第一話 ⑤
翌日の朝。
教室に向かう途中、廊下で春斗に声をかけられた。
「おはよう。ん? あれ? 歩、どうしたんだ? メガネなんかかけて。おまえ目、悪かったのか?」
「いや、これはキャラ付けだよ」
俺はズレてもいないメガネの位置を中指で直す。なんとなく、本当になんとなくだけど、主人公のサポート役はメガネ率が高いような気がする。
縁の薄い安物のメガネだが、どんなに曲げても元に戻る完全形状記憶合金製だ。
「ふーん……」
よくわかんないやつだな、と言いたげな様子で春斗は俺を見る。これは戒めなのだ、俺がこの男のサポート役であるということを忘れないための。
話題を変えよう。
「そういえば春斗。昨日おまえの部屋の前を通りかかった時に偶然聞いちゃったんだけど、夏原さんと特機で勝負するんだって?」
「げげっ、聞こえてたのか? ……はぁ、そうなんだよ。俺は朝日を浴びて起きたいから窓側のベッドを使いたいだけなのに」
春斗は頭を抱える。羨ましい悩みだ。
「特機での勝負か」
「うん……あっ、なぁ、歩。よかったら俺の訓練相手になってくれないか?」
俺はギクリとした。応じてやりたいのは山々なのだが。
「あー悪い、それは無理だ」
「えっ、なんで……?」
「俺、NSLの操縦下手くそだからさ」
「一緒に訓練すればいいだろ」
「うーん、すぐにわかると思うけど、俺は戦ったり、訓練の相手になったりすることはできないんだ。なんとか動かすことくらいはできるんだけどな」
「そう……なのか?」
「ごめんな。でもできることがあったら何でもするぜ。訓練も見てるからさ、気づいたことがあったら言うよ」
「ああ、それはありがたいな。よろしく頼む」
「おう」――そうだ、俺はこれでいい。
物語に殉じよう。
主人公になれないからといって絶望することはない。自分の境遇を受け入れて役割を果たしていけば、そのうちいいこともあるだろう。
五人に特機が支給されたのは、この日から二日後のことだった。
特機支給日の放課後、勝負に向けて、春斗は早速訓練を開始することにした。
春斗の特機『龍天』は、右手に太刀、左手に小太刀を持つ、二刀流の白い機体だ。料理ができるというだけあって手先が器用で、加えてこれもそれで培われたのであろう、春斗には一度に複数のことを同時にこなせるマルチタスクの能力に秀でた特性があったらしく、二刀流の特機はそんな春斗にぴったしの機体に思えた。
通信機越しに初めて乗った感想を聞いてみる。
「春斗、どんな感じだ?」
『なんか、シュミットよりも乗りやすい』
背の高い春斗用にコックピットも改良されている。女性用に設計されたシュミットのコックピットは同い年の男の平均的な体格である俺でも狭く感じたものだ。春斗には尚更に窮屈だっただろう。いいなーと思いながら、その訓練の相手、涼野瀬のあことのあちゃんの特機に目を向ける。
学級委員長に推薦された時にも垣間見せた冷静な状況判断能力が狙撃兵に向いているとされ支給されたのあちゃんの特機『ティンサー』は、アサルトビームライフルを主要な武器とする緑の機体だ。
ライフルによる援護と狙撃といった遠距離攻撃が主な役割であり、戦い方になるが、腰に備えたショートソードを駆使し、銃をSEMIからAUTOに切り替えることによって近接戦闘も可能としている。
『エネルギーの残量に気をつけなくっちゃ』
『のあ、準備はいいか?』
『はい。いつでもいけます』
『じゃあいくぞ!』
シミュレーター訓練開始。ドンッ! とジェットを噴出させ、二機はいきなり宙空に飛び上がった。
上空で刀を構えるやいなや斬りかかる春斗。ショートソードで応戦して距離を取り、すかさずビームを発射するのあちゃん。それをぎりぎりでかわしつつ距離を詰め、横なぎに一閃する春斗。受け流すのあちゃん。二機の特機が鋼の火花を散らしてぶつかり合う。壮観だ。すげーなぁ、なんであんな動きが自然にできるんだろう。ただ動かすことしかできない自分との差に感嘆の吐息が漏れた。
上空の二機に勝負の雰囲気はなく、互いの機体の性能を確かめるような動きを繰り返している。今はまだ何かを指摘する段階ではないな。
今日は記念すべき特機支給日。せっかくなのでもう一組の訓練を観に行こう。
夏原さんは佐倉さんを訓練のパートナーに選んでいた。
当然、偵察はフェアじゃないので、夏原さんの訓練の様子は春斗には伝えないという条件付きで見学は許可されている。
二人のいるアリーナに移動し、観客席に着くと、訓練は既に始まっていた。
地上戦だ。佐倉さんの黄色の特機『ポセイラン』は三又の槍を持ち、地面の上を軽やかに舞っていた。刃と柄の先端を要所要所で地面に突き立て自らの身を持ち上げて相手の攻撃をかわしたり、次の槍の一撃に活かしたりと、試合で見た時よりアクロバティックな動きの選択肢が増えている。
なるほど、槍はこれ以上なく佐倉さんに合った武器だな。と感心しつつ、その相手である夏原さんの機体に視線を移す。
夏原さんの特機『フェルゲス』は他より少しばかり体躯が大きく、重量感があった。かなりの幅広な大剣を装備している。長さも機体の背丈と同等にある、その大振りな剣を木の枝でも手にしているかのように軽々と振るっている。真紅の色に染まった腕力の相当に強い機体だ。
試合の時、一番剣の扱いがうまかったのがこの夏原さんだ。剣技のレパートリーが豊富で、剣閃に迷いがない。さすがクラス二位の実力者といったところか。
二人は互いに一歩も譲らぬ一進一退の攻防を続けているが、まだまだ本気はこんなものじゃないだろう。春斗との再戦が楽しみだ。
さて、どうせなら一位のラーラさんの特機も見てみたいところだが、彼女の機体は祖国であるイギリスからの支給とのことで、この学校での教育の都合上、日本語ベースにカスタマイズするため一旦ここから五キロ離れた品川基地の方で保管されることになったらしい。お目見えはまた後日だ。
「ラーラさんか……」
ブロンドのロングヘアーに切れ長の目。スラリとした肢体の綺麗な女の子なんだけど、正直、よくわからない人なんだよなー。日本語はできるみたいなんだけど、クラスメイトと話してるところを見たことがない。ルームメイトにもあまり友好的ではないらしい。わがままを言うわけではないので今のところは問題ないようだが。
――きっと彼女も春斗の取り巻きの一人になるんだろうなぁ。
なんとなく、そんな未来を予見する。どんな問題も春斗が全て解決してくれる、主人公とはそういうものだ。俺はせいぜいサポートしてやることにしよう。やれることがそう多いとは思えないが。事実、俺はそれから勝負までの日々、春斗にアドバイスらしいアドバイスをしてやれなかった。せいぜい一言、「もっと肩の力を抜いた方がいいよ」とか誰にでも言えそうなことを言っただけで、後はただぼーっと眺めていた。春斗は「そうか。ありがとう」といつもの爽やかな笑顔で素直に受け止めてくれたが、これってサポート役失格だよな。もっとしっかりしなければ、いつか三行半を押されかねない。うん、ちゃんとしよう。もっと、ちゃんと、しっかり。
だけどあくまで、物語の邪魔にならない程度に――
そうして、勝負の日がやってきた。
会場は入学式の試合の日と同じく第二アリーナ。二人の勝負はこの日を迎えるまでに広く生徒達に知れ渡っており、観客席には全校生徒が詰め掛けていた。
『さぁやってきました今が因縁の勝負の時! 勝つのは果たしてどちらかー!』
実況までついている。お祭り騒ぎだ。
「せーのっ、春斗くーん、がんばってー!」
キャー! と黄色い歓声が飛ぶ。もう春斗のファンクラブが出来ているらしい、彼女たちが持つピンクの横断幕には『I LOVE春斗』とハートマーク付きで書かれていた。
それらを気にしたふうもなく春斗は堂々とフィールドの中央に立ち、大きな胸を強調するように腕組みをする夏原さんと向き合っている。
「フンッ、春斗、ここで会ったが百年目ね」
「毎日部屋で会ってるじゃないか。教室でも」
「うるさいわね! 細かいこと気にするんじゃないわよ! ――ごほんっ、春斗、準備は整ったかしら?」
「勝負の準備なら見ての通り万全だ。他に何かあるのか?」
「決まってるでしょ? 私に負ける準備よ。いい? 春斗。前にも言ったけど、私に負けたら絶対服従だからね」
「俺が勝ったらどうなるんだ?」
「私が何でも言うことを聞いてあげます。エッチなこと以外ね」
じゃあ意味ないじゃないか、と俺は心の中でつっこむ。いや、なんでもないです。
「俺の要求は窓側のベッドだけだ。他には何もない」
「ふーん……。ま、どうでもいいけど。どうせ私が勝つんだし」
「その言葉、そっくりそのままお返しするぜ。勝つのは絶っ対に――俺だ」
「フンッ!」
夏原さんはフェルグスの手に飛び乗った。コックピットに運ばれていく。春斗も龍天のコックピットに収まった。
春斗が二本の刀を、夏原さんが大剣を抜く。
リアル3Dホログラムの白い光の帯がアリーナ全体を包み込むように持ち上がり、高く上空で点になって消えた。
『はぁ~い、ではこれよりぃー、国立NSL操縦士育成学校一年C組特機保有者二名による試合を開催いたします! お二方、準備はよろしいですか?』
『ああ』
『いつでもどーぞ』
二人の声がアリーナに響く。機体の通話機能はオンにしてあり、二人の声は皆に聞こえるようになっていた。
『では両者見合って、くれぐれも高潔にぃいいいい――』
ジリッ……とした視戦。二人の戦いは既に始まっていた。どちらが先に飛び出すか――
『試合――始めっ!』
瞬間、ブワッ! とジェットの加速と足の踏み込みを利用して先に飛び出したのは、夏原さんだった。
『ウラァアアア!』
女の子とは思えない雄叫びを上げながら、横薙ぎの一閃を見舞う。が、春斗はそれをジャンプでかわす。
『あまい!』
ギュワッ! と地面を踏んでフルブレーキ。夏原さんは春斗の動きを読んでいた。すかさず大剣を片手に持ち替え、直上に突き出す。
『もらったぁ!』
だが、春斗はそれを二本の刀を交差させて防いだ。
『んなっ!?』
『同じ手は食わないよ』
春斗は以前の試合でこの技にやられた。故にしっかりとした対策を考案していたのだ。ちなみに俺はそんなかわし方があるなんて思い浮かびもしなかった。サポートできてなかったなぁ。
「キンッ!」
大剣を左手の刀で払い、空中にいたまま今度は春斗が突きを見舞う。
『チッ!』
夏原さんは上半身を反らしてその切っ先をかわし、肩で刀の側面を弾いた。
しっかりと一手先を考えた動きだ。大剣を両手に持ち直し、下からすくい上げるように払い斬る。
だが、少し攻撃の手が遅かった。既に着地していた春斗は後ろに飛んでそれを避ける。双方、構えを整えた。
「「おー!」」
『素晴らしい両者の攻防! 目が離せません!』
アリーナに歓声。実況が唾を飛ばす。
『強いな、さすがに』
『あんたもやるようになったじゃない』
『ふっ、まだまだこんなもんじゃない。訓練の成果を見せてやるっ!』
今度は春斗が先に出た。距離を詰めるやいなや、一刀を払い斬りし、それが避けられるともう一刀で斬りつけ、さらにそれが避けられると返す刀で一刀、追撃の刀をまた一刀――
二本の刀を駆使した連撃だ。それを全て見切り、夏原さんは幅の広い大剣の腹を盾にして繰り出される一閃を冷静に処理していく。
『ここだぁ!』
ギンッ! と、上に大剣を急速に持ち上げ、二刀を払いのける夏原さん。
『うぉおおおお!』
『らぁああああ!』
互いの刃の応酬が始まった。キンッ! キンッ! と剣と刀が交錯し、払われ、フィールドに鋼の火花が散る。俺は鼻糞をほじりたいのを我慢して二機の剣撃に熱い視線をおくっていた。が。
――ん? なんかこっちに黒い飛行機が飛んで来てる。
全校生徒がいる会場で最も早くそれに気づいたのは俺だった。皆も気づき始める。
「あれ? 何あの飛行機?」
「え? あ、ほんとだー」
「ずいぶん低く飛んでるね」
低高度で太陽の日を浴びながらここ第二アリーナに迫り来るその大型の黒い飛行機は、フィールドに影を作り二人の特機の上空を通過し――と思いきや、何かを落として来た。
雲が通過したとでも思ったのだろう。二人はそれに気づかない。戦いを続け、そしてついに――
『ぐっ!』
『終わりだぁ!』
春斗が大剣を払いのけ、刀を目前のコックピットに突き刺そうとした、次の瞬間。
「ドォオオオン!」
何か金属の塊がフィールドの中央に落下し、轟音が辺りに鳴り響いた。
砂煙が舞う。それは見たことのない赤いNSLだった。
『なにっ!?』
『なんだっ!?』
二人が同時に驚く。忘れかけていたが、これはホログラムによるシュミレーション試合だ。震動と周囲の異常に二人の機体の異常感知システムが反応し、瞬時にシミュレーションモードを解除。元の直立する二機のNSLがフィールドの中央に置かれる。
赤いNSLは二機のすぐ横に立っていた。ザンッ! とその機体の両手の甲から刃が飛び出す。左右の手それぞれ三本づつ出現した爪のような武器――鉤爪だ。赤いNSLは鉤爪の着いた拳の腕を引き、夏原さんの乗ったフェルゲスに突き出す。
直立不動のフェルゲス――いや、わずかに動いた。しかし大剣は抜いた状態でこそあったものの、完全な防御には間に合わない。急いで大剣を持ち上げその腹を鉤爪の刃に向けるが、体勢がおぼつかず、大剣に鋭い一撃を受けて吹き飛ばされてしまう。
『キャー!』
『くっ、このっ!』
春斗が構え、赤いNSLに斬りかかった。だが、その繰り出された連撃は全て軽くいなされ、がら開きだとばかりに腹に蹴りを当てられる。
体勢がおぼつかないものであったとはいえパワーに比して重量級のフェルゲスを吹き飛ばしたあの腕力、春斗の攻撃をまるで大人が子供を弄ぶように軽くいなしたその手腕――かなりの手練だ。そんな操縦士が乗るのだからまず間違いなくあれは特機であろう。しかも春斗と夏原さんの特機に性能面でも互角以上に渡り合っている。やばいな、きっとあの赤いNSLの操縦士の適能値レベルは3、いや、4もあり得るか。
腹に蹴りを食らった春斗は吹き飛ばされつつも倒れることはなく、何とか体勢を立て直す。それを追撃する赤いNSL――狙いは春斗か。
鉤爪の猛攻が龍天に襲いかかる。なんとか食い止めてはいるが、春斗は防戦一方だ。
『くそっ、こいつっ……』
『このぉおお!』
横から体勢を立て直したフェルグスが突進する。だが、邪魔をするなとばかりに手の甲で打ち払われる。
『朱莉っ!』
フェルゲスの手から大剣が離れ、地面に落ちた。赤いNSLが倒れたその機体に追い討ちにかかる。
『ま、待てっ!』
赤いNSLを追う春斗。そこで、青い一筋の光が赤いNSLに放射された。それは軽く横跳びにかわされ、地面を焦がす。増援だ。空を見上げると、緑の機体――のあちゃんのティンサーが上空からビームの射撃を繰り出していた。だがフェルゲスを追撃する赤いNSLの走りは止まらない。ビームをかわしつつ跳び上がり、鉤爪を振りかぶる。その直下には倒れたままの夏原さんのフェルゲス――まずい、あの攻撃は当たったら死ぬ。そう思った、しかし。
――ガキンッ!
春斗の龍天が倒れたフェルゲスと赤いNSLの間に入り、交差させた二刀で鉤爪を受け止めた。
ビームが少しは足止めになったらしい、なんとか間に合った。
『大丈夫か!? 朱莉!』
『は、春斗!?』
夏原さんを身を挺して必死に守る春斗。あ、夏原さん、これ惚れたな。と俺は確信しながら観客の一員としてバトルを見守る。
「ドシュン!」
ビームが再び放たれる。身を後ろ宙返りに翻して熱線を逃れる赤いNSL。
『ヤァアー!』
もう一機、増援が来た。佐倉さんのポセイランだ。三又の槍の刃を地面に突き刺し、棒高跳の要領で大きく跳んで空中から刺しにかかる。
赤いNSLはそれを払い除け、着地した佐倉さんと地上戦を始める。
佐倉さんは息をつく間も与えず突きを繰り出す。手数が多い、誰も間に入れない。しかしそれほどの猛攻をやはりものともせず赤いNSLは両手の鉤爪で槍を弾く。佐倉さんが地上戦が得意と見抜いてのことか、赤いNSLの推進器からジェットが噴出し、空中戦に移行する。
赤いNSLを追うポセイランの突き。それを大振りに弾いて隙を生み、赤いNSLは逃げ場をなくした佐倉さんに振り上げた鉤爪で斬りつけにかかる。ピンチだ。しかしそこに上空から突如として水色の機体が現れた。その機体は二機の間に入り、赤いNSLの斬撃を左手に持つ盾で防いだ。そして右手には少し湾曲のある刀身の短い剣――カットラスを握る、その機体の搭乗者。
1年C組第一位の実力者にして、学年で唯一の適能レベル3到達者。
ラーラ・ウォルデン。
彼女の特機『テュール』は、機体と同色の盾と他のものより若干細身な体躯が特徴的な、前述したとおりのイギリス製。あえて刀身の短い剣を持つことにより、その俊敏な機動性を最大限に活かせる仕様になっている。
ラーラさんは鉤爪を盾で払ってカットラスを目にも止まらぬ速度で振るった。赤い機体は後ろに引いて刃をやりすごそうとするが、それを逃さず、ラーラさんはすぐに追いつきまた一閃を繰り出す。すごい。1年C組に支給された他の特機より二日遅れで学校に来た機体で、訓練も皆よりできていないはずなのに、あの赤い機体と互角に渡り合っている。
ラーラさんの鋭い一撃が剣閃の残像を見せる。赤いNSLはそれをギリギリでかわし、または弾き、鉤爪で応戦するも、盾で防がれる。その攻防の間に、他の皆も体勢を立て直した。
これで五対一。多勢に無勢だ。迫る特機の群れに焦りを抱いた動きを見せ、赤いNSLはたまらず空に引き返していった。
遠方の空の彼方へと消えていく赤いNSL。それを皆の眼が見送る。
戦いが終わった――
そう思ったのは俺だけではないだろう、アリーナに大音声の歓声が湧いた。
「「わー!」」
『おんみごとぉおお! 一年C組特機隊! 高潔なる因縁の対決を汚す不貞の輩を追い返しましたぁあ! さぁ皆の衆、英雄たちに盛大な拍手を賜りましょう!』
実況の女子生徒の音頭を皮切りに、感激の拍手がアリーナを包む。
五機のNSLは横並びに整列してフィールドに降りた。五人とも開いたコックピットに立ち、上半身を 覗かせた。皆、恥ずかしそうにアリーナの観客席の生徒達に手を振っている。ラーラさんだけは毅然として直立してるけど。
俺も手を叩き、遠くフィールドに望むクラスメイトたちの勇姿を心の中で賛美した。
すげーなー、こんなの。たまんねーよ、マジで。あいつら素晴らしすぎる。
よく見ると佐倉さんが隣にいるラーラさんに何やら声をかけていた。たぶん助太刀してくれたお礼を言っているのだろう。しかしラーラさんはちらりとそれを横目にしただけで、またすぐに前を見据えてしまった。――無視かよ。でもカッコイイな。
中央にいる夏原さんとその隣にいる春斗は顔を見合わせ、夏原さんが両手を皿にして肩と胸を揺らした。勝負はお預けの合図だな。春斗はそれに笑顔で「仕方ないな」と言っているようだった。
のあちゃんには誰も顔を向けていない。かわいそうだなー、と思って、俺はのあちゃんに向けて両手を振った。が、遠すぎて見えるはずもなく、代わりに春斗がのあちゃんに顔を向け、右手の親指を立てた。のあちゃんもそれに応えて親指を立てる。切ないけどかわゆい。
拍手は延々と鳴り止まず、特に春斗の名を呼ぶ喝采がアリーナを満たしている。
その光景は、俺が憧れた英雄譚の一幕だった。




