7・むしろ日本人じゃないと死んじゃうのかもしれない【改稿版】
途中で扉が閉まるという嫌がらせはなかった。
普通に外へ出られた時には、緊張した分むしろ拍子抜けした。
「ここからも俺が前で行く。何か気が付いたら声をかけてくれ」
「わかった、よろしく頼む」
まだ、最初の部屋を出ただけだ。油断して良いところじゃない。
ウィル・オ・LEDを先導に、盾を構えた俺、後ろに気を配りながらついてくるエミュアというかたちで石の通路を進んでいく。
「……クレオ」
「どうした? エミュア」
「少し気になるんだが」
「気が付いたことなら何でも言ってくれ」
「床がきれいすぎる」
「床が?」
俺は石の床を撫でた。
確かに。埃一つ浮いていない。
先ほどまで居た部屋の床もスライムによってかどうかはわからないが、それなりにはきれいだった。それでも僅かな砂埃程度は残っていたのだ。
俺は横壁と床の境目をじっくりと観察し、気づいた。
「あー。これはえぐいな」
「えぐい?」
「ああ、そうだ。この通路の右側の壁、壁全体がスライドしてきて通路を塞ぐんだ」
吊り天井ならぬ横から押しつぶし通路(?)だ。
「?」
エミュアはピンと来ていないようだ。
「さっき扉が開いたとき、扉が入る隙間がなかったよな?」
「そうか? 気づかなかったが」
「まぁダンジョン自体、突然モンスターが現れる謎空間なんでな、壁の中に飲み込まれたのか? ぐらいにしか思っていなかったんだが」
「あ゛。横壁全部が扉で、壁自体がずれて通路ができたってことか?」
「そう、通路と同じ長さ厚さの壁が扉なんだと思う」
その場合考えられるのは。
「足元、それと壁に手をつきたくなる高さの部分にある模様に気を付けて、怪しい模様には絶対触らないでくれ」
はたして、もう少し進んだ先の通路の中央辺りの床。
そこに新しい文字を発見した。
「うわーーやっぱりあった!この模様、絶対踏んだらアカンて! 俺の国の文字で『閉』だ」
「この状態で通路が閉まったら……」
絶対に逃げられない。
30メートルはありそうな一本道の通路なんだ。
その中央辺りで横壁が押し迫ってきたとしたら、前後どっちへ走っても間に合う訳がない。
「間違いなく二人一緒にぺっちゃんこだったな」
「それでさっきえぐいと……」
「そういうこと」
俺が日本人で漢字が読めたから事前回避できたけれど、そうじゃなかったら相当ヤバかったんじゃないかな。このダンジョン造ったやつ絶対に日本人だろ。
転送部屋からの脱出だってこっちの世界の住人にはかなり困難なはずだ。
『開』スイッチに偶然触らないと脱出できない不親切仕様だ。
さらにその直後、脱出通路の床の異世界文字『閉』を踏まないで脱出しろ。って、どんだけ無理ゲーだよ。
床や壁に出ている模様を確認しながら進んだので、たった30メートル程の道のりが果てしなく長かった。はひぃ。
通路を進んだ先は横道に突き当たった。
罠通路を出た先の新通路の床や周辺の壁を、変な模様文字がないかしっかり確認した。
終わった時にはその場へへたり込んでしまった。
結構しんどいんだなこれが。
「どうだエミュア。知ってる通路か?」
マジックウェストバッグから取り出した地図を何枚か見比べていたエミュアは首を横に振った。
「残念だが初見の通路と思う、少なくとも3層より上ではないな」
ウィル・オ・ウィスプを飛ばし通路の左右を確認したが、簡単に抜けられる様な浅層ではなさそうだった。
「ここが浅い層でないと思った理由は?」
「浅層の既知の通路ならドロップ品を回収する収集者が毎日何百人も通っている、その痕跡がない」
ふむ、なるほど。
「大人数が使う通路なら汚れや埃が残るものだ、痕跡がダンジョンに吸収されて消えるにしても丸1日かかる。最近ここを通った者はいないな」
この相棒の洞察力が当てになるのは経験済みだ。
と、なると楽に脱出できる方の可能性は消えた……か。
「エンカウントしたモンスターの種類で、どの程度の階層か判断する事になるか」
「そうだ、とりあえず現在地をマーキングしてマップを作りながら進んで行こう」
エミュアはウェストバッグからマジックペンを取り出し、今出てきた通路の上側の壁にキュキュキュっと何かの文字を書き込んだ。
——何だかもの凄い違和感に襲われた。
「エミュア……それはなんだ?」
「これか? 此処が初見の場所の可能性が高いのでな、この通路の位置をスタート地点としてマッピングする。ある程度マップができたら他のマップと照会してみよう」
「いや、その文字ではなくて」
「はん?」
「なんでマ◯キー持ってんの?」
エミュアがダンジョンの壁に直接文字を書いていたのは、日本では普通に買える有名な油性マジックペン。
「◯ッキー?この万能ペンのことか?」
エミュアが見せてくれた油性マジックペンには、ちゃんと『マッ◯ー』と商品名が書かれていた。メイドインジャパン。
まさしくOut of Place Artifacts。場違いの工芸品てやつだ。
「そうか、この異文明のアイテムはクレオの国のものなのか?」
「そうだ、俺の国では『魔法のペン』とか呼ばれている」
「確かに魔法のペンだ、何処にでも書けるし簡単に消えない。その上インクも内蔵式で長持ちする。これはダンジョンからドロップする異文明品だ、ちなみに取引は金貨だからな。高級品だぞ?」
マジですか?
まぁ。落ちてくるのをジッと待つしか入手方法が無いなら、そらメッチャ高くなりますわな。
「そうか……クレオは本当に異文明から来た人間なんだな……」
今更のようにエミュアは呟く。
むしろ今までなんだと思っていたのか。
「間違いなくクレオは歓迎されるぞ。ドロップ品には異文明の文献もたくさんある、翻訳するだけでも相当の謝礼を受け取れるだろう」
ふむ、本読んでればそれだけで金になる。か、もしかしてスローライフとかイージーモード異世界もありか?
どちらにしても今此処を切り抜けないとどうにもならない訳だが。
エミュアのバッグからA4のクリップボードとコピー用紙とボールペン。
日頃お世話になっていた事務用品が出てきた。
あー、なんだか胸の中がモヤモヤする。今更か。
「簡易マッピングでいいだろう、未踏破エリアの地図を持ち帰ることができれば高く評価される。もちろんクレオにも謝礼は弾むぞ」
「それはありがたいな、あてにさせて貰うよ」
異世界での頼みの綱エミュア様、おたのもうします。
「さて、今いる通路の右と左どちらを先に調べるかだがクレオに腹案はあるか?」
探索リーダー権限で決めてもいいと思うけど。
あてにされているというのも、まぁ悪い気はしない。
「決める前に先に左右をじっくりと眺めて見るか?」
ウィル・オ・LEDを通路の先へと飛ばす。
ドローン練習の甲斐あってか通路の先かなり先まで見通せ……!
エミュアが剣を抜き、俺は盾を構えた。
ウィル・オ・LEDの明かりに照らされて、こちらへ向かってくる何人分もの人影が見えてしまった。
もちろんただの人じゃない、遠くて見にくいがあれはガイコツだ!
「スケルトン・ファイターだ。武器を持っている分只のスケルトンよりは手ごわい。攻撃が軽い分動きが素早い」
手短に解説ありがとう。なるほど、素早い人3人が剣で襲ってくると。
「喜べ、クレオ。スケルトン・ウォリアーじゃない。多分ここは6層より上だ」
おおっ!生きる望みがあると? やる気出た! 絶対に生き残る! カムヒア、スローライフ! ビバ、ハーレム!
毎日8:00更新 全18話 予定。
お気に召しましたら★★★★★、いいね、ブックマーク。いただけると作者が大変嬉しがります。




