7話:最上級の過保護
ほかの話と比べて少し短めです
でも、そんな急に『聞きたいことがあるなら質問してください』って言われてもまだ聞きたいことが整理できてないんだよな……
まず何から聞いたものか…
「なんでフランチェスカがここにいるの?」
これだ。そもそもなぜうちのキッチンメイドがここにいるのだろうか。副業?父さんたちはきちんと給料を払っているのだろうか。
「えぇ、それからですね。まずは改めて自己紹介をしましょう。私はウィンベリー家キッチンメイド兼、ウィンベリー家護衛隊長のフランチェスカ・ハントです」
フランチェスカの苗字、知らなかった… って、そこじゃないよな。うちには護衛隊なんてものがあるのか? 貴族の家でもそんなことないと思うんだけど…
「ローレンス様、旦那様はウィンベリー商会のトップだというのはご存じですね?
商会のトップというものは、敵が多い仕事です。商売敵、逆恨み、ほかにもいろいろ… そのような者たちから旦那様たちを守るため、私たちはいるのです。」
あぁ、そうだ。父さんの仕事を忘れてしまっていた。確かに大商会のトップなんて、敵が多いなんてものではないんだろう。だから、護衛隊なんてものがいるのね。
「じゃあ、なんでフィーナが魔法を使えるの? よくわかんないけど、魔法を使える人は多くはないんじゃないの?」
この質問にはフィーナが答えた。
「よくお知りですね。確かに、初級程度の魔法を使える人は多いです。しかし、実戦ができるほどの魔法を使える人は少ないでしょう。
私は、魔法学校の出ですので。私だけではありません、あの場にいた者たち全員、実戦レベルの魔法が使えます。」
なるほど。魔法学校といえば、ノエル先生が務めているところだな。
「それはわかったけど、なんでフィーナたちは僕の護衛をしてたの?」
今言っていたことだと、護衛隊は父さんを守る集団のような感じだけど…
大方、母さんか父さんに護衛をするように言われたんだろうな。
多分、僕が出かけることを知っている、母さんが護衛を依頼したのかな?
「私たちは、奥様からローレンス様を守るように言われておりますので」
やっぱりね。過保護もいいところだ。ただ、実際変な人たちに絡まれたから文句は言えないし、感謝をするべきなのだろうけど…
「あの襲ってきた人たちは誰だったの?」
街を少し(本当に少しだが)歩いた感じ、治安のいい高級住宅街のようだ。そんなところに、普通、あんな奴らが入ってこれるものなのだろうか。
「きっと盗賊団の一員でしょう。あるいは、どこかの貴族の手のものか… どちらにしろ、身代金目当ての誘拐犯であることは間違いありません。」
言葉に怒気を含ませたフランチェスカが答えた。この様子を見るに、誘拐犯たちがどうなったのかは聞かないほうがいいだろう。少なくとも無事ではないだろう。襲ってきた奴らも災難だな。
「最近、王都で誘拐事件が横行しているという話を聞いたことがあります。あいつらはその事件とつながっているかもしれません。」
いつの世も、そういう事件は少なからずあるものなのか…
僕が少ししんみりとした雰囲気を出しながら、思考を巡らせていると、フィーナたちが会話をしだした。
「事実がどうあれ、旦那様に話さなければならないでしょう。フィーナ、あなたがローレンス様に衝撃的な光景を見せてしまいましたし。」
「えぇ、そうですね… 減俸を覚悟で報告しなければ」
なるほど、父さんに報告するのね。 減俸はしないだろうけど、僕が外出をするのには敏感になるだろうな…
ちょっと待って。そうなると、僕が外出しにくくなるよな?
……いや、それどころではない。成人するまで自由に外出ができなくなる可能性が高い!
それはまずい! ここはなんとしてでも報告を止めなければ!
「ちょ、ちょ、ちょっと待って! 報告はしなくていいんじゃないかな? ほらね、僕は大丈夫だったし、初めて魔法がみれてうれしかったし… ね?」
言い訳が苦し紛れすぎる! もうちょっとましな言い訳は思いつかなかったのか!
「いえ、気持ちは嬉しいのですが…… さすがに報告しないわけにはいきませんし……」
そうですよね! 僕でもそう思いますよ! なんか、フィーナさんたちは達観した表情をしてるし。
何とか、何とか報告を辞めさせないと……
「いや、それに、お給料減っちゃうかもしれないんでしょ? それはよくないから……」
すると、2人の達観していた表情が少し陰った。これだ! これしかない!
「確かにそうですが…… ただ、何の罰もなしにこの件を終わらせるわけにはいきません。」
まぁ、なんと強い忠誠心でしょう! うちのメイドたちは何をさせても一級品だね!
って待って。今、「何の罰もなしに」って言ったよね。これをうまく逆手に取れば僕の願いを聞き入れてもらえるのでは!?
ここが勝負どころだ!
「じゃあさ、今、ちょっとほしいものがあるんだけど、それを買いに行きたいんだ。それでなんだけど、2人にはそのことを黙っててほしいんだ。 それでどう?
2人は驚いたような表情を浮かべていた。すると、フランチェスカが口を開いた。
「それは構いませんが…… ちなみにその買いたいものを教えていただくことは?」
うーん、黙ってもらうなら教えてもいいか。
「魔法の本だよ。うちにはおいてないでしょ?」
すると、2人はほっとしたような表情をした。なにを買おうとしてると思ったのだろう。
「魔導書ですね? ならよかった。私はてっきり奴隷でも買うのかと……」
奴隷という単語が飛び出した拍子に、飲んでいたリンゴジュースが変なところに入ってむせた。
「ゴホッ、ゴホッ! そんなものを買うわけないでしょ? なんでそんな風に思ったの!」
そんなものを欲しがるわけないだろ! 本当になんでそんな風に思ったのか…
「ああ! すいません! ただ、物心がついた商人の子が闇市で奴隷を欲しがった、という話がよくあるので」
なるほど、確かにそれは危機感を覚えるだろうけど… 僕、そんな卑しい奴に見えた?
「……大丈夫だよ。それじゃあ、行こうか。」