第1話『杖職人の婚約破棄』
「アリス・ローゼン。貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会会場。
アルフォンソ王太子の傲慢な声が響き渡った。
彼の隣には、不自然なほど胸元を強調したドレスを着た男爵令嬢が、勝ち誇った笑みを浮かべて寄り添っている。
私は……呆然としてしまった。
アルフォンソは、さらに信じられない言葉を続ける。
「理由は分かっているな?」
「何も分かりませんが──」
「あまりにも貧相な体つきだ。次期国王たる私の隣に立つ女がそんなに貧乳では国の威信に関わる」
「はぁ……それで?」
「彼女の方がおっぱいが大きいんだ。乗り換えることにしたからキサマは要らない!」
……ん?
…………んッ!?
(────はぁァァァァ!?)
あまりのくだらなさに、頭の芯がカッと熱くなった。
──悲しみ?
──違う。
──絶望?
──まさか。
今、私の中に渦巻いているのは、純度100%の殺意に近い怒りだ。
確かに私の胸は、世間一般的には小さいが……。
だからといって、この言われようは許容出来ない。
この男は……善悪の分別もつかないガキなのか!?
今なら聞き間違えで済ましてやる。
王太子よ……何とか言ったらどうなんだ!
「……殿下。今、なんとおっしゃいました?」
「耳まで悪いのか。貴様は貧乳だから婚約を破棄すると言ったのだ!」
周囲の貴族たちから、クスクスという忍び笑いが漏れる。
──だが、彼らは忘れている。
私は国家魔道具ギルドの総責任者だ。
彼らが今、大層立派に抱える水属性の杖。
5属性魔法が扱えるようになる杖。
魔力を限界まで引き上げる杖。
全て私の術式で作られたものだということを。
「……分かりました。その言葉、しかと受け止めましたわ」
私はドレスの裾をつまむ。
これ以上ないほど優雅に一礼した。
怒りの感情は、表に出さないことにする。
顔だけを私は微笑ませた。
だけど……魔力だけはどうにも誤魔化しが効かない。
怒りで魔力の昂りが増していた。
「そこまで巨乳がお好きでしたら、どうぞそちらの令嬢と末永くお幸せに」
「うるさいぞ、早く下がらぬか!」
「……ああ、言い忘れていましたわ」
「まだ何かあるのか!?」
「殿下が所持している幻覚効果付与の杖のことです」
「それがどうした!?」
「本日付で杖の契約を解除させていただきますわね?」
「は?何を言って……」
その瞬間──。
──バリンッ!
派手な音と共に、王太子の豪華な杖の水晶が弾け飛んだ。
私が作った杖なんですもの。
壊し方なんてどうにでもなる。
私が魔力を練り上げて作った、その水晶を完膚なきまでに破壊した。
それで、その杖の効力は無くなる。
──幻覚付与の魔法。
それが、解かれるとどうなるのか。
それは、あまりにも酷く……。
言葉を失ってしまった。
私は戦慄したんだ──。
ハゲ散らかった頭。
甘やかされた生活で蓄積された贅肉。
幻覚魔法が解かれて一気に解放された。
「ぶふぉっ!?」
醜態を晒せよエロじじい。
本当の自分を貴族の前に曝け出せて幸せでしょ?
「あなたもよ男爵令嬢さん」
「えっ……私も……!?」
「魅惑効果付与の杖は私の特許技術なんです」
「あっ……嫌だ!待って私の杖が朽ちていく!!」
阿鼻叫喚の会場を背に、私は颯爽と出口へ向かう。
──貧乳だから婚約破棄?
結構なことですわ。
そんな審美眼の腐った男……こちらから願い下げよ!
これからは、私のことを貧乳の魔女とでも呼ぶがいい。
ただし、今後から許可無く私の杖を買えると思うなよ。
──この愚か者め!
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