13・うはうさぎのう ごは……
ピョコ。
LEDに照らされた薄暗がりに現れたのは。
中型犬程のサイズの白い影が五つ六つ。
やはり数が増えている。
「クレオ、逃げられるか?」
エミュアの声が震えている。
「飛び角兎だ……」
ダンジョンに兎だと!? それはヤバい予感しかしない。
「浅層での探索者死亡原因の第一位は、角兎の角に刺されての失血死だ」
「……エミュア、俺の後に入れるか? 曲り角までこのまま後退しよう」
身体の前面に盾を構え、角兎の突撃に備えながらジリジリと退がる。
ピョコ、ピョコリ。
ぴょん。
アカン。奴らが距離詰めてくる方が早い。
どちゅん!
「来るぞ!」
身を屈めていた一匹が跳ね、ミサイルのように突っ込んできた。
踏ん張って対ショック防御!
ガイン!
棍棒でひっぱたかれた様な衝撃が、盾から両腕に伝わりビリビリと両の手を痺れさせる。
体勢を崩しそうになるのを何とか堪えた。
盾にぶち当たった兎角ミサイルは、くるくると宙をきりもみ、シュタッと立ち上がるとさらに後方へ飛び退った。
前に三匹、後ろに三匹の二列横隊で、ジワリジワリと間合いを詰めてくる。
「クレオ、すまんがこのまま盾にさせてもらう。下がりながら飛んで来た奴をファイアボールで迎撃する」
真後ろからエミュアが囁く。
首筋にかかる吐息がこそばゆい、何気にご褒美ごっちゃんです。
よっしゃ、まだ戦う術はある。
今は戦略的撤退だ。
◇◆◇
グギャギヤァアァァ!
ゴブリン共の集団が現れた。
ブンッ!
剣肌に塗れたゴブリンの血の飛沫が、振るった剣先から飛び散り目を潰す。
ギャア!ギャァァァ!
隙を逃さずエミュアはゴブリン共の中へ剣を振り下ろしながら踊り込む。
あれから何日経ったのかしら。
あの日。
這々の体で安全地帯へ逃げ帰り。
なんとか一匹だけ倒した飛び角兎の肉を二人で分け合い、涙ながらに噛み締めたあの時が懐かしい。
+1層で安全地帯からこまめに出入りを繰り返し。
少しずつ位階上昇させては、0層へ戻って武者修行を繰り返した。
0層の奥に現れるオーガがドロップしたドクロを象った角兜を被り、+三層に湧く素ゴブリン共の首を、骸骨騎士の落とした剣を振るい軽々と切り飛ばしていくエミュア。
ギィィーーー!アギャギャ!
ザシュッ!!
首の皮を僅かに残し最小限の力で、効率よく命を刈り取っていく様が美しい。
「クレオ! 小邪魅どもが煩わしい、一度広間まで戻って範囲魔法で焼き尽くすぞ!」
小気味良いリズムで振るう剣戟の最中に激が飛ぶ。
「承知!」
応じながら俺はファルートの剣を振るい、弓ゴブリンの放った矢を中空で叩き落とす。
随分と歴戦の傷跡を遺すに至ったファルートの盾を掲げ、ウィル・オ・LEDを先頭にゴブリンの集団へ切り込み道を開く。
時間をかけじっくりと+1層、+2層で修行を積み。0層のカエルやらナメクジ、オーガや骸骨軍団らを相手に位階上昇を重ねた俺たちは。
+3層の素ゴブリン程度が相手なら、数時間戦い続けても負ける気はしない。
「うぉりゃああああああああ!」
気合一声。
走りながら上げる俺の怒号に、前方を塞いでいる雑魚ゴブリンどもはたちまちに崩れ、我先にと逃げ散っていく。
ゴブリンは残虐かつ臆病な性質で、弱い相手には集団で襲いかかるが、勝てないと判ると直ぐに逃げに入るんだそうな。
上位種が恐怖で統率し、徒党を組めばまた気が大きくなり、執拗に攻めてくるが一対一になればやはりヘタレるという。
どこぞの世にもよくいるよな。そーゆー奴。
+3層の探索中に入り込んだ場所はゴブリン共の巣だったらしい。
ここまでの間、進むほどにゴブリンとの接敵率が上がって居たのはそういうことだったのだろう。
倒しても倒しても、わらわらと湧いてくるゴブリン共。
少し前に休息した、広く部屋のようになった通路まで後退した。
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