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34.再起動

『―――たった今、ガルドニア王国国王、そして我が国の皇帝陛下がお見えになられました。この後は国家会談ということで、今後の同盟について話し合われる模様です』


 アーク家の談話室。皆が談笑する横で付けっぱなしになっている国営放送をぼうっと眺める。


 ―――皇帝陛下、やっぱりソルティアに似てるわ……ソルティア、元気かしら。


 つらつらと取り留めのない思考が右から左へと流れていく。自分の頭の中なのに、意味はあまり分かっていない。

 家族は私の横で、ナイトのボール遊びに付き合っている。


 ふと、映像の中のガルドニア国王の隣、宰相に近づいた騎士に目が行く。

 その瞬間、私の全身からざぁっと血の気が引いた。あの時とは格好も髪型も違う。けれど、あの男は―――


『せいぜい役立ってくれよ?』


 かつて私にかけられた言葉がこだまする。画面越しだというのに震えが止まらない。それでも私はテレビの中の騎士――ウノ――から目を離すことができない。

 そしてそのまま、ウノは宰相の背後へと歩み寄る。何かを報告するように、口を開いた。


 侵入。

 閉じ込めた。

 魔力。

 封じ。


 無意識のうちに唇の動きを読み取っていく。侵入者を捕らえた、ということだろうか。

 だがその言葉の意味について考えるより早く、私は顔色の悪さに慌てた母によって、強制的にベッドへと押し込められることになった。






 夜中、不意に目が覚めた。

 部屋は暗い。窓の外から月明かりだけが差し込んでいる。なのに、胸の奥がざわざわと落ち着かない。

 ぎゅっ、と布団の中で目を閉じる。しかし、眠気はもうどこにもなかった。頭の中で、あのウノの映像が延々と流され続ける。唇の動きまで、はっきりと。


 思考を切り離したくて、目を開ける。視線の先には、サイドテーブルに置かれた小さな端末が見えた。デルタで使っていた、専用端末。


 無意識に手を伸ばす。片耳に引っ掛けると、小さな起動音が耳元で鳴った。


 ―――TACS 起動。認証を確認しました。


 冷たい機械音声。でも、慣れ親しんだ音だった。

 ボタンを押せば、暗い部屋の中に淡い光のウィンドウが浮かび上がる。


 通信ログ、ニュース、任務情報……


 いくつもの情報が視界の端に並んでいく。特に意味はなかったが、マップをタップすると、眼前に帝国の地図が現れる。VD-01(デルタ・ワン)のメンバーは、帝国にいない。

 けれど、並べられた名前の横には「任務中」の文字があった。

 目についたアイリーンの文字を押すと、画面が切り替わり、見慣れない地図になる。


『ガルドニア王国』


 地図に記載された国名に、胸の奥が嫌な音を立てる。頭の中に冷水が流されたような感覚。


 アイリーンは、王宮にいるらしい。同じところにライアス。そして、隣の建物にリヒトの文字。でも、隊長とカイの文字はない。

 2人の名前の横に表示されているのは、「位置情報なし」。


 ウノのニヤリと笑った口元から、音が再生される。


 侵入。閉じ込めた。

 その言葉が、頭の中で重なった。


 瞬間、頭の中で歯車が一気に回り始める。ウィンドウを出しては消し、情報を集めていく。


「…………つかまった?」


 隊長が。カイが。あの、ウノに―――

 考えるより早く、体が動いていた。

 隊服のロングコートを羽織り、庭に出る。その片隅には私の空飛ぶ愛車、WOWK(ホーク)が鎮座している。バイク型のそれに跨ると、自動認識がはたらいてエンジンが起動する。


「……ナイト」


 私の後を追ってきたのか、コートの端を加えて軽く引かれる。空いている背後の座面を軽く叩くと、彼は軽い跳躍で飛び乗ってきた。

 どこにいるのか。どうやって助けるのか。そんなことを考えることなく、私は宙へと静かに飛び出した。

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