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5・あゝダンジョン◯

「まだ暴れてるからな、気をつけろ」


 とはいえエミュの剣で押さえてくれているお陰で盾の大きさがあれば十分にマージンを取って頭を押さえられる。


 俺の盾がムカデの頭を押さえつけたのを確認してエミュは剣を少しづつずらし、押し切るようにしてムカデの首を切り落とした。


 ふぅ……。


 切り離された頭の黄色くぶっとい毒牙がエグい。

 今だにのたうつムカデの身体を避けながらエミュは何を考えたのか、まだ百足の身体に残ってピクピク動いている黄色い脚を一本一本剣先で切り離し始めた。

 そして切り取った脚をマジックバッグへ突っ込んで行く。


「何やってんだ?エミュ」

 思わず聞いてしまったのは致し方ないだろう。

「ジャイアントセンチピードの脚を切っている」

「それは見れば判る、切ってどうするかってことだよ」

「食べる」

 は?

 呆けている俺に蒼ざめた微笑みを貼り付けたエミュが呟いた。

「食べるよ、生きる為に」


 来たかーー!


 薄々そんな事じゃあ無いかとは思ってはいたけれど。

「手伝ってくれ、クレオ」

「お、おう……」


 エミュの邪魔にならない辺りから短剣で大ムカデの脚を切り落として行く。

 ふわぁ。ズワイガニの脚を包丁で切るときと同じ感触だぁ。


「グズグズしているとダンジョンに喰らわれちまうからな」


「ほ?」


「ふふっ。クレオはダンジョンについては何も知らないんたったな。ダンジョンで殺したモンスターを放置しておくと数分のうちにその死体はダンジョンに吸収され消えてしまうんだ」


「そうなのか」


 思わずルオハレートの方を見てしまった。


「ははっ、ダンジョン外のモノは吸収に時間がかかる、それでも一両日中にはルオもダンジョンになってしまうがな」


 物悲しげな物言いに、俺達は黙って大ムカデの解体作業を進めた。


 数十分後。


 くつくつと煮えているムカデの脚、黄色いズワイガニの脚と思えば見た目は近いかもしれない。


 ニオイは流石に虫っぽい様な甲殻類っぽい様な。

 昔ネットで虫と甲殻類は近縁種だと読んだ気がするがこんな状況で確認するなんて思ってもいなかった。


「煮えたかな」

「どうだかな」


 何か子供の頃、こんなお遊戯をした様な記憶が無い?。


 向かい合って座る俺とエミュの真ん中でルオハレートの金属ヘルム(サレット)は鍋として大活躍中だ。頭の飾りが上手く鼎の三本の脚になって使える形状だったんだから仕方ないね、それともこれは想定内の仕様か?内装も簡単に外れたし。


 逆さまの金属ヘルム(サレット)から何本も突き出ている黄色いムカデ脚が目に痛々しい。


 心做しかエミュの顔色が青白い気がするが流石に言い出しっぺにはケジメ付けて貰わないとな。

 美人だからって世の中そんなに甘くはないのだ。

 まあ、エミュ1人だけ逝かすなんてことはしない、逝くなら2人一緒だぜ。


 実際、1人でこのダンジョン抜けられる気がしないしな。


「ジャイアントセンチピードの脚は美味しいって本で読んだんだ、頭は毒が有るから切り落とせって書いてあった」


 何も尋ねていないが何かの懺悔のようにポツリと呟いた。ちなみに切り捨てた頭も足を切り落とした後の身体も5分ほど放置して置いたら溶けるようにダンジョンへ吸収され消えてしまった。


 ダンジョン産のモンスターは死ぬと直ぐにダンジョンに吸収されてしまうんだそうだ。その時残るアイテムがドロップ品と呼ばれダンジョンから採取される資源と呼ばれているものだ。

 大ムカデが消えた後に残ったのは薄紫色の小瓶。

 毒消しポーションがドロップした。これはハズレの類らしい。


「そうなんだな、俺の国ではムカデは精々10センチか15センチ位でな、竹の串に刺して干した物は薬として使われるんだ」


 確か漢方薬であったはずだ。


「ウチも地上ではそうだよーそうなんだよねー薬になるくらいなら食べられるはずだよねー」


 よせ、その棒読みなセリフ。


「……そろそろ良いんじゃないか?」


 そろそろ引導を渡す事にしようか。

 黙ったまま暫く固まっていたエミュは操り人形のように黄色い脚を1本、鍋……ヘルム……いや、やっぱり鍋から引っ張り出した。あち、あち、あち、とかなりながらも。

 切り口をじっと見つめる。


 何度か俺の顔色を伺っている様だが『先には絶対に食わないぞ』と目で訴える。

 はぁ……。

 深く溜め息をついたエミュは観念したように大むかての脚をクパリと咥えた。


 ちなみに鍋は教えてもらった火魔法(ファイヤ)の応用編で魔力管を鍋に繋げIHヒーターのイメージで温度を上げている。

 アローについてはまだコントロールが怖いのでもう少し慣れてからにしてくれと言われた。まぁ……なんとなく自力でやっちゃえる気がしないでもない。


 苦労して大百足の脚を噛んでいたエミュだったが、どこかで外殻の中の身がちゅるるんと口内に滑り込んだ様で眉間にシワを寄せながらもぐもぐと噛んでいる。


 そのうち、ごきゅりと飲み込んだ。


 暫く固まっていたエミュであったが。


 2本目はでかい脚を手に取りグパリと咥えるとじゅるじゅる中の汁を吸い始めた。


 関節の途中をバキリと折り、煽りながら中身を吸い込む。モグモグモグと食みしめ斜め上に顔を上げながらごきゅりと飲み込む。食べ方は完全にカニの脚だ。


 おい、いつの間にか顔笑っとりゃせんですか?


「ど、どうなんだ?エミュ」

 俺もごギュリと唾を飲み込みなから聞いてみた。


「う……」


「う?」


「うみゃい!」


 3本目の脚を手に取りながら目の色の変わったエミュ。

 俺も慌てて1本取りあち、あち、あち、とやりながら口に咥えた。

 カニ鍋を食べているつもりで脚殻の中の汁を吸う。


 うぶっ!

 いや。なんというか、虫臭さと甲殻類のニオイが混ざった個性的な香りではあるが確かに何処かに海老蟹っぽい風味もある。

 途中の関節を挫いてズルリと殻を取り一見白いヌタウナギの様な身を啜る。


 にゅるり。


 ぐがーーーー。食感はやっぱりヌタウナギを食んでるみたいだ。クニャクニャとした身を噛んでも噛んでもなんだか力が抜けて噛んでる感がないんだが。何とも複雑な味わい、仄かな苦みもある。

 これはなんとも言えん味だ。

 思い切って飲み込んでしまえ!


 !?!


 喉越しだ!


 何だこの喉越しは


 するりと飲み込んだ後のなんとも言えない爽やかな苦みの後味。


 これがすべてを覆す。


 最後に松葉の香りと苦味が鼻を抜け爽やかに香る。


 これかーーーー。


 癖あるけど大人はハマるやろーーーーー。


 はっと我に返りエミュを見ればもう次の脚を咥えている。


 うおりゃーーこのあまーーー。


 心の中で叫びつつ2本一気に抜き取り、空いた(ヘル厶)の隙間に新たなムカデ脚を足した。



 2人黙って貪り食らう。

 うるさい客には蟹を食わせろと言うらしいが、ムカデの脚でも大丈夫だろう、多分。




 やべぇ。食いすぎた。


 ちゃんと数えてなかったけど50本近くあったはずのムカデ脚はあらかた食べ尽くした。


 満腹も良いところだ。


「ごめんーークレオーーあたし、だぁめだぁーー少しだけ、寝かせてーーーなんかーーあったらーー起こしーー」


 腹がくちて眠気が限界突破したんだろう、壁にもたれうつらうつら舟を漕ぎ始めていたエミュは最後の言葉を残してかくりと首を垂れた。


 夢の国へ旅立ってしまわれたか。


 まあ、転送トラップに引っかかってからこっち気の休まる暇もなかったんだろうし、俺は目が覚めるまでは寝かせてもらっていた訳だし。


 何が起きるか分からないから片方は起きてないとな。エミュが1人だと早々に詰むって言っていたのはこの事も含んでいたんだろう。 

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