17・良い風呂(※15禁ギリな描写あり、不快な方は飛ばしてネ)
パンツまで脱がしてくれようとしたので、そこだけは硬く固辞した。
背中にメイドさんの視線を感じながら浴室に入れば。
「——うーーっ……」
日本式温泉旅館ばりの石造りの湯舟に、なみなみとたゆたう湯。
これを独り占めとは、なんと贅沢な⋯⋯。
ケロリンな黄色いプラスチック湯桶は無かったけど、木で作られた桶やら腰掛けやらがある。西洋風な文化に見えたけど日本式な所もあるんだ。
洗体用の湯を張った壺が置かれており、そこから手桶で湯を汲んで身体を洗えと言うことだな?
無いのは鏡とシャワー位かもしれない。
なんと石鹸まで置いてあるのだ。kao☽の文字が読み取れる、ドロップ品だなぁこりゃ。
木の腰掛けに座り、掛け湯で全身の汚れを落としながらロウリュ並の湯気に包まれていると、体の奥底から熱い汗が湧き出してくる様だ。
日本人の血が疼くわ。
伸びた髪や無精髭もまずお湯だけでざっと洗い流して行く。
そろそろ石鹸を使って本気的に洗おうかと思ったとき。
「失礼いたします」
背後から声がかかった。
「えっ!」
口から心臓が飛び出すかと思った。
さっきのメイドさんの声だった。
風呂の中なのだ、油断していても仕方ないじゃないか。
背後から人の気配が近づく。
嘘やろ?! 怖くて後ろを振り向けない。
「お背中お流しいたします」
「いっ! いえっ! 結構ですっ」
全力で拒否した。
「充分におもてなしできなければ、ご令孫さまに叱られてしまいます。どうかお願いいたしますお客様」
縋るような言葉を投げられてしまってはどうにも断りにくい。
「はぁ⋯⋯」
煮え切らない返事を肯定と捉えたのか、石鹸を泡立てネットのようなもので擦っているようだ。
「失礼いたします」
背中にふわりとシャボンの塊が当てられ、柔らかい布で丁寧に洗われていく。
うわーーこれ気持ちええー。
「痒いところはございませんか?」
久しぶりの温かい風呂で血行が良くなって来たのか、正直言ってあちこちが痒い。
「⋯⋯すいません、頭が全体的に⋯」
正直に言ってみた。
「承知いたしました」
何やら粉状のものがまぶされ、優しく髪を揉み洗う。
仄かに甘い様な干した草の様な薫りがする。
悪くは無いが流石にシャンプーは無いのか。
いや多分、ドロップしてもそれが髪を洗う物だとの認識が無いのか。
ここいら辺の説明が今後の俺の仕事になりそうなんだよな。
「あ、もうちょっと右で」
痒いところに指先を立てて優しく掻いてくれる。
あー 天国じゃーーー。
頭の後ろ、耳から首周りへと上から下へ磨き込まれ。
「いや⋯⋯そこはっ! はうっ!」
石鹸以外の良い香りを鼻腔に感じている。
さっきからちょいちょい背中に当たっている柔らかい感触はっ?
湯着とか湯帷子着てないのかあっ!
石鹸泡を纏った掌がヌルヌルと全身を擦ってくる。
「ひわっ! あうっ! 前は自分でやるから良いですっ」
背中から前に回るメイドさんの体が視界に入る前に目をつぶった。
いかん! 地味系美人なメイドさんの面影が頭の中で再生されしまう。
「うわゎわわわ」
いや、あなた! 何も着ていないじゃないですか!
ヤバいって! ハンパないって!
そりゃダンジョンでエミュアと男と女の事は無かったけど。
ダンジョンの中はけっこう肌寒く。
安全地帯で眠るときでもなるべく離れないほうが安心できたので、自然に背中を合わせて寝るようになった。
起きたときにいつの間にか、互いに抱きしめ合う様な形になっていた事もあった。
⋯⋯まぁ、後一カ月もダンジョン生活が続いていれば、もしかしたらもしかしたかもしれないとは妄想している。
自分から無理にそうする勇気は無かったけど。
エミュアから来たら拒まなかった自信はある。
どうしても我慢できなくなった時には⋯⋯。
多分エミュアも気付いていても、知らんぷりしてくれていた。と、思う。
そんなんだから、温かい風呂場できれいなメイドさんに身体を洗って貰っている俺は。
男の本能がギンギラギンにビ〇ビ〇物語になってしまう、ってのはご理解いただけるであろう。
なあ男子諸君。
耐えろ! 耐えろ! 耐えろ! たえろ! たえろ たえろ⋯⋯たえ⋯⋯無理。
「ヒッ!」
メイドさんの息を呑む音が虚しく耳に聞こえてくる。
あー。
やっちまった⋯⋯自己嫌悪。
「⋯⋯すいません」
謝ることしか出来なかった。
「⋯⋯」
メイドさんは無言で汚れをお湯で洗い流してくれている。
「⋯⋯謝罪しなければなりませんのは私の方です。お役目を果たすために禁欲されてきた殿方が、この様になってしまわれる事に気が回らず⋯⋯申し訳ございませんでした」
本気でしょんぼりしてしまった空気が伝わって来る。
「いえっ! あなたのせいじゃないです! その⋯⋯ありがとうございます」
もう少し気の利いた事言えないのかね、俺。
少し賢者モードに入った。
お陰でその後は⋯⋯〇ン〇ン物語は続いていたけど何とか耐えられた。
温めの湯舟に浸かりしっかり温まった後。伸びまくっていた髪を整え、無精髭も当たってもらいピカピカにしてもらった、色んな意味でサッパリした。
風呂を出て、真新しいゆったりした燕尾服的衣装を着付けて貰った。
次に案内されたのは、豪華な食卓に用意された温かい食事だった。
ダンジョンであまり十分とは言えなかった塩味が嬉しい。
ウサギだの鳥肉だのは主食だったけど、ちゃんと調理されたものは別格だ。
ダンジョンでは味わえなかった川魚のムニエル的な物もめちゃくちゃ美味いし。
久しぶりに食べたふかふかのパンはお替わりさせてもらった。
やはり炭水化物は正義だ。
出されたワインも味に深みのある高級感溢れる物で、ガブガブ飲むものじゃないと思いつつも何度もお替わりしてしまった。
風呂で温まり、飯、酒で腹が満たされれば、次なる人間の欲求は決まっている。
うつらと眠気を催した俺の様子にサバルス氏は、すかさず寝室への移動を促してくれた。
感謝の言葉を口にしながらも、ふらふらした足取りで案内された豪華スイートルーム。
その部屋で貫頭衣の様な寝間着に着替えさせてもらった。
つい風呂場で粗相をしてしまったメイドさんを探してしまったが、着替えを手伝ってくれたのは別のメイドさん達だった。
全員清楚系美人でやんの、さすが侯爵家、センスがいい。
「後ほどたんぽが参ります」
そう告げられ寝室に一人。
あー。
ふかふかのベッドやー。
しかも広い、キングベッドというやつか。
ダンジョンの石床と比べたら天国やーーー。
シーツと掛布の間に潜り込む、流石に冷たかったけどどうせ直ぐに温まるし。
うとうとと意識が沈み込む頃、静かな音を立てて寝室の扉が開いた。
あー。
湯たんぽ持ってきてくれたんだー。
と、思って入れやすいように、背中を向けベッドの端に避けた。
「失礼いたします⋯⋯」
あ、お風呂のメイドさんの声。
ちょっとドキドキしてしまった。
掛布の裾がゆっくりめくり上がる。
あれ?
シーツの隙間に滑り込んで来た柔らかくて暖かいそれは、ぴったりと背中に張り付いてきた。
心臓がバクバクと高鳴っていく。
嘘だろ。
しっとりとした人肌の感触。
眠気は吹っ飛んだ。
いや、そりゃ昔の雪国とかでは、寝る時には人肌がおもてなしだったとか何かで読んだ記憶はあるけど。
こっちの世界もこれがおもてなしなのか? そういう文化?
「いや、あの、その⋯⋯」
身体が固まったまま言葉がでない。
「⋯⋯私ではお気に召さないようでしたら、別の者と替わります——」
悲しそうな声が呟く。
お風呂場で見たメイドさんの、緑がかった黒髪や少しだけふくよかな体。
優しそうで少し憂いを帯びた表情が目に浮かぶ。
地味系ながらもクラスでニ、三番目には可愛い娘的な、その容姿はカースト中低位な自分には高嶺の花だった。
そんな娘が⋯⋯今。
身体を回転させ真正面からメイドさんを見つめた。
「そんな、こと⋯⋯無いです」
泣きそうな表情だったメイドさんを、ぎゅっと抱きしめた後は無我夢中だった。
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