12・俺たちの戦い
あまりにも反応が薄くここで終わりにしようと思って書き始めた12話ですが。
前話でブクマが一つ増えたのでもうちょっとだけ続くんじゃ。
グギャギヤァアァァ!
ゴブリン共の集団が現れた。
ブンッ!
剣肌に塗れたゴブリンの血の飛沫が、振るった剣先から飛び散り目を潰す。
ギャア!ギャァァァ!
隙を逃さずエミュはゴブリン共の中へ剣を振り下ろしながら踊り込む。
あれから何日経ったのかしら。
あの日、這々の体で安全地帯へ逃げ帰り、なんとか一匹だけ倒した飛び角兎の肉を二人で分け合い、涙ながらに噛み締めたあの時が懐かしい。
+一層で安全地帯からの出入りを繰り返し位階を上昇させ、0層へ戻っては武者修行を繰り返して行く中。
0層の奥に現れるオーガがドロップしたドクロを象った角兜を被り、+三層に湧く素ゴブリン共のそっ首を骸骨騎士の落とした剣を振るい軽々と切り飛ばしていくエミュ。
ギィィーーー!アギャギャ!
ザシュッ!!
首の皮を僅かに残し最小限の力で効率よく命を刈り取っていく様が美しい。
「クレオ!小邪魅どもが煩わしい、一度広間まで戻って範囲魔法で焼き尽くすぞ!」
小気味良いリズムで振るう剣戟の合間に激が飛ぶ。
「承知!」
応じながら俺はルオハレートの剣を振るい弓ゴブリンの放った矢を中空で叩き落とし、随分と歴戦の傷跡を遺すに至ったルオハレートの盾を掲げウイル・オ・LEDを先頭にゴブリンの集団へ切り込み道を開く。
時間をかけじっくりと+一層、+二層で修行を積んだ俺たちは最初のフロアである0層へ潜りカエルやらナメクジ、オーガやら骸骨軍団やらを相手に更なる位階上昇を重ねた。
+三層の素ゴブリン程度が相手なら数時間戦い続けても負ける気はしない。
「うぉりゃああああああああ!」
気合一閃
走りながら上げる俺の怒号に前方を塞いでいる雑魚ゴブリン達はたちまちに崩れ我先にと逃げ散っていく。
聞けばゴブリンは残虐かつ臆病な性質で弱い相手には集団で襲いかかるが勝てないと判ると直ぐに逃げに入るんだそうな。
上位種が恐怖で統率し徒党を組めばまた気が大きくなり執拗に攻めてくるが一対一になればやはりヘタレるという。
どこぞの世にもよくいるよな。そーゆー奴。
+三層の探索中に入り込んだ場所はゴブリン共の巣だったらしい。
ここまでの間、進むほどにゴブリンとの接敵率が上がって居たのはそういうことだったのだろう。
倒しても倒してもわらわらと次から次へと湧いてくるゴブリン共。
少し前に休息した広く部屋のようになった通路まで後退した。
エミュの言う『広間』というのは此処のことで間違いあるまい。
「いいぞ! エミュ! 来いっ!」
広間内に隠れていたゴブリンの逃げる背後に斬りつけ、三匹ほど居た奴を追い出した、他に敵影の無い事を確認した俺はゴブリン集団を抑えながらジリジリと後退して来たエミュの背中に叫ぶ。
タッ! タンッ! タタンッ!
視線も向けず後方に3ステップ。
飛び下がってきたエミュの背中を体で受け止める。
ドンッ
まぁ俺を後退のストッパー代わりにした訳ね。必ず受け止めると信じて、一瞥もくれずに背後に跳ぶ勇気に乾杯。
ゴブリンたちは広間に入る切っ掛けを失い、広間の奥に並んだ俺たち二人を警戒してか通路入口手前で右往左往している。
この隙にバッグからヒールポーションを取り出しドリンク代わりに一気に煽る。
怪我をしたわけではないが戦闘中の水分補給に丁度良い、青臭さは慣れた。
+三層でのモンスター大量虐殺により在庫の数も潤沢なのでまったく惜しくも無い。
ギャギャッ! ギャギャ! ギャッ!
ゴブリンの後方がさわがしくなり入り口付近に居た個体が押し出される様に広間の中に転がり込んで来た。
ウィル・オ・LEDを動かして灯りを当てれば随分とデカいゴブリンのお出ましだ、上背約二メートル恐らくは上位種か統率個体か。
いわゆるホブゴブリンと言うやつだと直感する。
グギャギォォ゙オ! ヴギャオォ!
ホブゴブリンが野太い大声で何か号令をかけると渋々と言った体で周りのゴブリンが広間の中へ入って来た。
『オマエラ!イッテコイ!』
とでも焚き付けて居るんだろうか?なまくらな錆び剣と粗末な盾すら持ってないゴブリンを斬り込ませるつもりらしい。継ぎ接ぎでも立派な鎧を着けて盾まで構えた自分は後方待機かい?
ジリジリしか前に進まないゴブリン達に業を煮やしたのか。
グギャーーーォ!
ホブゴブリンは自分の背後に隠れていた一匹をむんずと掴み、大きく振り被ってぇぇ。
投げた!
するか?普通。
アキャアァーーーーーー!
放物線を描いて飛んてくるゴブリンの絶望的な表情。
「チッ」
一歩踏み出して盾で斜めに弾き落とした。
ドスッ!
ギャン!
痩せた子供程度の体格とは言えそれなりの質量が飛んで来たのだ、受け流すのが精一杯だった。
ザクッ
落下と同時にエミュの剣が喉元を突く。が、バタバタと暴れるゴブリンは剣身を握り抱きついて来た。
「むっ……」
ヤバい。
目線を上げれば歓喜に満ちたホブゴブリンが此方に駆け出した瞬間。エミュが剣を直ぐには振れない状況だと悟られた。
ホブゴブリンの振りかぶった大振りな手斧を受け止めるために更に前へ――――。
エミュに肩を掴まれ止められた。
そのまま後ろに引っ張られながら。
『ファイヤウォール!』
エミュのトリガーワードに魔力が走り部屋の中に炎の壁が形作られた。
ホブゴブリンは勢いのまま炎に突っ込み飲み込まれた。
ホブゴブリンの後ろから雪崩の様に部屋になだれ込んで来たゴブリン数匹も巻き込まれ火だるまになっていく。
まだ外にいたであろうゴブリンたちも勢いのままに広間へと飛び入り、かろうじて炎壁の手前で踏みとどまったゴブリンの背中を圧し無慈悲に炎の壁に押し込んでいく。
『ファイヤウォール』
俺は時間差で部屋の後方に炎の壁を生み出した。
イメージは建物火災。
そこにガス管をイメージした魔力管を接続しドギュンドギュンと圧送する。
黒煙と紅蓮の爆炎が巻き上がり広間は二つの炎壁で挟み焼きの憂き目に会うゴブリンたちの阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた。
広間の端から零れ出る熱気と炎の舌ベロのチロチロした瞬きがエミュの横顔を橙に照らす。
俺は後方から新たなモンスターが寄ってきていないか、ウィル・オ・LEDを飛ばして警戒をしていた。
ゴブリン共の叫び声が聞こえなくなっても念を入れウエルダンまでたっぷり時間をかけ焼き上げた。
炎が収まりようやく二人が広間に入れる温度まで室温が下がった時にはとっくにゴブリンたちの死体はダンジョンに吸収された後だった。
焼け焦げた匂いに顔をしかめつつも床に転がったポーションの瓶をいくつか拾う。中身は一度煮えてしまっているはずなのでちゃんと使えるかどうかは不安だが。
その他ゴブリンが消えるときにドロップしたであろうアイテム類の燃えカスがプスプスと黒煙を上げている。アイテムゲット的には問題があるな、ダブルファイヤーウォール。
「……クレオ」
喘ぐようなエミュの声に視線を上げる。
「どうした? エミュ」
無言で広間の横壁を差すエミュの指の先に、黒い煤で形取られた。
『壊』
の文字があった。




