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36.疑惑の矛先

 草影に隠していたHAWKを回収して王宮に向かう。二人乗りまでしか想定されていないHAWKでは三人と一匹は重かったようで、いつもは静かなはずのエンジン音が空に響く。その空は、もうすっかり日が昇って青色に染まっていた。


「見つけた!」


 声が響いたかと思うと、王宮の方から三つの影が駆け出してくる。アイリーンとライアス、そしてリヒト。

 上空から降りてくる私達を見上げる三人の表情には、安堵と、そして驚愕が浮かんでいた。


「マップに名前はあったけど……本当に、ルナ?」


「アイリーン。えぇ、私よ。……ただいま」


 照れくささを隠すように笑った瞬間、アイリーンの目から涙が溢れ始めた。一歩、また一歩と近づいてきて―――ぎゅっと抱きしめられた。その力強さに彼女の想いが濃縮されているようだった。


「副隊長……隊長も、カイも。無事で何よりです」


「おかえりなさい」


 その足元を、ナイトが尻尾を振りながら駆け回る。皆の周りをぐるぐると回ったあと、ぴたりと私の隣に座り、得意げに胸を張った。


「……ナイト、ルナに付いてここまで着ちゃったの?」


 涙を拭ったアイリーンが苦笑する。ナイトは、皆が私の見舞いに来た時に面識があるらしい。


「ナイトが、隊長とカイのところまで案内してくれたの。いなかったら、きっと見つけられなかったわ」


 そう言うと、ナイトはふんっと鼻を鳴らした。お手柄だと次々に撫でられて、ぶんぶんと尻尾を振りながらナイトの耳がぺたりと後ろに倒れる。


「それより」


 ふと、アイリーンの視線が私から、隊長へと向けられた。


「イヴァン、なんかルナとの距離、近くない?」


 いつの間にか隊長の手が私の背中に添えられている。皆の視線が一斉にこちらに集まった。


「……あ」


 慌てて離れようとするが、逆に隊長にぐいと腰を引かれる。見上げると、私とは逆方向に顔を向けていた。その耳は微かに赤く染まっている。


「いやぁ、ほんと、地下で何かあったのかなー、なんて」


「カイ、お前は黙れ」


 生温かい目で見られて、視線が泳ぐ。でも、隊長の手を振りほどく気はしなかった。


「ま、やーっとお互いに認めたわけね。良かったわね、ルナ」


 アイリーンの言葉に頬が熱くなる。そんな温かな空気を切ったのは、リヒトだった。


「ところで、お二人は一体どこにいたのですか? 南棟で何が起こったのか、教えてください」


「ああ、そうだな。場所を移そう。護衛隊の控室に行くぞ」


 そうして、久しぶりに全員集まったVD-01は王宮へと足を踏み入れた。






「騎士団の男に、連れ出されたと」


「ああ。だが、俺たちを拘束した騎士団長はおそらく無関係だろう。彼は暗殺者は殺していたが、俺たちを殺すことは無かった」


 皆の証言を聞きながら、情報を一つずつ整理していく。騎士団、暗殺者、地下施設。単独犯では説明がつかない。

 さらに王国内の噂や世情をネットから拾い上げる。そうして見えてきたのは、王国内の隠しきれない内情だった。


「おそらく、今のガルドニア王国は、国王派と反国王派に分断しているのでしょう。それに巻き込まれたと推測されますね」


 そして、と続けようとして息が詰まる。


 騎士団の男が私を探していたという情報。テレビに映っていたウノ。

 凍るような目をしたあの笑み。

 思い出したくない記憶があふれ出してきて、強く目を瞑る。


「フォルテ?」


 それでも、今の私には隊長が。仲間がいる。一つ深呼吸をして、私は口を開いた。


「そして、反国王派には、私を利用したいと考えている人物も関わっています。彼らによって、私の体内には今、かなりの魔力が溜め込まれた状態です」


 根もとまですっかり紫の魔力色に染まってしまった髪を見せながら言う。この大量の魔力をどう使うつもりだったのか、考えたくもない。


「私は王国の人間とは接触しない方が良さそうです。先に帝国に戻って、遠隔でサポートをします。皆さんは、これまで通り帝国王を守りながら、情報を出来るだけ集めてください」


 そうしてぐるりと仲間を見回す。彼らの顔はデルタ隊員としての信念を持った表情。この顔が私は好きだ。


「一つだけ。王国の宰相が怪しいと踏んでいます。お気をつけて」


 室内の空気が静かに張り詰める。

 誰も、すぐには言葉を返さなかった。

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