10・闇に紛れて
すかさずエミュが引っ込めていたウィル・オ・ウイスプを立ち上げた。
これで暗闇の中での接敵だけは避けられる。
何が起こった?
自分の中ではウィル・オ・LEDが潰された感触はない。未だに見えない管が繋がり魔力を供給しているのが感じられる。
だが、こちらから操作しても何かが抵抗して自由に動かない感覚だけが伝わってくる。
魔力供給管の伸びる先を目で追って行く。
いた。
「あれはなんだ?」
やはりLEDは消えた訳ではなかった。
薄ぼんやりと輝く人間大のそれは壁に張り付いていた。
そいつの身体の表面が床や壁の色と同化していたので見分けがつかなかっただけだ。
「ジャイアントフロッグだ!ジャンプアタックをまともに食らうな!伸びる舌にも注意!」
エミュの指示わかりやすい、要はデカいカエルだ。ウィル・オ・LEDは奴に飲み込まれたんだ。
気が付かないまま接近されて俺かエミュ、どちらかが先に殺られていたら完全に詰んでたな。
「喜べ!クレオ。腿が美味いらしいぞ!」
やっぱ食うんかーい。
「ファイヤアローの射程まで微速前進!後ろ脚の動きに気をつけろ」
「了解!」
くそっ。LEDの明るさに慣れすぎてエミュのウィスプじゃ周りが見えづらい。
一度LEDを消してカエルちゃんの外側に出せば周囲は明るくはなるだろうが今度はカエル本体の位置が捉えにくくなる。
外の明かりはエミュのウィスプに任せよう。
ピクッ
カエルLEDが動いた。
と、思ったら。
目の前にお腹から光りを発するカエルちゃんが迫っていた。
跳んだ!
一瞬の躊躇の間に。
『ファイヤアロー!』
流れるようにトリガーワードから目の前のカエルに炎の矢が飛び出す。
襲いかかるカエルに盾を立てて避けた。
ドグワンッ!
両手に衝撃!
想定をはるかに超える、象のドロップキックでも食らったんじゃないかって位の爆弾的な圧力。
冗談とか比喩じゃなく本当に体が宙に浮いて、数メートル吹き飛んだ。
ゴロゴロと二転三転、床面を転がされた。
最悪なことに盾ごと吹き飛ばされた俺は後ろに居たエミュを巻き込んでしまった。
転げて壁にぶつかったところで止まったが。
「エ、エミュ?」
期せずしてエミュを壁との間に挟んでしまった。
エミュの名を呼ぶが倒れたままピクリとも動かない。
脳震盪でも起こしたか、もっと致命的な何かか。
「ウォオオオオオオオオオオーーーーー!!!」
俺は馬鹿の様に叫び、盾を構えてカエルに突進する。
これ以外の方法でエミュの方へ野郎を行かせない方法が思い浮かばんのだ、今は。
俺一人だけででカエル野郎を何とかせんといかんのだ。
捨て身で盾ごとぶち当たりガツンガツンと叩きつけてエミュからカエルを遠ざける。
ドズン!
壁面に押し付けて挟み潰してくれるわ!
「こなくそぉおおおお!」
壁に押し付けられた体勢でうまく力が乗らないのかアドレナリンがドバドバと溢れ出るているからかカエルの押し戻す力も大して強くは感じない。
体をずらして逃げようとするカエルの機先を制して逃がさない。が、このままでは流石に膠着状態。
どうする。どうする。どうする。考えろ。考えろ。頭を回せ。
何か使える物はないか?自分の持ち札は何だ?
ぬるぬると滑るカエルの身体を盾で抑え続けるのにも限度がある。
中腰のまま片手と肩で盾を固定し押し続け、フリーになった右手で腰から下げた短剣を抜いた。
そして盾の向こうに押さえつけているカエルの脇腹をエグる様に突き刺した。
クギャァアアアアアーーーーーーー
カエルモンスターの悲鳴と共に。
ガンッ!
中腰の俺の頭に真上から降ってくるカエルパンチ。
そのまま吸盤でルオハレートのヘルムを掴まれグイグイと体重をかけて押し込んでくる。くそう、このまま組み伏せられ圧し掛かられたら終わる。
くそったれ!
短剣と盾に見えない魔力管を繋ぎ、思いっきり魔力を叩き込んだ。数少ない今の俺の手札。
ギャガヤッ! グギャガガガ!
カエルのもがきが変わった。
明らかにこちらを攻める動きから逃げ出そうという必死な目的を持った動きに変わっている、死んでも逃がさねーけどな。
胸の中にぐりぐると渦巻いている魔力をこれでもかと押し込んで行く。
カエルを挟み込んでいる鉄盾が急激に温度を上げじりじりと焼け付く鉄板に変わっていく。コレがホントのヒーターシールドじゃい!
短剣の刃も同じくぐんぐんと温度を上げている。
グゲガガガ ギャガガ!
ブスブスど音を上げ脇腹から体表から生臭いカエルの匂いが立ち上ってくる。吐きそうになるが当然やめてなんかやらない。
盾や剣を握って居る手にも革手袋を通して灼熱が伝わってくる。
火傷位でエミュが守れるなら本望。
炙られて自分の身体の何処からか毛を燃やした時の嫌なにおいが立ち上って来るが気になんかしていられない。
灼熱剣でグリグリと内臓を掻き回してやる!先に死ぬのはお前だ!
死に物狂いで逃げようと藻掻くカエル、命がけで逃がすもんかの俺。
さすがのカエルモンスターも焼け火箸ならぬ焼け短剣で内臓をかき回されてはどうにもならんかったようで。
我武者羅にむしゃぶりついていたらいつの間にか動かんなっていた。
強張った腕の筋肉を強引に動かして無理やりに手を引きはがしぐったりとしたカエルの死骸からやっとこさ離れる。
ぶひぃ 本当に死ぬかと思った。
何度も何度も深呼吸を繰り返す、回れ回れ脳に酸素。
這いつくばってエミュの元へ急ぐ。
口元に頬を近づけて呼吸の有無を確認。よし、呼吸はしている。
ゆすっていい物かどうか判断がつかないが、ヤバいものならどのみち今の俺には助けられない、意を決して慎重に肩をゆする。
「エミュ、エミュ。大丈夫か?」
「う……」
エミュの眉間に軽くしわが寄る。
「ルオ……クレオか?」
「そうだ、クレオだ。どこか痛むのか?」
「う……ポーションを……」
そうだ、この世界にはポーションがあるじゃないか!
ルオハレートのバッグに手を突っ込んで瓶らしきものをまさぐる。二、三本手に当たった瓶を引っ張り出すとオレンジ、緑、紫の色のついた小瓶が出てきた。
紫はムカデを倒した時に見た、毒消しポーションだ。
「赤か?緑か?」
エミュの耳元で声を上げる。
「み……」
緑の小瓶を持つがどうやって開けたらいいのか分からない。飲み口がスクリューキャップじゃねぇんだよ!
「どうやって開ける?!」
ああ、くそっ。先にレクチャー受けておけばよかった。
「かみ……きれ」
躊躇なく飲み口らしき部分に歯を立てる。ポーションの瓶はガラス製か陶器製の様に見えたが意外と弾力のある素材で先端を噛んで捻ったら千切れた。
うぷっ。口の中に搾りたての青汁の様ななかなかに厳しい匂いが薫る。
エミュの口元に近づけて傾けるがうまく中に入って行かない。
くそっ……決してハラスメントじゃないんだ、信じてくれ。
意を決しで瓶をあおるとエミュの口元に唇を重ね、含んだ緑ポーションをエミュの口腔内に流し込んだ。
ゴクリ、ゴクリとエミュの喉が脈打ち。しばらくすると呼吸も落ち着き始めた。
エミュの上半身を抱き起しバッグから取り出したカップで水を飲ませる。
「すまん、クレオ。不覚を取った」
一息入れて落ち着いたのかエミュの口から謝罪の言葉が漏れた。
「いいや、こっちこそゴメン。ジャンプアタックには気を付けろって言われてたのに」
「あれは気を付けていてどうなるものでもなかったな。私も人に聞いただけで実際に相対するのは初めてだったんだ」
ふう、非常事態とは言えエミュと唇を合わせてしまったことは胸の中に締まって置こう、永遠の思い出に。
「……ジャイアントフロッグの脚は惜しいことをしたな」
言われてカエルちゃんが転がっていたはずの先に目を向けたら、陽炎に包まれたカエルが空気に溶けるところだった。
「……」
後に残ったドロップ品は緑色のポーションの小瓶。
行って来いかよ。
「ヒールポーションは私も一本持っているからそれはクレオが持っていてくれ」
「了解」
緑の小瓶を拾おうとして両掌にかなりの火傷を負っていることに気づいた。
結局、カエル産のヒールポーションは火傷の治療に使い。ポーション1本分が赤字となった。
横壁や天井にも気を配りながらダンジョン通路のマッピングを再開した。
そして暫く進んだあたりで、俺達は上方向へと向かう坂道を発見したのだ。
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