第11話:桜 卯月〜前編・仲間割れ〜
外史は、恩恵の秘める可能性を考えて、順に心のケアをして行くつもりであった。
その順で行くと、次は桜 卯月だった。
「卯月!話がある!」
「……何よ。親しげに名前で呼ばないでよね」
「……ッハーッ……。
全員公平に呼びたいから、名前呼びをしたいと思っていたんだが、僕としては!──特別扱いして欲しいなら、レイドから抜けて貰うか、若しくは、僕が何人か厳選して抜けて、パーティー単位で別行動しても構わないと思っているんだが?」
「東角!」
千尋が責めるように外史を呼ぶ。
「千尋。僕的には、君も要らないんだが。
平等に扱う為に、僕も『外史』と呼んで欲しいんだが?」
「う……、その、外史君と、呼んでも良いだろうか?」
「そうよ!『さん』付け程度に配慮してくれても良いんじゃないかしら?」
「……ッハーッ……。イチから全部説明しないと解ってもくれないか。
今後、イザと云う時に、呼び名は最低限、短く呼んだ方が、ほんの一瞬でも、ソレが命取りになりかねないと云う事を、今説明したが、納得出来ないなら、僕は一人でもレイドを抜ける!」
「別にあなたなんてぶっちゃけ要らない──」
卯月のその発言に、即座に弥生がこう言った。
「私は、外史と一緒が良い!」
ソレに追随し、「私も!」「アタシも!」と云う声が上がる。
「あー、外史。俺はどう動けば良い?」
金光が間に入ろうと動くが。
「自分の責任を持って判断出来ない奴は、要らない」
「そりゃ冷てぇなぁ。
その段階に至るまで、人によっちゃ、40年掛かるぜ?否、それ以上かも」
「40年も待っていられない!」
「そりゃ、判るけどよぉ……。
まぁ、女のワガママを全部聞いてやるには、伴侶にでもなってもらわなきゃ、1人分全部を背負うのも大変だろうけどよぉ……」
面子を見比べて、金光は美香パーティーが全員外史に寝返ったのを確認して、「護ってやる、って約束したもんな」と云ってから。
「悪い、俺も外史側に入るわ」
残ったのは、千尋パーティーの内の4人、千尋・卯月・亜矢・牡丹だった。
「待って!弥生と如月は残って貰わないと困るわ!」
「……ああ言っているが?」
外史は弥生と如月に問う。
「私の恩恵は、外史君が居てくれて初めて活きる!」
「特別扱いは私達」
弥生は兎も角、如月はそう言う通りだろう。
外史と卯月とを比べて、どちらが優遇されているかを考えれば……。
「あなた達は、ワザワザ『ハズレ』を引きに行くの……?」
「ああ、言い忘れた」
外史が態とらしくこう告げた。
「俺の今の恩恵は、『ハズレ』じゃない!」
「えっ?!!どう云う事!!?」
「コレ以上は、レイドメンバー以外には教えられないね!」
「だから、レイドを組んだのではなくて?!!」
「下らないワガママを言うなら、俺は別行動をする。
コッチに居るのは、俺と行動を共にすると云う覚悟を決めた者だけだ!!」
「だからといって、呼び名位で……」
「先に不満をぶつけて来たのはソチラだ。
俺はソレに不満があったから、独りでも……って覚悟を見せた!
後は人望の問題じゃねーの?」
「そんな!『リーダーシップ』の恩恵を持って居る私より、あなたが選ばれるの?!!」
「いやぁ、美香の『カリスマ』とで差し引きした結果じゃねーの?
そもそも、『カリスマ』と『リーダーシップ』とが同居する事に問題があるんじゃねーの?」
「あの……」
言い合う2人に割って入って、牡丹が口を挟む。
「私もソッチに行って良いですか?」
「牡丹まで!
待って!どうして私達だけ、別に扱われているの?!!」
「特別な扱いを希望したのはソチラだ。
僕としては、特別扱いをしたからこうなったんだけどな!」
「じゃあ、平等に扱われたいから、私もソッチに──」
亜矢がそう言い出すが。
「否、君は別に要らない」
「お願い!亜矢と呼んで!」
「亜矢。正直、今の君の恩恵は、俺より将来性が低い恩恵なんだよ」
「そんな!あんまりだわ!!」
「3人で相談して決めてくれ!
因みに、イヤイヤだけど仕方ないからレイド組む程度の覚悟なら、僕がレイドリーダーになって、君達をレイドメンバーから外す!」
「……どうします?」
3人の相談のリーダーシップを取ったのは、皮肉にも亜矢だった。3人の中で、最も事態の深刻さに気付いての事だ。千尋は、『もしかしたら『リーダーシップ』ってハズレ恩恵なのかも』と思い始め、恩恵の効果を疑ってすら居る。
「卯月さえ妥協してくれるなら、私が外史君を説得する!」
亜矢はそう意気込むが。
「男の不満をイチイチ聞いていたら、気付いたらとんでもない要求がされるかも知れないのよ?!!」
「私は、外史君は基本的にお人好しだと思うなぁー。
……それに、相手の手の内を知ってから別離しても、損は無いと思うし」
「身体を求めて来られたらどうするの!!?」
「他に応じたい娘が何人も居ると思うんだけど」
「男なんて野獣よ!!?一通り餌食にされるかも知れないのよ?!!」
「私は別に、今の外史君なら良いなぁ……」
「私は嫌だわ!……何か怖いし。
千尋も意見言ってよ!」
「……正直に言って良い?」
千尋が神妙な面持ちでこう言う。
「卯月さえ見捨ててしまえば、私達は外史君とも仲良くやっていけると思うの」
「……!!?」
卯月はショックを受け、涙を流し始めた。
「何で!私が!私だけが!!こんな扱いをされなくちゃダメなのよ?!!」
「いや、私も拒否られたからね」
亜矢が言ったのが、トドメとなって、卯月は明後日の方向に向かって駆け出した。
「卯月さん!ちょっと待った!!」
崖が聳えている為、外史を含む金光達の方へしか逃げ出せず、金光の通せん坊に遭うが、それでもかつ卯月は逃げ出そうとした。
「卯月さん!今の状況を考えて!
1人で逃げたら、命が無いって!」
金光に両肩を掴まれ、力尽くで止められた卯月は、より激しく泣き、金光が抱き締めた。
「気が済むまで泣いて!でも、1人で逃げちゃうのはダメだ!
俺が外史を説得するから!」
「あ゙あ゙あ゙あ゙ああああぁぁぁぁ!!!!」
一方で外史達は、その声を聞き付けて寄ってくる者が居ないかと、警戒するのだった。