターの湧いてくるダンジョンはない」


「そうなのか? 随分と手慣れているように見えるが」


 テレビで何処かの特殊部隊がやってました。


「本物はなかったけど空想の物語には出てきたな、潜ったことはないがこういう時のやり方は多少聞いている、エミュから見て実践的におかしいと思ったら教えてくれ」


 なるべく壁に手をつかない様に、歩くときは足元の模様をなるべく避けて進んでいく。何が起こるか分からないからな。


 最初に右に曲がった後は左手法を使い左の壁に沿って進む。要所要所でエミュがダンジョン壁にマーキングを施していく。


 ダンジョンの特性上マジックでマーキングしても一日経つと消えてしまうらしいが、短期間での目印とすれば十分だろう。


 床や壁の模様に注意しながらマッピングを進めて行く。

 途中、何度かスケルトン・ファイターと接敵したがウィル・オ・LEDのおかげで常に先制をとれている。

 残念ながらドロップは古びた短剣と何やら金属製のブローチの様な物。なかなか異界の品にはありつけない。

 何度も休憩を入れ魔力的にも体力的にも無理をしない範囲でゆっくり着実にマップを埋めていく。


 まだ完成前だがこの層のマップは俺がエレベーターから落ち、エミュたちと出会った広い空間の周りをぐるりと通路で囲んでいる構造になっている感じだ。

 どこかに分岐か上下に降りる階段でも見つかれば早いのだが。


 小刻みに休憩を取り水分を補給したりはしているのだが常に緊張を保ったまま周囲の床や壁の模様に気を配って進んでいくのはかなりの神経を消耗する。


「エミュ、オーバーペースじゃないのか? 一度大休止を取らないか?」


 俺の声がけに初めて気が付いたように。


「えっ? ああ、そうだな。気ばかりが急いてしまっているな、すまんクレオ。座ってきちんと休もう」


 エミュの言葉に先行させていたウィル・オ・LEDを旋回させ呼び戻そうとした時だった。


 輝いていたウィル・オ・LEDの明かりが突如、消えた。

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