■ 砂の星
ゴウゴウと、風が鳴っていた。日も射し込まぬ黄色く染まった大気の底で。
この惑星の、この季節、昼夜の激しい温度差は大規模な上昇気流を発生させ、乾燥した黄砂を大量に巻き上げ大気圏の上層部までをザリザリとした不快な砂で満たす。黄色の砂のカーテンに遮られた空を飛行することは自殺行為とされ、地上付近での視界もよくて10m、悪くすれば10センチ前も見えない。僅かに磁気を含んだこの砂のために精密機械は数日を待たずしてスクラップとなり、衛星軌道からのナビゲーションすら役に立たなくなる。
この惑星には20年ばかり前に入殖が開始されたが、砂と痩せた土地を前に開発は遅々として進まず、開発会社の親会社の倒産とともに放棄された。現在では取り残された元・現地派遣社員とその家族の推定2100人。それが人口の全てである。惑星アルトゲ。その名だけがこの惑星が銀河連盟の公式記録に記載された唯一のデータだ。
今、人口2100人と言ったが、それは正確ではない、現にその三倍以上の人間がこの惑星に住んでいる。公式記録には記載してはもらえない人間すなわち犯罪者と、その関係者たちが。
絶えず舞い上がる砂塵の底に小さな窪地があった。一見すると、ただ砂が溜まっているだけの窪地だが、よく見ると少しだけ砂の色が違っている。それは砂地に似せた模様の大きな一枚布だった。そして布の端から青光りする金属製の細い筒状の先端部を僅かにのぞかせているもの。黒塗りのごっつい長方形のボディ部から突き出した、直径3センチの円筒形の銃口は特殊な銃弾を発射することを目的に設計されたものだ。
「スタンディスシュ社765型重ライフル改…こいつなら一発で奴をバラせるぜ」
砂の下に潜む男はつぶやいた。素肌にジャケットを羽織った野盗くずれという言葉がピッタリの男だった。野盗くずれ風の男はもう一度銃を点検してから、旧式のでかいレシーバーに耳を当てた。
ざー…ざざーーー……
風に巻き上げられる砂音だけが聞こえてくる。男は沈黙し待ちつづけた。そして、砂音に混じって待ち焦がれてた音が耳に流れ込んできた。
ざー…ブロロ…ざーざー…ブロロロロロ…
「間違いない、エアロバイクのエンジン音だ。来やがったな、『竜使い』さんよォ!」
待ちわびていた客が来た、とでもいうように男は楽しげな声を上げた。そのくせ、声にも表情にも緊張と押し殺した恐れがにじみ出ていた。男の潜む窪地の周囲5キロ四方にはざっと千二百個の集音マイクがばら撒かれ、耐磁性ケーブルを通じてエリア内の物音の全てを男の耳に届けていたし、バイク音を捉えた集音マイクの位置はゴーグル内に表示され、敵の現在位置を知らせてくれた。望遠カメラも、レーダーすら無効となる砂嵐の中では唯一の広域監視方法であった。
「この砂嵐の中じゃ通常の光学兵器は一切役立たねぇ。使えるのは白兵戦用の武器と…俺様愛用のこの特殊ライフルだけだ」
男はニヤリと笑って銃弾を装填した。通常の銃弾ではなく70グラムの爆薬を充填した小型ミサイルともいうべき非合法の銃弾だ。正確な照準が不可能な砂嵐の中では、敵を地面ごと根こそぎふっ飛ばしてしまうに限る。
「俺の首にかかった50万クレジットの賞金が目当てらしいが…」
彼の首に懸かった賞金額なら中古の恒星間小型貨物輸送船が1隻買える。堅気の商売なら同額を稼ぐのに10年はかかる。この賞金につられて今までに20人以上の賞金稼ぎがこの惑星を訪れ、そして砂に埋もれて消えた。
「場所が悪かったな。ここは俺様の、『砂蛇のガッド』様のホームグランドなのさ」
男、砂蛇のガットは安全装置を外しトリガーに指をかけた。耳を済ましてレシーバーからの音に集中する。バイクのエンジン音は今…射程距離に入った!
「きたな……むっ?」
ガットは眉間に皺を寄せた。射程距離に入った瞬間にバイク音が止まった。標的=『竜使い』がエアロバイクを停車させたようだ。レシーバーからはバイク音に代わって人間の声が聞こえてきた。
「ねーねー、どうしたの?いきなりバイクから飛び降りちゃうなんて、ビックリしたわよ」
(この声…若い女の声だ。竜使いは代替わりして女が名を継いだとは聞いちゃいたが。)
ガットが入手した情報は竜使いを名乗る賞金稼ぎがこの星唯一の宇宙港に来たこと。初代は70過ぎの老人、先代は素性不明の青年だったのが数ヶ月前に女が三代目として跡を継いだらしいこと。その女が闇屋で中古のエアロバイクを購入して砂漠へ入ったことだけだった。
「こんな所に長居したら砂で肺をやられちゃうよ。道草食ってないで早く次の町へ行こうよ」
(それにしてもこの声…小娘の声じゃぁないか。ブロンクスの野郎はこいつにやられたというのか?)
彼の義兄弟の銀行強盗のブロンクスは2ヶ月前に竜使いに捕獲され、重犯罪者刑務所へブチこまれた。ブロンクスだけではない、代替わりしてからの僅かな期間だけでも捕獲された重犯罪者は8人。先代同様、三代目の竜使いも賞金稼ぎ長者番付トップ間違いなしと噂されている。
「何してるの?そんなとこ掘り返して?」
(…こいつ、誰と話してる?竜使いは一人で行動しているはず…そうか、ペットを連れているという話だったな。話し相手はペットのトカゲか。)
顔を会わせた闇屋は確かこう言っていた。顔は防砂塵用マスクとゴーグルで分からなかったが黒髪の女で体長30センチほどの緑色のトカゲを連れていた、と。
「何、それ…えっ、集音マイク?なんでそんなものが砂漠に落ちてるのかしら」
(な?!偵察用集音マイクが見つけられた?バカな、光学カモフラージュは完璧だったハズだ!)
偵察用マイクとケーブルにはカモフラージュ迷彩が施してあり、接した地面の色と質感を塗装表面に再現し、さながらカメレオンのように周囲と同化して発見を妨げるようになっている。あくまで見た目だけのカモフラージュだが通常視界下でも見破るのは難しく、ましてこの砂嵐の中では発見不可能なはずなのだ。
どうやってマイクを発見したのか不明だが、このままでは有効射程距離から逃げられるか、ケーブルを辿って彼の潜伏場所を突き止められるかのいずれかだ。ためらっている暇はない。ガットは照準を竜使いの現在位置に合わせ、すぐさまトリガーを引いた。
バシュッ。かすかな発射音が砂風の中に消えた。着弾までコンマ7秒。
ポッ!砂嵐の中に炎の花が咲いた。直径20mのオレンジ色の二千度の炎の花だ。
地上の砂は溶解して赤い溶岩となり、空中の砂は瞬時に蒸発して砂嵐の中に一瞬だけ穴を開けた。数秒後、炎は消え爆煙も風に吹き散らされた。
「やったか?」
ガットはもう一度レシーバーを耳にあてた。爆発から生き残った集音マイクからはゴウゴウという風の音だけが…
ブロロロ!
風の音に混じってエアロバイクのエンジン音が響く!
「チッ、仕損じたか!しかも…」
エンジン音はこちらへ真っ直ぐに向かってくる。なんらかの方法で竜使いはこちらの居場所を感知したのだ。迎撃しようにも、今使った赤熱弾ではエアロバイクのトップスピードに振りきられる可能性が高い。
「ならば、こいつを使う!」
こんな時のために用意していた特製の黒い弾丸を弾装にセットした。この星のこの砂漠では無敵と言える、とっておきの一発を。狙いはおおよその見当でよかった。ターゲットの10メートル以内に撃ちこまねばならない赤熱弾と違い、50メートル以内に着弾すれば確実に殺れる。一発しかない超高値の非合法弾丸であった。
「えれぇ出費だが、竜使いを殺れるんなら惜しくはねぇ!」
高名な賞金稼ぎである竜使いには、暗黒街のいくつかの組織から逆に首に賞金が懸けられていた。推定総額は500万クレジット、奴を殺せば元は十分に取れる。
バシュッ!
軽い音がした。爆発などは起きなかった。そのかわりに、風向きが変わった。無秩序に吹き乱れていた砂風が一斉に一点に向かって流れ始めたのだ。いや、正確には風向きが変わったわけではなかった。小さな砂粒が何かに引き寄せられるように猛スピードで一直線に飛び始めたのだ。風の中の、そして地表の砂粒までもが吸い上げられ目にも止まらぬ速度に加速されて飛んでいく。
「えっ?今度は何、何なの?」
砂風のカーテンの向こうで獲物の慌てふためく声が聞こえる。特製弾丸の完全破壊領域に入っている証拠だ。
「超磁場発生弾丸…やったぜ」
ガットは満面の笑みを浮かべた。今使った弾丸は瞬間的に超強力な磁力を発生する。普通の状況下でも鉄製の自動車や飛行機を吸いつけ、行動不能に陥らせたり破壊したりする。だが、周囲を磁気を帯びた大量の砂鉄で囲まれたこの砂嵐の中でこの弾丸を使えばどうなるか?
「まずは、あたりの砂を吸い寄せる。超音速のスピードでな」
ガットの言うとおり、磁気フィールド内の砂が空中地表を問わず、目にも止まらぬ加速で磁力中心へと引き寄せられ、否!すっ飛んでいく。その砂は全て超音速に加速されている。そんな中に身を置けばどうなるか?
「何千何万の弾丸の雨の中に飛び込んだのと同じだ。散弾のシャワーを浴びてるようなものさ」
ガットはニヤッと笑った。装甲車に乗ってでもいない限り、こんな状況下では耐えられる生物などいない。
「キャーッ!?」
ボン!レシーバーが悲鳴を捉えるのと同時に、砂嵐の向こうに赤い炎の花が開いたのが一瞬だけ見えた。恐らく、竜使いの駆ってきたエアロバイクが砂粒に撃ちぬかれて爆発したのだろう。仮に砂粒の散弾シャワーにも耐えきれる装甲に身を包んでいたとしても…視界の一部が明るくなり始めた。大気中の砂が吸い集められて見通しがきくようになったのだ。
同時に砂嵐のカーテンの向こうから、黒く丸い半球状の物体が見え始めた。直径にして10メートルほどのドーム状のそれは周りから吹き寄せる風の中で少しずつ成長を続けていた。それは砂鉄の塊、数千トンはある砂鉄のドームであった。砂同士の激しい衝突が生み出す高熱でまわりの大気が揺らいでいる。
「砂の激流に押し流されて、数千トンの砂の圧力に潰されて高熱に焼かれて地獄行き…」
ガットはニヤニヤ笑いながら愛銃を愛しげに撫でた。勝利は既に彼の手の中にあった。竜使いの姿を見ることはできなかったが、エアロバイクを失った奴には脱出の術はない。できたてホヤホヤの砂の超高圧ドームの中で全身をすり潰されてあの世行きになっているはずだ。後は磁力が消えてから竜使いの細切れ死体を回収し、暗黒街の懸賞金と引きかえるだけだ。やがて砂鉄のドームに吹きつけていた風がやみ、視界は徐々に砂嵐に覆われ始めた。
「弾丸の発する磁場が消失したようだな。一休みしたら奴の死体を確認しなけりゃな」
ガットは鼻歌を口ずさみながらライフルを片付けようと…
「?」
何かおかしい、どこか変な感じがする。再び視界を覆い始めた砂風にも成長を止めた砂鉄ドームにもおかしなところは…
「なんだ、ありゃあ?」
磁力に沿って形成されたドームの真円に近い輪郭の一部に僅かな突起ができているのだ。
多量の砂鉄の中に何かの異物が紛れこんでいるらしいが…
「なんだ、ありゃあ!」
同じ台詞でも今度は驚愕の声であった。突起がプクッと風船のように膨らんだのだ。たちまちそれは4〜5メートルほどに膨張し、ドームはさながら焼かれた餅のような妙な形になった。
「生きていやがったのかッ?!竜使いッ!!」
ガットは片付けかけていたライフルを構えなおし、急いで赤熱弾を装填しなおし、銃口をドームに向けた。
…だが数秒遅かった。
バンッ!砂鉄のドームが爆ぜた!飛び散った砂が雨となって激しく砂漠を叩いた。
「ウギャッ?!」
ガットに潜む穴にも砂鉄の雨が降り注ぎ、全身を激しく叩いた。
「クッ!見えねえ!!」
ゴーグルについた砂を手の甲で払い落として、ガットはもう一度前を見た。大きくえぐられて崩壊していく砂のドームが砂煙の向こうに消えていくのが一瞬だけ見え、直後視界は数メートル先でも見えぬほどの砂煙がたちこめた。
カクンッ。
構えたライフルが軽く揺れた。
「な、なんだ…?」
目の前に何かがいた。『そいつ』はライフルの銃口の上につま先立ちで立っていた。逆光と砂煙でシルエットしか分からないが、二足直立型の生き物らしい。身長は180〜90センチ。細い銃身につま先で立っているところを見ると相当に鍛錬を積んだ並外れたバランス感覚の持ち主らしい。だが、異様に太くがっちりした腿と不似合いなほど細い足首、分厚い筋肉を所有する胸から突き出した太い腕と大きな爪を備えた指先、人間にしては長すぎる首の上に乗っている輪郭はどう見ても爬虫類のそれだ。少なくともこの星では一般的なヒューマノイドタイプの人類ではない。
「貴様?りゅうじ…」
考えるより先にガットの右手は反応していた。腰のホルスターには焦点温度二万度の熱線を放つフレア・ピストルがあった。光学兵器を無効化する砂嵐の中でもこの距離でなら致命傷を与えられるし、早撃ちにも自信はあった。
相手が何者であれ、かわせないはずだった、だが。
シルエットの顔の中に二つの光点が生まれた。シルエットの主が閉じていた両眼を開いたのであろう。
「違う?何かが…」
その時、ガットの動きがコンマ数秒滞った。爬虫類系の人類などこの宇宙にはいくらでも存在し、さして珍しくもない。しかし、そいつの目を見た時、説明のつかない違和感があり、それが一瞬の戸惑いに繋がった。
ドッ!
突風がガットの左耳から右耳へと吹きぬけていった。彼の体は軽々と吹き飛ばされ、穴の外へと投げ出され、砂の中へ半分顔を突っ込む羽目になった。
「……何が起こりやがった?」
砂地に叩きこまれた体は起き上がることができなかった。それどころか指一本動かせない。頭部を直撃した強烈な一撃が全身の神経を麻痺させてしまったようだ。突風に吹き飛ばされたのではなく、目にも止まらぬ回し蹴りがこめかみに入ったのだ、とこの時になって理解できた。視界が暗くなっていく中で『そいつ』の声が聞こえた。
「アンラッキーだったな、砂蛇のガット」
(男の声だ…それも完全にヒューマノイド・タイプの声じゃないか。)
爬虫類系人類の声にはヒューマノイド系には耳障りな高音域が僅かに入るが、この男の声にはそれがない。では先ほど見た爬虫類系人類らしき姿は錯覚だったのだろうか。竜使いは若い女だという話も正体を隠すためのカモフラージュだったのか。
「大人しく逃げ回ってくれてりゃ命までは失くさずに済んだろうにな」
ザシャッ、ザシャッ。
砂を踏みしめて『そいつ』は近づいてくる。声にはあからさまな侮蔑と殺意があった。
「俺の姿を見ちまった以上は仕方ない。可哀相だがな、この場で死んでもらうよ」
ザシャッ、ザシャッ、ザシャッ…足音はガットの耳元で止まった。視界は既に暗黒に染まっていたが砂嵐を凌ぐ殺気が吹きつけてくるのだけは分かった。
(殺られる……)
死の瞬間にはこれまでの人生が走馬灯のように目の前を流れて行くというが、今の彼の目の前にあるのは暗黒とゴウゴウという砂風の音だけだ。
(ダメだ…もう逃げられねぇ…何も…考え…られ…)
「じゃあな。おやすみ、ガット君。君の首に懸かった賞金はありがたく受け取って…」
ガコン!「グギャッ!!………」
何か硬そうな音がして『そいつ』の声が途切れた。
「痛たたた…いきなり何しやがる!」
『そいつ』の殺意が消え、かわりに怒りの声が耳に入ってきた。
「何しやがる、じゃないでしょう?今回は生け捕りにすると決めたのは社長ですよ」
女の声だった。先ほどからレシーバーで何度も聞いたあの女だ。
(竜使いは二人組だったのか?それに…『社長』?)
「ったく、人の頭をライフルで思いっきりブッ叩きやがって、死ぬかと思ったぞ!」
「…それくらい、なんですか!命というものは一度失ったらそれっきりなんですよ!」
「だーかーら!状況が変わったんだよ!俺の姿を見られたんだぞ?秘密がバレたら俺達、賞金稼ぎにとっちゃ命に関わる問題なんだ!」
「そもそも『重犯罪者であっても必要がないかぎり殺したりはしない。』というのが私との契約だったはずです!」
「そりゃ、そうだが…しかしだな…この場合は…」
「とにかくガットさんは私がいつものように処置します。社長は黙って見ていてください!」
「チッ…また『書き換える』のか…時間がかかりすぎるし、やたら体力消耗するだろ、あれは…」
「お気軽に『殺す』よりはマシです」
会話の内容からすると男の方が上司ということになるらしいが、イニシアチブをとっているのは女の方らしい。
「さあ、もう安心してくださいね、ガットさん。貴方の生命は私が責任をもって守りぬきますから…」
(ああ〜、なんてやさしい声なんだ。まるで天使みたい…)
薄れ行く意識の中でガットはこれまでの人生になかった安らぎを感じていた。まるで清潔で静かな病院のベッドの上で優しい看護婦さんにつきっきりで看病してもらっているような気分だ。
「しゃあねぇか…おっ、この改造ライフル、結構いい出来じゃねえか?いい値で売れるぞ」
(えっ…おい、俺の愛用のライフル!どうする気だ?)
「んー?この旧式なジープでここまで来てたのか?手入がイマイチだから捨て値でしか売れそうにないが。
ぶっ壊されたオンボロの安物バイクよりはマシか。当分、この惑星での足は必要だしな」
(お、おい!俺のジープをかっぱらうつもりか、この糞野郎!)
ガサガサ…男は砂の下に隠してあったジープの荷台を探っているようだ。
「違法弾2ケースに、携帯食1週間分、後はガラクタばかりだな。売り物になるのはそれくらいか?」
(チクショーッ、俺の全財産をガラクタ呼ばわりしやがって!)
「ん?地図に赤丸印がついてるな…なるほど、こいつの隠れ家か。家捜しすれば金目のモンが、もうちょっと見つかるかもしれんな」
(…お、俺の寝床までむしりとる気か?なんてセコイ奴なんだぁーっ!)
消えそうな意識の中でガットは精一杯の抗議と悪態を繰り返した。しかしそれも長くは続けられなかった。奇妙な感覚が入りこんできて思考力が消えてしまったのだ。まるで頭の中に指先が潜りこんでくる、そんな奇妙な感覚だった。
「さあ、怪我の手当ては済みましたわ。これから貴方の記憶を少しだけ書き換えますが、命に別状はないから安心してくださいね」
(…記憶を…書き…換える?)
言葉の意味を理解することさえ、もうガットにはできなかった。
「おっと、俺としたことが現金を忘れてたぜ。懐の中に財布が…っと、あった。ひぃ、ふぅ、みぃ…なんだ、たったの300か?お尋ね者のクセにシケてやがんなー、コイツ」
(ち…くしょ…ぉぉぉ…俺の金…)
「ごめんなさい、貴方の財産までは守れそうにないです…」
完全に気を失う一瞬、やさしい言葉だけが残ったのが、せめてもの救いであった。




