表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
有限会社「竜使い」  作者: 境陽月
10/10

砂粒の帰る場所

(暗い)

(何も聞こえない)

(ここはどこだろう?)

 問いかけても答えは返ってこなかった。妙に体が重い。まるで重油か水銀の風呂にでも浸かっているようだ。

(僕はどうしてこんな所ににいるんだ?)

(僕は今まで何をしていた?)

(僕は、僕は……僕?僕って……)

 その時、声が聞こえた。最初は小さな小さな声だった。しかし聞こえるたびに大きくハッキリ聞こえてくる。

「……さん、……ッドさん」

(あれは誰だろう)

(女の人の声みたいだ)

(僕を呼んでいるのかな)

「……ッドさん、グラッドさん!」

 目が開いた。闇の世界は消えうせ、眩しい白い光が目に飛び込んできた。あまりの眩しさについ手の平で光を遮った。

「あ、よかった……意識が戻ったんですね。安心してください、ここは連邦の病院船の中です」

 白衣を着た見知らぬ女性がそこにいた。自分がベッドに寝ていたのもわかった。しかし頭の中はまだモヤがかかったようにはっきりしない。

「よかったですね、グラッドさん。あなたは事故から五日間も昏睡状態だったんですよ」

「……事故?……五日間?」

「思い出せませんか、グラッドさん?軌道ステーションで暴動騒ぎがあってステーションが爆発したんです」

「ステーション?爆発?……だめだ、何も思い出せない」

「頭部の怪我で記憶が混乱しているんです。心配ないですよ、グラッドさん」

「グラッド……それが僕の名前ですか」

 白衣の女性は微笑んで一枚のカードを差し出した。

「あなたが救命カプセルから発見された時に所持していた身分証です。お返しますね」

 カードを受け取ったグラッドはしばしそれを見つめた。顔写真もついているし、自分の物であることは間違いないだろう。話しているうちに頭もだんだんすっきりしてきた。それでも何も思い出せない。

「私も事故のあったステーションにいたんです」

 黒髪の幼さすら感じさせる女医はほがらかに答えた。

「それじゃあ、あなたも事故に?」

「ええ、定期便の乗り換えのために立ち寄ったところでした。助かったのは幸運でした」

「あ、あの……」

「まだ何か?」

「あなたの、その、お名前は?」

「リューセと言います。連邦病院惑星に到着するまで主治医を務めさせていただきます」


 小さな影が病院船の通路を駆けぬけていく。ときおり立ち止まってはキョロキョロして人目を確かめながらトカゲもどきの姿のプリズマは目的の場所の前にやって来た。他の人間の気配がないのを確認してから、鼻先でドアを押し開けて中へ跳びこんだ。

「よぉーし、確認OK!それではっ」

 コンソールにピョンと飛び乗り、一連のコードを尻尾の先で入力する。正面のスクリーンが明滅しディスプレイに『音声のみ』の表示が浮かんだ。

「画像通話は料金高いからなぁ。おまけに痕跡抹消の裏回線だから十倍額だぜ」

 小動物の姿でため息をつく様は見た目には可愛らしいものだが。口にしているのがみみっちい愚痴では誰も感動してくれそうにない。

「ま、あの人にこの姿を見せる訳にもいかないしなー。っとつながった!」

 コホンと軽く咳払いしてレシーバーをかぶり、相手には見えてもいないのに姿勢をただし、普段とは全く別の口調でマイクに向かって話し始めた。

「あ、院長先生ですか?僕です、プリズマです。ご無沙汰しております。今ですか、相変わらず宇宙の外れですよ。ほんと大変ですよ、個人運送業やってくのも、あははははは」

 彼にとって特別の話し相手らしくかった。普段は使わないような丁寧な言葉遣いだし(リューセが目撃すれば驚いたろうが)談笑を交えながらの通信だった。短いが親しげな会話の最後にプリズマはようやく肝心の用件を口にした。

「ところであの……あのガキはどうなりました?そう、心臓の手術するとかいってたあのクソ生意気な小僧ですよ。手術費用集まったんでしょ?聞いてますよ、かなりの寄付が集まったって」

 そこまで言って饒舌だったプリズマの言葉が止まった。しばらくして再び発した言葉は虚ろで、精彩を失っていた。

「そうですか。病院が静かになっちゃいましたねぇ。いえ、院長のせいじゃありませんよ」

 舌の重さが何倍にもなった気がした。それでも明るい声を作ろうと懸命に努力していた。たとえ無意味とわかってはいても。

「運が悪かっただけですよ……じゃあ、仕事に戻らなきゃ。またお電話しますから」

 通話を切り、通信機をオフにするとプリズマは目を閉じた。

(おかしいなぁ?金があれば命でも買えるハズなんだがなぁ)

 再び沈黙した後、何か納得したように何度も何度も首を縦に振った。

「そうか、やっぱり金プラス……若干の幸運も必要だったんだよな」

 自分を納得させるように声に出して自分に言い聞かせた。

「今回は少し足りなかっただけだ」

 通信室を出てリューセのいる病棟ブロックに向かって歩きかけ、プリズマはふと足をとめた。乗員や看護士が通りすぎて行く横で、そのままぼんやりと通路の先を眺め続けた。

(俺は……何処へ行こうとしてるんだろう。行き先なんてあるのか)

 それでもやがて腰を上げ再び歩き出す。

(ま、次の賞金首を捜しに行くのだけは確実なんだよな)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ