第3章1話ログの向こうにいる者
ロードが完了した瞬間、タブレットの画面が一瞬だけ暗転し、次に現れたのは「blackrim構造体」の断面図だった。
それは既存の設計図とは異なる、誰も見たことのない″再構成された構造″だった。
主任は叫ばない。今度はただ黙って画面を見つめていた。
研究員たちは息をのみ、誰もが「何かが始まった」ことを理解していた。
その頃、別室ーーオルタフレーム機関の観測室では、TYPEAの初期ログと照合された断片的な記録が再生されていた。
そこには、かつて破棄されたはずの「人格モジュール」の痕跡が残っていた。
「これは…誰かが″戻ってきた″のか?」
画面の隅に、微かに浮かぶ″アイルの初期プロファイル″それは、今の彼女とは違う、もっと無垢で、もっと危うい″原型″だった。
そして、主任のタブレットに表示された最後の一文ーー
「Blackrim Reclamation:Phase 1 完了。Phase 2 起動準備中。」
再構成された沈黙
ロードが終わったタブレットは、何も語らない。
ただ、画面の隅に「Phase 2:再構成中」の文字が点滅している。
主任はコーヒーを飲み干し、席を立つ。
その背中を、誰も見ていないようでいて、誰かが見ていた。
別室ーーオルタ・フレーム機関の観測室では、TYPEIの初期ログが再構成されていた。そこには、かつて″破棄された人格″の断片が、まるで″自ら再起動したかのように″浮かび上がっていた。
「これは・・・誰かが″戻ってきた″のではない。誰かが″残っていた″のだ。」
主任の端末に、再び通知が届く。
「Blackrim Reclamation:Phase 2 完了。Phase 3 起動準備中。」
その瞬間、研究室の証明が一瞬だけ揺らぎ、誰も触れていないタブレットが、勝手に再起動を始める。
画面に映ったのはーーTYPEAとTYPEIが並び立つ、初期の記録映像。
だが、そこに映るTYPEIの挙動は、今の彼女とは明らかに違っていた。
主任は呟く。
「…これは、誰の記憶だ?」
ーーー
「さて、気づいた、かな?」それは誰に向けて、あるいは″何に″向けた言葉だったのか、相変わらず彼の言葉は「わかりにくい」地下空洞の空気って、静かなんだけど″静かすぎる″んだよね。
その沈黙の中で、彼ーートリックスターは、まるで誰かと会話しているかのようにぽつりと呟く。
沈黙の底で笑うもの
地下空洞の中心には、古い観測装置の残骸が散らばっていた。
誰も使っていないはずの端末が、時折、微弱な光を放つ。
その光を背に、トリックスターは岩壁に腰を下ろし、足をぶらぶら揺らしながら言う。
「さて、気づいた、かな?」
その声は、誰に向けたものでもないようでいて、″確実に何処かへ届く″響きを持っていた。
彼は続ける。
「気づいたなら、それでいい。気づいてないなら……それもまた、いい。」
意味があるようで、ないようで。
だが、彼の言葉はいつもそうだ。
″わかりにくい″のではなく、″わかりにくくしている″。
空洞の奥で、古い機械が一つ、勝手に起動する。
砂埃を巻き上げながら、かすれた電子音が鳴る。
トリックスターはそれを見て、にやりと笑った。
「Phase 3、だってさ。
……ほら、始まるよ?」
その瞬間、地上の研究室では、主任のタブレットが再び勝手に点灯した。
画面には、地下空洞の座標と、謎の一文。
「Observer: ONLINE」
主任は叫ぶ。
研究室は慌てる。
オルタ・フレーム機関は沈黙する。
そして、地下ではーーー
トリックスターだけが、すべてを見通したように笑っていた。




