毛玉と出会い
大変、お久しぶりです…!(_ _)
今回は、夕介と史葉の出会った時の話。
縁側に腰掛けて、十川夕介はぼんやりとしていた。
よく晴れていて、夕介は友人である黒岩史葉と知り合った日と同じだなぁと思う。
「珍しく、暑すぎない、気持ちのいい風――」
さわさわと吹く優しい風に身を任せるように、夕介は後ろにそっと倒れ込んだ。
「……ふぁ〜……、ねむ……」
日向ぼっこしながら寝るのも、いいよなぁ、と夕介はそっと目を閉じるのだった――。
*
『ふわふわだ……』
ぼんやりと、夕介は教室の窓の外に顔を向けて呟く。
窓の外には、ふわふわとした黄色の毛玉のようなものが漂っていた。
『十川、何がふわふわなんだ?』
『毛玉……みたいな?』
『毛玉? ……どこにあんの?』
『外ならいっぱいだよ――』
夕介が指差す先には、黄色の毛玉のようなものがふわふわと漂っている。
だが、それは夕介にしか視えていないもので、訊いてきたクラスメイトの彼には見えるはずもなく、彼は首を傾げた。
『うーん……? 見えねーし、いいや――』
そう彼は、他のクラスメイトたちの所に行ってしまう。
夕介は少し俯くと『残念だなぁ』と呟き、また顔を窓の外に向けた。
『……何かあんの?』
と、今度は違う男子――史葉がやってきて声を掛ける。
夕介はさっきの事もあり、少し考えてから口を開いた。
『んー……、ないのかもしれない――』
そう夕介が苦笑いすると、史葉は若干眉間に皺を寄せて夕介を見つめた。
なぜ史葉がそんな顔をするのかわからなくて、夕介は困ったような顔になる。
『……なに?』
『嘘つくのか?』
『え……』
『だって、お前さっき、何か見てたじゃん。それなのに、今はないのかもしれないとか、嘘だろ』
『まぁ、俺には見えないけど……』と史葉は窓の外に顔を向けた。
窓の外には、史葉に見えない黄色の毛玉のようなものが確かにふわふわと漂っていて、夕介は思わず言っていた。
『ある――』
『ん?』
『黄色の毛玉みたいなのが、ふわふわ飛んでるんだ』
『ふーん……。何も見えないけど……、あるんだな――』
そう史葉は、雲ひとつない、晴れた空を見渡す。
そんな史葉を見て、夕介は心の中がじんわり温かくなるのを感じていた。
今まで出会ってきた人たちは、夕介の言っている事を適当に流したり、さっきのように興味を無くしたように離れていってしまったりということがあった。
だが、今の史葉のように信じてくれた人はいなかったような気がする――。
『……ありがとう』
『は?』
夕介の口から出た言葉に、史葉は意味が分からないというように首を傾げた。
そんな史葉に、夕介はよく周りから言われる言葉を言っていた。
『変わってるね』
そう伝えると、史葉は眉間に皺を寄せて、嫌そうに口を開く。
『お前に言われたくない――』
そんな史葉を見て、夕介は「面白い人だなぁ」と思うのだった。
*
「……、い、おい、大丈夫か?」
「ん……? んん……、暑い……」
目を覚ますと、スーツを身にまとった史葉が心配そうな顔で夕介を覗き込んでいた。
夕介がゆっくりと起き上がると、史葉は「何してんだよ」と続ける。
「今は夏なんだから、熱中症になるぞ――」
「うん……」
夕介が寝ぼけながら頷くと、いつの間に準備していたのか史葉から水の入ったコップを渡された。
「脱水症状とか出たらヤバいからな。全部飲め」
「んー……」
渡されたコップに口付けて、水をゆっくり飲み干してから、夕介は思い出したように訊く。
「ぁ……そういえば史葉さ、おれと初めて会った時のこと、覚えてる?」
「あ? ……あー、何となくな」
と史葉は空を見上げて過去に思いを馳せた――。
*
夕介と出会ったのは、中学二年の春だった。
一年の頃から、夕介は“変な奴”で噂になっていたし、史葉の耳にも入っていた。
それでも、クラスが同じではなかったので、夕介と関わることもなかった。
だが、進級して同じクラスになったある日、夕介が窓の外を見つめていて、雲ひとつない空を何を思って見ているのか気になった。
だから、話し掛けてみようと史葉が一歩踏み出してすぐ、クラスメイトが一足先に夕介に話し掛けたので、足を止めた。
何を話しているのかはよく分からなかったが、クラスメイトが「見えねーし」と言ったのは聞こえた。
そしてクラスメイトは離れていって、夕介は少し俯いてからそっと顔を窓の外に戻していた。
……その時見えた横顔が、何となく寂しそうに見えたのだ――。
*
「……元気か?」
「え? まぁ、うん、元気だけど……?」
「そうか」
「……なに?」
「いや、何となくな――」
そう史葉は呟いて、縁側に寝転がる。
視界いっぱいに広がる空は青く澄んでいて、雲ひとつない。
「……いい天気だな」
「こういう日は、日向ぼっことかしたくなるよな」
「お前だけだろ」
「えー?」
「そうかなぁ……」と呟いて、夕介も空を見上げる。
史葉は夕介がまた何か視ているような気がして、あの時のように訊いていた。
「……何かあんのか?」
「ん? うん、あるよ。ふわふわしててさ――ほら」
そっと手を伸ばし、夕介は緑色の毛玉のようなものを手に乗せる。
史葉に見せてみるが、やはり史葉には見えない。
「ふわふわの、緑色の毛玉みたいなやつ」
「……黄色じゃないんだな」
「ぇ……?」
「何でもねーよ――」
そう言って、史葉は目を閉じる。
夕介は今日の史葉は何だか変だと思いながら、緑色の毛玉のようなものをふっと吹き飛ばした。
吹き飛ばされたそれはふわふわと漂って、同じようにふわふわと漂っている緑色の毛玉のようなものと合流する。
「……毛玉みたいなのも、友だちとかいるのかな」
「もしかしたら、居るかもな」
「そしたら、紹介してもらおうかな」
「紹介してもらってどうすんだよ」
「え? うーん、友だちになる、とか?」
「……やっぱお前、変わってるな」
「そんな変わってる奴と仲良くしてる史葉も、変わってるんじゃないか?」
「お前に言われたくない」
そう言って、史葉は身体を横に向けた。
すると、縁側に咲いている花たちがさわさわと揺れる。
夕介は花たちを見て、小さく笑った。
「はは――、かもね」
「……おい、何笑ってんだ」
「いや、こっちの話――」
と夕介は花と会話を始めるので、史葉は「ほんと、変わってんな」と呟くのだった――
気になった。
史葉「毛玉って、色決まってないのか?」
夕介「ああ、春は黄色みたい」
史葉「なるほどな(だからあの時黄色って言ってたのか)」




