魔法使い
お久しぶりです…!
公園で少女に言われた言葉に。
十川夕介は近所の公園で、ベンチに座って風に当たっていた。
「はー、涼しいなぁ……でももうちょっと風欲しいなぁ──」
そう夕介がぼやくと、スーッと夕介の周りに風が吹く。
夕介は目を瞑って、あー、いいねいいねと風を楽しむ。
「気持ちいいなー、ありがとう」
風に感謝して夕介が目を開けると、黄色い帽子を被ってランドセルを背負った少女が、学校終わりなのかじっと夕介を見ていた。
「……えっと……?」
「お兄さん、魔法使いなの……!?」
そう少女は徐々に目を輝かせていく。
夕介は「いやぁ……」と苦笑いして答えた。
「魔法使いではないよ、ただの人だよ」
「でもでも! 今、何かとお話してたよね?? そしたら、お兄さんの周りだけ風が吹いてた!」
「絶対魔法か何か使えるんだ!」と少女はわくわくとした面持ちで、夕介の隣に座る。
そして夕介を見上げて、少女は「すごいすごい!」と続けた。
「わたしもお話出来る??」
「うーん……どうだろう、いつかできるんじゃない?」
「ほんと?!」
「たぶん……?」
夕介は苦笑いしてから、何の躊躇いもなく隣に座ってきた少女に一応注意しておく。
「知らない人に声掛けたりしたら危ないよ? さらわれたりしたらどうするの?」
「大丈夫、わたし、お兄さん知ってるから」
「え、そうなの?」
と夕介はどっかで会ったことあったっけと記憶を辿るが、特に思い当たる節がなかった。
「……うーん、わからないなぁ」
「だって、お兄さん『要注意人物』だもん──。皆知ってるよ」
「ああ、なるほど──」
と夕介は納得する。それで納得する夕介も夕介だが……。
夕介はよく猫や草木、花、天気にまでも声を掛けたりしているので、近所の人には『不審者』、『要注意人物』と見なされている。
夕介からすれば、それが“普通”なので気にしていないが──。
「……それなのに声掛けてきたんだ、凄いね」
「だって、お兄さん優しそうだもん。それに、恐くない」
と少女は何故か胸を張って答えた。
「あとあと、お兄さん魔法使いだもん。目の前で話してるの初めて見て、ぶつぶつ呟いてる恐い人かと思ってたけど、実際はほんとに誰かと話してるみたいだったし……。それにほんとに風が吹いてた!」
「ははは……」
これは、勘違いされてるなぁ……と夕介は苦笑いする。
「あ、もう帰らなきゃ。じゃあねお兄さん、またね!」
少女は言いたいことだけ言って立ち上がると、元気よく手を振って走っていった。
「……小さい佐藤さんみたいな子だったな」
と揺れるランドセルを見送りながら、夕介は思わず呟く。
それから、またね、ということは明日も来るのだろうか……と思い、とりあえず明日も同じ時間に来てみるかと、夕介もベンチから立ち上がるのだった。
*
そして翌日、夕介はまた同じ時間帯に公園のベンチに向かっていた。
すると何やら、昨日の少女と数人の少年が言い争っているのが聞こえた。
「──ほんとだもん!」
「嘘つけ! いないじゃんか、それに不審者が風操ってたなんて、そんなん出来るわけないし!」
「そうだぞ!」
「嘘つき嘘つき──」
少女は三人の少年に責められ、今にも泣きそうになっている。
「う、嘘じゃないもんっ、不審者じゃなかったもん、魔法使いだったもん!」
「魔法使いだあ? そんなんあるわけねーし、ばっかじゃねーの!」
「ほ、ほんとだもん!! わたし見たもん!!」
「じゃあ証拠あんのかよー、どうせないクセに」
「だよなだよな」「マジでありえねー」と少年たちは鼻で笑う。
それでも少女はぐっと泣くのをこらえて続けた。
「……あるもん、証拠なら、わたしがちゃんと見たもん……!!」
「おれらが納得しなきゃ意味ねーだろ、証明できんの?」
「それは……」と少女は言葉に詰まる。
やりとりを見ていた夕介は、そっと近付いて声を掛けた。
「こんにちは。喧嘩はよくないな」
「お兄さん……!!」
「え、何? そいつがそうなの?」
と少年の一人が夕介を見て呆れた顔をする。
それからハッと鼻で笑うと言った。
「なんだ、もっとヤバい奴かと思った」
「はは、ごめんね、普通で」
と夕介は気にせずに笑う。
少年は少女から聞いたことを確認するために、夕介に訊いた。
「ていうか、お兄さんが魔法使いだとか言ってるんだけど、ほんとなの?」
「ほんとだよ! ね、お兄さん!」
少女が同意するように夕介を見上げると、夕介は少し申し訳なさそうに笑って首を振る。
「ううん、ごめんね、魔法使いじゃないんだ──」
「ほらみろ、嘘つき」
「でも……、ちょっと皆とは違うかも」
と夕介は少年たちに微笑んだ。
すると、周りの木々が風もないのに揺れ始め、ざわざわと騒ぎ出す。
それから夕介は、わざとらしく何かと話し始めた。
「……え? さらっていいか? うーん、それはダメかなぁ。でも……ちょっとくらいなら、大丈夫かな……?」
そう夕介が言うのと同時に、強い風が少年たちの間をすり抜ける。
「……っぶ」
「わっ」
「なんだ?!」
「ん──? ちょっとずれた? うんうん、次は当てる? ……あー、そしたら、少年たちが……」
と夕介は少年たちを見てから、まあいっかと呟いて言った。
「いいんじゃないかな、吹き飛ばしちゃって──」
すると少年たちは、夕介の後ろを見て固まった。
夕介の後ろには、いつの間にかぐるぐると大きく渦巻く風が吹いていた。
「や、やばいよ……!!」
「逃げないと……!!」
「き、今日は勘弁してやる!! じゃあな!!」
と一人の少年が少女にそう言うと、背を向けて走り出す。
夕介は後ろを振り向いてから、こそっと呟いた。
「追い風くらいなら、やってもいいよ──」
その言葉に反応するかのように、渦巻いていた風がスーッと一本の線になり、少年たちに向かっていく。
それから少年たちの「うわあああ」という声がして、夕介は「はは」と小さく笑った。
「やっぱり、魔法使いだ……!」
キラキラとした目をして夕介を見る少女に、夕介は少し考えてから笑って、口元に人差し指を当てて言う。
「……皆には内緒ね」
「うん!! ありがとう、お兄さん!!」
にっこりと嬉しそうに笑う少女に、夕介は魔法使いでもいいかも……と、少しだけ思うのだった──
夕介「魔法使い、いいかも──」




