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6・日本語が読めるとダンジョンは楽勝なのかもしれない

初ブクマいただきましたー。アザーッス!

 腹が満たされてさらに鍋で暖まったこの状況。

 直ぐ側ですやすやと寝ているエミュのやさしい寝息。


 睡魔の誘惑がヤバ過ぎる。


 エミュが起きたとき俺も寝ていたら信用度ガタ落ちだからな。少なくともダンジョンから抜け出すまでは愛想尽かされる訳には行かないのだ。


 なんとなく水出して飲んでみたり。

 ライターを点けるイメージで指先に火を点してみたり。

 ウィル・オ・LEDを洞窟部屋のあちこちに飛ばしてみたり。

 ドローンゲームと同じ感覚で操作できる。

 結構楽しい。


 自分が落ちてきたであろう部屋の上方に向けて飛ばしてみた。

 20メートルほど上がった所でデコボコな岩天井になっていて、落ちてきた穴もエレベーターの入り口らしきものも見えなかった。


 元の世界への帰還は諦めた方がいいのかもしれない。

 と言うか、冷静に考えて見て元の世界に戻って何か良いことあるか?って考えたら正直何も無い。

 親は現役バリバリ健在だし兄キとその家族も妹も居るから今更俺1人が消えた所で大勢に影響は無い。

 友達だって一緒に遊びに行く程度の繋がりで魂の盟友かって言うほどの仲でも無いし将来を語り合った彼女も居ない。


 仕事はブラックで美味しく使われているだけで、明日別の人間が座っても数日もすれば難なく熟せる様なやっつけ仕事ばかりだったし。


 むしろエミュと過ごしたこの数十時間。

 最高の美女と二人きり、一歩間違えれば命を失う緊張感に包まれながら。互いに頼り頼られ問題解決を進めて行く肌にヒリヒリ来る様な充実感。

 

 俺は今まで、こんなに自分の『生』を感じたことがあっただろうか?


 確かにただ生きるだけならば元の世界の方が安全で確実なんだろうけど。

 積極的に帰ろう、帰りたいと言う気持ちにならないのは何故だろう。


 どちらにせよ帰ると言う選択肢自体が示されていない今は、こちらの世界で生きていく事を前向きに考えた方がよさ気だ。


 不幸中の幸いにこちらの世界の貴族の娘との繋がりが持てたし、このダンジョンを二人で生還できさえすればそんなに悪くない未来が待っていそうな感じがする。

 この世界の魔法は俺にはかなり使い勝手が良いし、使えば使うほど熟練して燃費が良くなるらしいから可能な限りの範囲でビシバシ使って鍛えて、とにかくダンジョンから脱出しよう。

 それから色々考えても遅くは無さそうだし。


 よし、当面の基本方針は固まったぞ。



 少しどころかだいぶ経った頃に目を覚ましたエミュと交代して堕ちるように寝た。


「おはよう、クレオ。よく眠れたか?」


 次に目を覚ました時には天使の声が出迎えてくれた。至福。

 どちらかと言えば戦いの女神か食いしん坊の豊穣の女神かといったところか。


「あー、めっちゃ寝た」


 グキグキとクビを回しコリをほぐす。

 流石に石床の上にゴロ寝では完調と言う訳には行かないが飯食ったらすぐ寝落ちしそうになる程の眠気は無い。


「なんか私も調子がいい気がする、モンスターを食べたのは初めてではないが。流石にジャイアントセンチピートの脚がこんなに旨いとは思わなかったからな。何やら活力がみなぎって来るようだ」


 残ったムカデの脚から身を取り出しておいてくれたのを、俺が魔法IH鍋で煮込んでスープにした。


 虫臭さはあったものの喉越し感は残っている、もう少し塩味があれば完ぺきだったと思うが上品な味付けなんだと思い込めばこれはこれでイケる。至高のダンジョンスープとでも名付けようか。


 さて、気力体力が充実してきたところで昨日の続きと参りましょうか。


 最悪、腹が減ってどうにもならなくなったら昨日の『毒』スイッチをまた押してみようと話し合っている。

 次も巨大ムカデが出るのかはたまた別のモンスターが出るのか、あれはたまたま偶然で今度は毒に侵されてしまうのかは分からないが。


 今度も俺が先頭で盾を持ちなから進む。床や壁にスイッチの類や判読可能な文字が浮き出ていないかを注意しながらゆっくりとだ。


 スタート地点から部屋を3分の1周しようかといったところで。


「お」

「何かあったのか?クレオ」


「ここ、見てくれ」


 岩壁のデコボコに紛れて偽装されているが近くで見れば『ここがスライドします』とばかりに境目らしき線がうっすらと見えるのだ。昔のアニメならセル画と背景の色が違っていてバレバレになってるやつだ。


「多分ここが出口なんだろうなぁ……」


 エミュと顔を見合わせる。


「壊してみる?」


 一番合理的じゃないかと思う意見を言ってみた。


「いや、ダンジョンは相当な力を加えないと破壊できないらしい。過去様々な探索者がダンジョンを破壊しようと試みたがことごとく失敗していると聞いている」


 破壊不能属性か。


「破壊できるのは、『ここまでの力がかかったら壊れる』と元から設定してある部分だけではないかという見方もあるしな」


「試してみるか?」


 盾で殴ってみたり、ファイヤーアローの魔法を打ち込んだりしてみたがびくともしない。もちろん押したり引いたり横にずらしたりを試みたがまったく動く気配がない。


「やっぱり無理みたいだな、素直に開けるギミックを探すか」


 諦めて地道な調査を再開した。


 そこから更に数十分。


「あ」


 見つけた、文字に見える模様。


「何かあったか?クレオ」


「これは『開』と言う文字だ、俺の国の言葉で”開ける”とか”開く”と言う意味を持つ」

「なるほど、試して見るか?」

「そうだな」


 そっと『開』の字に触れてみた。文字の周囲の岩全体がカチリと沈み込んだ手応え。

 一拍置いて。


 ゴゴゴ――――。


 僅かな振動音と共に先ほどの石壁がスライドしていく。


「やったぞ!」


 扉に駆け寄ろうとしたエミュの肩を掴み止めた。


「何を?」


 と訝しがるエミュに


「行くなら調べ終わった床の上を行け、調べていない床の上をいきなり突っ切るのはまずい」


 そう、伝えた。  


「その通りだ、帰るための第一歩がやっと実現したと思い舞い上がってしまっていたよ。確かにこういう時程気を引き締めなければならん。ありがとう、助かった」


 美女に屈託のない笑顔で面と向かって言われると何とも面はゆい、よほど恥ずかしかったのだろうか

 エミュの顔色が赤い。


「いや、すまん。俺もここでエミュを失う訳には行かないんでな、頼むよ」


 主にダンジョン出た後の生活基盤が問題なんだけどね、貴族サマが後ろ盾についているのなら大船に乗ったようなもんだし。あれ?エミュの顔の赤さが一段増したか?


 部屋を出る準備のために一度戻りルオハレートに最後の別れを告げた。

 遺体はすでに半分ほどがダンジョンに吸収されつつあった。ダンジョンの外から持ち込んだ物は完全に取り込まれてしまうまでに1日位時間がかかるのだという。

 ダンジョン産のムカデの殻等はとっくに吸収されてしまっている。


 再度、部屋の壁際を辿りぐるりと反対方向へ周り込む。


「万が一分断される可能性を考えて出るときには手を繋いで同時にいくぞ?」


「了解」


「せーのっ」


 二人一緒に出口をくぐった。


 途中で扉が閉まるという嫌がらせもなく、普通に外へ出られた時には緊張した分むしろ拍子抜けした。


「分断はなかったな、ここからも俺が前で行く。何か気が付いたら声をかけてくれ」

「わかった、頼む」


 まだ、最初の部屋を出ただけだ油断して良いところじゃない。


 ウィル・オ・LEDを先導に盾を構えた俺、後ろに気を配りつつ追従するエミュという順番で通路を進んでいく。


「……クレオ」

「どうした?エミュ」

「少し気になるんだが。気のせいかもしれない」

「気が付いたことなら何でも言ってくれ」

「床がきれいすぎる」


「床が?」


 クレオが石質の床をルオハレートから借りたグローブの指で撫でる。


 確かに、埃一つ浮いていない。


 先ほど迄居た部屋の床もスライムによってかダンジョンに取り込まれたのかどうかは解らないが比較的きれいではあった、それでも僅かな埃等が残っていたのだ。


 クレオは辺りをじっくりと観察し。壁の下端にうっすらとスライドする線を見つけ思わず口走った。


「あー。これは()()()な」


()()()?」


「ああ、そうだ。この通路の右側の壁。これ、ぜんぶ扉だな」

「???」


 うまく説明できないなぁ。


「さっき扉が開いたとき、戸袋らしきものが見当たらなかったよな?」


 引き戸を開けたとき壁の中にその戸を格納する空間がなければならない、それを戸袋と呼ぶわけなんだけど。


「そうか?気づかなかったが」

「まぁダンジョン自体、何もなかったところに突然モンスターが現れ(スポーンす)るとかいう謎空間なんでな、壁の中に飲み込まれたのかぐらいにしか思っていなかったんだが」


「あ゛、壁全部が扉で、壁がずれて通路ができたってこと?」


「そう、通路長さと同じ厚さの扉なんだと思う」


 その場合考えられるのは。


「足元、それと壁に手をつきたくなる高さの部分にある模様に気を付けて、怪しい模様には絶対触らないでくれ」


 はたして、もう少し進んだ先の通路の中央辺りの床に3つ目の文字形を発見した。

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