お面
お久しぶりです…!
お祭り。
「結構人いるね」
「そうだな──」
十川夕介の声に、黒岩史葉も頷く。
二人は祭りが行われている公園に来ていた。
焼きそばやタコ焼きなど、様々な屋台が列を成し、真っ赤な提灯も屋台に沿うように並んでいる。
「涼くんも佐藤さんと鈴木くんと来てるらしいよ」
「へえ。そしたらどっかで会うかもな──」
と史葉は屋台を眺めながら言う。
そして思い出したように夕介に訊いた。
「あれ、あいつは来てるのか? えっと、影くん、だっけか?」
「うん、何かね、今日は先行きますって、スススーって出てった」
「へえ──あ、リンゴ飴買おう」
影くんの行方より、リンゴ飴に気を取られた史葉は、リンゴ飴の屋台に近付いていく。
夕介はそんな史葉の後に続きながら、周りを見渡して微笑んだ。
親子であろう男の子と手を繋いだ母親が、楽しげに笑って歩いて行く。
他にも友だち同士で来てる子どもたちや、老夫婦、色んな人たちが笑顔で通り過ぎていく。
「……いいな、お祭り」
ぽそりと呟いた夕介に、史葉はいつの間にか購入したリンゴ飴を舐めながら、そうだなと頷いた。
「美味い」
「はは、良かったな──」
しばらく歩いて行くと、見知った顔を見つけた。
するとその人物たちも夕介たちに気付いて、声を掛けた。
「十川さん! 黒岩さんも、こんにちは」
「こんにちは、佐藤さん。お面似合ってるよ」
夕介に言われて、佐藤は頭に付けていた狐のお面を触って笑う。
「へへ、ほんとですか? ありがとうございます──」
「その歳で普通仮面とか買うか?」
「欲しいと思ったら買いますよ!」
「あぁ、そう……」
と史葉は佐藤のキラキラとした瞳に負けて、目を逸らした。
「これから三人は何するの?」
「とりあえず射的とか行く予定ですね」
「金魚すくいもやりたいな」
「私は探検とかですかね! 何か居そうな気がするんです……!」
佐藤さんは相変わらずだなぁと思いながら、夕介は龍野涼と鈴木 遣を見て言う。
「二人は佐藤さんを止めてあげてね──」
「たまに危ないのあるから」と夕介は付け足した。
「「危ないの……?」」
「まぁ、涼くんはわからなくても、鈴木くんならわかると思うし、大丈夫だよ」
首を傾げた涼と鈴木に、夕介はははっと緩く笑う。
「じゃ、お祭り楽しんでね」
「じゃ──」
と夕介と史葉は三人に言って歩き出す。
「十川さんたちもお祭りとか来るんだね」
と佐藤はお面を被る。
「というか、黒岩さんがリンゴ飴食べてたのが意外だな」
「確かに……」
涼と鈴木は「意外だ」と二人を見送った。
*
三人と別れてから、夕介と史葉は焼きそばを食べたり、かき氷を食べたりと、屋台を満喫した。
「ふー、結構食ったな」
「確かに。お腹いっぱいだ──」
と二人はお腹を触りながらゆっくり進んでいく。
すると、夕介がふと立ち止まって木と木の間を見詰めた。
「……どうした?」
「呼ばれてるかもしれない」
「は?」
「史葉は待ってて、すぐ戻るから──」
と夕介は迷いなく歩いて行くので、史葉も「待てよ」と追う。
一人で行かせて何かあっても、それはそれで困る──。
奥に進むと、少しだが開けた場所になった。
特に何も無く、史葉は「何もねえけど……」とぽそりと呟く。
すると夕介が誰かと話し始めた。
「何かあったの……? うん、うん……ああ、ほんとだ」
今度夕介は、顔を木の上に向ける。
釣られて史葉も顔を木の上に向けると、そこには佐藤が頭に付けていた狐のお面と同じお面があった。
「──大丈夫、取れるから」
そう夕介は誰かに微笑んで言うと、その木に向かっていく。
史葉も後をついて行きながら、木登れるのか?と疑問に思った。
すると夕介が、木に手を当てて話し始める。
「ちょっとお願いがあるんだ。そこにあるお面を取りたいんだけど、動かせる? ……そっか、わかった。じゃあ、ちょっと痛いかもしれないけど、登ってもいい? ……ほんと? ありがとう──」
許可を取ったのか、夕介は微笑んで史葉を見た。
「登っても良いって。史葉お願い」
「結局俺か……ま、いいけど──」
と史葉は久々だなと思いつつ、木に手を掛けて、登っていく。
そして枝に絡まっていたお面を取って、地面に着地した。
「……っと、ほらよ」
「ありがとう史葉。渡してあげて」
夕介に渡そうとしたら、夕介がそっと体を避けて手で示す。
史葉はよくわからないまま、そこに居るであろう誰かに差し出した。
「どうぞ……?」
するとそっと仮面が誰かの手に渡って、ふわふわと浮いてからスッと空中で止まった。
そしてゆっくり仮面が傾いてから、そのままススス……と奥に消えていく。
「どういたしまして。気を付けてね──」
去って行くお面を見送りながら、隣で笑顔で手を振る夕介を見て、ほんと不思議な奴だな……と思う史葉だった。
帰り道、誰が居たのか、木と何を話していたのかを訊くと、女の子二人と、その片方の女の子のお面が、いたずらなカラスにお面を取られて困っていたらしい。
それで木に枝を振って落とせないか聞いた所、あいにく絡まっていて取れないということだった。
そして登られるのは痛くないが、枝を折られる方がよっぽど痛いという話を聞いて、人間で言えば腕だもんな……と史葉は自分の腕をさすりながら、そりゃ痛えわと思うのだった──
帰宅して、影くんを出迎えた。
夕介「楽しかった?」
影くん「!!(ブンブンと両手を振りながら、大きく頷く)」




